第九十四話 ベイラ到着と意外な再会
ベイラ町はライアスの二倍、大都市とまで行かなくても小都市と言ってもいいのではないかと思うほどの規模の町で町の全周を高い石壁に囲まれており、一般の門の他に貴族門と商用門というものが別にあって駅犬(馬)車は商用門を使うので一般の門を通るより簡単な確認だけで済むので早く通れる事になるそうだ。
ちなみに、商用門は商人であれば誰でも使う事ができると言うわけではなく、国に許可された商会(貴族御用達の様な感じ)や定期便の犬(馬)車のみであり確認の時間も一般門より短くなっている。もし何か問題があれば問題を起こした者はもちろん、問題を起こした者の所属する商会、駅犬(馬)車の場合は定期便の運航をする会社の責任となるらしい。
「――だから前科持ちの冒険者は駅犬車なんかの護衛は基本できないんだよ」
「そそ、あと低ランクのやつもダメなんだぜ、ま~大体はシルバーランクくらいからかな? それにはもちろん強さってのもあるんだけど、依頼をちゃんとこなしてきてるって目安としてとか、ある程度読み書き計算や多少マナーが分かるって意味もあってのシルバーランクって事なんだぜ」
「ま、中には試験だけ通てそのあとは横柄な態度をとる奴もいるけど、そういう態度で依頼をしているとギルドの方で駅犬車とか貴族関係の護衛の依頼は受けさせないようにしてるんだよね」
「ランクが高くなったからと言って調子に乗ってるとらんくがあまともに依頼を受けれなくなっていきますから気を付けた方がいいですよ」
「はい」
なるほど、ランクが合えば無条件に依頼を受けれるとは限らないのか、そこら辺は普段の態度とか信用問題って事か……気を付けよう。
「色々あったけど、途中からキルグさんが一緒だったのもあるけどリンくんたちのおかげで今回の護衛依頼は結構楽ができたよ」
「うん、いつもよりいいもの食べれたしね~」
「コミーの言う通りだぜ、あの燻製肉美味かったな~」
「私は野営の時にお手洗いがあるのが嬉しかったですね」
「さて、いつまでも話していても切りがないしそろそろ行くよ。縁があったら今度一緒に依頼でも受けよう、それじゃ」
停留所で大地の牙と別れたあと、町に着いたのが昼ころという事もありとりあえず昼食を食べるために店を探すことにした。
「さて、昼食だけど……どの店がいいんだかさっぱり分からんな。レイはどこがいいと思う?」
「……初めて来たとこだし……情報不足……美味しければ問題ない」
「いや、美味しければって、それが分かれば苦労はないんだが……ラグルスさんに聞いとけばよかったな。ん~、とりあえずある程度混んでるとこなら不味いって事は無いだろうし、それで判断するか」
「……ん、了解……最悪、リンの料理があるし……」
そこそこ混んでいる食堂に入り無難に値段が手ごろな日替わり定食的なものを頼んだのだが、出てきたのは硬めのパン、野菜スープ、肉野菜炒めで、味は不味くはないのだが何かこう、あと一味たりないといった感じで、量に関しては普通の量で、何と言うか全てにおいて『無難』と言った感じでちょっと味に物足りなさを感じつつ会計を済ませて食堂をあとにした。
「……あれなら……リンの料理が……良かった」
「ん~、外れって訳じゃないけど当たりってわけでも無かったけど、何の情報もないんだから外れじゃなくてよかったと思っておこう」
青狼族に関する情報を得る事やおすすめの宿などを聞くためにギルドへ向かう事にし、会計の時にギルドの場所を教えてもらいギルドへ向かって歩き出したのだが、途中で何やら美味しそうないい臭いが一台の屋台から漂ってきた。
「なんかいいにおいがするな……レイ、おまえまだ食べれるか?」
「……おいしそうな臭い……お腹いっぱいでも食べる。美味しいものは別腹」
いや『美味しいものは別腹』って『甘いものは別腹』みたいな言い方するなよ――まてよ、もしかしてこっちの世界にはそんな言葉があるんだろうか? いや、あの様子だとただたんにレイが美味しいもの食べたいから言ってるだけっぽいな。
売られていたのはパニーニの様なもので二つ買って近くのベンチに座りレイと食べてみると、パンはもっちちりで挟まれている具材はレタスと鹿肉のトマト煮込みで、この煮込み肉がちょっと濃いめの味付けでパンとよく合っていた。
「これ美味いな!」
「……ん……さっきがあれだったから……余計に美味しい」
「そうかもだけど、それを差し引いても十分に美味いから追加で何個か買っておこう」
「……賛成」
屋台に戻り大量購入しようとしたが、すでに残り六個となってしまっていたのでその残り六個をを全て買って『倉庫アプリ』へ突っ込んでからもうちょっと量を買いたかったと、ちょっと残念な気分になりつつギルドへ向けて歩き出した。
「明日、また買いに行こう」
「……いっぱい欲しい」
「他にも何か美味しい物とか必要になるものがあるかも知れないからちょっとは依頼こなして所持金を増やしておいた方がいいかもな。お金に余裕があれば少しいい宿にも泊まれるし」
「……ん、それなら依頼するのに異存はない」
「いや、レイ。俺たちは一応冒険者なんだから普通に、というか金に困るような事態になる前に定期的に依頼をこなさないとだめだろ?」
「……ご飯はリンが出す……問題解決」
「いや、別に俺はお前を養ってるわけじゃ……まぁ、いいや。とにかくギルドへ行こう」
程なくしてギルドに辿り着き扉を開けると、冒険者が依頼を終わらせて帰って来るにはまだ時間がちょっと早いためかギルド内にはあまり冒険者の姿は少なく、全部で六個ある受付窓口も三個が閉まっていた。
「空いててちょうどいいから俺はちょっと受付で色々聞いてくるけど、レイはどうする?」
「ん~……ここで座って待ってる……飲み物」
『倉庫アプリ』から冷やしたリンゴの果実水の入ったコップを出してレイに手渡してから受付へ向かう事にした。一つは冒険者が受付中だったので、空いてる二つの受付窓口の方を見ると片方に見知った人物が座っていた。
あれは……ライラか? なんでこんなとこに――って、ギルド職員なんだからここのギルドへ異動していても不思議ではないか。
「こんにちは、ライラさん。お久しぶりです……って、ほどでもないですかね?」
「あら、どちら様でしたか? ――え? この声とにおいは……もしかして、リン、くん? どうしてこんなところに? って言うか、その変な格好は何?」
『その変な格好は何』と言う質問で自分が今、獣人コスプレ姿だった事を思い出し、周りに聞こうえない様に小声で何故現在自分がこの姿なのかを簡潔に説明し、青狼族の人の情報とおすすめの宿はないかを聞くことにした。
「えーと、この町初めて何で、どこかおすすめの宿とかないですか? あ、あと、この町に青狼族の方がいるって聞いたんですが何か知りませんか?」
「宿なら私の知り合いの親がやってる宿屋があるからそこにするといいわよ、値段が手ごろな割りにちゃんとした宿だから。それと、青狼族の人ならたぶんリーギルさんの事だと思うけど――」
この町に住む青狼族は一人しかいないはずで名前をリーギルといい、十数年前からこの町で借家に住んでいて冒険者をやっているらしいとの事で、住んでいる借家の場所を教えてもらったのだが、個人情報をそんな簡単に漏らしてもいいのかちょっと気になったが、そこは俺の事を信用しての事で、この情報を基に何か悪事につかうようなら行った場合はギルドとしてそれなりに厳しい対応を取ると釘を刺された。
ギルド内には冒険者が少ないとはいえ全くいないわけでもないので窓口の一つを長話をして独占するわけにもいかないし、ライラも仕事もせずにいつまでも話し込んでいたら怒られてしまうため、積もる話はライラの自宅で夕食でも食べながらしようと誘われた。
「――はい、分かりました。それじゃ夕方また来ますね」
「ええ、もしかしたら少し遅くなるかもしれないからその時悪いけど少し待っててね」
「了解です。それじゃ」
「あ、待って! 一応、宿への紹介状――と言ったら大げさだけど、一筆書いちゃうから少し待って」
メモ用のためであろう皮紙に直ぐに書いて渡してきた。
その後ギルドを出る前にこの町のギルドではどんな依頼があるか、何か割のいい依頼は出てないかなどを確認したのだが、特に変わった依頼も実入りのよさそうな依頼もなくいたって普通の依頼しかなかったが、そういう依頼があったとしても朝の早いうちに取られてしまって残っている訳もないと思い直し改めて出てる依頼を眺めてみると、昼を過ぎているにもかかわらず依頼の数自体はそれなりにあったのでこれなら依頼を変にこだわって選ばなければ金の工面に困るという事はなさそうであった。
「さて、どうしようか。ちょっと時間は早いけど先に宿を取ってライラの仕事が終わる夕方まで宿で休むか、それとも今日の内に青狼族のリーギルって人に会いに行ってみるか……レイはどっちがいい?」
「……どっちでも」
「そこはレイ自身にかかわる事なんだから、もうちょっと青狼族のリーギルって人に興味を持ってくれてもいいんじゃないのか?」
「…………?」
「いや、そこでなぜ首を捻るんだ? 青狼族の人を探してこの町に来たって事を分かってるよね? 言っとくが、食べ歩きのためにこの町に来たとかじゃないからな?」
「…………! そうだった……け? ……食べ歩き……いい言葉!」
「あああ、余計なことを言ってしまった――よし! とにかく会いに行こう」
屋台が並んでる方へ歩き出そうとしていたレイを半ば強引に引きずる様に――というか実際に引きずってライラに教えてもらったリーギルが住んでいるという借家へ向かったのだが、その姿を見た人たちに白い目で見られてしまったのだが、自身の精神安定のためにもその目をあえてないものとしつつ頭の中では今度レイに何かお仕置き的なものはできないか考えを巡らせていたが、ふとレイを強引に引きずっている姿を他人に見られたら誤解を受けてしまうのではと気が付いた。
あ、いまさらだけど男が女を引きずって歩いてる構図って、傍から見たら人攫いとかの犯罪行為をしているように映ってたかも………通報されてないよね?
「……リン?」
「ん? ああ、いや、なんでもない。それより、多分ここに住んでるはずだぞ」
「……食べ歩き」
「会話が成立してないぞ! 食べ歩きは今度時間ある時にな!」
「……残念」
幸いにも通報されるような事もなかったようで、何事もなく(奇異の目では見られたが)無事に目的地にたどり着く事ができた。
次回より不定期更新となります。




