第九十三話 宿場町ダグア出立
え、何『待ってた』って、さっきレイに『俺はトラブルを呼び込みやすい』とか言われたばっかりだからすごい気になる! まさかあれがフラグだったか?
「え、えっと、バルゥクさん。何かありましたか? お腹減ってるんで面倒ごとなら……」
「いやいや、面倒ごととかじゃない。それに、俺も腹減ってたからもう少し待ってこなかったら先に夕食済ませようかと思ってたとこだったし、ちょうどいいから食べながら話そうか。向こうのテーブルに皆いる――あいつら、俺に入り口で待たさせておいて……おい! おまえら何でもう先に食い始めてんだ?」
「いや~、いつまで待てばいいか分かんなかったし、先に食べちゃえと。どうせ説明はリーダーがすればいいんだし」
「ん~? あたしお腹減ったしリーダーに説明おし――任せたんだから先に食べてようかと思ってさ」
「細かい事はリーダーがすればいい。だから私たちは先に食事をとる! 邪魔するならたとえリーダーでも……リーダーだから燃やす?」
「お前らなー! てか、ミリシス。俺だから燃やすってのはどういう事なんだよ! お前たちとは今度じっくり話し合う必要がありそうだな」
「ま、とりあえず無事に戻ったことに乾杯」
『乾杯!』(レイだけジュース)
話というのはゴブリン洞窟などに関する報酬の事で、まず救出報酬の事なのだが救出者からの報酬はいらないと言ったがギルドから前例を作ると報酬を出し渋られる恐れもあるのでちゃんと受け取るように言われ、できるだけ低額で済む様にして欲しい塗根を伝えたとの事だった。ゴブリン洞窟の討伐などに関しては洞窟の調査が完了し次第報酬が支払われ、もし洞窟内で換金できそうなものがあればそれの分も報酬に上乗せされるらしい。
ストゴブは新種のゴブリンである可能性が高く、さらに詳く調べ新種とかくて確定した場合は第一発見者として特別報酬が支払われる事になっていて、特別報酬についてはキルグ、大地の牙、レイ、俺で頭割りという事に決まった。ストゴブの討伐報酬とその扱いに関しては倒したキルグのものとなった。
「ちょっと質問なんですけど、その調査が終わるまでこの町にいなきゃいけないんですか?」
「いや、予定通り明日出発だよ。報酬については――」
調査をしてからもろもろ査定をして支払われる報酬金額が決まるのはだいたい一週間後となり、ギルドでもさすがにそんなに足止めさせるわけにもいかないとして。国内の出張所以外のギルドであればギルドカードを提示すればどこでも受け取り可能にする事に決まったらしい。ただし、一年以内に受け取りに行かなければ報酬を受け取る権利を失ってしまうので気を付ける様にとの事だった。
「なるほど、それなら問題なく明日出発できますね。あ、でも、それだとキルグさんは最低一週間はこの国を出れないことになりますけど、いいんですか?」
「国境付近の町まで一週間まではかからずともそこそこ距離があるとの事なんで、ゆっくり修行でもしながら向かってそれでも時間が余る様なら町の近く魔物の相手でもしときますよ。これが師匠だったら金額問わず報酬を受け取りに行くのが面倒だとか言ってそのまま国境超えてっちゃうでしょうけど」
捕らえられていた女性たちの処遇に関しては、まず救出者に対する(俺たち)報酬分の金はギルドが肩代わりし女性たちへ一定期間無利子で貸し出す形となり、心身がある程度落ち着いたら本人もしくは親族友人などに借金分を返済してもらう事とし、もしそう言う者が居らず金を払えないという者はこのまま町に残ってで働いて貰う事と決まり、それを聞いて何人かは元々この町へ働き口を探しに来ていたらしいく町に残る決断をしたというで、中には娼館を建設するという話を聞いて町に来た者もいたらしい。
……娼館、あったんだ娼館。あ、なんかレイに睨まれてる! 相変わらず鋭いな。
ちなみに妊娠していた女性たちはギルドの方で処置をするのでそれが終わってから働くことになっているらしい。もちろんその処置に対する費用は処置を受ける者が支払う事になるが、普通の治療院で処置してもらうのに比べれば格安となっているので文句を言う者はいなかったらしい。
「ま、とりあえず助け出された女性たちに重篤な者がいなかったらしいから少しすれば普通に働けるまでになるらしい……身体はね。何人か精神を病んでたらしいからその人たちは働けるようになるまでもう少し時間がかかるだろうけど」
「でも、それだと借金がかさんじゃうね~。もし自分だったらと同じ女性として同情しちゃう……」
「命が助かっただけでもめっけもんって思うしかないんじゃね? 助からなかった女もいたんだし、そいつを考えりゃよ」
「それは確かにそうですけど、同じ女性としてはレバの言葉に同意しかねませんね。頭では分かってるんですが……」
「やめやめ! この話はここまでにしよう。せっかく無事に帰ってこれて報酬も期待できるんだからそれで良しとしようぜ。これから先も冒険者やって行けば今回のような事が又あるだろうし割り切って行かないとな」
結果だけ見ればたいしたケガもなく結構な額の報酬が期待できるというのは冒険者としては喜ぶべきことなのだろう。ただし囚われていた女性たちの事を考えるとちょっと複雑ではあるがそこはバルゥクの言うように全員割り切って喜ぶ事となった。
「お前ら、明日出発なんだから酒は程々にして早く寝ろよ」
「えー、子供じゃないんだしいいじゃんか~、飲みに行こうよ~」
「コミーに付き合ってたら全員潰れるんじゃね?」
「レバに同感ですね。コミーは水を飲むように酒を飲み続けますから……」
「酔う酔わないという以外にもいくらこのあと金が入るからって無駄遣いはダメだぞ、それにコミーの酒代で金がなくなったなんて事になるのはこりごりだ」
え、コミーってそんなに飲むのかよ! 何か猫というより虎だな、大虎。
翌朝、予定通りの時刻にダグアを出発した。途中までキルグも同行し、少し進むと荒野になる分かれ道で南の町へ行く道をキルグが行く事となり、一旦停車して簡単に別れの挨拶をする時間を取ってくれた。
「世話になったね、おかげで何とか国に帰れそうだよ。旅費も稼げたし」
「いや、こちらこそ護衛を手伝って貰えて助かりました。それにゴブリン洞窟でもキルグさんのおかげで誰一人ケガする事無くすみましたしね」
「さて、あまり長話ている訳にもいかないだろうしそろそろ行くよ。縁があったらまた会いましょう」
『お元気で~』
キルグと別れた後すぐに犬車は出発しその後は何事もなく順調に進み、今日予定しているという野営をする場所へ向かうべく街道から脇道へ入り、しばらく進むとく背の低い草がまばらに生えている今回の野営場所に着いた。そこには半球状の大きな岩に大きな穴が開いた見た目が石でできた大きなかまくらな様なものがあって、その穴の奥には水量が少ない湧き水が沸いており、その水を受け止め溜めておくために排水用の管のついた大きな水瓶が置かれている、排水されている水は川を作ったり池を作ったりする事もなく地面へとしみこみ消えて行っていた。
この辺りは食用となる植物などがなく、動物や魔物もめったに出ない場所で岩を登れば辺りを見渡せるので割と安全に野営を出来る場所ではあるのだが、水以外に食料となるものはとれないため食料を持っていなければ食べるものに困る事になる。
「みゃ! リーダー、雨来るよ~」
「ちょっとジメジメしてるが、この岩ん中いれば雨をしのげるだろう……でも、こんなかで火を使うのはちょっとまずいか。ラグルスさん、雨降る前に先に夕食済ませたいんですけどいいですか?」
「ほぅ、コミーさんはそういうのが分かる方でしたか……分かりました。それでは私は皆様が降車しましたら先に犬車をマウリス洞の方へ入れて置きますのでその間に準備をお願いします」
「了解しました」
どうやらあの穴の開いた岩はマリウス洞という名前らしい。それと、猫人族の中には稀に雨に敏感な者がいて降る前にわかるらしいという事をバルゥクから説明された。
あれか『猫が顔を洗うと雨が降る』ってやつと似たようなもんか?
手早く夕食を済ませマリウス洞へ入り寝床の設置していざ寝ようとなった時に急に冷たい風が吹いたかと思うとぽつぽつと雨が降り始め直ぐにどしゃ降りになってさすがに外で見張りができないとレバとコミーが外から戻ってきた。
「むーりー。な~んも見えないし聞こえなーい」
「こりゃ酷いわ、これじゃ雨のせいで見張りに立っても何も意味ないから戻ってきたぜ」
「了解。幸い風向きが入口に向かって吹いてきてるわけじゃないから入り口付近で見張りすることにしよう。ま、この雨でやって来るような気合の入った盗賊なんてまずいないだろうし、魔物もこの雨じゃねぐらに引っ込んで出てこないだろうけどあんまり気は抜くなよ」
あれほど降っていた雨は朝起きるころには止んでおり、空に雲一つない青空が広がっていた。
「昨夜の雨でどうなるかと思ったのですが、これなら多少街道に不安がありますが当初の予定道理の時間に出発致しますので準備の方をお願いします」
『はい』
ラグルスが昨夜の雨で街道でぬかるみができていたり土砂崩れが起きてる可能性もあるが雨が上がっているので出発すると判断を下したので手早く支度をし出発する事となった。
ラグルスが危惧した通り街道にはぬかるんでるところが多々あり、ぬかるみにはまって動けなくなるような事は無かったが大きく揺れて乗り心地がかなり悪くなったがそれでも普通の犬車に比べたらかなり揺れが小さいとみんな驚いていた。
俺としてはこんなに揺れる乗り物にはもう乗りたいとはとても思えないんだけど……みんなあまり気にした様子はないんだよな。ま~、舗装された道路なんてこの世界にはなさそうだしこれがこの世界の常識……というか、この犬車の性能からいうとこれでもかなりましの部類に入るんだろうな。
ちなみに大地の牙は街道がぬかるんで歩き難いためタラップに座り周囲を警戒する事になっていた。
街道をしばらく進むと、前方に一台の馬車が街道の真ん中止まっており街道を通れなくなっていた。初めは盗賊たちが道をふさいでるかもしれないと大地の牙の面々がタラップから降りて警戒していたが、どうやらぬかるみに車輪がはまって動けなくなってしまったらしい。そんな馬車には野菜が積まれており、ダグアへ野菜を運送するために街道を進んで来たとの事だった。
「すんませんね~、しゃりんがはまっちまって、うんともすんともいかんのですわ。早く野菜さ届けねぇと行けねぇんだけんども」
御者をしていたのはいかにも人のよさそうな田舎のおっさんと言った感じの人で、申し訳なさそうに頭を何度も下げてきていた。
街道から外れて馬車をかわそうにも、昨夜の雨で街道以外は膝まで埋まるほど地面が緩んでいるためそれて進む事も出来ず、かと言って黙って見ていてもどうにもならないので馬車をぬかるみから出す手伝いを大地の牙がする事に決まり、俺とレイも手伝う事にした。
まず、ぬかるみはまっている車輪の前面の土を取り除き板を敷きさらに周囲のぬかるんでいる地面も魔法を使い凍らせて固めてから馬に馬車をひかせて脱出させた。
馬車の御者に何度も感謝されてから馬車を見送ったあとにぬかるんでいた場所を周囲の土や小石で埋めて火魔法で強制的に乾燥させてから叩いて固めてバスアが通ても問題ないようにしてから犬車も出発した。
雨降ったらぬかるんじゃうんだったら舗装は無理でも石畳にする事は出来ないのかな?
ラグルスに街道を整備して石畳にしないのか聞いたところ、とても街道全部を石畳にする費用が無い事と石畳だと蹄鉄を付けていない馬や付けていても早馬などが走る場合に脚を痛めてしまう可能性があるため石畳にしていないそうだった。
ちなみにライドドックは石畳でも速足程度なら問題ないが、さすがに駆け足は無理だし普通に歩くにも石畳より土の上の方がストレスがかからないそうで石畳にはしていないそうだった。
その後は多少ぬかるみはあるが埋るほどでもなく、他にこれといったトラブルに見舞われる事もなく進みベイラの町に辿り着いた。
所用のため次回の更新が遅れますが、遅くとも一ヶ月以内には更新します。




