第九十二話 ゴブリンの洞窟からの帰還
大部屋にいたゴブリンを一掃し、奥にあった大扉をレバが調べてから開けると、比較的広い道が続いていた。他に扉や通路は見当たらなかったのでそのまま道をたまにいるゴブリンを斬り伏せながら(主にストゴブとの戦いで消化不良だったキルグが)進むと人のものらしいきうめき声の様なものが微かに聞こえてたので他にも捕らわれていた人がいたのかと罠の可能性があることも考慮しつつ声がした方へへ向かう事となった。
「――さっきの声は多分この扉の向こうからだぜ、てかあの大部屋の以降罠の類が一切なかったな。もしかしたら普通のゴブリンじゃ罠の位置を覚えれないとかだったのかもな~。あいつら基本バカだし」
「ちょっとレバ! そんなこと言って油断して罠に引っかからないでよね?」
「いえ、コミー。そこは『罠に引っかかってもいいから被害者はレバだけにしてよね』ですよ」
「それだー!」
「うちの女どもは冷たいね~。なぁリーダー?」
「俺に同意を求めるんじゃない」
扉を開けると中から異臭がしてきて思わず顔をしかめた。中はルーミュがいた牢のあった部屋を数倍の広さにしたような大部屋で反対側の壁には扉があった。時折先ほど聞いたうめき声が聞こえて来て、牢の中にいたのは全員女性で、明らかに妊娠しているであろうお腹の大きい者、横たわりピクリとも動かない者、虚ろな目で座り込んでいる者などが服ともいえぬぼろ布を纏った半裸の状態でそこにいた。
「くっ、こいつぁ……」
「はいはい、男共は一旦出る!」
「……リン……羽織れるもの出していって」
レイに言われ『倉庫アプリ』の中にあった毛皮や毛布などを出してから男性陣は入ってきた扉ではなく反対側にある扉の先を調査する事になった。
扉の先には居住スペースと思われる部屋がいくつかあり、そこにいたゴブリンは全て倒したのだが……その中でゴブリンとはいえ小さな子供や赤ん坊を殺すのはかなり心が痛んだ。
てか、何でゴブリンの子供なのに見た目がかわいいんだよ! 罪悪感が半端ない! しかも鳴き声が『ギャ』とかじゃなく『キュ』とか可愛らしく鳴くしー!
キルグ以外は殺すのにためらいがあったのだが、キルグは師匠から『たとえ死にかけの老人だろうが生まれたての赤ん坊だろうが敵とみなしたなら全部斬れ』と教え込まれ、実際に今回の様にゴブリンの赤ん坊を何匹も手にかけた事があるらしい。
「初めのうちは抵抗があるかも知れませんが慣れれば気にならなくなりますよ? 邪魔な小枝を切り払うのと大差ない感じになれますよ」
『いやそれはちょっと……』
キルグの発言にみんなちょっとひいていた。キルグ以外は全員同じ思いの様でちょっとホッとした。
冒険者やってんだから多少慣れなきゃならないのは分かるけど……『邪魔な小枝を切り払うのと大差ない感じ』は人としてどうなのかと思う、何かなくしてはいけない何かを無くしそうだぞ。
「それに、善良なゴブリンなんて見た事無いですから、赤ん坊とはいえ残しておけばいずれ後悔する事になりますよ」
「それはそうなんだけど……分かっててもやっぱり罪悪感が拭えませんね」
「リーダーいつまでもここにいても仕方ないし、とりあえずここらは片付いたんだしもうちょっと奥の方へ行ってみるか? それとも戻るか?」
「安全確認も兼ねてもう少し奥へ行こうと思う」
奥へと進むと、いくつか部屋があったがゴブリンはどこにもおらず、程なくして出口を発見したのだが、出口は二匹のゴブリンが守っていた。しかし、まだ洞窟内の異変には気が付いていないようで日差しを避けるためか洞窟の外ではな中で座って欠伸をしていた。
「どうやら油断してるみたいなんで俺が魔法でしとめますね」
「ここから遠距離攻撃が可能なのはリンくんだけだし頼むよ」
「それでは私は攻撃と同時につっ込みます」
「そんじゃ、その後をリーダーと俺がついてくって事で」
結果はロックバレットをヘッドショットしてゴブリン二匹を倒す事であっけなく終わった。さっきまでがさっきまでだっただけにちょっと拍子抜けしたが、よく考えれば無警戒のただのゴブリン二匹が相手なんだから当然ともいえた。
「罠の類もねぇみたいだし、他にゴブリンもいない様だぜ」
「とりあえず出口が確認できたことだし戻ろう」
「それでは私がここを見張っときますよ」
「頼みます、キルグさん」
戻る途中、子ゴブリンたちをこのままに目隠し代わりに部屋にあった藁の様なものを被せてからレイ達のいる部屋へ戻った。
「おかえり~、どうだった?」
「割と近いとこで出口が見つかった」
「それは良かったです。とはいえ……」
さすがにただでさえ体力が低下しているのに、その上身重の女性たちを引き連れて歩いて町へ戻るのはリスクが高いだろうという事で、俺とレイで町へ戻りギルドへ救援要請を出しに行く事となったのだが、そこで本来の救出対象であったルーミュも一緒に連れて行く事になった。
洞窟の出口でキルグにこれからの事を手短に説明したあと、ルーミュの移動速度に合わせつつ移動、その道中に受けてた依頼で討伐数に達していなかった魔物がちょうど襲ってきたのでさくっと狩って『倉庫アプリ』につっ込んで町へ急いだ。
「えっと、道を歩かないんですか?」
「う~ん、こっちのほうが近いからこのまま進むよ」
「……そ、そうですか」
ま~こんな草むら突っ切ってたら不安にもなるだろうけど、ちゃんと『地図アプリ』で位置を確認して『索敵機能』で周囲の確認もしてるから大丈夫なんだけど説明し難いし、俺とレイじゃ見た目に頼りなさそうに見えるのは否定しないけど信じてついてきてもらう他ないな。
その後はこれといって魔物に襲われる事やトラブルに巻き込まれる事もなく町へたどり着き、直ぐにギルドへ行くとどこにこれだけいたのかと思うほど冒険者でごった返していた。
「ルーミュ!」
「オ、オルト?」
オルトって誰だっけ? って、あの時のキルグに助けを求めたって言うパーティのリーダーの少年か。
ルーミュの事はオルトに任せて受付へ行き、できるだけランクが高い方が信用度が高いだろうという判断の下レイにギルドカードを提示させてからゴブリン同筒の事で話があるができれば他の人に聞かれないようにしたい事を話すと個室へ案内され、そこでゴブリン洞窟であったことをかいつまんで話したところで職員では対応できないためギルマスが呼ばれ再度説明する事になった。
説明のあと、場所を移動して保管庫で洞窟に特殊なゴブリンがいたことの証拠としてストゴブを出して鑑定ができる職員に確認して貰い洞窟に囚われていた人たち(とりあえず生存者のみ)の異動のために馬車と護衛を出す事が決められた。
救出要請に対する報酬や費用については、報酬以外の費用は町やギルドが最低でも半分は出してくれ、残りは救出された本人もしくは親族が払う事になっており、もしすぐに払えない場合は借金扱いとなり町間の移動などに制限がかけられ、一定期間で払えなければ奴隷落ちとなるらしい。
冒険者に払われる報酬はあまり多くなく、報酬より名声を得るものだという認識。途中で倒した魔物に関しては倒した者の取り分となる決まりらしい。
今回珍しい特殊なゴブリンとの事で俺たちの情報通りだとして仮定した場合の町への危険度を考えると報酬はかなりの額になるが物的証拠が少ない無いのでとりあえず後日洞窟の調査をしたあとにその調査結果を踏まえて報酬が支払われることに決まり、案内役として同行するため準備が終わるまで個室で休憩する事となった。
「レイ、なんなら町に残って休んでてもいいんだぞ?」
「……一緒に行く」
幌付きの馬車二台と被害女性のため事を考慮して女性冒険者を極力多めにしたという編成で洞窟へ向かい調査のため同行していたギルド職員とその護衛のための冒険者数名を残し町へと戻った。
翌日は前日の予期せぬ救出とゴブリン討伐で多少疲れが残っていたので俺とレイはギルドへ行かず休む事に、キルグは暴れたりなかったのか修行に行くと言って宿を出て行った。大地の牙は明日は出発だから体調を万全にするために休息日としたようだ。ただし、バルゥクだけは今回の件の説明や報酬に関して話し合いをしなければならないためギルドへ行っていた。
報酬に関しては俺、レイ、キルグは救出者からの分は必要ないから洞窟攻略分と討伐したゴブリンの報酬だけを貰う事とし、受けてた依頼は俺が報告しその場で金を分けその他は大地の牙に丸投げする形となった。
悪いけど交渉事なんて面倒だし『大地の牙は慣れてる先輩冒険者』という事で任せよう。って、苦労するのはバルゥクだけみたいだけど。
ちなみに、なぜバルゥクだけが行く事になったのかは。
「――了解、わたしとミリちゃんもリンくんたちと同じでいいからリーダーよろしくね」
「一緒に来てくれても……」
『ま・か・せ・た。からつべこべ言わない!』
「なぁレバ、そろそろ泣いていいかな?」
「……リーダー、男ってのは女に勝てない生き物なんだぜ?」
「じゃ、レバはついてきて「俺もパス!」味方はいないのか!」
とまぁ、こんなやり取りがあったんだけど、バルゥクには強く生きてもらいたいものだ。
宿にこもっているのもつまらないしレイと一緒にまったりと町を散策する事にした。とは言っても到着初日にも見て周ってたので散策というより散歩といった感じだった。
「リンはトラブルを呼び込みやすいから気を付けるように。私たちの時だって」
「いや、あの時もそうだけど、ほとんどの場合俺が呼び込んだわけじゃないだろ」
「トラブルに首をつっこむだった。それでも解決するとこまで行くから頼りにはしてる」
「そう言われると照れるけど、俺にそんなに力ないからな?」
ドラゴンを追い払えたのは俺の力だけじゃない俺が着いた時には手傷負ってたし、あ、ドラゴンの事あったから俺は強くなりたいと思ったのか?
なんだろう、あの時のこと考えるとなんか引っかかるんだよな……なんか忘れてるような、記憶がごちゃごちゃした感じがするんだよな~。
その後夕方まで屋台で買い食いなんかして夕方まですごし宿に戻るとバルゥクが俺とレイを待っていた。
「お、やっと帰ってきたか」
「バルゥクさん?」




