第七十九話 メープルシロップ
村長は今回の学校がうまく行き、リバーシや燻製などもうまく行けば村の収入はもっと増えるだろうから人の流入を逆にチャンスと捉え発展し町に昇格できると息巻いていた。その際に今後はこの村の特産品には村のブランドだと証明するための印を焼印する事も決定した。
これからはコーレア村で作った物はコーレアブランドとしてどこかに印を入れ他の者と差別化を図る事となった。
雪が融けてくる
……そろそろ村を旅立つ事も考えないといけないな。とは言っても、まだこれといって青狼族に関しての情報が何も無いからとりあえずは大きな町を目指してそこで何か情報が無いか聞いて回ってくしかないんだけどな。ま、学校建設の手伝いも少しはしときたいし、もう少し先の話になるんだろうけど、そろそろ考えるぐらいはしとかないといけないよな……色々と。
今後についての予定をあれこれ考えていた時、ふと前に見つけていたカエデの木の事を思い出した。
あ、そう言えばそろそろメープルシロップが採れる時期だな。ま、こっちの世界でも同じ時期に採れるとは限らないし、大体あれがサトウカエデかどうかする分からないからけいんだけど……明日にでも採集に行って見るかな?
念のため村長に確認して許可を取ってから採集道具を作る事にした。作った道具は鉄パイプと蓋つきの瓶、材料が無かったためゴムホースが作れなかったので、ダイロに中が中空で水を漏らさずに通せる太い綱の様な物は無いか相談したら似たような感じの物で中空の木の蔦があると教えられ、ちょうど持っているとの事だったので見せてもらったら十分使えそうだったので試しに水を通したところ、水漏れも無くちゃんと水が反対側から出た。問題なさそうだったのでその蔦を買い取りホースの代わりとして使う事にした。
「あっ、兄貴ー! どっか行くのか?」
「ちょっとな……暇ならついてくるか? ラウが面白いと思うような事じゃないと思うけど」
「ん~、別にやることねぇしついてくぜ!」
ラウと一緒に村を出て、以前見付けていた楓の木に魔法で穴をあけそこに鉄パイプを刺し入れ蔦ホースを繋ぎ樹液が瓶にたまるように反対側を木に固定した瓶に取り付けてできるだけ雪やゴミなどが入らないようにするために蓋をした。
「兄貴、これってどんくらい待ってればいいんだ?」
「ん、ああ、今日は設置して終りだ。えーと、確かあのくらいの瓶に十分な量がたまるまで一週間くらいかかるんじゃ無かったかな?」
「そんなにかかるなら木を切り倒して木ごと持ってった方が早いんじゃねぇか?」
「いや、ラウ。それだと今回だけしか採れないだろ? 一回きりで終わらすより、ちゃんと継続して採る方がいいんだよ」
ま、木を切らなくてもあんまり採りすぎると木が枯れちゃったりする事もあるから気を付けないといけないんだけど……って、詳しいこと言ってもラウだしな、理解できないだろうからこのくらいの説明でいいだろ。
「という事で、設置も終わったしこのままにして村に帰るぞ」
「おう! って、本当に面白い事無かったぜ」
「だから言っただろうに……」
瓶を放置してもよかったのだが、こちらの世界でも同じ時間で採集できるかどうかと言うのと、魔物に横取りもしくは壊されるかもと不安だったので毎日確認する事にした。
よし、ちゃんと溜まってきてるな、魔物とかにいたずらされてる様子も無いな。ここら辺には魔物は出ないのかな? 一度誰かに聞いてみるか。
毎日確認する事一週間、やっと貯まっていたので全て『倉庫アプリ』へしまい、木の穴を木片で塞ぎ村へ戻った。
「なぁ兄貴。それってもう食えんのか?」
「そこは液体なんだから『食う』じゃ無くて『飲む』なんじゃないか? って、そうじゃなく、このままだとまだ味が薄くてあんまり美味しくないぞ」
「ふ~ん。じゃ、またなんか変な事するんだな」
「……変なこととか言うなよ。そんなこと言ってると味見させてやんないぞ」
えっと、確かこのままだと水っぽいから煮詰めて濃度を上げてから濾すんだったよな? あ、その前にちょっとゴミ入ってるから取り除いた方がいいな。
孤児院に戻りゴミなどを取り除くため濾してから十分に煮詰め、さらに濾して不純物を取り除きちょっとだけ味見をしてみた。
うんうん、ちゃんとメープルシロップになってるな。しかも思ってたより結構甘い、あの楓はサトウカエデで間違いなかったようだな……ん? そう言えばギルド増築の時木材にするために使ってた木を乾燥させる魔法をメープルシロップを煮詰める代わりに使えないかな?
魔法でどうにかできない物か悩んでいた時にちょうど窓からダイロが歩いていたのが見えたので聞いてみたのだが
「あの乾燥魔法か……村ん中であんな魔法使えるような奴はいないと思うぞ。そしてもちろん俺も使えねぇ、使えりゃいろいろ便利なんだがなぁ~」
「そうですか……あ、でも――」
ルカなら教えて貰えばすぐに使えるようになるのではないかと思い、口に出しかけたが一人だけ使えてもそれだとルカに負担が集中してしまうだろうと思いとどまり「やっぱり何でもない」と言葉を飲んだ。
「それに、そもそも乾燥魔法使えるなら、それ使って干し肉を作ってるぞ」
「そう言われれば、確かにそうですね。あ、干し肉で思ったんですけど、何か攻撃魔法として使えそうですね。こう、相手の体の水分を乾燥させるとか」
「お前ぇ恐ろしいこと考えるな。でもダメだぜ、どういう理屈かは知らねぇが、生きてる奴にゃ効果が無いらしいぞ」
以前、乾燥魔法を使える者が釣った小魚を丸干しにすべく乾燥魔法を使ったのだが全く効果が無かったそうで、それを聞いた魔法学者が興味を持って調べた結果、理由は不明だが生物には使えない魔法という事実だけが分かったという事だ。
もしかしてスマホの『魔法アプリ』なら生物相手にも効くかもしれないな。とは言え、使えたとしても人に見られると厄介そうだから下手に試さない方がいいだろうけど。
「ま、そう言う訳で残念ながら乾燥魔法は攻撃魔法にはならねぇぞ。それにな、乾燥で劣化しちまって取れる素材が減っちまうぞ、肉だって血抜きもしねぇで乾燥なんかさせたらまずくなっちまう」
「あー、確かにそうですね」
確かに血抜きしないと臭みが出ちゃうか。そう言えば『下処理が大事』とか聞いた事あったな、
「兄貴ー、この間の木のやつできたのか?」
「木のやつって……メープルシロップな」
ん、木のやつ……そういやシナモンって木の樹皮からできてたんじゃ無かったけ? メープルシロップもできた事だし、シナモンもあればいろいろと洋菓子を作れるかも! って、シナモンの木がどういう木か分かんないし、樹皮のどの部分かどうやってシナモンの作り方も知らなかったな。
「それそれメープルってやつ! ――って、こんだけか? 瓶に結構あったよな、もう飲んじまったのか?」
「ラウ、だから煮詰めて量が減るって言う事を説明しただろ?」
鍋で半分くらいの量まで煮詰めていき、十分に冷めてから小さいスプーンですくってみんなで味見をしてみる事にした。
「甘めえ! うめえ!」
「甘くておいしいです!」
「! ……リンはやる男だと信じてた! 甘いものは神の味」
ラウとルカの感想はいいとしてレイの感想がどこかおかしい。美味しいと言いたい事は伝わってきたので気にせず自分でも味見してみると、ちゃんとメープルシロップの味で十分な甘さになっていてホッとした。
さて、レイがそんなに甘味好きと言うのには驚いたけど、メープルシロップができる事は分かったし、この村の特産品の一つになりそうだからサトウカエデの木は学校建設用の木材として切らない様に村長に話に行くか――あ、後で孤児院のみんなにおやつとしてメープルシロップたっぷりのパンケーキでも作るか、その分のメープルシロップは別に確保しとかないとな。
「どうしたリン君。何か問題でも起きたかの?」
「いえ、特に問題は起きてないんですが、ちょっと村長に相談事がありまして、とりあえずこちらを」
あれこれ説明するよりまずは実際味見してもらった方が早いだろうとメープルシロップを試飲してもらう事にした。
「ほぅ、これは砂糖水かの? しかし、砂糖にしては何と言うか優しい感じで独特の風味があるの~……うむ、美味いの」
「実は、これは砂糖ではなく村の近くの木から採れたもので作った物なんです」
「おお、あれか、この前いっとったやつかの? しかし、花ならいざ知らず木からこんな甘い蜜の様なものが採れるとは……」
「そうです、前にお話ししたものです。詳しく説明しますと――」
メープルシロップについての説明をし、楓の木から樹液採取を試した結果問題なく採取できたので村でメープルシロップの採取方法を教え、採取できる時期の検証をしなければいけない事や採取しすぎて木を枯らすなんてことの無いように注意もしておいた。
「採集するにしても魔物も出るから護衛が必要となるじゃろうな」
「確かにそうですね。今回採集した場所は運が良かったのか一度も魔物と出会う事はありませんでしたけど、大規模に採集をする事になると魔物が出やすい場所などもあるでしょうから護衛を付けた方がいいと思います」
村長から何人かにメープルシロップの採集方法や作り方などを教えて貰えないかと頼まれている話の途中で白樺の樹液からもシロップができる事を思い出しその事も話したらそちらの方も教えてくれと頼まれた。
「この時期しか採れないと言うのなら畑仕事と被る事は無いし、何人か選んどくから決まったらその者たちに採り方や作り方を教えるのを頼むぞい」
「分かりました。白樺の方は試してみないとわからないったですが採り方や作り方はだいたい同じ何ですし、うまく行くかも試してみないとわからないからとりあえずメープルシロップだけって事にします。それじゃダイロさんに必要な道具作っといてもらいますね」
「うむ、白樺の件、了解した。それとの、作る道具の代金は村で払うし、リン君にも採集方法を教える事に対しての報酬も用意するからの、報酬として何か希望があれば言ってくれれば考慮するぞ」
「それと、俺が護衛も兼ねますが、念のためある程度自分の身を守れるような人選でお願いします」
報酬に関してはどうしようかと考え、あまり村からお金を貰うのもちょっと気が引けたのと、思ったより美味しかったメープルシロップが欲しかったので報酬はメープルシロップと木材を貰う事にした。
帰り際、村長が時期は限られるが、それがまた特別感を生みそれなりの値段を付ければかなりの収入が見込めそうという事で喜んでいた。
いや、ちょっと気が早いんじゃないか?
孤児院に戻り、子供たちにメープルシロップたっぷりのホットケーキを出したら無言で食べ続け食べ終わると全員が満足したように一言『美味しかった』と言っていたので気にいってくれたようだ。
院長、子供たちですら催促して来てないと言うのに、持ってる皿をこちらへ突き出しておかわりを要求するのは止めなさい。
翌日、まずはメープルシロップを採った木を中心にどのくらいサトウカエデが生えてるかを調べ、簡単な地図を作った。
後日、五名の村人を連れてメープルシロップの採集の研修を行う。今回の研修に対する俺への報酬はメープルシロップで払って貰う事になっていた。
「ログウルフぐらいしか出ないとは思いますけど、危ないのではぐれないようにしてくださいね」
『はい!』
この時期だとまだ畑に出る事も無くちょうどいい収入源になると結構参加希望者が出たが、サトウカエデが生えている場所には魔物が出る危険性がある場所もあったので、ある程度自分の身を守れるものを優先して選抜して貰ったが、今回はいいけど今後の事を考えると護衛の冒険者を雇う必要が出てきそうだが、現在村にはまだライアスから冒険者はやってきていなかったが、もっと雪が解けて普通に歩いて街道が使えるようになれば冒険者もそれなりにやって来るだろうから、その冒険者に護衛してもらえるだろう。
「――で、木に穴をあけて――」
「こ、こうですか」
「そんな感じです」
「――と、こんな感じに設置して後は溜まるのを待つだけになるんで今日はこれで終わりです」
それから前回と同じ様に問題が起きてないか毎日確認しに行き(初回のみ全員で)一週間後に全員で行った時にはちゃんとバケツに樹液が溜まっていた。




