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第四十一話 魔人に興味を持たれてしまった

 魔人が出してきた条件は――。


 ・当初の目的でもあるドラゴンは持っていく。

 ・周りにある死体(黒翼のメンバーと商隊メンバーの死体)も実験の材料として持っていく。

 ・生き残っている者、そして馬車の積荷などには興味が無いから置いていく。一人助かりそうにないやつ(ガイラル)もおまけで置いていく。


「――この条件を飲んでもらいたいとこなんだけど……どうかな? ダメなら不本意だけど戦闘続行になるんだけど……実は、ぼくはまだ起きたばっかりで本調子じゃない。こんな半端な状態で君みたいな面白いやつと戦うのは勿体なく思ってね~。言っておくけど、この状態でも戦闘を楽しむのを諦めて君を消すだけなら容易なんだよ? とはいえ、君はレベルが低いようだからまだまだ強くなりそうだし、十分に育ってから楽しみたいんだけど……条件を飲めば生き残りは助かるんだから条件を飲むことをお勧めするけど、どうする?」


 正直、こいつの言う通りこのまま戦ってもこちらに勝ち目があるとは思えない……このまま戦うより条件を飲む方がメリットが大きい気もするが……ん~、迷ってたらシャルディアたちの治療が間に合わなくなる可能性もあるし、条件を飲むしかないか。


「分かった! その条件を飲む……」

「フフフ、賢い選択だよ。それでは――」


 魔人はついでにと何やら呪文のようなものを唱えて俺の左手の甲に触れると、触れられた左手が熱くなったのでタクティカルグローブを外してみると左手の甲に不思議な紋様が描かれていた「それがあれば他のやつにちょっかい出されなくなる。君は僕の獲物だからね」と喋りながら周りにあるドラゴンや死体を右手に吸い込んでいき、その作業が終わると目の前から消え、後ろから耳元で囁くように話しかけてきた。


「ここでぼくと会ったことは誰にも話せないようになってるからね? ちなみに、君以外の生き残りの者たちにはドラゴンに襲われたことしか覚えていられないようになってるから他の者への証拠になるようにドラゴンの鱗を一枚置いていってあげよう。

 それと、お互いの詳しい自己紹介は今度会った時にしようか、黒髪のおかしな人間くん。それまで簡単に死んでくれないでよ? おっと、そうそう。最後に一つ忠告してあげよう『天使』には気を付けるようにね」

「天使って言うのはいったい――」

「んー、詳しくは話せないかな? それじゃぁね~」


 魔人の姿が徐々に薄くなり完全に消えた。魔人が消え去ったことで緊張の糸が切れて一気に汗が吹き出し力が抜けてその場に崩れ落ちそうになるが、休むのはケガ人の手当てをしてからだと自分を鼓舞し、一番重傷であろうガイラルの元へ行き治そうとしたが、腹から下、下半身が無い状態でとても『回復』程度で助かるようなケガには見えなかった。


「ガイラルさん……これは」

「リ、リンか、助けに……来てくれたのか? 見ての通り俺はもう……他のやつらの治療を頼む」


 ガイラルの治療をあきらめ、まずは一番近くに倒れて意識を失っていたシャルディアの治療をすることに、身体の方は腹部などに深い切り傷があったがとりあえず『回復』で完治することができたのだが刺さっていた木片によって右目が完全に潰されていて、木片を取り除いて『回復』したのだが失った右目は治すことができなかった。

 次にちょっと離れたところで木に磔にされていたレイを治すことにしたが、石槍で両手両足、そして腹部を貫かれて木に縫い止められ股の下の方が血ではない液体で濡れていたていた。とりあえず石槍を引き抜き地面に下ろしてから治療を開始した。酷いありさまではあったが、幸いにも部位欠損に至る傷が無かったので『回復』で治すことができた。しかし、意識はあるようなのにいくら呼び掛けても返事はなく、目は虚ろで精神が壊れ気味のようだった。

 そして抜け殻のようになっていたレイに『浄化』をかけってから抱きかかえてガイラルの所に行くとシャルディアが意識を取り戻しガイラルの側に座っていた。


「シャルディアさん。意識が戻ったんですね」

「リン……そっか、あなたが私を治してくれたのね。それで、ガイラルは……」

「すみません」


 ガイラルに『回復』をかけても苦しむ時間が長くなるだけにしかならないため、ただ見ていることしかできなかった。


「シャル、いいんだ。悪ぃな……残念だが……護衛はここまでのようだぜ」

「ラル……いままでありがとうね……」

「礼を言うのは俺の方だぜ……おまえに看取られて逝けるなら……存外悪ぃ人生でもなかった。まだ話したりねぇ気もするが……もう無理そうだ……お前の顔も見えやしねぇ……じゃぁ……な。あばよ」

「バカなラル……お疲れさま。ゆっくり休みなさい……」


 ガイラルはシャルディアに抱かれたまま息を引き取った。その顔は穏やかであった。


「シャルディアさん。あの……」

「リン、少しだけでいいからラルと二人だけにさせて……自棄になったりしないから、お願い」

「分かりました。レイと荷物の回収や無事な馬車を探してきます。魔物が出たら呼んでください」


 レイを抱えてその場を離れると、背後からシャルディアの泣き声が聞こえてきたが、振り返ることはせずにレイを地面に下ろして散乱していた荷物を淡々と『倉庫アプリ』に入れ、荷物の回収途中で無事な馬車も運よく見つかり、レイの元へ戻り様子を見てみると眠ってしまっていた。


 レイ……眠っちゃったか。シャルディアの泣き声が聞こえなくなったな……血の匂いを嗅ぎつけて魔物が寄ってくる可能性もあるしあまり長く一人にするのも危険だな、荷物を回収し終わり馬車も見つかったことだしそろそろ戻るか……。


「シャルディアさん。大丈夫ですか」

「ええ、もう大丈夫よ。それと、ガイラルは私のアイテムボックスに入れるわね」

「分かりました。任せます」

「ありがと……リン、ちょっと昔話聞いてくれるかな?」


 ガイラルは騎士の家の生まれで、シャルディアは商人の家の生まれ、両家には親交があり家も近かったので幼馴染として共に育った。ガイラルは騎士である父親とあまり仲が良くなく、騎士ではなく冒険者になることを夢見ていた。シャルディアも小さい頃はガイラルと一緒に冒険者になりたいとは思っていたのだが、シャルディアには父親と同じ商人の才能はあったが、冒険者としての才能はなかった。

 シャルディアは成長するに連れガイラルと一緒に冒険者となっても足を引っ張るだけだと思い知り、冒険者になるのは諦めて自らの才能を生かすことに決め、バルデス商会の幹部の一人でもあった父親のつてで商会に入ることにした。そして、ガイラルとお互いに一人前になったらまた会うことを約束し別々の道を歩むことになる。

 その後、シャルディアはガイラルに負けないようにと一生懸命バルデス商会で働き商隊を任されるまでになった。そして1年前にたまたま護衛依頼を出したときに黒翼がその依頼を受けてガイラルと再開し、幼馴染ということもあり、そのままシャルディアの商隊の専属護衛として契約することとなり、旅を続ける中で幼いころから募った思いをお互いに打ち明けて付き合い始め、そして将来を誓い合ったとのことだった。


「ラルは昔から無茶ばっかりして危なっかしかったのよね。最後は私なんかをかばって……」

「シャルディアさん……」

「それにしてもよく助けに来てくれたわね。正直、リンが来てくれなかったら全滅だったでしょうね」

「ハイルがゴラウまで知らせにきてくれたんですよ」

「そう、ハイルが……あの子生きてたのね。良かったわ」


 ハイルが商隊の危機を伝えに来た時の様子をシャルディアに説明しつつ血やなんかで汚れていたシャルディアを『浄化』で綺麗にし、どこか安全な場所まで移動しようと思ったのだがシャルディアは精神疲労と貧血状態、レイは貧血状態と精神が不安定で俺が側から離れると震えだしてしまうからまともに歩いて移動できる状態ではなく、かと言って馬車を使おうにも馬がおらず手詰まりになってゴラウからの救援隊が来るのを待つしかないかと思っていると、ゴラウから乗ってきていたと思われる馬がこちらの方に駆けてきた。


 お、あいつはゴラウから乗ってきた馬だよな? 戻ってきてくれたのか? 律儀な馬だな……あれ? なんか後ろの方から土煙が上がってるんだが……なんだ?


 馬が戻ってきのかと思って喜んでいたら馬の後方に黒い何かがいるようだったので『望遠』で見てみると、馬より一回りは大きいクマのようなやつがすさまじい速度で追いかけてきていた。どうやら馬はクマに襲われてこちらに助けを求めているようだった。

 クマを『鑑定』してみたら追って来ていたのは野生のクマではなくクマ型の魔物のマダーグリズリーで、それをシャルディアに伝えるとマダーグリズリーはシルバーランクの魔物で、個体によってはゴールドランク扱いにもなる結構強い魔物だと教えてくれたのだったが、魔人と戦った後だと全くと言っていいほど脅威を感じなかったので、落ち着いてマダーグリズリーにマーカーを設置して強めの『ウィンドバレット』を2発連続でマーカーのついた眉間に打ち込み、割と簡単にしとめることができた。

 俺のことをマダーグリズリーから助けてくれた恩人とでも思ったのか馬が俺のとこまで駆け寄ってきて舐め回してきたが、べたべたになるからこっちは全く嬉しくなかったよ。


「リン、マダーグリズリーをあんなに簡単に倒すなんて、あなたすごく強くなったのね」

「一応、シルバーランクの冒険者になりました」

「え! もうシルバーランクに上がったの? 早いわね」


 俺のランクの上り方は早いのか……あんまり目立つのも嫌だし、しばらくシルバーのままで抑えとこうかな? あ、そうだ。魔人のこと言えないようになってるって言ってたけど、言おうとしたらどうなるのか試してみるか。


「あの、シャルディアさん」

「ん、なに? どうかしたの?」

「いえ、あの~襲ってきた――」


 あれ? 声が出ない。魔人と言おうとしたら声が出せなくなったぞ! っていうか口も動かない。魔人の事を言おうとするとこういう風になるのか。


「――ドラゴンって、なんでこんなとこに居たんでしょうね?」

「さぁ? こんなとこにドラゴンが出るなんて聞いたことも無かったんだけど……運が悪かったとしか言いようが無いわね……」


 とりあえずこの場にとどまるのは危険だということで、シャルディアの提案で荷馬車と馬もあることだし街道を南に少し進んだ所にあるミレイヤ村へ移動することになった。


 あれ? ミレイヤ……村? なーんかどっかで聞いたことがあるような無いような? ……思い出せん。まぁ思い出せないものは仕方ない、とりあえず暗くなる前に村へ移動しよう。



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