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月の社に住まうようになって、早ひと月。
黒髪に茜色の瞳の巫女、緋魅呼は、女神、月海輝夜之比売と、寝食を共にしている。
「……ちゅ、んっ」
朝……とは言っても常闇の月世界ではあるが……女神の寝所にて。
ツクミを起こしに来たヒミコは、
「お、起きないわね。……じゃあ、もう一度だけ」
妖しく早鐘を打つ胸の、言い訳を考えながら、眠る女神へ唇を重ねていた。
「ちゅ……んっ、む、くぷぅ。……ふっ、ちゅぅ。も、もうっ。早く、起きなさいよっ」
これだけ接吻されて、目を覚まさないツクミが悪い……そう結論して、彼女の顔を、ヒミコは見る。
長い髪とたおやかな睫毛は、清く神秘的な燐光を纏って見える、しっとりとした銀の色。
真白な肌と、童女としか見えない柔らかな頬……。
そして、軽く寝息を立てる度に、微かに開閉する桜色の唇は、思わず、
(なっ……わ、私、なにを。美味しそう、なんて)
唇へ吸い寄せられながら、ヒミコが赤くなるのだった。
「……ちゅぅ、んっ! い、いい加減、起きなさい、よぉ。……ちゅぷっ。でない、と」
でないと、歯止めが利かなくなるかも。
ぬぷりと、ヒミコは舌を挿れた。
「ふ、んんっ! くひゅぅ!?」
息を塞がれて、ツクミは飛び起きる。
「お、おはよう」
わずかに唇の触れ合ったまま、ヒミコは朝のあいさつ……。
「な、な、な……」
ツクミの顔が真っ赤に染まっていく。
可愛らしく八重歯を剥きながら、怒った。
「なにを……!? 夜這いか、これはぁ!?」
「ち、違うわよ。そもそも朝ですし?」
こちらも頬を赤らめつつ、ヒミコは髪をかき上げて反論。
というか、思いついた言い訳。言い訳のつもりはないけど。
「ほ、ほら。寝起きで、ツクミがお腹空いてるかなって。精気を、吸わせてあげようかなってさ」
だから、接吻。ええ、理屈は通ってる。
もじもじしながら、たずねた。
「……えと。続きは、着替えてからにする?」
ふるふると首を横に、ツクミも羞じらいながら、
「予は、腹が空いておる。そなたの言う通りな。……だ、だからこれは、唇を吸いたいのではなくな」
そうして二人言い訳をしながら、口づけを交わした。
「……ちゅっ♪」