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月花 百合神楽  作者: 百合宮 伯爵
弐の神楽
9/10

2

 月のやしろに住まうようになって、早ひと月。

 黒髪に茜色の瞳の巫女、緋魅呼ヒミコは、女神、月海輝夜之比売ツクミカグヤノヒメと、寝食を共にしている。


「……ちゅ、んっ」


 朝……とは言っても常闇の月世界ではあるが……女神の寝所にて。

 ツクミを起こしに来たヒミコは、


「お、起きないわね。……じゃあ、もう一度だけ」


 妖しく早鐘を打つ胸の、言い訳を考えながら、眠る女神へ唇を重ねていた。


「ちゅ……んっ、む、くぷぅ。……ふっ、ちゅぅ。も、もうっ。早く、起きなさいよっ」


 これだけ接吻されて、目を覚まさないツクミが悪い……そう結論して、彼女の顔を、ヒミコは見る。

 長い髪とたおやかな睫毛は、清く神秘的な燐光を纏って見える、しっとりとした銀の色。

 真白な肌と、童女としか見えない柔らかな頬……。

 そして、軽く寝息を立てる度に、微かに開閉する桜色の唇は、思わず、


(なっ……わ、私、なにを。美味しそう、なんて)


 唇へ吸い寄せられながら、ヒミコが赤くなるのだった。


「……ちゅぅ、んっ! い、いい加減、起きなさい、よぉ。……ちゅぷっ。でない、と」


 でないと、歯止めが利かなくなるかも。

 ぬぷりと、ヒミコは舌を挿れた。


「ふ、んんっ! くひゅぅ!?」


 息を塞がれて、ツクミは飛び起きる。


「お、おはよう」


 わずかに唇の触れ合ったまま、ヒミコは朝のあいさつ……。


「な、な、な……」


 ツクミの顔が真っ赤に染まっていく。

 可愛らしく八重歯を剥きながら、怒った。


「なにを……!? 夜這いか、これはぁ!?」


「ち、違うわよ。そもそも朝ですし?」


 こちらも頬を赤らめつつ、ヒミコは髪をかき上げて反論。

 というか、思いついた言い訳。言い訳のつもりはないけど。


「ほ、ほら。寝起きで、ツクミがお腹空いてるかなって。精気を、吸わせてあげようかなってさ」


 だから、接吻。ええ、理屈は通ってる。

 もじもじしながら、たずねた。


「……えと。続きは、着替えてからにする?」


 ふるふると首を横に、ツクミも羞じらいながら、


「予は、腹が空いておる。そなたの言う通りな。……だ、だからこれは、唇を吸いたいのではなくな」


 そうして二人言い訳をしながら、口づけを交わした。


「……ちゅっ♪」 

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