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月花 百合神楽  作者: 百合宮 伯爵
弐の神楽
8/10

1

 陽に近き天界の森。

 蒼く煌めく湖水の上に、太陽の女神のやしろは立っていた。


「ふぅっ……ん。く……ちゅ。ずぷ、ちゅぅ」


「ちゅ……ん。ふ……んふぅ。むぷぅ……」


 年端もいかぬ黒髪の巫女が、金色こんじきの髪をした、気品ある女性の唇を無我夢中に吸っている。


「ちゅ……ぱぁっ」


 舌を絡め、零れる唾液の糸を熱っぽい瞳で見つめながら、物欲しげな顔の巫女。

 金色の髪の……白い服、白い肌に金色の装身具と、目映いばかりの女性……言うまでもあるまい、太陽の女神は、青の瞳に羞じらうような色を浮かべるが、


「アマネ様、わたくしも……」


 横から別の巫女が、我慢できなくなったか、唇を重ねてくる。


「ふぅっ……! ん、むぅ?」


「ちゅ……ずぷ。ん……どうか、わたくしの精も……」


 豊かな髪、豊かな胸。

 豊穣神でもある太陽の女神へ、巫女たちは祈りとして、


「ちゅっ。んむ、むー……! ふぅっ、んくぅ。ちゅぷっ……」


「ちゅる……ずちゅぅ。んくぅ、ふ……むぅっ」


 祈りとして、唇を捧げるのである。


「ちゅ……♪ んむぅっ! ちゅ……ちゅぷ♪ ああ……アマネ様、もっとぉ……」


「ふぅ、んむ! むー、ちゅっ♪ んっ、わたくしの……も、お受け取り、下さいませ」


「ふぁ……♪ ふふ、もう、皆、落ち着きなさい。太陽は、逃げませんのよ?」


 いつの間にか幾人もの巫女たちから、唇を求められて。

 女神は頬を赤くしつつ、金糸の睫毛まつげに縁取られた瞳を、微笑みの形にした。


 天の音、雨の根、亜麻の禰。

 いくつもの意味を孕んだ尊き御名の、あまねく久遠に大地を照らす、太陽の女神。

 アマネは、幼い巫女たちを慈しむように、


「ちゅ……♪ んっ」


「ちゅぷ……ふぅっ♪ く、いぅ」


「る、くぅ♪ ちゅ……んーんっ♪」


 接吻して、舌を吸っていった。


「ちゅっ♪ ちゅぷ、んん♪ ずちゅ、くぅ♪」


 ああ、それは慈愛に満ちた……母の胸にも似た、安らぎの。

 あまねく衆生を照らす陽光のごとく、全てを癒す……。


 けれど。


「ずちゅぅ♪ ちゅぶ、んぅ♪ ぐぷ、ぢゅぶぅ♪ るっぷ、んくぅ……んっ♪」


「ふぁ!? あ、アマネ、様ぁ、激し……!」


 太陽は時に、地を灼き、渇きをもたらすもの。


「ぢゅるぅ! ん、ん……。ふ、ちゅぶぅ。ずぢゅ……ぐぷん♪」


「ひぅっ! んく、は、ぁぁ……!」


「むぅー……! んむぅ!」


 やがて、太陽の女神から激しく吸引された巫女たちは、身体をびくんびくんとさせて、


「んふぁ、あ、あぁぁぁぁ……っ!」


 気をやっていった。

 死屍累々、というべきか。女神に精気を吸われ尽くした少女たちが、上気した頬で荒い息を吐く。


「あらあら。困りましたわ」


 所詮人と神では視点が違うのか。

 さして困ってもない様子で首を傾げながら、太陽の女神アマネ、


「皆、わたくしの口を吸いたがるくせに、これですもの。もうっ、満たされませんわね」


 羽虫たちが光に吸い寄せられるように、少女たちは女神の唇を求めるけれど。

 太陽に近づきすぎた翼が、焼かれて墜ちるごとく……すぐに精魂尽きてしまう。


 ぺろり、と自分の唇を舐めながら、女神は妖しく笑った。


「ふふ……。吸っても吸っても、精の尽きぬ巫女。そのような者がいるなら、いかなる手を用いても、わたくしの物とするのですが」

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