5
「ちゅっ……むくぅ。んむ……くぷ」
常夜のごとき月の世界の、社にて。
篝火のパチ、パチと爆ぜる音に、甘く湿った水音が混ざる。
「ん……ふぅ。む……く。ふぅ、ん……ぐ」
勾玉の首飾りと巫女の装束で身を飾った緋魅呼は、長い黒髪を振り乱しながら、月の神子と唇を重ねていた。
「ふぅっ、く、むぅ。ふ……んん!」
「じゅぷ、ぬ……くぅっ、ちゅぅっ」
清められた浄室に、接吻の旋律。
童女の姿をした銀の髪の女神、月海輝夜之比売の、八重歯の裏を舐めてやりながら、緋魅呼は考える。
(まったく……私ってば、なにをしているのだか)
巫女として、人ならざる者……女神へ精気を捧げる。
そういう行為のはずだけど、はた目には同性、少女と唇を求め合っているとしか見えない。
(……けれど)
「ちゅ……んっ、くぅぅぅ……っ!」
女神の幼い顔……そのあごを、泡立つ唾液が垂れていく。
その滴が、抱き合う緋魅呼の装束の、胸の谷間を濡らして。
「ふぅっ……、ふぅっ……!」
とても恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら、なおも潤んだ瞳で唾液の蜜を吸ってくる女神へ……緋魅呼の胸に、妖しい炎が立ち昇ってくる。
(ああ……私、これ、好きかも)
「……んっ。ちゅぷぅ、む、ふぅぅ……っ!」
巫女としての、あるいは儚き人の身の、本能か。
女神へ精を貢ぎ、奉仕することに、悦びを感じる自分がいる。
それ以上に、
「ちゅぅぅっ、んく……ぎゅぅぅぅ……っ!」
童の顔に似合う、舌足らずな甘い声を、高鳴らせる女神。
月海輝夜之比売を、
(くぅっ。可愛い)
つい、木の床へ押し倒して、舌を絡めあっている自分。
新しい、発見だった。
(私ってば……こんなこと、しちゃうんだ?)
はっ、はっ、と狼の子のように垂らした舌から、唾液の奔流をどろりと、女神の唇へ。
「!? ん、ぐ……むくん」
吃驚しながらも、女神は、それを飲んだ。
銀の神酒、淫らな蜜。神も、鬼も、大蛇も酔わせる甘い毒。
「……」
「……」
舌を結ぶ唾液の糸が、ゆっくりと堕ち切れるまでの時間。
潤んだ瞳で、巫女と神子とは見つめ合った。
あまりの羞恥にか、真っ赤な顔のまま怒った表情をし出す女神へ。
「ちゅっ、ぐむぅ。んぶぅ……ず、ちゅぅぅ……っ!」
「ちゅむぅ、ふぅっ!? んく、んー……っ!」
なんだ、私たちと、人間と同じだ。
畏れるべき女神へ、不遜かもしれないけれど、身近なものを感じて。
緋魅呼は、常夜の社で、飽くこと無く、唇を捧げた。
「ちゅぅぅっ、んーむぅ。ずぷっ、ぢゅぅ……ちゅる」
「くぅっ! ふぁ、む、きゅぅぅ! ふぅ、ちゅ、んん……ぅ」
乱れた衣装の胸元から汗の滴が落ちて、女神の薄い胸へ。
清らかで、でも妖美な乙女同士の薫りが混ざり合い、桃の酒のような甘ったるさに。
千の接吻、万の接吻に酔いながら、緋魅呼は思った。
(知りたい……神子様は、なにを考えながら、接吻してるのかな)