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月花 百合神楽  作者: 百合宮 伯爵
壱の神楽
5/10

5

「ちゅっ……むくぅ。んむ……くぷ」


 常夜とこよのごとき月の世界の、やしろにて。

 篝火かがりびのパチ、パチと爆ぜる音に、甘く湿った水音が混ざる。


「ん……ふぅ。む……く。ふぅ、ん……ぐ」


 勾玉まがたまの首飾りと巫女の装束で身を飾った緋魅呼ヒミコは、長い黒髪を振り乱しながら、月の神子みこと唇を重ねていた。


「ふぅっ、く、むぅ。ふ……んん!」


「じゅぷ、ぬ……くぅっ、ちゅぅっ」


 清められた浄室に、接吻くちづけの旋律。

 童女の姿をした銀の髪の女神、月海輝夜之比売ツクミカグヤノヒメの、八重歯の裏を舐めてやりながら、緋魅呼ヒミコは考える。


(まったく……私ってば、なにをしているのだか)


 巫女として、人ならざる者……女神へ精気を捧げる。

 そういう行為のはずだけど、はた目には同性、少女と唇を求め合っているとしか見えない。


(……けれど)


「ちゅ……んっ、くぅぅぅ……っ!」


 女神の幼い顔……そのあごを、泡立つ唾液が垂れていく。

 その滴が、抱き合う緋魅呼ヒミコの装束の、胸の谷間を濡らして。


「ふぅっ……、ふぅっ……!」


 とても恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら、なおも潤んだ瞳で唾液の蜜を吸ってくる女神へ……緋魅呼ヒミコの胸に、妖しい炎が立ち昇ってくる。


(ああ……私、これ、好きかも)


「……んっ。ちゅぷぅ、む、ふぅぅ……っ!」


 巫女としての、あるいは儚き人の身の、本能か。

 女神へ精を貢ぎ、奉仕することに、よろこびを感じる自分がいる。


 それ以上に、


「ちゅぅぅっ、んく……ぎゅぅぅぅ……っ!」


 わらべの顔に似合う、舌足らずな甘い声を、高鳴らせる女神。

 月海輝夜之比売ツクミカグヤノヒメを、


(くぅっ。可愛い)


 つい、木の床へ押し倒して、舌を絡めあっている自分。

 新しい、発見だった。


(私ってば……こんなこと、しちゃうんだ?)


 はっ、はっ、と狼の子のように垂らした舌から、唾液の奔流をどろりと、女神の唇へ。


「!? ん、ぐ……むくん」


 吃驚びっくりしながらも、女神は、それを飲んだ。

 しろかね神酒みき、淫らな蜜。神も、鬼も、大蛇オロチも酔わせる甘い毒。


「……」


「……」


 舌を結ぶ唾液の糸が、ゆっくりと堕ち切れるまでの時間。

 潤んだ瞳で、巫女と神子とは見つめ合った。


 あまりの羞恥にか、真っ赤な顔のまま怒った表情をし出す女神へ。


「ちゅっ、ぐむぅ。んぶぅ……ず、ちゅぅぅ……っ!」


「ちゅむぅ、ふぅっ!? んく、んー……っ!」


 なんだ、私たちと、人間と同じだ。

 畏れるべき女神へ、不遜かもしれないけれど、身近なものを感じて。


 緋魅呼ヒミコは、常夜のやしろで、飽くこと無く、唇を捧げた。


「ちゅぅぅっ、んーむぅ。ずぷっ、ぢゅぅ……ちゅる」


「くぅっ! ふぁ、む、きゅぅぅ! ふぅ、ちゅ、んん……ぅ」


 乱れた衣装の胸元から汗の滴が落ちて、女神の薄い胸へ。

 清らかで、でも妖美な乙女同士の薫りが混ざり合い、桃の酒のような甘ったるさに。


 千の接吻くちづけ、万の接吻くちづけに酔いながら、緋魅呼ヒミコは思った。


(知りたい……神子様は、なにを考えながら、接吻くちづけしてるのかな)

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