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月の社で、銀の髪の女神、月海輝夜之比売と接吻を交わしながら。
(ん……っ、甘い……かも)
胸蕩かすお神酒のような、唾液の妖美な味に、緋魅呼は赤くなっていた。
「ば、ばかものっ。そなたが、吸って、どうするっ」
その緋魅呼より頬を染めて、唇を離す女神。
童のごとき顔で、怒った表情をする。
「か、勘違いするでないぞ。これは、食事なのじゃ。そなたは、黙って予に精気を捧げておればよいのじゃ」
銀の髪を弄りながら、八重歯を剥いてくる。
「それを、そなたから口を吸うてくるなぞ……」
羞じらいか、語尾はだんだんと小声になってくる。
緋魅呼も恥ずかしくなって、
「す、吸ってなんか、いません。その……ちょっと、舌が挿入っちゃっただけよ」
うそ。唾液、吸った。
でも、たまたまだから。
これはお勤め。巫女としてのお勤めで、女神へ精気を捧げているだけ。
だから、酔いのように妖しく動機する胸も、愛や恋の類ではなく。
「ほら、私はまだまだ平気ですから。……もっと、く、唇を」
「ふ、ふんっ。よかろう、吸い尽くしてくれるわ」
童女の姿をした銀髪の女神と、豊かな黒髪の巫女。
2人の少女は、照れ隠しのように眉を険しい角度にしながら、熱い唇を重ね合った。
日が、半周するほどの、長い間。
下界を見下ろす社の、壁際。
もじもじしながら見守っていた巫女たちが、顔を見合わせる。
「……お、お二方とも、長い、ですね」
「……ええ。こんなの、初めてだわ」
激しく容赦なく精気を吸う女神のこと、霊力に優れた巫女であっても、数分と持たないのが常である。
ゆえに月の社には、百の乙女たちが仕え、代わる代わる女神へ精を捧げていたのだが、
(吸うても、吸うても尽きぬ。かようなことは、初めてじゃ)
女神、月海輝夜之比売こそが、この場の誰よりも戸惑っていた。
緋魅呼とか名乗った小娘……その豊満な胸と、椿を思わす微かな芳香に抱かれながら。
(ええい、良い贄が来たというだけではないか。これは食事であって、ようやっと予も腹を満たせるという……それだけじゃ。だけ、なのに)
それだけ、なのに。
胸の疼きは、いったい……。
「ふ……んむ……っ!」
そのまま、ひと柱と一人は、赤くなりながら。
日がまた半周するまで、唇を求め合った。