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月花 百合神楽  作者: 百合宮 伯爵
壱の神楽
4/10

4

 月のやしろで、銀の髪の女神、月海輝夜之比売ツクミカグヤノヒメ接吻くちづけを交わしながら。


(ん……っ、甘い……かも)


 胸蕩かすお神酒みきのような、唾液の妖美な味に、緋魅呼ヒミコは赤くなっていた。


「ば、ばかものっ。そなたが、吸って、どうするっ」


 その緋魅呼ヒミコより頬を染めて、唇を離す女神。

 わらべのごとき顔で、怒った表情をする。


「か、勘違いするでないぞ。これは、食事なのじゃ。そなたは、黙って予に精気を捧げておればよいのじゃ」


 銀の髪を弄りながら、八重歯を剥いてくる。


「それを、そなたから口を吸うてくるなぞ……」


 羞じらいか、語尾はだんだんと小声になってくる。

 緋魅呼ヒミコも恥ずかしくなって、


「す、吸ってなんか、いません。その……ちょっと、舌が挿入はいっちゃっただけよ」


 うそ。唾液、吸った。

 でも、たまたまだから。

 これはおつとめ。巫女としてのお勤めで、女神へ精気を捧げているだけ。


 だから、酔いのように妖しく動機する胸も、愛や恋の類ではなく。


「ほら、私はまだまだ平気ですから。……もっと、く、唇を」


「ふ、ふんっ。よかろう、吸い尽くしてくれるわ」


 童女の姿をした銀髪の女神と、豊かな黒髪の巫女。

 2人の少女は、照れ隠しのように眉を険しい角度にしながら、熱い唇を重ね合った。

 日が、半周するほどの、長い間。


 下界を見下ろす社の、壁際。

 もじもじしながら見守っていた巫女たちが、顔を見合わせる。


「……お、お二方とも、長い、ですね」


「……ええ。こんなの、初めてだわ」


 激しく容赦なく精気を吸う女神のこと、霊力に優れた巫女であっても、数分と持たないのが常である。

 ゆえに月のやしろには、百の乙女たちが仕え、代わる代わる女神へ精を捧げていたのだが、


(吸うても、吸うても尽きぬ。かようなことは、初めてじゃ)


 女神、月海輝夜之比売ツクミカグヤノヒメこそが、この場の誰よりも戸惑っていた。

 緋魅呼ヒミコとか名乗った小娘……その豊満な胸と、椿ツバキを思わす微かな芳香に抱かれながら。


(ええい、良いにえが来たというだけではないか。これは食事であって、ようやっと予も腹を満たせるという……それだけじゃ。だけ、なのに)


 それだけ、なのに。

 胸の疼きは、いったい……。


「ふ……んむ……っ!」


 そのまま、ひと柱と一人は、赤くなりながら。

 日がまた半周するまで、唇を求め合った。

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