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月花 百合神楽  作者: 百合宮 伯爵
壱の神楽
2/10

2

 時は少しさかのぼって。

 とある集落の祭殿では、大地の実りを祝う秋の祭礼が開かれていた。


 遥かいにしえ、人がまだ国家を築くこともない時代。

 万物に神は宿り、したがって神をまつる儀式の在り方も八百万やおよろずの作法が有った。


 それぞれの集落に、守り神として信奉する神があり、祭りでは各々のやり方で、貢ぎ物を捧げる。

 この集落の守り神は、最高神のひと柱たる月の女神であり、その神へ貢ぎ物を捧げる儀式とは……、


「……ちゅっ。んんっ、む、く……」


「ふぅっ、んむぅ。ぬぷ、ずぷぅ……」


 黒髪の乙女2人が、祭壇で睦まじく、唇を吸い合っている。


「んく、ん……っ」


 四方に篝火かがりび神子みこを守護する戦士になぞらえた土偶。

 祭壇には稲穂や森で採れた栗、鹿に熊の肉。


 秋風吹き込む野外の祭壇にて、巫女達の祝詞のりとを聞きながら、少女同士で唇を重ねる。


「ちゅ……んむ、んんっ……! ふぅっ、ふぅ……」


 見れば姉妹だろうか、よく似た目鼻立ちの2人。

 星流れる天の河と見紛う、黒々とした長い髪。

 全体的には華奢な体格ながら、豊穣の巫女らしく豊かに実った胸。


「ちゅ、んん……。姉さま、もう、息が……っ」


 顔に幼さを残した方が、顔を赤くする。


「んっ、我慢なさい、緋魅呼ヒミコ。これは、んむ、神聖な、儀式なんだから……」


「んっ、むぅぅ……っ!」


 ……息を切らせながらも、抱き合い、接吻する姉妹。

 2人は、この集落きっての霊力を備えた、巫女の姉妹である。


「ちゅぱぁ、ふぁぁ……っ、んっ……!」


 姉は、他の巫女と同じ装束。

 緋魅呼ヒミコと呼ばれた妹の方は、銀の髪飾りに、翡翠ヒスイを削った勾玉の首飾りと、清楚ながらも飾り立てた服装だ。


 姉が、舌を絡めながら微笑む。


「ふふ……ほら、月の女神様? 貴女は日に百の乙女の精気を吸うのでしょう? これくらいで、へばったりなさらないはずだわ」


「んんむぅ! わ、私……女神様役ってだけ、なのにぃ。ふ、んむぅぅ……!」


 姉に抱き締められ、深く口づけされながら……今年の女神役に選ばれた巫女、緋魅呼ヒミコは、月下に甘い声を零した。


 ※ ※ ※


「ふふ、お疲れ様。これでまた一年、女神さまは私たちをお守りくださるわ」


 儀式の後。

 夜のやしろで、妹が女神の衣装を脱ぐのを手伝いながら、姉がねぎらった。


「……もう。姉さまったら、私の唇を吸い過ぎ。べ、別に本当に吸わなくたって……」


 肌を曝しながら赤くなる妹へ、


「こら。女神様へ巫女の精を捧げる、昔からの儀式なのよ。真剣にやらないとだめでしょう?」


 ずっと南の地、空のやしろへ住まうという月の女神……彼女に扮した巫女が、乙女たちと唇を求め合う。

 毎年秋の祭礼で行われる、神聖な儀式であり、女神役に選ばれるのはこの集落の少女にとって、とても光栄なことである。


「ふふ、なんてね。貴女が可愛いから、姉さん少し本気になっちゃった」


「も、もうっ。姉さまってば、恥ずかしいこと言う……」


 背中から姉に抱き締められ、満更でもなく頬を染める妹……緋魅呼ひみこ


 と、従僕の娘が外から、2人へ声を掛ける。


「失礼します……長老が、お呼びですわ」


 ※ ※ ※


「神託が下された」


 集落の宝である銅鏡を手に、長老……大ばば様が告げる。


緋魅呼ヒミコや。わ主はこれより、南へ百日下った、月の女神さまのおわす地へ行き……かの神子みこにえとなるのじゃ」

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