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時は少しさかのぼって。
とある集落の祭殿では、大地の実りを祝う秋の祭礼が開かれていた。
遥か古、人がまだ国家を築くこともない時代。
万物に神は宿り、したがって神を祀る儀式の在り方も八百万の作法が有った。
それぞれの集落に、守り神として信奉する神があり、祭りでは各々のやり方で、貢ぎ物を捧げる。
この集落の守り神は、最高神のひと柱たる月の女神であり、その神へ貢ぎ物を捧げる儀式とは……、
「……ちゅっ。んんっ、む、く……」
「ふぅっ、んむぅ。ぬぷ、ずぷぅ……」
黒髪の乙女2人が、祭壇で睦まじく、唇を吸い合っている。
「んく、ん……っ」
四方に篝火、神子を守護する戦士になぞらえた土偶。
祭壇には稲穂や森で採れた栗、鹿に熊の肉。
秋風吹き込む野外の祭壇にて、巫女達の祝詞を聞きながら、少女同士で唇を重ねる。
「ちゅ……んむ、んんっ……! ふぅっ、ふぅ……」
見れば姉妹だろうか、よく似た目鼻立ちの2人。
星流れる天の河と見紛う、黒々とした長い髪。
全体的には華奢な体格ながら、豊穣の巫女らしく豊かに実った胸。
「ちゅ、んん……。姉さま、もう、息が……っ」
顔に幼さを残した方が、顔を赤くする。
「んっ、我慢なさい、緋魅呼。これは、んむ、神聖な、儀式なんだから……」
「んっ、むぅぅ……っ!」
……息を切らせながらも、抱き合い、接吻する姉妹。
2人は、この集落きっての霊力を備えた、巫女の姉妹である。
「ちゅぱぁ、ふぁぁ……っ、んっ……!」
姉は、他の巫女と同じ装束。
緋魅呼と呼ばれた妹の方は、銀の髪飾りに、翡翠を削った勾玉の首飾りと、清楚ながらも飾り立てた服装だ。
姉が、舌を絡めながら微笑む。
「ふふ……ほら、月の女神様? 貴女は日に百の乙女の精気を吸うのでしょう? これくらいで、へばったりなさらないはずだわ」
「んんむぅ! わ、私……女神様役ってだけ、なのにぃ。ふ、んむぅぅ……!」
姉に抱き締められ、深く口づけされながら……今年の女神役に選ばれた巫女、緋魅呼は、月下に甘い声を零した。
※ ※ ※
「ふふ、お疲れ様。これでまた一年、女神さまは私たちをお守りくださるわ」
儀式の後。
夜の社で、妹が女神の衣装を脱ぐのを手伝いながら、姉が労った。
「……もう。姉さまったら、私の唇を吸い過ぎ。べ、別に本当に吸わなくたって……」
肌を曝しながら赤くなる妹へ、
「こら。女神様へ巫女の精を捧げる、昔からの儀式なのよ。真剣にやらないとだめでしょう?」
ずっと南の地、空の社へ住まうという月の女神……彼女に扮した巫女が、乙女たちと唇を求め合う。
毎年秋の祭礼で行われる、神聖な儀式であり、女神役に選ばれるのはこの集落の少女にとって、とても光栄なことである。
「ふふ、なんてね。貴女が可愛いから、姉さん少し本気になっちゃった」
「も、もうっ。姉さまってば、恥ずかしいこと言う……」
背中から姉に抱き締められ、満更でもなく頬を染める妹……緋魅呼。
と、従僕の娘が外から、2人へ声を掛ける。
「失礼します……長老が、お呼びですわ」
※ ※ ※
「神託が下された」
集落の宝である銅鏡を手に、長老……大ばば様が告げる。
「緋魅呼や。わ主はこれより、南へ百日下った、月の女神さまのおわす地へ行き……かの神子の贄となるのじゃ」




