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悪の鎧騎士物語  作者: うろこ
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<第8話> 癒しのメイド、ノイルさん

 龍を殺しても俺の生活はなにも変わらなかった。

 しいて言うなら、廊下ですれ違うゴブリンと親しくなったことくらいか。


「お! クラディウス! また話を聞かせてくれよ!」

「それより俺を大臣に推薦してくれるって話はどうなった!」

「クラディウス、次の月に娘が結婚することになってな……」


 サンドリラス城にはほとんどゴブリンしかいない。

 前に一度、パレードには多種多様な魔物が来ていたが、その姿は見えない。

 この城の主であるルドラークでさえ、見かけたとしても一週間一度だ。


 それ以外はエルジェイドとノイルさん、そしてゴブリン、オーガ、門番のゴーレムたち。

 パーティーにいた明らかに強そうなヤツはいない。

 まあ肩がこらなくて丁度いいが。


 城にはそこまで人員が要らないということだろうな。

 敵なんて来ないし。

 俺もすることがなくて置物並みの毎日だ。


「ひまだ……」


 早朝。

 時計なので何時かわからないが、だいたい午前六時くらいか。

 こっちにきてから季節感も時刻もあいまいだ。


 薄暗い廊下でひとりたたずむ俺。

 背後の扉の奥では、お嬢様が眠っている。

 ノイルさんは食事中だ。


「食事中って、アンデットじゃないってことか」


 死者には食事などいらない。

 ならメイドもアンデットの方がよさそうなものだが。

 


 気になって俺は無意識に一階の食堂へと向かっていた。

 食堂は二つあって、客用と従者用だ。

 エルジェイドは個室でしか食べないからほとんど行ったことがなかった。


 不穏な雰囲気のただようサンドリラス城の廊下。

 螺旋階段を下り、右に曲がり突き当りに広い食堂があった。

 だだっ広いが、あまり綺麗とはいえないところだ。


 木製の椅子とテーブルはところどころ剥げているし、とても痛んでいるように見えた。

 誰もいない。

 何度か食事(?)に誘われていたが、だいたい陽が落ちる前だった。

 時間が遅かったか。


「ん?」


 食堂の奥からわずかに音がきこえる。

 いくつかの気配と話し声。

 龍を殺してからというもの、俺は達人並みの察知能力があるようにしか思えない。

 

 ――こんなに敏感だったか? 俺。


「――むむ、これは――」


 ノイルさんの声だ。

 わずかに開いた扉からのぞいてみる。 


 椅子に座るノイルさんと、コック姿の中年のおっさん。

 おっさんの方もまた血色が悪そうな所以外人間にしか見えない。

 それより、もだ。


 ノイルさんは何を食べている?

 質素なテーブルに、白い皿が一枚。

 その上にあるモノを几帳面にナイフとフォークで切り分けて、口に運んでいる。


 ドクンドクン。

 俺の心臓が高鳴っている、わけではない。

 皿の上だ。

 今でもなお動ているかのように、脈打っている。


 それにナイフを差し入れ、フォークを突き刺して、美味しそうにほおばっている。

 口の端からたらりと垂れる血液。

 それは、病的に白い肌に妙に似合っていた。


「女性の食事を覗くとは感心しないな」


 ヒュンとメイル・ブレイカーが飛んできた。

 鎧の隙間を狙う短剣だ。

 常人には追いきれないスピードでありながら、正確に俺の左目を狙ってきている。

 俺は左手をかざして、人差し指と中指でつかむ。

 

 ――ふっ、造作もない。


 女が投げた瞬間に俺が短剣がメイル・ブレイカーだとわかっていたほどだ。

 女がいる場所も、女がエルジェイドのパーティーにいた獣人であることも。


「龍の刻印は伊達ではないか、動鎧(リビングメイル)


 調理室の裏口から、のっそりと女の獣人が出てきた。

 鎧をつけたライオンのような女だ。

 

「クラディウスさん?!」


 口を開けて、びっくりした顔のノイルさん。

 たらりと血が顎を伝って、メイド服に垂れ落ちた。

 

「ああ、どうも……」


 なるべく申し訳なさそうに挨拶しておく。

 こんな魔王城の中であまり敵は作りたくないしな。


「――? なんかイメージとちげえな……」

「さっき言いましたでしょうゼラスさん、クラディウスさんは見かけとは反対にとても気の良い方なんです」


 すかさずフォローしてくれるノイルさん、さすがデキル女は一味違うな。


「そうかねぇ?」

「あっしの部下もクラディウス様を悪く言うやつはいねえですよ、姐さん」


 初対面のコックさえも俺を持ち上げてくれる……。

 ギャップか? この鎧の姿と、日本人の性格のギャップなのか?

 

「そうか。ま、初めからお前とは仲良くやりたいって思ってたんだがな」


 女が獣みたくニッと歯を見せて笑いかけてくる。


「パーティーにいましたよね?」

「んお? ああ、お嬢様のやつか。そうだぜ、四天王代表としてな」


 ――四天王?!

 四天王っているんだ……。


「ゼラスだ。お前と同類だぜ、よろしくなクラディウス!」

「え、ええ……よろしく」


 がっちりとゼラスと握手を交わす俺。

 ふと腰に付けた剣が気になった。

 ほんのりと紅く鈍い色を放っている。


「ああ、やっぱり気になるか。これはオレの得物――」


 フリッサという剣と似たような形状をしている。

 俺も創り出すことができるが、これほどの魔力を帯びることはないだろう。




「――極龍剣だ。こいつで斬れねえヤツはいねえ」




   ★




 極龍剣を持っているということは、つもり極龍を狩ったということか。

 同類っていってたしな。

 それで好感を持ってくれているのか。

 

 極龍剣……一体どんな能力なんだろうか。

 ぶっちゃけ邪龍を殺したはいいものの、俺はいまいち自分の能力がわからない。

 参考に聞きたかったが、そういう手の内を訪ねるのはタブーな感じがした。


 この弱肉強食の世界で、あなたの必殺技は何ですか、なんて聞くのはバカなんじゃなかろうか。

 うん、馬鹿だ。

 きっと白い目で見られるに違いないのでやめておく。


「そういえばノイルさん」

「何ですか?」

「ノイルさんの種族って何なんですか?」


 心臓を食べる種族。

 さっぱり思い当たらない。


「……え?」

「――!」


 ――しまった!

 やらかしてしまったか?!


 この世界では、種族名を聞くのは、元の世界でいう女性にバストサイズを聞くみたいなことだったか?!

 わからん……さっぱりわからん……。


「ブハハ! ヘンなやつだなぁ~クラディウス!」

「……」


 なんだろう。

 いい年した大人が、陽が昇るのってどっちだっけ、みたいな小学生的質問をしちゃったみたいな空気だ。

 くっそ、武器と防具の知識しかねえぞ俺は!


「モーラですよ、クラディウスさん」


 モーラ……?

 なんだそれは。


「悪霊系の吸血種です。私たちモーラは心臓の血が好物なんです。私は丸ごと派ですけどねっ」


 よく分からないといった顔をした俺に、丁寧に説明してくれるノイルさん。

 なるほど、モーラね……。

 パッと見、わからん。

 吸血種だから、ヴァンパイアに近いんじゃないかっていう俺の読みはまだ当たっていたか。


「あっしはゾンビです」


 ……わかんねぇえ――!

 ノイルさんと同じくらい、顔色悪いから似たような種族だと思うじゃん。

 普通にゾンビかよ。

 清潔感のあるゾンビだな。

 コックコート着てたら尚更わからん。


 こっちの世界の住人は見ただけでわかるんだろうか。

 わかるんだろうな。

 日本人が大体中国人と韓国人をわかるみたいな感じなんだろう。



「オレに種の名前はねえぞ。母と従妹はワーウルフだがな」


 ワーウルフねえ。

 パーティーにもワーウルフっぽいのはいただが、もっと獣に近かった。

 ハーフ、混血ということか。


「ふふふ、そういえばディアラちゃん元気にしてますか? 久しく会っていませんが」

「ああ、村から出たくて毎日暴れてやがんぜアイツ。で、今日来た本当の目的はディアラのことなんだよ」

「あ、そうだったんですか」


 ゼラスの視線が俺の方に向いている。

 ……何だ?


「アイツに剣を教えてやれるヤツがいなくてな。オレは魔界から長い事離れられねえし、村のヤツは村長の孫娘だからってビビッちまうし、剣星国行こうにもにも早すぎると思ってな」

「なるほど、それは困りましたね」

「そこそこ鍛え上げれてディアラに傷つけても問題にならん奴。あと、アイツ案外泣き虫だから、たまに優しくしてやれる奴いねえかなぁ?」


 チラチラ。

 明らかに俺への提案だ。

 ゼラスは「なら俺がやりますよ」という言葉を待っているのだ。

 だがどうなんだろう。

 俺に剣を教えることができるのか。


 俺は邪龍との闘いで、あらゆる武具を扱う技術を獲得した。

 しかしそれを教えることができるかと言われれば、うんとは言えない。


 それに、俺はエルジェイドの護衛。

 いやこんなときだけ言い訳に使うのもアレだが……。


「……」

「お嬢様なら絶対OKですよ、うふふっ」


 俺が黙っていると、ノイルさんが満面の笑みで答えてくれる。

 優しいだか、優しくないんだか。


「まあすぐとは言わないぜ。ディアラを連れてくるのも時間がかかるしな」

「うふふ、楽しみですね。ディアラちゃんきっと可愛くなってるんだろうなぁ」


 かわいい女の子。

 おそらくは少女。

 そんな子に、俺が剣を教える……。

 悪くない……。


 いやしかし、ワーウルフか……。


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