<第5話> 俺と邪龍さんの100日戦争:二日目
あれから陽が暮れ、陽が昇り、また陽が昇っていた。
鎧である俺に、疲労の二文字はない。
睡眠も食事も要らない。
ただそれは相手もおなじだ。
両者とも休むことはない。
だからといって、剣戟が響ているわけではない。
ただただ俺が岩壁にめり込む音。
ボッコボコのフルボッコだ。
痛みはない。
だが鎧の耐久値が減っている気分になるのだ。
邪龍の尾を振り回す攻撃がかなり効く。
顎でかみ砕かれそうになったり、足で踏みつぶされそうになったり。
でもどうしてだろう。
ダメージを受けるたびに、強くなっていく感覚がある。
一定値に達すると、耐久値が満タンに戻っている気がする。
そう、まるでレベルが上昇してステータスが回復するかのようなあれ。
俺は母さんの暴力のように、ただひらすら攻撃を受け続けているだけだ。
邪龍はあれから一言もしゃべらない。
ラスボスみたいなやつだなと思ったら、本当にラスボス並みの強さだ。
何回も何回も剣を創り出しては、叩き折られている。
剣を生み出せることにもびびったが、俺の弱さにもびびった。
相手が強すぎるだけなんだろうか。
今は十五メートルほど地面に埋まっている。
何度も何度も踏みつけられて、俺はもうぺしゃんこになりそうだ。
だが、引き上げられて、次はしっぽで壁に叩きつけられる。
お次は顎で俺を破壊しようとしてくる。
その繰り返し。
その繰り返しのなかで、俺は確かな成長を感じ取っていた。
膂力が。
敏捷性が。
耐久度が。
知能が。
幸運が。
高まっていく。高まっていく。
目の前の邪悪な龍の攻撃をうけるたびに、つよく、つよく。
暴力をうけるたびに、俺はそのダメージを吸収していった。
ダメージがまるでそのまま強さへと転換されていく。
反射速度も龍の動きを追えるスピードもあがっていく。
たんだんと。
あがっていくと、わかってきた。
次、どう動けばいいのか。
戦いはパターンだ。
龍もまた不規則に見えて、パターンによって動いている。
それがわかれば、対処法はおのずと決まってくる。
近距離で攻め時ならばロングソードを、守るなら楯を。
中距離なら回避を。
遠距離ならば遠距離攻撃を。
そう、遠く離れた奴を攻撃する。
俺はやつの額めがけて手をかざした。
すると、俺の思い描いた通りの、弓矢が創り出されていく。
だが俺に武器に対する知識がないせいか、その弓矢は外れてしまった。
心配することはない。
ダメージをうけるたびに、俺は知能もまた獲得していく。
賢くなっていくのだ。
戦闘において、どの場面でどのような武具を使えばいいのか。
武具単体は平凡なものだ。
それを扱う俺も、そこまで上達していない。
それでも、その場その場において適した武器をつかえる。
俺は強くなっていく。
攻撃を受けるたびに、体で学ぶのだ。
容量の悪い俺は、こうすることしかできない。
だから――
俺はヴァイキングソードを両手持ちにして邪龍へと突進していく。
そして俺はまた地面にめり込んでいた。