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悪の鎧騎士物語  作者: うろこ
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<第3話> 鎧俺の一日

 その日から俺の従者としての日々がはじまった。

 エルジェイドお嬢様直属騎士の肩書をもらい、年中無休の無給労働だ。

 そして退職届は一切受け付けられない。

 役目を終わるときとは、つまりは死ぬときである。

 まさに奴隷、永遠のしもべである。


 永遠のしもべたる俺の役目は、エルジェイドの護衛だ。

 しかしエルジェイドの身の回りの世話は、専属のメイドがいるために俺がすることはない。


 メイド。

 ノイルさんだ。

 たれ目のほんわかした美人で、メイド服がよく似合う。

 色素が薄すぎる以外、人間にしか見えない。

 いや、胸は一般的な人よりかなり大きい気がする。

 しかし、この城に人間がいないことはわかっている。

 おそらくは見えないところで魔物的要素があるんだろう。

 

 とはいえ、ノイルさんはかなり有能だ。

 なんでもテキパキとそつなくこなす。

 大抵のことはなんでもできるので、基本的に俺がすることはない。

 俺はただの見張りだ。

 敵が来ないか。

 夜も昼も朝も、お嬢様の近くにただ突っ立ている。

 もはやただのオブジェだ。


 たまに巡回のゴブリンに驚かれる。

 まじで置物かと思った、とは彼らの言葉だ。


 この城の雰囲気に俺が合っているせいか。

 俺の存在感がなさすぎるせいかわからない。

 それでも俺の役割は置物並だ。

 なにせ敵がこない。

 きけば、周囲は山に囲まれて、ここにくるには迷路化した魔物の洞窟と深い森を越えなければならないらしい。

 しかも、この城の高い壁か大前門を抜けたとしても、城中には凶悪な魔物たちがうようよいる。

 誰が一体ここにくるか、という話だ。


「この城へ攻め入った者はいませんよ」


 と、ノイルさん。

 仕事上、一緒になることが多いのでよく話をする。


「闇の洞窟ならば頻繁に冒険者が入っているそうですが」

「冒険者?」

「愚かな人間たちです。ですが、なかには強力な力をもつものもいるので注意です」

「へぇ~」

「でももっとも危険なのは十二聖道(じゅうにしょうどう)でしょうね」

「なんか強そうな名前ですね」

「私たちとは相性がわるいです。天敵ですね」

「なるほど……」

 

 ――いや、いまいちピンとこないけど。

 察するに、魔界VS天界をはた迷惑なことに、人間界でやっているらしい。

 それで、天界側の国家が神聖帝国と聖国だと。

 で、強いのが十二聖道? 

 帝国の騎兵隊か、聖国の聖戦連合とかいうのの方が強そうなんだけど。


 そして、魔界側の本拠地がここで。

 魔界の支配者がルドラーク。

 で、その娘がエルジェイド。

 そのエルジェイドの騎士が俺、と。


 ――つまり、俺は物語なら絶対負けそうな側についちまったってことか?


「なんだか勇者とかいそうですね……」

「ごろごろいますよ」

「ごろごろ?!」

「ええ、吐いて捨てるほどに」

「吐いて捨てるほどに?!」


 ――そんなにいるのかよ……


「まあ冗談ですがそろそろ出てきてもおかしくありません」

「冗談なんだ……」

「勇者でなんであれ、お嬢様の野望の前に立ちはだかるものはすべて敵です」

「野望?」

「ええ、お嬢様はこの人間界の覇者となるお方なのです」

「へぇ~」

「む、あなたも他人事ではないんですからね」

「そうですよねぇ」


 俺が動くことになるんだろうな。

 人間が敵か。

 不思議と嫌悪感はなかった。

 ただ、がんばって、なにもないというのは。


「……むむ」


 たぷんたぷん。

 揺れている巨乳。

 最終的にはあれを揉ませてもらおう。

 どうせ永遠にしもべでろくな自由はないのだ。

 これくらいうまみがないと不条理だろう。


「でも覚悟しておいたほうがいいですよ、クラディウスさん」

「?」

「お嬢様、あなたのために何か考えいらっしゃるようですから」

「あまりそういう風には見えないけど……」

「楽しみに待っているといいですよ」


 うふふっ、と立ち去っていくノイルさん。

 一体俺に何が待っているというのだろう。




   ★




 基本的に俺はお嬢様にずっと張り付いて、そのまま突っ立っているだけだ。

 だが、お嬢様はちがう。


 午後二時、起床。

 魔物に朝食を食べるという文化がないのかもしれない。

 というか朝に活動する魔物というのも変な話だ。

 いやお嬢様以外はしっかり動いているが。


 食事はお昼のおやつと夕食だけ。

 起きたら、湯あみをして、おやつをたべ、優雅なティータイムを過ごす。

 城の大浴場をお嬢様ひとりだけ貸し切っている。

 そして俺ももちろん一緒。


「くろーど」


 クロードとは俺の名前らしい。

 ぼんやり眼で素っ裸の少女が湯につかって、こちらを見ている。


「オマエは……なにか自分についてしっていることはないの」

 

 やたら俺について知りたがるエルジェイドお嬢様。

 10歳の女の子だ。

 いろいろなところが見えているが、まだまだお子ちゃま。

 ここで反応しては俺の立場はない。

 即斬首の刑にちがいない。

 ヘタにしゃべって、失礼を招くこともあるだろう。

 俺はただ首を横に振るだけだ。


 基本的に俺はお嬢様の問いに言葉を使わないようにしていた。

 しもべとしての在り方がわからなかったのだ。

 それならいっそ無口な方がいいだろ、という考えだ。


「そ」


 俺の答えに、まだ寝ぼけているのかお嬢様の反応はそれだけだった。

 自分の鎧が湯気でびしょぬれになる前に、一度退散する。


 午後四時。音楽隊を呼んで演奏を聞き、本を読む。

 何を読んでいるかと言うと、意外なことに魔術の本だ。

 つまりはお勉強。

 魔術の本と、人間界にある国家についての情報収集。

 まるでサラリーマンが読むようなビジネス新書感覚だろう。

 将来征服する国について下調べ、ということらしい。

 俺もぱらっと読もうとしたが、字が読めないので即断念。

 とくに字を覚える気もない。


「クロード、勉強はだいじよ」


 こくりと、俺はうなずく。


「ワタシは美しいものがスキ。そして、一番に勝つことがスキ。

 クロード、最も美しい勝利って何だと思う?」


 三秒ほど考えてみて、さっぱりわからかった。

 最も美しい勝利? なぞなぞか?

 昔からなぞなぞは苦手なんだよなぁ。


「こちらが絶対的に不利であって、相手が圧倒的有利であるときの勝利。

 その大差を埋めることはとても難しい。でも、勝つには必要なものがある、なにかわかる?」


 これまたさっぱり分からない。

 というか、エルジェイドは俺に答えを求めているようで求めていない気がした。

 なんとなく、私はこう思ってこうしたいと考えているから、分かっておきなさいと言われている気分だ。

 それでも一応首をかしげてみる俺。


「考えること。そして知識。不利で有利を覆すにはね」

 

 それで終わりらしい。

 またそっぽを向いて読書を始めてしまった。

 

 午後七時に夕食を食べて、また違う音楽隊の演奏を聴く。

 その次に絵画を鑑賞する。

 これまた意外なことに、お嬢様は絵を描くのだ。

 一度モデルになった。


「ねえクロード。オマエって、どれだけ強い?」


 これまた首を振るしかない。

 戦ったことなどないのに、わかるはずがない。


「ふぅん、パパとあの冥府のサソリが創ったのに?」

「お嬢様、クラディウス様は実戦の経験がないから自覚していないだけかと」

「フフ、ノイルの言う通りね。クロード、オマエには強くなくてはこまるのよ」


 これまた俺は首をかしげて、言葉を促す。


「さっき言ったでしょう。不利なときに勝利をえるには、考えることがだいじだと。

 そして、そのほかに、おまえが必要。クロード。

 ワタシの騎士がね」


 お嬢様の部屋の前に廊下には、魔獣たちと並んで、俺とノイルさんを描いた絵画がかけてある。

 ノイルさんは柔らかい印象を受けるのにたいし、

 魔獣たちはその美しさ。

 俺の絵画にいたっては、不穏なオーラをまとっている。

 エルジェイドは俺に何を見ているのか。

 俺に何を求めているのか。


「強さよ、クロード」 


 ――つよさ。

 俺にとっては、縁遠いものだ。

 こんな鎧だけの俺になにができるというのか。


「オマエに命令を与えるわ」


 初めての命令。

 一体何をさせられるのか。


「クロード、龍を狩ってくるのよ」


 龍?

 ――まじで? 冗談だろ?

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