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役者は揃いて頁を捲る‐‐■■ 1

 名を失ったドッペルゲンガーもどきの■■は、キョンシーの一団から逃げている青年を、正確には彼が抱えた少女を追いかけていた。


 白い少女は全知の書。■■が狂おしい程までに求めた一縷の希望。


 ■■が名を失ったのはもう千年弱以上前の事だった。


 まだ名前があった頃の■■は街中で唐突にドッペルゲンガーに襲われて名を奪われた。取り返そうと手を伸ばしたが、その直後に運悪くドッペルゲンガーは車に轢かれて即死し、名前を奪い返す前にその影人形はこの世から消失したのだ。


 名を失った■■の事を世界は認識の外へと追いやった。彼の存在に自発的に気付く者はほぼ皆無。確かに目の前に居て触れる事ができるのに、世界が彼を認識しないのだ。


 透明人間よりも性質が悪い。


 それからずっと■■は自分の名を取り戻そうとしてきた。ある時は超能力者に、ある時は魔法使い達を訪れ、何とかして自分の名前を探し出せないか尋ねてきた。


 けれど、返答は何れも否定だった。


 無くなったのではない。失ったのではない。消えた。無くし物ならば、失せ物ならば探し出せる。だが、存在その物が開闢から消失したのであれば最早打つ手が無い。


 イメージするならば文字がインクの存在から分解された新聞と考えれば良い。元々文字が書かれていたとしても、インクが分解されてしまったのなら、そこには元から白紙だった状態と変わらないのだ。


 そう答えたのは四百年と少し前、世界最高峰と名高いサイコメトラーと魔法使いだった。■■を認識できた数少ない人間達が口を揃えてそう言うのだ。



 だが、そこで■■は一筋の光明を見出す事に成る。


 偶々、本当に偶然として、後にドリームシティと名前を変えるその町に居た■■の目の前に全知の書が落ちてきたのだ。


 今、青年が抱えている全知の書と同じ様に、姿形は違っていたが、■■の目の前に落ちて来た全知の書も白い司書服の少女の姿に成った。


 全知の書曰く、三百三十三年に一度、これはここに現界する。


 全知の書曰く、現世に現れ初めてページを開かれてから七度目の夜明け、自分を所持していた相手にどんな知識でも一つだけ教える。


 全知の書曰く、第一読者を進行役はサポートする。


 ■■はすぐさま全知の書へと問い掛けた。


『お前は俺の名前を知っているのか?』


 全知の書は即答した。


『うん。ボクは全知の書。全てを記す英知の書物。君が僕の所有者と成り、それを望み、ページを開くのなら、そこに君の名前が書いてあるさ』


 ■■は歓喜した。ここに■■の願いを叶える願望機があったのだ。



 あの時の全知の書を巡る争いで■■は敗れた。最後の最後に手が届かなかった。


 司書服の少女がこちらへ伸ばした右手を掴む事が出来なかった。


 今でも■■はその時の光景を夢に見る。


 ■■は片時も全知の書の事を忘れた事は無かった。


 今度こそ今度こそ全知の書を我が手にするのだ。


 あれから三百三十三年間。■■は待ち続け、遂に、今日全知の書が再び現界した。


 しかし、ここで■■は一つ失敗する。三百年以上の時間の所為で、目算を少しばかり誤ったのだ。


 全知の書が落ちてきたのは■■から四十メートルほど離れた場所だった。


 ■■はすぐさま駆け出して手を伸ばしたが、それよりも一歩早く、おそらく偶々通り掛ったのであろう青年がかつての自分の様に全知の書を開いたのだ。


 後はもう泥沼化。光が晴れた直後にキョンシー達が現れ、青年は全知の書を抱えて逃げ出した。


 だが、そんな事で■■は諦めない。自らの名前をまた取り戻すため、彼は希望へと手を伸ばす。

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