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第五話 竜の王子と悪魔レポート

~第2章~



天使を非常に憎む悪魔との取引には、彼らを恐れない度胸、自らを守る力、適切な取引ができる繊細な注意力が必要となる。なぜなら、悪魔は商人の取引とは異なり、渡すモノですら手放すのを嫌がるためだ。そのため、悪魔の取引で苦労して何かを手に入れても、大事なモノは悪魔に握られたままの場合が多い。鳥なら翼、王国なら王族、ヒトでいえば心がそれに該当するだろう。

 心を奪われたヒトも知性と記憶は持ち合わせている。けれども決して自分の意志で動くことはないだろう。唯一、自分の望むことを繰り返すことを除いては…だが。


(トーラス100年の旅 第2章)




 特別謁見は終わり、閣僚達は重苦しい空気を抱えたままそれぞれの執務室へと戻っていく。父こと国王も寝室に居る母の所で今日のいきさつを話すようだ。同行しようとしたら父と先生から『お友達の所に戻りなさい。彼らのことが心配だろう?』と、やんわりと席を外すように頼まれた。僕にも秘密の企みを、何か思いついたようだな。

 あの悪魔はまだこの国に居座るつもりなのだろうか?いや、あの女の子もこれからどうなるのだろう…。疑問を抱えつつ、僕の部屋へと戻ったのだが…。


「…あ、イグウィルお帰り、おかわり!」

「あーーー!!!!!!またアウトかよ!?あ、あの…」

「待ったは無しです♪ はい、これで私が5連勝確定ねぇ」

「…………う、ううん…」


全然状況は変わっていない。というか以前に増してカオス空間が広がっているよ。変わったのは唯一気絶していたファーザス君が復活していたくらいか。目はまだうつろだったけれど、辛うじて意識はあるからとりあえずは大丈夫だろう。


「お帰り…じゃないよ!さっきまで漂っていた重苦しい雰囲気を返せ。僕の部屋は秘密の集会所じゃないっての」

「えーーー?」

「えーーじゃないっ!そこから起きなさい!というか、大事な初代国王誌を枕にしちゃいけません! 金銭価値は無くたって、文化遺産ものの貴重品だぞ」

「あー、わかったよぉ。実際枕に使ってみたけどなんか頭がこんがらがるし、きっとこの本が難しすぎるせいね?」

「だったらちゃんと客間に行ってそこのベットで寝なさい!まったく、こっちは我慢大会よりタチの悪い謁見がようやく終わった所なのに、その余韻を引っ張る暇すらないじゃないか?」

「なんだ、随分苦労の絶えない王子だなぁ…何があったの?」


せんべいをボリボリと囓りながら、イシマちゃんが尋ねる。こら、床にせんべいの粉をまたまき散らすな。


「うん、謁見の間に変な悪魔が来た」

 

軽く言ったつもりだったが、その瞬間友人一同の時間が停止した。ルヒエルやマナすらカード対戦を中断して僕へと顔を向けている。


「ね、ねぇ…イグウィル…?」

「なんだ、ナナまでしおらしい声になって、どうしたんだ?」

「その悪魔ってどんな奴だった?特徴とか覚えてる?」

「そうだねぇ。なんていうか…外見だけはいかにも悪魔って感じだったよ。バレバレの商人の変装をしていたけれど悪魔らしく身体は真っ黒で髪はツートンカラー。あ、あと、偽名だろうけれど、自称レイレイ…」

「「「「「ぎゃあ!!!」」」」」


名前を口にした瞬間、友人みんなが四方からこたつの中へと潜り込む。

おい、目がうつろだったファーザスまでもが血相変えて潜り込んでるってどういうことだ?


「おいおい、そんなに危険な奴だったのか?あの悪魔って?」

「当たり前よ。相手は悪魔なのよ!あ・く・ま!イグウィルあなた本当に大丈夫だったの?何かされなかった?」


こたつ中からナナの声が響いてくる。どんだけ怖いんだ悪魔って。


「大丈夫、なにもされてないよ。その悪魔ならもうとっくに帰ったし。なんだかよく分からないインチキ商法で奴隷を押しつけてきたけれどね」

「はぁ!?ちょっとそれどういうことか詳しく説明してよイグウィル!」


ナナがこたつから頭を出して突っかかってきた。まじめに話しているつもりなのだろうが、その背後では友人達が押し合いへし合いでこたつが発酵パンみたいに膨らんでいるので笑えてしまう。これ爆発しないだろうな?



「全く、まさかこの国の王城までやってくるとはなぁ。不幸中の幸いだったとはいえ災難でしたね、イグっち。インチキ商法については正直僕も理解に苦しみますが…」


僕からの特別謁見のやりとりを全て聞き終えると、ルヒエルはそうこぼしてため息をついた。本来は特別謁見で知り得た機密情報を漏らすのは禁止されているけれど、あのやりとりじゃ機密もなにもあったものじゃないだろう。


「話を聞く限りそのレイレイの正体は、レイヴンという悪魔で間違いないでしょう。多分、連れてこられたその奴隷も悪魔の手先ってセンはないと思いますよ、基本的に協調せずに単独で手柄を立てたがるような奴ですし」

「ふざけた偽名だと思ったけれど本名も大して変わらないのか彼は。その様子だと彼のことよく知っているのかい?」

「ああ、よく知っているよ。俺らにとって因縁の相手だ。サディストで残虐、命を平気で弄ぶような本物の悪魔さ」

「ファーザス君ちょっとまって。あれってそんなにやばい奴だったのか?ヒト違い…いや悪魔違いってことは?」

「似たような悪魔がそうポンポンとこの世界に居るはずがないわよぉ。多分、この国をターゲットにしていなかったから、残虐な面が出てこなかったのでしょうね」

「まあ、最初の変装やインチキ商法も演技で無く素だったろうけれどね。どこか抜けていて失敗も多い奴だったし」


マナの言葉をイシマちゃんが引き継ぐ。表情は真剣だけれど、せんべいを囓りながら話せるだけの余裕は持てるみたいならまだ大丈夫だろう。


「それにしてもみんなありがとうね、心配してくれて」

「当たり前よ!だ、大事なパトロンが居なくなったら困るもの。アンタは自分が大金持ちの王子様だって自覚を持ちなさいよ。アンタの身に何かあったら嫌なんだから!」


不安げな口調でナナが突っかかる。「ケケケ、ツンデレヒロインでも目指しているのか。無駄なあがきwwww」の声が聞こえた瞬間、鈍い音と共ファーザス君が再び壁とお友達になった光景が目に入ったが、見なかったことにしよ

う。そもそもパトロン目当てなら、僕に手をぎゅっと握ったりしてこないだろうし。


「とりあえず、彼にはくれぐれも油断しないで下さいね。城にいる使用人で欲深そうな奴とか探しているかもしれないですし。あいつはそういった特定の気配を持ったヒトを探る能力持っているから」


…そこまでいうと急にルヒエルは黙り込んだ。おや、心なしか顔が青ざめているように見えるけれどどうしたんだ?


「ねぇ、イグッち。あいつはこのお城までやってきたんだよね、私たちがこの部屋にいる間にもね?」

「うん、そうだけれど?」


僕の返答に、友人一同全員の顔色が青く変わっていく。


「まずいわよ。あいつって私たちの気配も察知できる力があるのよ?お城に来ていたなら、バッチリ気配に気がついてるわ」

「ええ、いくら何でも大丈夫だろう?分厚い壁を超えてまで気がつく化け物じゃないだろう?」

「関係ないのよあいつには。匂いだかチョウオンパだか知らないけれど、怪しいと思ったら徹底して捜索して見つけ出すんだから!実際それで何度出くわして危ない目にあったか…」


それ、別の意味で危ない悪魔じゃないかレイレイ君。


「でも、レイヴンなら謁見を終えたら城を出てるぞ?警戒してとりあえず諦めたってことはないのかい?」

「呑気すぎるわよアンタ!残虐だって言っていたでしょ?きっと念入りに準備して、私たちが抵抗する間もなく入り口から侵入…」

「ああ、その心配はいりませんよ!」

「でたあっ!」


入り口から声が響いた瞬間、友人全員飛び上がり、再度こたつに潜り込んでいた。もうあちこち壊れているんじゃないかなこのこたつ。あっ、今度はファーザス君だけ壁にめり込んだまま逃げ遅れている。


僕?いつもの聞き慣れた声をレイヴンと間違える訳がないだろう。


「おやおや、どうやらみんなを驚かせてしまったようですが、謝るべきでしょうかね、イグウィル君?」

「大丈夫ですよ。それよりお疲れ様です先生、あの奴隷の女の子への対処とかは落ち着いたのですか?」

「ええあの子ならばとりあえず大丈夫ですよ。かなり疲れていたようなので今は奴隷の鎖を取り外してベッドで休ませています」

「良かった…」


僕の先生の会話からこそっとこたつから顔を出す友人達。目の前に居るのが先生とわかると安堵の息をつくと再度定位置へと戻っていった、ただ、こたつの一番奥に押し込まれていたナナがようやく抜け出すと、むっとした顔で先生詰め寄っていた。


「ちょっと!!脅かさないでよ!アンタのドッキリのせいで大事な美貌が台無しじゃない。慰謝料請求してもいい!?ううんいいわよね!?」

「これはすみませんね。ああ、慰謝料はありませんがお詫びにこれを差し上げましょうか」

「なによこんな本一冊で私の気が済むと…?って、これってもしかしてショタイグウィルの写真集!」

「ええ、幼少時のイグウィル君のアルバムですね。お望みと思ってカラーのまま焼き増ししておきましたよ。原書は不可でも、こっちは持ち帰っても構いません」

「え…いいのお持ち帰り…。これで全部私のモノ…ふふ、ふふふふっ」


先生の言葉にアルバムを抱き寄せたままナナのにやけ顔が止まらなくなった。流石は先生、…あっという間におてんばナナを飼いならしたよ。しかし先生、その餌付けに目の前に居る大事な生徒を餌にしますか、普通?


「まぁ、ナナは置いておくとしてここなら心配ないってどういうことです」

「ここの王子の部屋には、セキュリティのために私が作った結界を張っているのですよ。物理的な攻撃は弾きますし、この中にいればどんな隠密だろうと侵入どころか気配を感じることすら出来ませんよ。ここに居て良かったですね」


先生の説明に、ほーっと息をつく友人一同。けれど先生、ファーザス君が壁にめり込むのは防げてませんよ?


「やれやれね。それなら、ファーザス以外は特に心配しないでまだのんびりしてましょうか?」

「イテテテテ…っておい、なんでオレだけ仲間から外れるんだ?」

「当たり前でしょう?アンタはバキバキに壊れたこたつの修理をしなさい!終わったらちゃんと私の奴隷に復帰させてあげるんだから」

「いつからオレはお前の奴隷になったんだこらあ!?」


ようやく復活したファーザスが叫ぶが、全員の爆笑で終わってしまった。ガンバレファーザス、男は我慢だ。


「ああっ!?どさくさで折角完成していた王様デッキがパーだ。あれで今度こそ勝利確定だったのに…」

「不可抗力だ。僕は知らんっ」

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