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第三十九話 チート竜神とバグ魔神

大天使が消え、表れたのは赤髪の悪魔だった。金色の瞳に暗灰色の体毛。ワン

ピースとローブを合わせたような服を身につけている。背格好は猫型獣人に近

く、悪魔特有の角や翼は持たなかったが身体の至る所に映る暗色を溶かし込ん

だような影が、彼の正体を現していた。

 一目見てこの悪魔を敵に回してはならないと悟った。禍々しさがレイヴンと

は比べものにならない。残虐さも恐らくレイヴンより遙かに上だろう。この悪

魔と戦えば勝率はゼロ、まるで魔王か摩神を前に対峙しているみたいだ。

 『悪魔は残虐で狡猾だ、気をつけろ!』そんなルヒエルの言葉が僕の頭に湧

き上がっていた。僕の右腕をつかむスティルの力が強まっている。


「よぉ、随分と番狂わせが多かったが、オレに面白いモノを見せてくれてあり

がとうよ。」


そんな赤髪の悪魔は、久々にあった友のように僕らに気軽に話しかけてきた。


「イグウィル=ユグドラシルです…」

「わ、わたしは堕天使のスティル…」

「あー、そんな挨拶いらねえっての。こいつの身体に居るときから全部見てた

から知ってるって。それからオレの事はラズマ様と呼べ。様は忘れたら殺す、

当然だろう?」

挿絵(By みてみん)

緊張する僕の言葉に、ラズマと名乗った悪魔はヒラヒラと手を振った。


「身体に居たって、一体貴方…ラズマ様はいつからこの大天使の身体に入り込

んでいたのです?」

「なんだ、そんなことくらいならタダで教えてやる。丁度聖王国で悪魔の逆侵

攻が始まった頃だったな。オレがこの国に火に包まれたときに偶然通りかかっ

たが、こいつは住民を見捨てるようにして一人逃亡しようとしていたから、興

味を持ってな。その時のどさくさで入り込んだ。ああ、断っておくけどこいつ

の良心のなさは俺のせいじゃないからな。単に、もともとの性格だ」


ラズマはそう言って指の先を軽く動かすと、僅かに残った霧の残骸が吹き飛ん

だ。「ひっ」という言葉がスティルの口から漏れて彼女はしゃがみ込んでしま

った。


「こいつを見つけたときには、元々実体が半分くらい消えちまってたよ。悪魔

に魂を売る前から、欲望のせいで 怨念みたいな残りカスだけしか残ってなか

ったよ。へっ、何が聖なる天使長なんだか。低級の悪魔でも簡単に取り憑けた

だろうよ」

「そうでしたか…」


あの大天使、魔王や魔神クラスの悪魔に呆れられるレベルだったのか…。


「それで、ラズマ様は…どうしてここに?」

「はは、たいした理由があると思ったか?単に天使の皮を被った悪魔を見てい

て面白いものが見れそうだったから、それだけだ。お前も先ほどの演説と良

い、素手での殴り合いといい少しばかり面白かったぞ。なんなら俺が直々に相

手をしてやってもいいんだがな?」

「ありがとうございます。でも、貴方と闘って無事で居られるヒトはいないで

しょう」

「ははっ、悪魔にお礼を言うとは珍しいな。反逆の意思があれば容赦なくぶっ

殺していただろうにお前は悪魔とつるんでも良いのか?」

「王子家業をしていると、ヒトの皮を被った悪魔と毎日関わっていますから」

「なるほど、頭は悪くないようだな。それに敵をできるだけ作らないようにす

る術を心得ているのか、さすがは王子ってほめてやろうか」


そう言ってラズマはゆっくりと近づくと、僕らを値踏みをするかのような目で

見つめてきた。

どうやらラズマも、僕らの処遇をどうするか決めかねているみ

たいだ。どうする?スティルだけでも助けようとしたら、コイツは逆に迷わず

彼女を真っ先に消すだろう。かといって逆らうことは無謀、交渉も約束なんて

モノが存在しない悪魔には無意味だろう。正直言うと、もうこの段階でほぼ詰

みだ。最善の方法は「今の状態を避ける」ことなのだから。


「ふーむ、多少あいつらの匂いが混ざってるのが気にくわないな。とはいえ俺

を敵に回すつもりはなさそうか。どうしたものかなこいつは」


悩んでいる割には楽しそうなラズマ。と、何を思いついたのかニヤア…と口元

がつり上がった。


「よしこうしよう!お前もそこの堕天使もオレの奴隷になれ、意志も言葉も全

てがオレの意のままに操らせて貰おう」

「おい、待ってくれ!奴隷とまでは行かないが条件を…」

「奴隷だ、交渉はない」


おいおい、本気で殺す気がなくてこの提案か。なんでどの悪魔も、やることが

どこかがぶっ飛んでいるんだ?このアクマめ!考える余地はそこまでだった。

ラズマが手を差し出し…いや、もう僕の肩に手が置かれてる。今のは動きすら

見えなかったぞ!


「契約開始だ『「奴隷でない者は全員オレの奴隷、オレの意が全部お前達の意

志になれ』」

魔法発動らしいエフェクトはなかったが、ガクンッ…っと身体に衝撃が駆け巡

った。まずいぞっ!



……………

…あれ?


「んー、まだ意識があるっぽいなテメーら。なんだ、契約をミスったか?」


ただサインの書き直しするような口調で再度同じ契約を繰り返すラズマ。とこ

ろが、今度はパチッ…という音とラズマの手が弾かれるだけだった。肩の表面

に軽い衝撃が走るけれどそれだけだ。

なんだこれは?契約特典の電流マッサージ…の筈がないか。


「おー、おー、再契約不可じゃねぇかこりゃあ。さっきの契約は正常に結ばれ

ているってことか、なのに何で正気で居られるんだ!?」


ラズマはほんの少しだけ眉をひそめると、手で空間をスッと撫でた。

浮かびあがった鏡のようなものに映っているのは、外で働いている僕の姿だ。

陸稲を植えているってことは一週間前の農作業だな。

 次々と映し出されるどうやら、これは対象の過去を解析をする魔術だろう。

魔術レベルは推して知るべし、魔神でもなければ覚えたところで扱えないなこ

の魔術は。


「オメーは…この状況でもなんで冷静で居られるんだ」

「トンデモ魔術のオンパレードで、もう驚きが追いつかなくなりましたから」

「全く、本当に王子だなオメーは。面白くなるだろうからちっとは驚けって

の。…ん、なんだあこりゃあ!」


画面から目を離さなかったラズマの顔が驚きに変わっていた。

鏡の映像は次々と切り替わり、映っていたのは全て僕。料理にラディッシュ料

理に、その隣は、3日前のの農作業。あ、先生の部屋の片づけまで混ざってる

…。そういえばここに来て王子らしい仕事をやっていなかったな。


「おいおいおい、王子の方は料理洗濯家事清掃商談って、そればっかりじゃね

ぇか!本当に家庭内奴隷でもやっていたのかこいつは?ああ、そこの堕天使は

称号…王子の奴隷…これは迂闊だったな。」


ラズマが画面の端を撫でると、スウっと何か文字らしきモノが浮かび上がっ

た。どうやら魔族文字らしく、彼は食い入るようにその文字を見つめている。

と、突然魔神の表情が崩れ落ちるとそのまま大声で笑い出したか


「ぶはははははなんだこりゃあ!…称号…料理洗濯奴隷王子…奴隷じゃん!?

ははははは!畜生、『奴隷』って既に認定されていたら、あの契約でオレの奴

隷になるわけじゃねーじゃねーか!」


声を押し殺した笑いじゃなかった、心の底から笑って床に転がっているよこの

悪魔。


「はぁはぁ…だめだ!これだけ笑わされてしまっちゃ、オメーをぶちのめす気

も起きやしねぇ。そういえば 知恵も金も権力をもった王すら闇に落とせる悪

魔でも、愚直で手に働いていた王族には叶わなかった逸話があったな。あれは

 笑っていたが、実際に出会うことになろうとはな」


ようやく笑い声はおさまったが、まだおかしくてたまらないようで、くっくっ

く…っと笑いをこらえた口から牙がむき出しになっていた。

おっかない割に笑い方が多彩な悪魔だ。


「あー、おかしーわ。こんな笑ったのは何百年ぶりだ。イッタイ誰だ、王子に

そんな奴隷じみたことをさせているのは?」

「私ですよ、ラズマ」


不意に背後から聞き慣れた声が聞こえた。安堵で膝が崩れ落ちる。


「先生…!」

「結界が無くなったので追いかけてきました。そして、よくやりましたイグウ

ィル君。ラズマ相手にここまで持ちこたえれば上出来ですよ」


聖堂の入り口側からゆったりと歩いてきた先生は僕とスティルの横へと並ぶと

ぽんぽん…っと肩を叩いてきた。


「おー、これは更に意外な展開。こんな所で竜の賢者に出会うとは」

「お久しぶりです。まさか貴方がここの主に取り憑いていただなんて、私も驚

きましたよ」

「はっはは、マッタクダ。さて、久々のご挨拶の次はどうするーかな?闘うっ

てならお望み通り身体が八つ裂きになるまでぶち殺してやるが」


「いえいえ、今日は商談にきました。私にもやることがありますし、無駄な争

いはしませんよ。」


先生がそう言うと床板の一部をスッっとなでた。魔術の制御装置みたいなもの

らしい。スティルや大天使長、ラズマのことで完全に忘れていたよ。


「先生、あのラズマってこの水晶の創造主ですよね…?」


「その通りです。でも君の物語に出させるわけにはいかないですよ。異界の言

葉で言えば、決して闘わなくていい裏ボスみたいなものですから。」

「裏ボスか…ははっ、言い得て妙だな。そういうお前だってこいつを洗濯王子

に仕立て上げた隠れキャラみたいなもんだろうが?」


おやまぁ…と言うように手を上げたラズマ。

 そのとき、壁際からブウン…っという低い音が聞こえてきた。目を向けると

の扉のあった辺りが、白い光を放っていた。


「元の世界に帰るゲートを開いておきました。彼は、私に任せて、あとから来

るみんなと合流してこの世界を出て下さいね」


「はいっ!でも先生こそ大丈夫なのですか?」

「もちろんです。私だって彼と闘うわけじゃないですから。とりあえず私は先

にこの世界を出て彼と交渉をおこないます、あとの段取りは任せましたよ、イ

グウィル君」

「は、はいっ!」


僕の返事に満足をしたのか、僕とスティルを交互に見つめた後のんびりした動

作でラズマに向き直った。


「すみませんね、アナタの部下を色々と犠牲にするようなようなまねをして。

今回だけでいいので、この後来る彼らを見逃して貰えませんかね、それ相応の

譲歩をするつもりですよ」

「なに、面白いモノガ見れたからチャラにしてやるよ。それにしても珍しい

な。お前が国で先生のまねごとをしているなんてな」

「あそこは面白い子達が多いですから。さて今回は……取引として竜の血を

…」

「……ほう……」


挿絵(By みてみん)


先生とラズマが聖堂へとゆっくりと歩き出す。表面上は静かな語り歩きだった

が、もの凄い圧迫感が二人の間にうごめいていた。一度だけラズマがにやつい

た表情で振り向いた。「あばよ、答えが知りたければ見届けな」と言い残し

て。その意味はすぐに分かった。出口に向かうにつれて先生の影がゆらめき、

竜に変わっていたからだ。隣で話すラズマも同様だ、…一見羽のある悪魔に見

えて、一方で見たことの影が全く異形の生物へと変わっていた。名前は分から

ないけれど、恐らく僕が知ってはならないものだろう。


キャラクター紹介

ラズマ

挿絵(By みてみん)


レイブンの上司にあたる悪魔の上位種。

バケモノ戦力に不死までくっついたチート通り越したバグキャラ。悪魔と言うよりもう魔王や魔神と言った方が正しいだろう。


性格はレイブンより凶悪。イグウィル友人ご一行とは因縁の相手だがコイツが居たらもうギャグシーンはどうやって入れられない。倒せないから出会ったら逃げるか諦めろ。


ちなみに本編で「主」と呼ばれ亜世界のイミティアを作り出したのもコイツ。ミーティス先生とは面識があるらしい。


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