第三話 竜の王子と悪魔の笑撃
国王への特別謁見でやってきたのは自称商人、けれども本性は一目で分かる悪魔だった。
「悪魔がヒトを呪い尽くす」これは「トーラス100年の旅」にも書かれている全世界共通の常識だ。
というかアレ変装しているつもりか?どう見てもバイキ○マンの変装レベルだろうあれ…!?
いやちょっとまて、今のバイキ○マンってなんだ?
余計な思考から脱線して父親達を見ると、こちらでも声を潜めてツッコミどころの相談中。そりゃそうだ。刃物や武器よりもっと酷いモノを持ち込んで来やがったよあの商会め。
(イラスト:ヒドラ作 本気で変装しているつもりらしい(笑))
「あん…?っと、おや、どうされました?」
こちらの気を知らないのか、悪魔が不思議そうな顔をしている。言葉も初めての面接の時に無理矢理取り繕ったような丁寧語。全然言い慣れていない所を見ると、行商自体全くやってないなこいつ。そもそもその商人っぽい服装も初めて着たみたいに真新しいし。
「ス、スミマセン一旦協議を…。」
とりあえずタイムを取って一旦バイキン…いや不思議そうな顔の悪魔を退室させる。悪魔の姿が完全に見えなくなった途端、王座周辺では上ずった声の即席協議が始まった。
「悪魔だ」
「悪魔ですね」
「悪魔だよな。まさかあのバカ商会、とうとうヤケになってあれでテロかクーデターでも起こしやがったか?」
「いや、それならあんな堂々と来ないだろ。というかあの変装って天然、確信犯のどっちだ?」
「天然だろうあれ?多分本人は完璧な変装をしているつもりじゃ…」
「アホか、あんなの引っかかる奴いるのかよ、ホント?」
「普通はおらんな。あれで気がつかないってことは余程の馬鹿者、もしくはヒトじゃないナニカってところじゃろうな」
「あの、それじゃあシャボ商会は…」
「大馬鹿者にきまっておろう。あの商会のお偉いさん、違法取引と脱税で追い詰められて、余計きな臭い商売に手を出したって話らしいし。まったく、自分たちが悪魔みたいなことしているから本物の悪魔が寄ってくるのじゃよ」
「知恵袋の財務翁」と呼ばれる閣僚最長老の猫獣人、キト財務大臣の言葉に
ああ…と、みんなが納得してため息をついた。彼の言うとおり悪事で追い込まれた商会なら何をやったっておかしくない。近く行われる家宅捜索で何が出てくることやら。
「まぁ、愚かな商会は後で考えるとして今のあの悪魔はどうする?悪魔がわざわざやってきて話す案件だからどうせろくな事じゃないだろ?今からでも引っ捕らえるか?」
「それもマズイだろ、ここで実力行使に出て抵抗されたら兵を出しても被害が出るぞ。それに悪魔って毛玉みたいにしつこいから後々まで祟るって言うし。逃げられたらめんどうくさい」
「いっそのこと悪魔退治の専門家を雇って…」「いやいるのかそんなやつ?」
「いないいない。2年前に自称悪魔バスターがいたけど、霊感商法の詐欺で捕まったよなあそいつ…」
実力行使は悪化する、そもそも悪魔を倒せる連中もいない。みんなその意見で一致したところで対悪魔の即席協議は終わった。
協議の結果会談はこのまま続行。適当に理由をつけて強引に会談を打ち切ろうとする意見もあったが、気を付けていればナントカ対処できると踏んだらしい。まぁ、バイ○ンマンレベルの変装じゃそう思うよねぇ。
「よし、テイク2いくぞ!各自スタンバイはいいかっ、負けるな!」
「おうっ!」
「何があっても笑うのじゃないぞ!背中の翼は動いても飾りだと思い込め!普段通りで突き進めっ!レッツ、ファイトー!」
「オーッ!」
号令をかける父(国王)を中心に気合いを入れる閣僚達。すみません、これで
も優秀といわれる国家のトップと上級官僚一同ですよね?なんでこんなあほらしいことに円陣を組まなくちゃいけないのだか…、産後で不在だった母の王妃が居たら絶対に止めただろう、この光景。
あとで母さんに詳しく報告しておこう、心の中でため息を付きつつも僕も正面に向き直った。
さて、どうにか士気を取り戻したところで商人に変装した悪魔を再び呼び戻したのだが…
「レイレイと申します」
再開後、第一声から悪魔の笑い爆弾を落とされた。変装どころか名前までセンスが酷いよレイレイ君、ここはお笑い我慢大会か。
「レイレイか…よくぞこの国にまいり…ましたな」
みんなが笑いをこらえている中、体裁を乱すこと無く返答する父。流石は国王と言えるけれど、僅かに口元が震えているのがわかる。
父よ頑張ってくれ、男は我慢だ。
「いえいえ、これでもシャ…シャ…呼びにくいな、シャボ商会と交流のあるしがない行商人ですよ、数ある国を回りましたがここまで酷く美しい国で光栄です」
「ははは、堅苦しい挨拶はいらんよ、れ、レイレイ君。それより、ここに来たからには何か申したいことがあるのだろう?遠慮なく申すがよい」
心の声を要約するととっとと用件を言って帰ってくれですね、わかります父
よ。
「はい、この素晴らしい国家にふさわしい献上品を…とおもいまして。」
そう言うと、レイレイはニコリとほほえみ…、いや正確には無理矢理の作り笑いを顔にはり付けていた。心なしか緊張する一同。まさかここで爆弾とか呪いの人形の類を呼び出すんじゃないだろうな?国を相手に真っ正面から喧嘩を売るのだけはやめてほしい。
「それで、その献上品とはいったい?」
「はい、お金です!」
「「はいっ!?」」
自信たっぷりの悪魔の声に、居合わせた半数近くが声を上げた。残りも「何を言っているんだこいつ」のような目で悪魔を凝視している。お金の献上って本気で言っているのか…?あ、目が本気だレイレイ君。
「いや、お金というものは尊いでしょう。ひいきにしていた商会も『宮殿では誰もがお金を欲しがっている』だといつも豪語していましたし」
それ思い切り政治献金、いや賄賂の類いじゃないか?あきれ果てた僕らに構わず、レイレイ君は傍らの鞄の口を開けると、見えるように中身を「ぶちまけた」。床に転がったのは…うん、山吹色のお菓子がぎっしり。食べたらお腹を壊すんじゃないかこれ?
「さぁさぁ、金なら浴びるほど持ってきました。早速ここの皆様に差し上げ
…」
「あ…いりません」
「え、いらない?」
「「「はい、間に合っています」」」
全員が同時に頷いた。ナナが聞いていたら飛びついていただろうが、今居る閣僚に守銭奴はいないし、お金に困るほど給与を安月給にしていない。うちの国をなめるな。
「おやぁ、ずいぶんと欲がないですね?」
「ああ、とりあえず金は不要じゃよ。取引のある商会から貰うものも、法定の
税以外での贈り物は子供達が喜ぶおもちゃを貰うことが慣例でねぇ、それ以上のものは望まないよ」
「まぁ、そういうこともあるから気をおとさずに。ち、ちなみにさっきの台詞は商会の誰から聞いたのかな?」
「はい、シャボ商会の方々全員が例外なくそう言ってましたよ。みなさんお金が大好きですからねぇ」
「「ほう…」」
声の主に目を向けると、目の奥に炎を宿した財務翁と治安維持の司令官が顔を見合わせて頷いていた。ああ、こりゃあ後で商会を本気の本気でぶち潰すつもりだ。それにしてもあの商会、僕たちのこと何だと思っていたのだ?もうバカ商会でいいやろう、あんなとこ。
そしてお金を拒否されたレイレイ君、拒否したときこそあっけにとられていたけれど、すぐに営業スマイルでお金を鞄にぽいぽいと戻していった。さすが悪魔と言うべきか。
「仕方ありません、ならばその子供達に喜ばれるものにぴったりのモノを用意してございます。そちらを献上いたしましょう!」
そういうと自称レイレイ君は手のひらサイズの円形のメダルを取りだした。
「うわぁ…これもアウト確定じゃ無いか…」
一目見るなり、隣で工務大臣のうめき声が聞こえてきた。
悪魔が手にしているメダル…、一言で言えば禍々しいと言える代物だった。何の変哲もない白銅で作られているみたいだけれど、禍々しい渦や触手のようなものが外枠に掘られ、中心にはドクロがリアルに掘られている。おい、それ絶対に呪いのアイテムだろ?
「それは…何かなレイ…レイ君?」
「はい、魔よけのお守りです!」
この悪魔何を言ってるんだ…。自分の姿鏡で見てから言って下さい。悪魔どころか災害が湧いて寄ってくる代物だろうこれ?そもそもこんなの子供が見た時点で泣き出すよ。自称レイレイ君、君もしかして子供嫌い?
「そ、それは頼もしいな」
「そうでしょうそうでしょう、悪魔除けの力を持つメダルは滅多にあるものじゃありません!神聖なモノの証ですこれは。繰り返しますがいいですか、絶対に悪魔が寄ってこないのですよ!」
「「「……………」」」
「…会談中申し訳ない、少々気分がすぐれぬ故、退席させて頂きます」
あ、さっきから表情を硬くしていた工務大臣がとうとうリタイア。付き添いと称して評議会の議長まで逃げ出していった。…もしかしてみんなを笑い死にで皆殺しにする目的ですか。というかこの謁見ってもう政治経済関
係ないよね、僕も帰ってもいい?
必死で笑いをこらえている中ただ一人、先生がみんなの影に隠れて声を殺して笑っていた。ずるい。
悪魔の笑劇…いや笑撃はまだまだ続きます、ガンバレ(笑)




