表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界に来たからって勇者になってドラゴン退治に行くとは限らない。

作者: 彪紗

数ヶ月前のこと。

あたし、陽ノ月愛菜は、偶然異世界トリップというものをしてしまった。


「アイナ、これ4番テーブルね!」

「はい!」


行き倒れてしまったあたしを食堂の女将さんが拾ってくれたおかげで、あたしは今生きている。


異世界に来たからって勇者になってドラゴン退治に行くとは限らないのだ。

むしろ、あたしの場合は―。


「アイナ、女将さん、ただいまー!!」

人の少なくなってきた食堂に入ってきたのは19歳であるあたしより少し年上くらいの青年。


片手に猪、もう片方に鹿の死体を持っている。


「裏口からきなさいって言われてるでしょう?」


お客さんがあまりいない時間だからまだいいけど、これでお客さんで混雑していたら大変なのに。


「だって、アイナに見せたかったから…」

しょぼん、とさっきまでキラキラと輝かせていた翡翠のような瞳を俯かせてうな垂れる。


彼の名前はシャルティーザ。

あたしは長いからシャルって呼んでいる。


健康的に日焼けした肌と艶のあるシルバーブロンドの髪。

多少童顔ではあるものの、見た目的には22か23歳くらいの青年に見える。


でも、見えるだけ。


彼は―ドラゴンなのだ。

本当の姿は巨大な西洋のドラゴンだ。

彼の他にも東洋の龍のような姿をしたドラゴンもいるらしいが、シャルは翼の生えた蜥蜴を大きくしたようなドラゴン。


本来ならこういう街の食堂とかじゃなくて、城で働く騎士とか貴族を相棒にしてもいいはずなのに、彼は何故かあたしを選んだ。


彼との出会いはこの世界に来たばかりの頃で、その頃はあたしも女将さんに拾われていなかった。


いつの間にか倒れていた森を歩いていたら、竜の姿で傷ついて気絶していたのをあたしが見つけた。


とりあえずポシェットに入ってた救急セットで小さすぎる手当てをしたら、何故か、懐いた。


治療をしたために魔力、というものが戻ってきたらしく、目を覚まして人間の姿になった彼は、まずあたしの名前を聞いてきた。


―「陽ノ月愛菜、だけど…」


―「ヒノツキアイナ?名前、長いな?」


―「名前って…下の名前は愛菜だけだよ」


―「じゃあ、アイナ。俺はシャルティーザ。俺、アイナについてく」


と、まぁこんな簡単なやりとりで彼があたしの相棒となることになったのだけど、たまに食堂に来る兵士さんたちの話では、ありえないらしい。


何がありえないのかと言うと、普通はシャルくらいの大型のドラゴンを相棒にするために、まずは戦いを挑まなければならないらしい。


戦って戦って…三日三晩くらい戦って、倒れないでいられた者が、やっとドラゴンに認められ、その上で頼み込む、のだとか。


嘘でしょ。



「今日はな、猪も鹿もすぐ見つけたんだ。血抜きもしてきた!」


「おやまぁ。アンタがそこまでするようになったんだね!」

最初は血抜きもしてない動物をハイ!と純粋な笑顔で差し出したから、女将さんも困り果ててたっけ。


思い出して、くす、と笑い声を漏らしたら、シャルがこっちを見ていた。


「どうかした?」

「えーと、その…」

何でだ。

ドラゴンのはずなのに犬の耳と尻尾が見える…。


「よく出来ました。お疲れ様」

言いたいことが分かって、シャルの頭を撫でてやる。


ドラゴンは基本相棒でさえ人型を見せず、頭を撫でるなんてもってのほからしいけど、このワンコなドラゴン、それが好きなのである。


もう、彼が色々規格外すぎて驚きまくり、その結果ホームシックにもかかりませんでした。


―そんなあたしが、上級の竜…つまりシャルを相棒にしているということで、城からお呼び出しを受けるのは、更にその数ヵ月後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ