第3話:幕開け
次の日、美玲は昨日の事が嬉しく、また今日も家に帰ったら笑ってスーパーの袋を持った父親がいるのではないかと思い急いで家に帰った。
海もまた同じだったのか、帰り道で一緒になった。
「ただいま〜。」
二人は家に帰ると、まず父親を探した。
しかし、そこには父親はおらず、二人は肩を落とした。
昨日のように、忙しい父が夕方からいたのは奇跡に近かった。
ふと台所へ目をやると、母親がうずくまって泣いているのが見えた。
美玲は駆け寄った。
「ママ?!どうしたの?!」
泣きじゃくるばかりで何も答えない母。
海も駆けつけ、泣き方からして尋常でない事を悟った。
「ママ!ママ!」
母親は二人に気が付き一瞬二人に目をやったが、泣き続けた。
「私は嫌だって言ったのに…!」
二人の呼びかけにやっと言葉を発したが、まだ意味がわからなかった。
30分後、海が母親を落ち着かせ、美玲が最初に口を開いた。
「ママ、何があったか教えて?」
すると、母親が一枚の紙を二人に出した。
父親と母親の名前に印鑑の押してある紙だった。
保証人…
母親の名前は保証人の欄に書かれていた。
「パパ、だいぶ前から色んな所で借金してたみたいで、今日どうしてもお金がいるからって…保証人は私しか頼めないからって無理矢理連れてかれたの。
私ももうパパに持ってたお金全部あげちゃったし…。」
衝撃を受けた。
この裕福だと思っていた生活は破綻しかかっていた。
それだけではない。
昨日の父親の一件は、母親を今日連れて行くための茶番だった。
美玲は父親にものすごく憤りを感じた。
横を見ると、海が心配そうに母親を見ている。
海には聞かせたくなかった。
美玲は自分の配慮のなさを情けなく思った。
「ママ、元気出して。」
まだ幼い海に励まされた母親は、ゆっくりと頷き、しばらく寝たいと言って横になった。
これが、美玲の本当の人生の幕開けであった。