第1話:美玲、海
1980年代、バブル経済真っ只中の頃、一人の女の子が生をうけた。
『美玲』‐ミレイ‐という名を付けられた。
美玲の両親は、美玲の誕生を喜んだ。
父親は弁護士、母親は専業主婦、美玲は二人の第一子であった。
美玲は父親に似たのか、1歳になる少し前に歌を歌い、言葉も話すようになった。
両親はそんな美玲を誇らしく思い、マメな父親は育児日記なるものまでつけていた。
美玲が4歳になった時、新しい家族が増えた。
美玲に弟が出来たのだった。
『海』‐カイ‐と名付けられた。
海が生まれ、幸せでいっぱいの家庭になったかと言われたら、そうではない。
海が生まれた辺りから、父親は家に帰ってこなくなり、育児と父親の事に疲れ果てた母親はノイローゼ気味になった。
母親は、子供2人に希望を託すようになった。
習い事や塾はもちろん通わせたが、友達と遊びに行く事も許さず、夕方には常に家に父親を除く3人がいる状態を作った。
美玲と海は二人で遊ぶ事が唯一の楽しみであった。
喧嘩もするが、美玲は海の面倒をよくみて、海もそんな美玲を慕った。
父親は弁護士なので、お金には困らず、寧ろ裕福な生活を送っていた。
美玲は通っていた塾に友達が沢山いたので、塾に通う事を楽しみにしていた。
自然と成績も上がり、美玲は私立中学に合格した。
県内でも有数の進学校で、その時ばかりは父親も一緒にいて、合格を喜んだ。