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第9話 ターミネーター

「僕達の負けですね。殺して下さい……」

 

 俺の振るった<HCMソード>によって両腕を切断された武士型機体に乗った眼鏡の男は、それが当然かのごとく『殺してくれ』と言った。俺はそれを無視して周囲を見渡すと、すでに戦闘が終了していた誠と結衣によって、行動不能にされた敵の二機を一か所に集めているところだった。

 同じように俺も武士型機体を担ぎ上げると、二人がそうしたように一か所に集める。

 俺がどうするのか、それが気になっているのかモニターの向こうにいる誠と結衣の表情はどんな感情も表わさない物だった。『すべてはお前に任せる』そう言われているような気がした。

 

「誠、結衣。先を急ぐぞ、集合の時間が迫ってる」

 

 俺の答えなど聞くまでも無い。負けた人間が死ななければならない道理は存在しないのだ。そして、勝者が敗者を殺してやる義務もない。

 

「ま、待って下さい! なぜ僕達を見逃すんですか!? 僕達を馬鹿にしてるのか!?」

「そうだぜ! 俺達が今まで殺してきたように、お前達も俺達を殺せば良い!!」

 

 眼鏡の男と髪を逆立てた男が喚き(わめき)散らしているのが聞こえる。しかし、俺達はそれに構わず【CALL】を切断すると機体を走らせるのだった。

 

 旧いろは坂跡地は無数の爆発跡が残るだけで、いろは坂のヘビが這いずる様に登る道は見る影も無かった。ただ、作戦本部が敵基地襲撃の為に集合場所として選定した理由が見ただけで明らかとなった。山肌を深く抉る爆発跡が適度な窪地(くぼち)を大量に作っていて、機体を一時的に隠しておくことに都合が良かったのだ。

 俺達が相手をした三人以外にはプレイヤー機体に出くわさなかったようで、スコット部隊に大きな損傷は見られなかった。それなりに戦闘は起こったみたいだけど、それも訓練と新型機の性能によってとくに問題になるようなこともなく、敵を無力化して先を進むことが出来たようだった。

 

「スコット、ここからはどうやって進むんだ? 東照宮なら直線距離で五,〇〇〇くらいの距離だ。このまま山中を行軍して強襲するのか?」

 

 俺がそうスコットに尋ねると、自重気味の笑顔をこちらに向けた。

 

「このいろは坂から敵の基地に直接乗りこみます」

 

 スコットの話はこうだ。日光東照宮の地下には旧日本自衛軍の基地があったらしい。それを先の戦闘で敵に奪われ、利用されている。つまり、いろいろと改修は受けているだろうけど、内部の大まかなマップは手元にあるということだった。この旧いろは坂には、有事の際に利用する逃走経路の出口があり、巧妙に隠されたそれを使った方が、固定砲台(トーチカ)が設置された地上を行くよりも危険は少ないと言う判断だった。作戦開始時点でそれらが、俺達も含めて参加者に知らされなかったのは鹵獲(ろかく)されたり、捕虜となった場合に情報を持たせておかないための予防措置だったということだ。これから、それらのデータを<ホーリーホック>の<ホーリー君>から各機体に送られる手はずになっているらしい。

 

「それで、スコットの護衛はこんなに大所帯だったわけね。私達を目立つルートで向かわせたのも、そのマップデータをスコットしか持って無かったからってことか」

 

 結衣の溜め息まじりに吐き出された納得の言葉には『私達は囮だったわけか、なんとなく分かってたけど』という小さな愚痴が見て取れる、スコットも苦笑いを浮かべるしか無いようだった。

 

「しかしよ~。これだけの規模の部隊がいきなり居なくなったら、あちらさんも何か勘付くんじゃねぇの? もともと自衛軍の基地だったことは、相手も分かってることだしよ」

 

 誠の言っていることも最もだった。敵を突破してきたということは、ある程度こちらの戦力情報も相手に渡っていることと同義だ。このまま全部隊で元逃走経路を使用して潜入すれば、地下から攻めることを教えているような物だ。

 

「別方向から来るカゲヤマ少佐が率いる部隊と、私が率いてきた部隊はここから地上を進んで攻めます。地下を進むのは少数精鋭部隊です。アレフの部隊も地上から進軍し、地上制圧後は地下へと侵攻、カゲヤマ少佐の部隊は地上に残って指揮に専念して貰う予定です」

 

 簡単なミーティングが終了し、さっそく作戦行動を開始することになった。地下を進むのは俺達三人のチームと、スコットと選抜された二人のチームで、別々の入り口から侵攻することになる。送信されてきたマップを見るに通路の幅はそれほど大きく無く、三人一組のスリーマンセルでの行動が一番効率が良いと思われたからだ。

 俺とスコットは、お互いの機体の拳を差しだすと、ゴツッとぶつけて挨拶を交わし、岩肌に隠された侵入口から内部へと侵攻を開始した。

 

「なぁ~、和哉。このマップ見た感じだと、結構地下まで行くよな?」

 

 俺達三人は、結衣に策敵をしてもらいながら先を進んでいた。いくらマップがあるとは言え、前もって数種類のルートを確保しながら進まないと、有事の際に袋小路へ追い詰められてしまう可能性がある。今進んでいる道は、元逃走経路として作成されたルートだから一本道だ。策敵以外に気を張る必要が無い内に、可能な限り内部の情報を確保しておく必要がある。

 

「このマップを見たところだと階層構造になってるみたいだ。でも、面倒くさいダンジョン攻略ゲームと違って、ある程度はエレベータホールを一気に下りれば大分下の方まで降りる事が出来るし、ご丁寧に一階ずつ制圧しながら進むこともないんじゃないか? 地上部隊からの攻撃に対応する為にも敵は出張ってくるわけだし、挟み撃ちに合う可能性も無いだろう?」

「そうだな。ってことはまず、オレ達はエレベータホールに向かうのか。まぁ~敵も馬鹿じゃないんだし、その辺りは集中的に戦力を配置してるだろうけど、プレイヤー機体じゃなければ、あまり問題にはならないもんな」

 

 俺達が進軍する方法について方針を固めると、道が終わって壁が現れた。その壁の向こう側は敵の基地で、周りは敵だらけってことだ。俺達はそれぞれに頷いて確認を取ると、誠の<グングニール>で壁を打ち抜いて通路を解放した。

 壁を打ち抜いた途端鳴り響く警報と明滅する赤いランプ、この辺りは七五年後の世界でも変わっていないんだな。なんて場違いにも関心しつつ、策敵エリア内にいる敵機を探す。しかし、思いの外策敵に掛かる敵の数は多く無かった。アニメやゲームで言えば、あちこちから敵が沸いて来て、先に進めないほどの弾幕の嵐が襲ってくるという印象があるけど、俺達が侵入を果たした場所は三階層目であり、殆どの敵は前線である地上との連絡路に集中している状況なのだ。

 

「なんだか、拍子抜けするほどアッサリ先に進めちゃうわね」

「実際、そんなもんなのかもしれないなぁ~」

「普通は前線に兵力を集中させて、後方は精鋭が固めるってのが定石だろ? っても、俺達が内部に侵攻したせいで、前線は俺達がいるとこに変わったわけだから、入口付近で戦ってる奴らも戻ってくるはずだ。今の内に一気に下まで降りるぞ!」

 

 マップに表示されているエレベータホールに向かって侵攻する。多くは無いが敵も現れる。その戦闘力は、ゲーム時のストーリーモードをプレイした時の後半に現れる物と同程度だったが、俺達プレイヤー機体から見れば、少し色が付いた量産機に過ぎない。それらを蹴散らしつつ先を急いでいた。

 

 ◆

 

 突如として鳴り響く警報に、敵の前線が乱れたのを感じ取った俺様は各部隊に指示を飛ばした。

 

「おぅ、てめぇら! 和哉達(あいつら)内部(なか)で暴れ始めたぜ! 乱れた前線、更にかき乱してやれ! このアレフ=クルサード様に付いてきな!!」

 

 強力な攻撃を放つ固定砲台(トーチカ)には、手を焼いたが和哉達(あいつら)が開発したっていう、この機体の性能は俺様達が使ってた<バガン>とは比べ物にならなかった。

 何度か空中からの攻撃を敢行しVYF-27戦闘機(ファントムストラトス)による爆撃を行おうとしたこともあったが、それらは全て固定砲台によって空中で撃墜され、今じゃ旧日光市街地で地面に突き刺さった高価なモニュメントになっちまってる。

 固定砲台は攻撃が強力で射程に優れてはいるが、排熱の関係で荷電粒子砲を使う物は設置されていない。全て実弾兵器だ。それはつまり――

 

「第二小隊! 指向性(ダイレクト)慣性除去装置イナーシャル・リムーバ・デバイスを展開しろ、第三小隊は第二小隊を盾にして進軍! 前方のウルサい固定砲台を黙らせて来い!」

 

 和哉達(あいつら)が開発した指向性(ダイレクト)慣性除去装置イナーシャル・リムーバ・デバイスは、固定砲台の攻略に打って付けの装備だった。相手の攻撃は(ことごと)く弾き飛ばしてしまう、見えない盾は、相手に心理的攻撃力まで備えてやがる。相手にとって固定砲台の攻撃力は絶対だ。重装甲局地防衛型(ガーディアン)の分厚い装甲でも、一撃で沈めちまう威力を持ってるからだ。しかし、それもまるで意味が無いかのように弾き飛ばされてしまう。それこそ――

 

「悪夢だろうぜ。でも、それはな……てめぇらが俺様達の前に現れた時、俺様達が感じた恐怖と同じ物なんだよ!!!」

 

 固定砲台を全て撃破した俺様達は四・三・三の編成で隊列を組むと、がら空きになった基地入口から進軍を開始した。敵の基地内は、もともと俺様達が使っていた東照宮地下基地とほとんど変わっていなかった。所々に配置された自動迎撃システムによる散発的な攻撃があったが、すでに進行しているスコットや和哉達(あいつら)の迎撃にてんやわんやなんだろう。小山や佐野で陽動部隊が敵の多くを惹き付けているお陰で基地内での抵抗は驚くほど少ない。俺様達の部隊には大きな抵抗も無く、先に進むことが出来た。

 俺様達の部隊は、制圧が目的だ。スコットと和哉達(あいつら)が敵の中心を叩き、俺達は基地施設の奪還を目指す。各階層を順調に制圧しつつ先を進んでいると、第六階層の制圧中に大きな部屋に出た。四方に二〇〇メートル程広がった空間だ。これは俺達が使っていた頃には無かった代物(しろもの)だった。

 

「こりゃ~……一体……」

 

 俺様達の部隊が部屋内部に入ると、前方の扉から一機の機体が現れた。今まで抵抗してきた機体とは明らかに様相が異なる機体だ。銀色と白で彩られた鋭い印象を持つ、まるで一振りの(つるぎ)をイメージさせる機体だ。両手には武器が無く、代わりに両手が鋭い剣のように鋭利だった。

 

「てめぇら気を付けろ! コイツ、今までと違――」

 

 次の瞬間、俺の隣にいた重装甲高火力支援型(イェーガー)<ソル>が縦に二分割される。崩れるように倒れた機体は、コクピットもキレイに真っ二つにされていた。

 

「ぜ、全員! 指向性(ダイレクト)慣性除去装置イナーシャル・リムーバ・デバイスを全力展開しろ! コイツ、ヤバすぎる!」

 

 ◆

 

 私達は七階層を進んでいた。敵の動きを見るに、和哉さん達はエレベータホールを使って一気に下の階層まで降りた様子だった。

 アレフの部隊が各階を制圧しながら降りてくるとは言え、脱出路を確保しながら降りる必要があると考えていた私は、和哉さん達のアシストも兼ねて必要な経路を確保しながら、最低限の戦闘で一つずつ階層を下りていた。

 すると、突如として【CALL】が鳴る。この作戦中は小隊単位でしか、通信が出来ないようになっている。すでに隊員との回線は通じているので、このように【CALL】してくるのは、一人しか考えられなかった。高い通信制御能力を持つ機体を操縦しているカゲヤマ少佐だ。私は【CALL】に応答した。

 

「スコットですか!? あなたは現在、どちらに居ますか!?」

「はっ! 私は現在七階層で脱出経路を確保しつつ進軍しているところです!」

「すぐ下ですね! スコットは今から階層を一つ戻り、アレフ部隊の支援に向かって下さい! 固有機体が現れました! 隊員三名が殉職しています! すぐに向かって下さい!」

 

 私は自分の耳を疑った。和哉さんが組み上げた新型の量産機三種類には指向性(ダイレクト)慣性除去装置イナーシャル・リムーバ・デバイスが搭載されている。その防御力はシミュレーションの時や、現在の侵攻作戦時にも証明された物理攻撃への完全な防御力を示していたからだ。それのみならず、高い性能を発揮する新型量産機に叶わない機体は無いとすら思っていた。

 カゲヤマ少佐の言葉を半ば疑いつつも、敬礼を返して通信を切ると、すぐさま提示された場所に急いだ。

 提示された場所は、私が選んだ逃走経路から外れた場所にあった。そもそもマップに表示されていない場所だったので、気にも留めていなかった。

 私達三機は、ロックされた扉を無理矢理壊して内部に侵入する。そこで見たのは信じられない光景だった。

 とてつもないスピードで動き回る銀色の機体に、翻弄される新型量産機の姿だった。ここまで出現した敵機を蹴散らしながら歩を進めてきた自分達に絶望を与える程の衝撃がある。

 縦に真っ二つにされた重装甲高火力支援型(イェーガー)<ソル>、コクピットを一突きにされて沈黙した汎用近距離特化型(アタッカー)の<アルス>、両足を失った上で袈裟懸けに切断された高機動近接特化型(トルーパー)<スイゲツ>の姿があった。見渡すと、死んではいないもの身動きが取れなくなっている機体が数多く見受けられる。実際に戦えているのは、アレフが乗る<スイゲツ>と<アルス>が二機だけだった。

 私は急いで指向性(ダイレクト)慣性除去装置イナーシャル・リムーバ・デバイスの展開する指示を飛ばすと、【CALL】でアレフに通信を開く。すぐさま応答があった。

 

「スコットか? コイツ、ヤバすぎる! 倒れてる機体と現状を見れば分かるだろうが、高機動近接特化型(トルーパー)の攻撃力特化型だ! しかもやつの固定武装と思われる両腕は、それその物が実体剣とビームソードを兼ねるんだ! 気を付けろ!」

 

 私は大型ランスを腰だめに構えると<ホーリーホック>が持つ最高速度で敵の銀色機体に迫る。しかし、そのスピードは私の機体より早くとても追いつける物では無い。相手を殺さずに倒すことは不可能に思えた。

 

「和哉さん、今度ばかりはあなたの理想通りには行かない相手のようです! <ホーリー>君、今回ばかりは手加減無用です!」

 『分かった。んじゃ~こっからは、リミッター外すべ!』

 

 相手の機動力を考えると非殺傷攻撃演算装置ノンリーサル・アタック・デバイスに計算させているコンマ何秒の時間も惜しいからだった。非殺傷攻撃演算装置ノンリーサル・アタック・デバイスの持っている特性として、ある程度攻撃が意図したところに当たると計算結果に出なければ、攻撃が発動しないという部分がある。つまり、殺傷力の高い攻撃では『数撃ち当たる』という攻撃が出来ないのだ。

 私は大型ランスから三六ミリの徹甲榴弾を撃って、相手の牽制を行う。敵の機動力に対抗するには広範囲に広がる攻撃が望ましい。徹甲榴弾は着弾地点で爆発する性質がある。

 銀色機体が切りつけてきた攻撃を指向性(ダイレクト)慣性除去装置イナーシャル・リムーバ・デバイスとランスを使用して防御しつつ、徹甲榴弾で攻撃するというパターンが続くが、一向に相手にダメージを与えられるような印象を受けない。それほどまでに相手のパイロットの操縦技術と機体性能、相性が極めて高いレベルを持っているということだった。

 アレフも接近戦を挑むが避けられ、徐々に機体にダメージを蓄積させていた。なんとか残っていた二機の<アルス>と私が連れてきた<アルス>と<ソル>も、ダメージを累積させて行動不能になっている。死んでいないのが唯一の救いだが、このまま私とアレフが堕とされてしまえば全員命は無いだろう。

 何度目かの撃ちあいの末、機体性能の限界レベルで戦闘していた私は体力の低下と共に小さなミスを繰り返す様になっていた。

 そして、体制を崩した私の機体のランスを持つ右腕が壁に貼り付けられるように串刺しにされてしまう。

 

「っく! しまった!」

 

 私がこれまでかと覚悟を決めた時――

 

「させねぇんだよ!」

 

 アレフが銀色機体の後ろから飛びかかる。私の<ホーリーホック>の右腕を串刺しにしていた相手の左腕もろとも頭部から肩口にかけて切断した。

 

「よっしゃぁ! スコット、こいつは貸しだぜ!」

 

 グラリと揺らぐ敵の銀色をした機体は、体制を崩して倒れるこむ。

 かと思いきや、踏みとどまって反転。残っていた右腕の剣で、アレフの<スイゲツ>の腹部。コクピット付近を突き刺した。

 

「――っ!! ア、アレフぅううう!!」

 

 引き抜かれた剣の様な腕には、オイルなのか血なのか判別出来ないような赤黒い液体が付着していた。

 私は激情のまま飛びかかろうとするも、激しく損傷した右腕が言うことをきかない。私は近くに落ちていた敵の左腕である銀色の剣を左手で拾い上げると、銀色の機体を袈裟懸けに真っ二つに切り裂いていた。

 今度は間違いなく沈黙し、崩れ落ちる敵の機体を確認すると、アレフの<スイゲツ>に駆け寄り、コクピットから飛び出した。

 

「アレフ! 生きてますか!?」

 

 <スイゲツ>のコクピットを外側から非常ロック解除で開け放つ、システムが完全には壊れていなかったのか、圧縮された空気が吐き出される音と共にゆっくり開くハッチの向こうには脇腹を深く抉られたアレフの姿があった。

 

「っく! ス、スコット……か? へへ、マズ……っちまった。こりゃ~……もうダメだな」

「私はまだあなたに借りを返せていませんよ!?」

「何言ってやがる。アイツ……倒したんだろ? 十分じゃ……ねぇか?」

「そんな、アナタのお陰で私は無事に済んだのに……アナタが代わりになるなんて!」

「こ、これだから……若いのは……こ、こまるぜ……甘い事言ってんなよ? 俺達は戦争してんだ……死ぬのは一年でも長く生きた俺様で十分なのよ……」

 

 アレフは傷ついた身体で身じろぎをすると、抉り取られた傷口からボタボタと大量の血が噴き出していた。

 

「っく! 葉巻も碌に吸えやしねぇ……なぁ~……スコット、そこの入り口のとこに……取っておきのが一本仕込んであんだ、取ってくれねぇか?」

「分かりました! すぐに取って来ます!」

 

 入口付近にあるサバイバルケースの中に支給品には無い、銀色の箱が入っていた。私はそれを手に取ると、急いでアレフに渡す。

 

「アレフ、これで良いですか?」

「へへ……そいつだ。一本出して咥えさせてくれ」

 

 シガーカッタ―で切り口を大口のフライトカットで切ると、アレフの口に咥えさせ、火を付けた。

 

「美味ぇなぁ~……これで貸しはねぇな……思い残すこともねぇや……行けよ、スコット。こんな死に損ない相手してねぇで小僧共のとこに行ってやれ……死ぬとこなんて、みっともねぇ格好……誰にも見られたくねぇからよぉ~……」

「アレフ………………分かりました……あなたの分まで私は戦います!」

 

 <スイゲツ>のコクピットから飛び出すと、私は<ホーリーホック>に飛び乗って大きな部屋から飛び出した。

 

 ◆

 

「俺もヤキが回ったもんだぜ……俺ももうすぐそっちに行くからよ……天国ってのは、どんなとこだよ? マリア……」


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