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第5話 デバッグ

 真っ暗だ何も見えない……違うか。何も見えないんじゃない。何も見たく無いんだ。なんで、こんな事になってしまったんだろう。俺は人を殺したいわけじゃなかったのに、ただ結衣が危なかったから、敵を倒しただけなのに、でも人を殺してしまった。どんな理由があれ、俺は殺人者なんだ。きっと、日本の法律でいうなら過剰防衛とか正当防衛とか、そんな括りになるんだろうとは思う。でも、法律が許しても俺が、俺自身が自分を許せないんだ。大切な幼馴染を守るためには仕方なかったとも思う、だけど殺さずに助けることが出来たんじゃないか?

 あれに人間が乗っていたなんて知らなかった。っていうのは言い訳にしかならない、乗っている可能性は十分に考えられたんだ。ゲームセンターでも中々見られないような高度な操縦技術、あきらかに細かい部分までカスタマイズが行き届いた機体。あれは、敵の重装甲高火力支援型(イェーガー)や日本自衛軍の<バガン>や<リガン>とは明らかに違う物だった。

 それに、あの敵新型はカゲヤマ少佐が乗る<リガン>をあえて”殺さなかった”行動不能にしたことを確認したあと、味方の救援に向かったんだ。性能に差があるスコットの<バガン>に対して、スコットを殺さないように力量を見極めて応戦していたのかもしれない。あれだけの性能差があれば、撃墜することは容易だっただろう。少しこじ付けかもしれない、けれど……そう考えれば俺の中で辻褄が合ってしまう。あの敵新型は……人が乗っていることを認識していたんだ。でも、それはそうなのかもしれない……ヤツらは日本に攻めてきていたんだ。敵新型のパイロットはアジア系だったし、顔立ちは中国や韓国のような雰囲気では無く日本人のそれだった。

 俺達と同様に何かしらの力でアサルト・コアの世界に迷い込み、敵側につかざるを得なかった、同じ日本の学生だったのかもしれない。

 俺は心のどこかで、今居るここがアサルト・コアという”ゲーム”だと甘い考えを持っていたということだ。相手を倒すということ、それは相手を殺すということ。俺の設計した機体は、ゲームの中では高性能機体だ。それはゲームセンター内の戦績である勝率七割という実績からも現れていると思う。でも、この世界では手加減をしてもオーバーキルになる程の性能差になっていた。ゲームセンターでプレイした時と同様に戦い、実際に相手を殺してしまったということだ。

 自分の認識の甘さに反吐が出る。

 俺は思考の海、暗く重い奥深くへと沈んで行った。

 

 ◆

 

「どう? 和哉の様子は」

「ダメだ。ハッチを開けてくれないから分からねぇ……【CALL】にも応答してくれねぇし……<ラグナロク>の手でハッチを引っぺがす訳にもいかないからなぁ~」

 

 私達は、戦闘が終了した後、叫び声を上げて動かなくなった和哉の乗った機体を、私と誠の機体で基地に運び込んだ。同時にスコットが指揮する<バガン>部隊の方もカゲヤマ少佐の<リガン>や損傷の大きな機体、あとは敵の新型を回収して基地に戻っていた。<バガン>部隊は基地に格納を済ませると、整備班の人と戦闘の勝利に対して勝鬨(かちどき)を上げ、とても盛り上がっている。でも、私達はそんな気分にはとてもなれない。私達は和哉の機体の収容を終えると、可動式乗降機を移動させハッチの目の前で声を掛け続けていた。

 和哉は一度大きく発狂したように声を上げた後は、気絶してしまったのか声を発することも無く、まるで死んでしまったかのように静かだった。今もハッチの外から声を掛けたり、誠がコントロールパネルから【CALL】をしてみるけど、そのいずれにも応える気配が無い。

 和哉が受けたショックは、私にも少しは分かる。戦った相手は、同じ世界の地球から来たと思われる同年代の人間だった。それは、つまり……いや、やめよう。言葉にしてしまうと、今まで築いてきた物が大きな音を立てて崩れてしまいそうな気がする。それに、和哉の受けたショックが私にも分かるなんて言ったけど、そんなのは幻想だ。和哉が受けたショックの一部分でも分かる訳が無いのだから。和哉は敵新型を撃破した。彼の手で……。

 

「なんで……こんなことになっちゃったんだろう……」

「……オレにだってわかんねぇよ……」

 

 私の心から零れ落ちた言葉に、誠が応える。私達は一体どこに来てしまったんだろう。なんでこんなことになってしまったんだろう……私達は戦わずに基地に籠っていれば良かったの? でも、そしたらあのまま全員死んでいたのかもしれない。答えの無い疑問ばかりが頭を駆け巡る。きっと、今の私以上に和哉は傷ついてる。助けになってあげたい。私じゃ力になれないかもしれないけど……

 溢れ出る涙の滴が、膝に零れ落ちて、初めて自分が泣いていることに気が付いた。

 不意に後ろから声が掛かる。

 

「お~い! お前達凄いな! 敵を倒すことが出来たのもお前達のお陰だ! こっちに来て一緒に祝杯上げようぜ! なぁ~に、無断で基地を飛び出したのは不問だろうよ! あのまま、お前達が敵を”殺して”くれなきゃ、俺達は全滅してたかもしれねぇんだぜ!」

 

 たぶん、さっき出撃した<バガン>部隊の一員。戦いの勝利に気持ちが高ぶっているみたい。この人達は、今私達が抱えてる苦悩なんて、きっと分からないんだ。

 

「黙れよ! 人を殺して喜べるわけないだろ!!!!」

「誠……やめて……」

「こっちはな! 人を殺したくて戦ったわけじゃないんだよ!」

「誠……」

 

 誠の怒声に格納庫内の喧騒が一気に静かになる。騒いでいた人達の視線は全て誠に注がれ、それらの多くは『士気が高まってる中に水を差すんじゃねぇよ』と言った雰囲気を纏う冷たい物だった。その中の一人が小さな声で呟くように言葉を放つ。

 

「……お台場で散々殺してたじゃねぇか」

 

 小さな声で呟かれた言葉を、私の耳はしっかりと拾っていた。きっと、私の眼は大きく見開かれているだろう、一瞬呆然としたけど、思い出したように誠の顔色を伺う。さっきの小さな声を私は聞こえていた。きっと、隣の誠も……。

 

「てめぇ…………今……なんて言った?」

「あ? なんだよ? 事実だろ!? お台場で敵の部隊を一掃してたじゃねぇか! 一掃じゃないな”皆殺し”だったな!」

「ぶっ飛ばしてやるから歯ぁ食いしばれよ!! コラァ!」

 

 目を血走らせた誠が、乗降機から飛び降りそうな勢いで動き出すのを私は縋りつくようにして止めた。

 

「やめてよ! やめて! 和哉の前で……そんな声出さないで…………」

 

 誠はハッとしたような顔をして私を見ると、そのまま視線をハッチに向けて振り上げた拳をゆっくりと下ろした。

 その様子を見ていた隊員が、人を馬鹿にしたような台詞を大声で吐き出す。

 

「ハッ、威勢が良いのは口だけかよ! 戦争が怖いお子ちゃまは、シェルターにでも逃げて隅っこでガタガタ震えてりゃ良いん……ガハッ!」

 

 私達を罵っていた隊員が、何者かに左頬を殴られて転倒する。私が殴った人に視線を向けると、その人はスコットだった。

 

「お前は何様だ? お前の命が今ここにあるのは誰のお陰だ! 彼らを侮辱することは、このスコット=シップドッグが許さない!」

 

 転倒した隊員は、スコットに殴られて唇でも切ったのか、手の甲で口を拭うと怒りの矛先をスコットに変えたようだ。スコットに向かって立ちあがると、床に血混じりの唾を吐きだした。

 

「てめぇこそ何様だ? 最年少でアサルト・コア部隊に配属されたからって粋がってんじゃねぇぞ! そういや戦場でも、随分出しゃばってくれたよなぁ? カゲヤマ少佐が居なくなった後の指揮権は、先任少尉のこのアレフ=クルサード様にあるだろうが! スコット少尉殿よっ!」

 

 アレフと名乗る隊員がスコットの右頬を殴りつける。スコットも唇を切ったのか右唇の端から血が覗いていた。

 

「自分が敵新型を抑えている間! お前は前線の指揮を一つも取ってなかったじゃないか! 先任少尉だろうが、年上だろうが実力も無いのにハシャグんじゃねぇよ!」

 

 スコットがアレフの右頬を殴りつける。次第に二人は言葉よりも手が先に出るようになり、ただの殴り合いになっていった。

 先ほどまで誠に冷たい視線を向けていた他の隊員達も、今は格納庫の真ん中で殴り合いを続ける二人に声援や野次を送っている。

 

「良いぞ~! 二人とも! ヤレ~ヤレ~!」

「アレフさん! そんなガキはぶっ倒しちゃってくださいよ!」

「スコット~! 今日こそ下剋上だぁ~!!!」

 

 周囲の喧騒を聞くに、この二人は何かとやり合っているみたい。

 その喧騒も次に登場した人物によって終わりを告げる。

 

「これは何事だ!!!」

 

 声の主は格納庫の入り口付近から悠然と歩いて来る。あの顔には見覚えが……でも思い出せない、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、誠が呆れたような顔を浮かべて教えてくれた。その顔には先ほどのような怒りの感情は見えなかった。

 

「お台場で最初俺達に命令してきた、厳ついオジサンだ……」

 

 誠の言葉で思い出した私は『あぁ~、あの人ね』と軽く返答を返した。

 厳ついオジサンは、殴り合いをしていた二人の近くまで後ろ手に組みながら近づくと、その厳つい容姿そのままの殺気が籠った視線で一同を見渡した。

 

「お前ら……何をしていた?」

 

 その言葉に、スコットとアレフは姿勢を正した。

 

「ハッ! デュネス大尉殿! レクリエーションであります!」とスコット。

「部隊内の親睦を深めておりました!」とアレフ。

「ふん! レクリエーションだ? ……スコット! 貴様は整備班に提出する報告書は書いたのか!? アレフ! 貴様は先の戦闘に関する報告書を書いて提出しろ! カゲヤマ少佐はしばらく医務室から出られん! 貴様が報告書を提出するんだ!」

 

「ハッ! 直ちに提出します!」とスコット。

「えぇ……了解です……」とガックリした様子のアレフ。

「貴様らもサッサと職務に戻らんか! 立て続けに敵が襲ってくるかも知れんのだぞ!?」

「「「ハッ」」」

 

 デュネス大尉と呼ばれた厳ついオジサンが、乗降機に乗る私達に対して睨むような視線で一瞥すると、『ふんっ』とでも言いそうな雰囲気で踵を返し、格納庫から出て行った。

 

「あの人、偉い人だったんだね」

「部隊の中には、あぁいう威圧的な人も必要ってことなんだろうなぁ」

「和哉……どうしよう……」

「整備班の人に頼んで、ハッチを開けて貰うしかないかなぁ~?」

 

 私と誠が諦めて整備班の人に頼むことにしようとした、その時、私が手に持っていたSANY製携帯ゲームの電源が勝手に入った。

 

「あれ? 勝手に電源入った……おかしいな」

「勝手に電源入る訳ないだろ? 服に擦れて電源入ったんじゃないか? 電源がスライド式だからな、オレもたまにやるぜ」

 

 私は首を振って否定する。

 

「ううん、ちゃんと【HOLD】にしておいたもん」

「ん? じゃぁおかしいな?」

 

 OSが起動し、自動でアサルト・コアが起動される。すると、メインタイトルの画面では無く、アサルト・コアに搭載されたAI用の専用部屋CGの画面になっていた。

 

「あれ? 勝手にAI用の部屋になっちゃったよ」

「ん? 本当だ……ってか、随分少女趣味な内装だな……似合わねぇ~」

「ウルサイな! 私に似合わなくても<リリカ>ちゃんにはピッタリなの!」

 

 そんなやり取りをしていると、AIの部屋に3Dで描かれた<リリカ>が現れた。

 

 『はぁあ~い、結衣ちゃん!』

「<リリカ>ちゃん! もしかして、電源入れたのって<リリカ>ちゃん?」

 『そうだよぉ~、結衣ちゃんが困ってる気配を感じて……来ちゃった!』

 

 今の様子を見ていた誠が呆れ顔で溜息を吐きだす。

 

「ハァ……勝手に電源入れるって、どんな影響力持ってんだよ。それにAIが気配って……」

 

 誠の言葉を無視して<リリカ>ちゃんと話を進める。

 

「う~ん……たしかに困ってるけど……あのね、和哉が乗ってる<三機神・ツクヨミ>のハッチが開かなくて困ってるの、和哉応答してくれないし、さっき戦闘で無理な戦い方したし、悲鳴も上げてたから心配で……」

 『おっけ~! つまり、そこのハッチを開ければ良いのね!』

「簡単に言うと、そうね……出来るの?」

 『私にお任せ! ちょっと<イザナギ>君と<イザナミ>ちゃんにお話しして来るね!』

 

 <リリカ>ちゃんは、そう言うと画面が【現在、通信中です】って画面に切り替わってしまった。隣で覗きこんでた、誠が呟くように口を開く。

 

「AI同士、結構仲良さそうだよな」

「そうね……でも、こんなのでハッチ開くのかな」

 

 私がそんな台詞を言ったことがフラグになったのかは分からないけど、圧縮空気が洩れる音が響いたかと思うと、ゆっくりとハッチが上下に開かれていく。

 手元の携帯ゲーム機に視線を落とすと、Vサインを作っている<リリカ>ちゃんがいた。

 

「<リリカ>ちゃん、ありがとう」

 『どういたしまして! 結衣ちゃんの為だもん! じゃあ~ま~たねぇ~』

 

 <リリカ>ちゃんがそう言うと、今度は勝手に電源が切れた。

 私は、制服の内ポケットに携帯ゲーム機をしまうと、コクピット内を除きこんでいる誠に声を掛ける。

 

「誠? 和哉は?」

 

 誠がゆっくりと、こちらを振り返る。その顔は真っ青で、あきらかに良くないことが窺えた。

 

「結衣……医療班を……医療班を呼んでくれ……早く!」

 

 誠の震える唇から発せられた強い言葉に、私は弾けるように飛び出して、格納庫中に響き渡る声で叫んでいた。

 

 ◆

 

 結衣のAI<リリカ>のお陰で開いたハッチに、オレは結衣と<リリカ>へのお礼も言わずに飛びこんでいた。

 今まで呼びかけに返事をしてこなかった原因について、仮説を立てていたオレは、もう一度内容を確認していた。

 まず一つめは、<三機神・ツクヨミ>の最大加速に慣性除去装置の許容量をオーバーした負荷に対して、時間差で身体が悲鳴を上げて気絶している。これは、かなりマズイ。脳に損傷があって、時間差で発症したことも考えられる。

 そして二つめ、同じ世界から来たと思われる日本人の格好をした人間を、死亡させてしまったことから来る精神的ストレスによる気絶だ。これも、かなりマズイ。確実にトラウマになるだろう。それは、オレや結衣も同じだけど、実際に手を下した人間の死体を見てしまうというのは、現代の倫理的常識を持ったオレ達にとって、精神的ストレスは半端じゃないだろう。

 そして三つめ、両方だ。はっきり言って最悪以外の何物でも無い。どんな対処をしたら良いのか、まったく想像もつかない。

 そして四つめ、以降は一つめからの気絶していないバージョンだ。全部で六パターンあるが、オレは恐らく……。

 オレは狭いハッチの中に身を乗り出して和哉の状態を確認する。

 言葉を失った。

 普段、日常生活をする上で鼻血というのは普通に見かけることがある。だけど……和哉は鼻と耳の穴から出血していた。

 急激に体温が下がっていくのを感じた。(てのひら)から冷たくて嫌な汗が噴き出てくる。喉の奥が急激に乾いて、呼吸をするとヒューヒュー音がした。

 結衣が声を掛けてくる。

 

「誠? 和哉は?」

 

 オレはゆっくりと、振り返ると掠れる声を無理矢理押し出して、結衣に伝えた。

 

「結衣……医療班を……医療班を呼んでくれ……早く!」

 

 結衣が弾かれたように飛び出していき、格納庫内で大声を張り上げているのが聞こえた。

 オレは、和哉の頭を極力動かさないように横抱きに抱えると、狭いハッチから身体を横向きに変えてなんとか降りる。

 乗降機を下していくと、すでに見たことも無い空中に浮いたカプセル型の担架のような物が待機していた。オレは、横抱きに抱えていた和哉をカプセル型担架に横たえると、医療班に向かって深々と頭を下げる。

 

「和哉を……幼馴染を……よろしくお願いします!!!」

 

 オレと結衣は、和哉を乗せたカプセル型担架を追いかけようとしたが、スコットに行く手を阻まれてしまった。

 

「スコット! どいてくれ! 和哉のそばに居させてくれよ!」

「お願い! お願いだから……」

 

 スコットは神妙な面持ちで、首を横に振ると申し訳なさそうに言葉を紡いだ。

 

「君達には申し訳ないと思う、本当なら一緒に付き添わせてあげたいのだけど……君達のことを拘束するように、上から指示されている」

 

 結衣は驚愕の表情を浮かべていた。きっとオレも同じような顔をしていると思う。

 

「なんで!? なんで私達が捕まらなきゃいけないのよ!!」

 

 スコットは苦虫を噛み潰したように苦しそうに顔を歪ませると、少し俯きながら話し始めた。

 

「君達は、本来であればカゲヤマ少佐の私室で軟禁させられているはずだった。だけど、君達は脱走しAIによる妨害活動を行った。上の人間は、そう判断しているようだ……一部の人間は、用意周到なスパイだと思ってるみたいだし……今回、敵新型を回収したことで、そのパイロットについても君達の話を断片的に聞かせて貰った感じだと同じ世界の人間のようだね? おそらく上の人間は、同じように敵が送り込んだ妨害工作員に新型アサルト・コアとでも考えているんだろう……」

 

 オレは、スコットの言葉に対して弁明できる余地が無いという考えに到っていた。自分達を不利に貶める物は、自分達とAIが実際に行ったことであり、ただの憶測に過ぎない物についても、容姿の特徴が一致している敵新型のパイロットという”資料”がある以上、自分達は違うと説明できる材料が無い。

 隣で俯いていた結衣が絞り出すように声を出す。

 

「私達は……身を守るために敵を倒しただけなのに……」

「それは自分も理解しています。しかも、自分達はあなた達に助けられた。だから信用も出来ます……上の連中は自分達が納得出来る理由が欲しいだけなんですよ……あなた方の無実は、私とカゲヤマ少佐でなんとかしますから、今は……申し訳ありませんが指示に従って下さい」

 

 オレは、スコットの言葉の中に誠実さを感じていた。ストーリーモードに出てくるスコットも、会話の内容は少なかったがどこか誠実さと真面目さ、あと熱さを感じさせるキャラクターだったと思う。

 

「ここはスコットとカゲヤマ少佐に任せよう……オレ達がAIと一緒に暴れたのは事実だ」

「……そう、ね。和哉をお願いします」

 

 スコットは苦しそうに頷くと、近くの隊員を呼び出した。

 

「彼らをカゲヤマ少佐の私室に案内してやってくれ、くれぐれも丁重に扱うんだ」

「え? 独房で無くて良いのですか?」

「彼らは私達の命の恩人だぞ! 本来、カゲヤマ少佐の私室でお待ち頂く予定だったんだ。戻すことに支障は無い。もちろんセキュリティロックは掛けさせてもらうことになるが……」

 

 スコットのこちらを伺うような視線にオレは頷いて答える。スコットが困る必要は無いのだ。彼はオレ達に良くしてくれている。

 スコットから指示を受けた隊員達に連れられて、オレと結衣はカゲヤマ少佐の私室に向かった。

 

 ◆

 

 深く重い海の底のような思考から浮上した俺は、一つの解答を得ていた。それは、心に負った傷を自ら隠す為に到った合理的な答えだと思う。自分の罪から逃げる為かもしれない。

 あの時、どうすればベストだったのか、俺の中で答えは出た。けれど、それはとても困難なことだ。きっと、敵新型に乗っていたパイロットも俺と同じような経験を経てパイロットを極力殺さない戦い方に変わったのかもしれない……それは、もう確認する術を俺は持たないけれど、このことを生かせなければ、敵新型に乗っていた彼にも申し訳が立たないと思われた。

 俺の出した答えは、敵のパイロットを殺さないように敵を無力化することだ。でも、それは自分一人がそれを貫くことが出来ても、味方全員に強要出来る内容じゃない……どうすれば、良いんだ……

 俺は意識の世界で自分の(てのひら)を想像した。俺の手で出来ること、俺だから出来ること……パイロットとしての能力自体はゲームセンターでも中の上程度。カゲヤマ少佐にも及ばない。そんな俺が、敵を殺さず、しかも自分も殺されず、そして味方にも殺させず、味方も殺されない。とてつもない理想と戦わなくてはならない。

 意識が遠くなるような無理難題に頭痛がする気がした。

 俺が出来る。俺だけの力……<三機神>……違う。たしかに俺の力だけど、その力で今回、敵を殺してしまった。俺じゃない誰かを乗れるようにすれば、俺じゃない誰かでも替えが効いてしまう。そんなのは俺の力とは呼べない。どうすれば良い? 敵を殺さない兵器。

 そう、それしかない。

 人を殺した俺は後戻りが出来ない。おそらく、敵の重装甲高火力支援型(イェーガー)にも人が乗っていた可能性がある。けど、これ以上幼馴染の二人に人殺しの十字架を背負わせない。背負わせたくない。その為に、俺は……!

 

 瞼が重い……口には酸素吸入用みたいな管が付いたマスクが取り付けられている。おでこにも電極みたいな物が貼り付けられている。なんだか、体温より少し高い温度の粘性を持った溶液の中に漂ってるようだ。少し強引に瞼を開けると、自分が全裸で人一人がやっと入れるようなカプセルの中、横たわっているのが分かった。

 カプセル内に小さく”ピー、ピー”という電子音がしたかと思うとカプセル内の水溶液が徐々に減っていき、全ての液体が無くなると、心地良い温風が身体を乾かしていく、完全に身体が乾くと蓋がスライドして開けられる。

 俺を除きこむように、水色の服に身を包んだツルツル頭の人が、こちらを見下ろしてきた。

 

「お目覚めですか? 和哉くん、気分はどうです?」

「最高! って訳には行かないですけど、問題無いです」

 

 ツルツル頭の人は、その頭とは違い随分若いような感じが伝わってくる。おそらく三〇代前半、職業的かファッション的に頭をそり上げているのだと思った。

 

「和哉くんのお友達が、何度も様子を見に来ましたよ?」

「そうですか……俺はどれくらい眠ってたんですか?」

 

 ツルツル頭の人は、少し考えるように顎を手で擦ると、思い出したように答えた。

 

「大体、二日とちょっとですね。いやぁ~毎日、この部屋で仕事してると日にちの感覚が無くなってしまってね」

「二日ですか……敵の襲撃は? 何度かあったんですか?」

 

 ツルツル頭の人は、再度考えるように顎を手で擦ると、今度はすぐに答えた。

 

「君が気を失ってからは一度も無いな」

「そうか……良かった……」

 

 ツルツル頭の人は、ニコヤカな笑顔を作ると、俺に制服と下着を渡してきた。

 

「いつまでも裸では寒いだろう。君が着ていた服はこちらで洗わせて貰ったよ。それを着たら、君の友達を呼んであげよう」

「ありがとうございます」

 

 俺は渡された制服を着、近くに置いてあったローファーを履いて、着替えをひと段落させる。視線をツルツル頭の人に向けると、カゲヤマ少佐が使っていたボールペンのような物でパソコンを出現させると、誠と結衣を呼びだしてくれていた。俺はツルツル頭の人に向きなおすと深々とお辞儀をする。

 

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

「いや、何。これも私の仕事だからね。健康が一番だよ……そろそろ、友達が到着する頃だね」

 

 ツルツル頭の人がいう通り、医務室と思われる部屋の扉が開くと、結衣と誠が泣きそうな顔をしながら立っていた。

 

「「和哉!!」」

「誠、結衣、心配かけたね」

 

 二人が俺に飛びつくように抱きついてくる。なんだか二人とも泣いてるみたいだ。

 そんな二人を見てたら、俺の目にもいつの間にか涙が滲んでいた。


 ◆


 俺が気絶している二日間の間に色々なことがあったらしい。

 まず、俺達三人の処遇についてだ。俺達はカゲヤマ少佐の私室で軟禁され、いかなる理由があろうと外に出ることは許可無しには出来ないはずだったらしい。それをAIによるハッキングで脱走、市街地や軍施設を混乱させたことは重罪に当たるということだった。しかし、カゲヤマ少佐とスコット少尉の弁明や、敵の侵略を阻止したという功績も踏まえて、アサルト・コア部隊に入隊することでこれらの罪を免除するということになった。

 俺達は日本自衛軍に入隊することで、それぞれに階級が割り当てられ、基本的にアサルト・コアのパイロットは原則、【少尉】以上の階級という定めになっているらしく、それに従って俺達三人は少尉になった。あと、カゲヤマ少佐が戦線復帰まで時間が掛かることや、先の戦闘での陣頭指揮が評価されてスコット少尉は一つ階級が上がって中尉になった。

 はっきり言って、階級を貰ってもピンとこない。もちろん、そういうアニメが好きだから知識としては分かっているつもりだ。二等兵から始まり、兵、尉、佐、将、元帥という具合に階級は上がっていく。簡単に言うと、こんな高校一年生の俺達に年上の部下が出来たってことだ。しかも、誠から聞いた話、これまでアサルト・コア部隊に配属された最年少記録はスコット中尉が記録した一八歳だったらしく、それを二歳も更新した俺達は異例中の異例ということだった。もちろん、スコットは最年少中尉昇進記録新記録を樹立していたりする。

 

「オレ達、軍属になっちまったなぁ~……銃殺刑よりはマシだけどさ」

「また、戦場に出て戦わなきゃいけないのね……」

 

 誠と結衣が落ち込みながら呟く。

 そう、俺達は軍属になり、アサルト・コア部隊に配属されたということは、指示に従って敵と戦わなければならないということだ。それは、つまり先の戦闘のように戦い、相手を殺さなければならないということだった。

 でも、俺には一つの考えがある。

 

「俺さ、それでも良いと思ってる」

「「え?」」

 

 誠と結衣が驚いたように目を見開く。

 

「また戦場で敵と戦うってことは、敵を殺すってことだぞ?」

「そうよ……私達は既に何人も殺してしまっているとは言っても、知ってやるのと知らずにやるのじゃ大違いよ?」

 

 二人の不安そうな顔を正面で受け止めながら、俺は考えに考え抜いた自分なりの結論を口にした。

 

「俺達は誰も死なない!! そして誰も死なせない!」

 

 ◆

 

 水色を基調とした病棟の廊下を進み、一つの病室の前で立ち止まる。

 俺は二人を連れてカゲヤマ少佐の病室を訪ねていた。それは、着任の挨拶と一つの要望を提案する為だった。

 病室の扉をノックすると、カゲヤマ少佐では無く、低くて少しハスキーがかった女性の声が返って来た。

 

「良いぞ」

 

 扉を開け、深くお辞儀をすると『失礼します』と一声かけてから入室する。

 そこには、カゲヤマ少佐が横になったベッドの脇に、ピンクの光で出来たパソコンのような物を開いたまま佇むアキラさんの姿があった。

 

「カゲヤマ少佐に、着任の挨拶に来ました」

「そうか……しかしな、そう畏まらなくても大丈夫だぞ。この人は、そういうのは好かない。最初と同様に接すれば良い。私も同じように畏まらず接してくれて構わない、回りくどい言い方は好きじゃないんでね」

 

 俺達はお互いに顔を見合わせると、苦笑いを浮かべつつも安堵した。

 

「それは助かるよ。あんまり敬語とか尊敬語とか謙譲語とか難しくて使い分けなんて出来ないからさ。お言葉に甘えて口調は砕けた物にさせてもらいますね。最低限の敬語は使わせてもらいますけど」

 

 アキラさんは、軽く頷いて答えた。心なしか口元が微笑んでいるように感じた。

 俺は視線をベットに横たわるカゲヤマ少佐に向けた。

 すると、アキラさんが丁寧に答えてくれた。

 

「彼の怪我自体は大したこと無いようだ。ただ、ここのところスクランブル発進が連続していたからな。内臓に疲れが溜まっているということで、医者から退院を見送られてしまってね。怪我自体は左足の骨折で、全治一週間ってところだそうだ」

「骨折が一週間で治るんですか?」

 

 誠が少し驚いたように質問した。

 

「キレイに折れていることもあるが、何よりここの医療設備は充実しているからな。手術で直接骨を繋げてしまうことも出来るが、今回のケースでは、そちらの方が逆に退院までの時間が掛かってしまうようだな」

 

 誠が『はぁ~……すげぇな……』と感想を漏らす。

 アキラさんが、思い出したように質問してきた。

 

「そういえば、要望があるとか言っていたな。何だ? 差支えが無ければ、私が代わりに聞いてやるぞ。これでも、それなりの権利は貰っているからな」

 

 俺はアキラさんに話して良い物か少し考えたが、敵戦力に対する調査や、俺達がこちらの世界に呼ばれた原因の特定を行っているアキラさんなら、きっと関係があると判断して、話をしてみることにした。

 

「実は……こちらの日本自衛軍で使用している機体の開発、整備を俺にやらせて貰いたいんです!」


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