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第4話 オーバークロック & ハングアップ

 俺は感触を確かめるように手元のデバイスをイジる。指先が鈍るような感触を振り払うかのように、指の筋を伸ばす。伸びをしようとして狭いコクピットだということを思い出して自重した。

 すでに前線は指揮官機が落とされたことで統制を失っている。自衛軍のスコットが無理な攻めを捨てて、敵新型の動きを牽制し、自機も回避に専念することで新型機による被害は最小限に抑えられているものの、イェーガー八機による猛攻によって<バガン>部隊は壊滅状態だ。

 

「遠距離タイプに対して中距離武器が主兵装の汎用中距離特化型(スカーミッシュ)じゃ相性が悪すぎる! 結衣! あっちの<バガン>部隊の援護に回ってくれ! 俺と誠はスコットの<バガン>を援護しつつ相手を変わる! スコットには前線の指揮代行に専念してもらうことにする!」

「分かったわ! スコットが来るまで前線をキープすれば良いのね!?」

「おっしゃ! 新型が相手か! 腕がなるぜ!」

 

 相手はエース級のカゲヤマ少佐を落としたヤツだ。だけど、先の戦闘を見た感じ、敵の性能はスカーミッシュを元に設計された機体だ。俺の<三機神・スサノヲ>は汎用近距離特化型(アタッカー)だし、誠の<ラグナロク>は重装甲高火力支援型(イェーガー)だ。近接で俺の<三機神・スサノヲ>が注意を向けて、誠の<ラグナロク>で狙撃による支援をすれば十分撃墜可能だろう。

 <ラグナロク>が<グングニール>の出力を絞って敵新型を狙撃する。俺は<三機神・スサノヲ>を全力で走らせて主兵装である<HCMソード>を抜き放った。その剣は全長が<三機神・スサノヲ>の七割もある大剣で、<タケミカズチ>の時に使用していた<アメノオハバリブレイド>を元に再設計を行った武器だ。特徴は、堅く分厚い装甲を切断する鋭さと伸び縮みする刀身である。最小で標準の二分の一、最大で二倍の長さに変化させることができるのだ。

 敵の新型が挨拶代わりに放った誠の一撃を苦も無く回避すると、思い切りのよい突進で誠との距離を一気に詰める。イェーガーである誠の<ラグナロク>は基本的に中遠距離において、その豊富な攻撃力を発揮できる機体であるが、それ故に近接での戦闘能力はオマケ程度しか持ち合わせていない。敵の状況判断能力には舌を巻くものがあった。

 俺は<三機神・スサノヲ>を誠と敵新型の間に割り込ませる。それを読んでいた誠は、割り込むタイミングが分かっていたように牽制射撃を止めていた。

 <HCMソード>を回避しにくい逆袈裟で切り上げる。先のカゲヤマ戦で見せたバーチカルターンを防ぐための処置だ。この<HCMソード>は伸縮自在の刀身がある。最悪、無理矢理バーチカルターンで回避されても刀身を伸ばしながら追いかければ良い。敵新型はバーチカルターンで回避するのでは無く、バックステップで距離を取った。単純にバーチカルターンで俺の<三機神・スサノヲ>の背後を取ったとしても、誠のラグナロクに背中を見せることになる。それを嫌ったのだろう。

 俺と誠に対峙したまま一定の距離を保つ敵新型の間合いは、遠距離武器では微妙に照準が合いにくく、近接武器で突撃するにも距離がありすぎる。そんな絶妙の距離感であった。

 ただ、俺と誠が新型と対峙しているということはスコットには結衣たちの増援として向かってもらうことが出来るということである。俺は敵新型を睨みつけたまま、少し離れた所で敵新型に対して銃を向けているスコットが乗る<バガン>に対して【CALL】した。すると、こちらが話し出すよりも早くスコットの声がスピーカから響いてきた。

 

「こちら<バガン>のスコット。君達はお台場に現れた子達だな!? 出撃許可が下りたのか!?」

「今そんなこと、どうでも良い! スコット、あんたには<バガン>部隊の指揮を取って貰いたい。今<バガン>部隊はカゲヤマ少佐が墜とされて統制が取れていない。結衣が戦線をキープしているが、それも奇襲と機体相性のお陰だ。数で押されたら、すぐに崩れてしまう!」

「ユイ?」

「今、敵イェーガーに近接戦闘を行っているパイロットだ。あの子が時間を少し稼ぐ、今の内に<バガン>部隊を統制しろ。ここは俺達二人で良い」

「……っく。分かった! ここは頼む!」

 

 スコットの<バガン>が踵を返して<バガン>部隊に向けて飛び去る。そうはさせるか、と反応をした敵新型の進路方向に対して俺は<HCMソード>の刀身を伸ばして行く手を阻んだ。

 

「あんたには、俺達二人の相手をしてもらう!」

「和哉! なんだか死亡フラグっぽい台詞だけど、めっちゃカッコイイぜ!」

 

 ◆

 

 レーダーの端を一機の機体がこちらに向けて近づいてくる。イェーガーに対して連続攻撃を当てつつ、ヒット・アンド・ウェイでかく乱戦法を取っていた私は、遠目に見える和哉と誠の戦闘が少し冷静に見えていた。

 スコットが操る<バガン>が味方の部隊と合流を果たした。すでに、統制は整いつつある。私の背後から援護射撃が降り注ぎ、モニターには【CALL】が表示されていた。私は、それに触れると、モニタ―の右上に小さな窓が開き、何度かゲームで見たイケメンが表示されていた。どこの国の人間か分からない、それくらい整った顔立ちに紫のロングヘアそれらを一つに纏めてポニーテールにしている、美青年だ。

 

「こちら<バガン>のスコット。ユイ、援護感謝します」

「いきなり呼び捨て!?」

「申し訳ありません、ユイ様! あちらのお仲間の方がユイと呼んでいらしたので!」

「まぁ~別に構わないけど! 私がこれから一体ずつ片付けていくから、アンタ達は牽制射撃をしながら敵の動きを封じて! さすがに<バガン>に乗ってるスコットじゃ、頼りにしたら悪いしね!」

「? 了解です! 敵イェーガーに対して牽制攻撃を行い、動きを封じます!」

 

 スコットの了解という言葉から一秒も立たないうちに<バガン>部隊から牽制攻撃が降り注ぐ、ちゃんと私に当たらないように配慮している辺り、さすがスコットだ。ストーリーモードで唯一のエースパイロットだけのことはある。

 私は、牽制攻撃をバックに一機のイェーガーに肉薄する。<バガン部隊>が牽制しやすいようにイェーガーの後ろ側に回り込むと<ブラックキャット>得意の連続攻撃を叩きこんだ。

 

「一! 二! 三! ……――……十七、十八!」

 

 敵のイェーガーが爆散する。私は次の標的を視界に捕えて間を置かずに駆けだしていた。

 

「あの装甲が厚いイェーガーを……あんな一瞬で!?」

 

 スコットの驚愕した声がモニタ―から聞こえてくる。そういえば通信切るの忘れてた。

 

 ◆

 

 爆音が聞こえてくる。結衣が敵のイェーガーを撃破した音だ。敵新型から眼は離せないが、先ほどから聞こえていた散発的な銃撃音が雨のように降り注ぐ音に切り替わっている。スコットが統制を取ることで体制を立て直した<バガン>部隊が、結衣の機体を援護する為に弾幕による援護射撃を行っているのだろう。

 

「うひょ~、ありゃたまんねぇな! いくら装甲が厚いイェーガーでも、あんだけ撃たれると反撃も出来ねぇんじゃねぇか!?」

「あっちは大勢が決したな。こっちもそろそろ始めるか!」

 

 俺の声に反応して誠が<グングニール>の出力を少し強くして攻撃を放つ。敵の新型に大きく回避させる為だ。しかも敵新型の気持ち左側を狙うことで、右への回避確率を上げている。

 敵の回避予測方向に<HCMソード>で攻撃を繰り出す。

 しかし、敵新型は既に攻撃を予測していたのか追尾性の無い<グングニール>の攻撃性能を逆手に取って、後方に飛び上がるように回避すると、そのまま俺と誠を無視して、結衣がいるイェーガー部隊のところに向かった。

 

「しまった! 結衣、そっちに敵新型が向かうぞ!」

 

 俺と誠が急いで敵新型を追いかける。しかし、敵新型は空中適正が高く、速度もかなり早い。対して俺の<三機神・スサノヲ>は空中適正は並みであり、地上適正を高めに設定してある。誠も同じような設定の為、敵新型との距離はぐんぐん離されてしまう。

 敵新型が結衣の<ブラックキャット>に対して有効射程距離ギリギリからの狙撃を放った。

 結衣はイェーガーに攻撃を集中しつつ、スコットと連絡を取っているのか俺の言葉に気付いていない。

 <ブラックキャット>の右足に着弾する。<ブラックキャット>は近接高速戦闘用に軽量化と柔軟性を重視した結果、装甲は薄く敵の攻撃に対する防御力は無いと言ってもいい。<ブラックキャット>が右足を失って横転する。

 

「結衣ぃい!!! 貴様ぁあああ! やらせねぇよ! <イザナギ>! モード<ツクヨミ>だ! 早くしろ!」

 『マスター、了解だぜ! <ツクヨミモード>変形指示確認。変形プログラム起動、コード<静かなる宵闇>』

 

 高速移動中の機体がその慣性を維持したまま、その姿を三つに分けると、再度一つに交わる。

 複雑な素体構成が、外側の装甲板と連動して新たな形を作る。

 真っ黒な機体から、漆黒の夜空に浮かぶ真っ白い月のような、幻想的で神秘的な中に微かに感じさせる鋭さを持った輝きを放つ機体へと変化していく。

 その姿は、女性的なフォルムでありながら<アマテラス>のような柔らかいイメージは無く、どこか死神を連想させる物だ。

 

 『マスター、変形完了したぜ!』

 『マスター、変形所要時間は――』

「そんなのは後だ! 間に合えええええ!!!」

 

 <三機神・ツクヨミ>の空中適正は三形態中で最高に設定されている。そして運動性能はアサルト・コアの設計上、運用時間に制限が掛かる程に偏った設定になっていた。

 アサルト・コアというゲームは搭乗者の疲労度や耐久力が全搭乗者一律同値の値が設定されていて、それらの数値と機体の限界値を相談させながら設計していく仕様になっている。俺の<ツクヨミ>は、運動性能を搭乗者の疲労度・耐久力を著しく消耗することを犠牲にし、アサルト・コアで出される速度の限界に挑戦した機体なのだ。

 モニターの上下に【ALERT】の文字が点灯し、警告音がコクピット内に響く。

 <三機神・ツクヨミ>が空気の壁をぶち抜いて、更に加速する。

 モニターの中心以外は色の付いたスピード線のように変化していた。

 とてつもないスピードの中、俺は<三機神・ツクヨミ>の主兵装を<実体剣・単分子カッター>に変更する。

 それは、このスピードの中で敵新型を銃で打ち抜く技量が自分には無いことを理解しているからだ。

 目の前に敵新型が迫る。

 

「<イザナミ>! 慣性除去装置全開! 早く!」

 『マスター、了解です!」

 

 俺は敵新型の胴体へ叩きつけるように剣を振るうと、急停止を行った。慣性除去装置が無ければ、俺は身体の中身がひっくり返るほどの衝撃を受けていただろう。

 代わりに音速を超えたスピードで迫った際の衝撃波は大きな空気の塊となって敵新型を叩きつけていた。

 敵新型は切りつけられた胴体が寸断され、続いて発生させた衝撃波の影響を受けて吹き飛ばされていた。

 

「結衣! 大丈夫か!? 結衣!!!」

 

 少しの間を置いて、モニターに結衣が表示される。

 

「へへへ、遅いよ。和哉」

「わりぃ」

 

「結衣ぃ~!! 大丈夫かぁ~!?」

 

 なんとも気の抜けた声を掛けて来た、もう一人の幼馴染に二人揃って苦笑いで応えてやることにした。

 

「誠、遅過ぎ!」

「いやいやいや、和哉の機体が早すぎるんだって! 明らかに音速超えてたからね! あんな戦闘機みたいな速度、人型で出せるわけ無いから! むしろ、あんな速度出して和哉の方が心配になるし! オレら生身の体で戦ってるんだぜ!? ゲームの時みたいに、耐久力や疲労度はただのステータスじゃないんだからな!?」

「そういえばそうよ! 和哉あんた身体大丈夫なの!?」

 

 誠の発言で途端に心配になったのか、最初に心配してくれた誠よりも明らかに結衣の声が大きい。

 

「あはは~、実際かなり気持ち悪いかな。でも、大丈夫! 俺が作った慣性除去装置をフルパワーで使ったから」

「なら良いんだけど……基地に戻ったらお医者さんに見て貰おうね?」

「そうだぞ! 車の事故なんかでも、あとから痛いところが出てくるって言うからな」

「……分かったよ。戻ったら、カゲヤマ少佐にお願いしてみる。残りのイェーガー部隊の方も、スコットの指揮で<バガン>達だけでなんとか撃破出来たみたいだな。新型の方は?」

 

 俺が視線を敵新型が吹き飛んだ方向に向けてみると、上半身だけになった敵新型が少しだけ動いているように見えた。

 

「……敵の新型はまだやれるみたいだな。上半身しか無いけど」

「敵を知っとくのも悪くないんじゃないか? 動けるなら、パイロットは生きてるんだろう?」

「そうだな……よし、俺と誠で見てくるから、結衣はスコットに連絡を入れてくれ」

「はいはい、私はここで留守番ね。早く戻って来なさいよ?」

 

 俺と誠は、モニター越しにサムズアップで応えると機体を敵新型の上半身が転がる場所へと走らせる。

 敵新型は下半身を失った為、|匍匐前進≪ほふくぜんしん≫のように動きながら自らの下半身のもとに向かっていた。

 

「もしかしてコイツ、下半身のとこまで行ってカスタマイズ修理するつもりなんかなぁ~」

 

 誠の推測は恐らく間違っていないと思う。まだ俺達がつくばのゲームセンターで遊んでいた時、戦闘中に機体の修理をすることは何度かあったからだ。損傷具合によってメンテナンスに掛かる時間は様々だが、俺の<タケミカヅチ>が左腕を吹き飛ばされた時で九〇秒という時間が掛かった。おそらく、その一〇倍は掛かるのではないかと思われる損傷具合だ。戦闘中に九〇〇秒という時間を無防備に晒すという愚行、しかし機動力の無い現在の状態では、帰還することもままならないからこその行動なのだろう。だが、それは投降する意思は無いと言うことと同義だ。

 俺は<三機神・ツクヨミ>が装備している<単分子カッター>を敵新型に向けると声を張り上げた。

 

「投降しろ! 言葉が通じるならハッチを開けて姿を見せるんだ!」

 

 しかし、敵新型は依然として自らの切断された下半身に向かって匍匐前進を続けている。

 それを見ていた誠が疑問を漏らした。

 

「やっぱ、言葉通じねぇのかな? ってか、そもそも人なんて乗ってるのか?」

「コクピット抉じ開けてみるか?」

 

 俺は誠の呟くような言葉に対して応えると、ハッチをもぎ取るようにしてコクピットをこじ開ける。

 そして、そこには見たことも無いデザインだが、しかしハッキリと、それと認識出来る物を身にまとった姿が俺の目に飛び込んできた。

 <三機神・ツクヨミ>の手から、もぎ取ったハッチが音を立てて地面に落ちる。

 

「どうしたんだ? 和哉?」

 

 誠が訝しむように敵新型のコクピット内を覗きこんだ。俺は口の中が急速に乾いていくのを感じていた。

 

「? 人間!? 日本人か!? ってか待てよ……あの着てる服は、見たことねぇけど、制服か!?」

 

 手が震える、口を動かしているのに言葉が出てこない。何故だろう、凄く息苦しい。制服のネクタイを緩めてワイシャツの第ニボタンまで振るえる手で悪戦苦闘しながら開ける。何故だ……冷や汗が止まらない。なんで? なんで? なんで? なんで?

 誠が小さな声で呟いた。

 

「コイツ……死んでるのか? 匍匐前進を続けてるのは……この敵新型のAIが自立行動でやってるのか?」

 

 誠の言葉が途中からよく聞き取れない……死んだ? 殺した? 誰が? 俺が? 俺が日本の学生をコロした? 俺の中の何かが壊れる音がした。

 

「うぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」

「どうした!? 和哉ぁあ!!!」

 

 誠の問いかけを最後に俺の意識は、現実を拒絶するかのように閉ざされていった。


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