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第3話 セキュリティホール

 俺は、小学生の頃に遠足で筑波の宇宙博物館へ行ったことを思い出していた。当時の俺は、『宇宙だ! ロボットだ! 宇宙コロニーだ!』などと、迂闊にもハシャギまくり、家のお土産と自分の為に、持ってきたお小遣いの許す限り宇宙食を購入してしまった。しかし、俺の味覚にとてつもなく合わなかったのだ。しばらく母からオヤツとして、それが出された時期があった。それも……無くなるまで。認めたくない物だ、自分自身の若さゆえの過ちという物を…………なぜ、そんな話をイキナリ始めたのかと言うと、カゲヤマ少佐に御相伴させて貰った料理と言うのが、まさにソレと同じような味だったからだ。見た目も匂いも凄く美味しそうで、ちゃんと”サバの味噌煮”や”味噌汁”、”炊きたて風ご飯”などの純和食で提供された晩御飯だったのだけど、味が保存食のそれなのだ。七五年後だと言うのに、味についてはクオリティが激下がりしている。これはもしや、人類の舌は退化してきているのでは無いか? そんなことを考えていた。

 俺が感じていることは、幼馴染の二人も同様に感じていたようで、耐えかねた結衣がカゲヤマ少佐に逆の意味で『コックを呼べ!』とでも言いそうなくらい、青筋を立てて質問を始めた。タダ飯食わせて貰ってるのに態度がデカイと思ったけど、俺としてもこの味は正直キツイので原因が知りたい。最悪、厨房と食材を貸して貰えれば、俺でももう少しマシな料理が作れるという物だ。気持ちの中では、結衣を心から応援しつつ、表面上の態度では結衣に少し抑えるようにジェスチャーする。そう、俺は世渡り上手なのだ。本音と建前を使い分けてこそ、この就職氷河期を生きていけるという物だ。

 

「なんで!? 和風の食事で手作り感が伝わってくるのに、こんなに保存料のような味がする訳!? 今時、缶詰開けただけだって、まともな料理が出てくるわよ!?」

 

 まさに俺が言いたかったような事を丸々言ってくれた幼馴染に感動の拍手を送ってあげたい物だ。もちろん、実際は興奮して立ち上がった結衣を宥めてソファに座るように促している訳なんだが。

 俺が座るように促すと、あまり抵抗もせずに結衣はソファに腰を落ちつけていた。もちろん表情については悪鬼羅刹の如くって感じなんだけど。ってか、どんだけ食べ物の恨みは怖いんだよ! あんま料理上手く無い俺が作った料理だって、結衣はこんなに激怒し無いぞ! 俺の手をまな板の上に開いて置いて、果物ナイフで指の間をカッカッカッ!って突き刺す、昔遊んだ遊びをほんの三○秒満面の笑顔でやられるだけで済むぞ! ……あれ? 俺の方が明らかに……いや、何でも無い……気付かなかったことにしよう。

 カゲヤマ少佐は苦笑いを浮かべると、困ったような口調で話し始めた。

 

「”ヤツら”が攻めてきてからというもの、まともな流通はストップしてしまいましてね。プラントで季節も関係なく大量に作られる農作物も、物流が止まっては宝の持ち腐れという奴でして……近くの海で採取される海中プランクトンを洗浄し、加工することで実物にかなり近い味にすることは出来ているのですが、所詮プランクトンですからね……栄養価はあっても味は偽物です……」

 

 カゲヤマ少佐の話によると、お台場で俺達を襲ってきた”ヤツら”が原因で、ここの人達はまともな食事をすることが出来ないってことだ。しかし、技術の進歩ってのは凄いな、海中に漂うプランクトンって、ジンベイザメとかが食べてるヤツだろ? その海中プランクトンっては、植物性や動物性のもいるから、栄養価については問題が無いらしい。あれを基にして、見た目も味も実物にそっくりに出来ちゃうってのは、未来の話だ。あ……一応、未来なんだっけか。

 俺達がカゲヤマ少佐の水槽談義を、なんとか別の話に逸らしながら食事を終えると、一人の白衣を着た”いかにも”な気難しそうなメガネ女性が入ってきた。緑の髪は長く伸ばされ天然なのか軽くパーマが掛かっている。リムレスのメガネを掛け、少し濃いめの口紅の色が印象的な美人だ。スタイルは若干細すぎる感はあるけど、出るとこは必要最低限出ている印象を受ける。まぁ~白衣の所為でよく分からないんだけどね。

 

「ん? アキラ、何か分かったのですか?」

 

 カゲヤマ少佐の発言で、(くだん)のメガネ美女は<アキラ>という名前だということが分かった。中性的な名前から、俺の脳では勝手にツンデレキャラが設定された。これでツインテールにでもしていれば、ガチだろうが……まだ声も聞いていない。判断は少し先に延ばすとしよう。

 <アキラ>と呼ばれた女性が、胸元からカゲヤマ少佐も使用した金属のボールペンのような物の先をノックすると、先ほどと同じようにピンクの光で作られたノートパソコンのような物が浮かび上がった。

 

「これを見て欲しい」

 

 なるほど、中々女性にしては低くて少しハスキーがかった声だ。これは未成年の時からロックバンドでシャウトし続けてきたか、タバコを愛用していたに違いない。見た目から察するに前者だと俺は勝手に確定させた。あんなに細いのに病的な細さを感じさせないからだ……ん? あれ? 待てよ……ロックバンドってのは、俺の勝手な偏見だが、常にタバコを咥えて『ぷっかぁ~』としているイメージがある。これは、どちらも正解という可能性が出て来たぞ……参ったな。

 

「「和哉、それはある意味どうでも良い」」

 

 俺の心の声が完全に幼馴染にはダダモレだぜ! 昔見た、思っていることを周囲の人間に知られてしまうという能力、というか呪いのような物を持った主人公の映画を思い出した。もしかして、俺って……その主人公と同じことになってるんじゃ――

 

「「ちがう、口から洩れてる」」

 

 ――どうやら俺の心の声が、心の中に留まることを知らず、口から飛び出していたらしい。どうやら”この世界”に来て俺は精神的に結構来てるのかも知れない。もうダメだな。これで俺は落ち込んで、部屋に引きこもり、敵が来ても出撃せず、艦長に殴られて『親父にも!――』とか叫んじゃうんだ。そうに違いない。

 

「それは楽しそうだな。名シーンだ」

「何の事だか、サッパリ分からないわ!」

 

 あのシーンだと直ぐに分かる辺り、さすが誠だと言わざるを得ない。というか、そろそろ俺の心の声が口から出ることを止めさせなければ、高校一年生の男子たる者、何時如何なる時に放送コードに引っかかる内容を妄想しかねない。このままの状態で、そんなことに遭遇したら、俺のアイデンティティは脆くも崩れ去ってしまうだろう。今のはちゃんと意識して口を閉ざしていたぞ! これなら、もう誰にも俺の考えを聞かれてしまうことは無い。

 無理矢理口を閉ざしながらニヤけている俺の表情を見て、軽く引いている幼馴染二人の事は、俺の鍛え抜かれたスルースキルによって完全に回避しておくことにする。

 そんなどうでも良いことを話していると、カゲヤマ少佐が神妙な面持ちでこちらにやってきた。アキラさんを引きつれて。

 

「君達、大変なことが分かりました。もしかしたら、君達がコチラに現れた理由かも知れない……いや、時期や場所を考えるに、その可能性は高いと思われます」

「君達が現れた、お台場海浜公園周辺では”ヤツら”の新型兵器が先ほどの開戦直前に使用されているのだ。というかあの時こちらが、あれだけの数を揃えて出撃した一番の要因と言っても過言では無い」

 

 俺達三人と彼ら二人の温度が、まったく違っていた状況から一気に同程度の温度に落ち付いたことを肌で感じた。

 

「新兵器というのは?」

 

 誠が神妙な面持ちで二人に問いかける。

 少し考えた素振りをするアキラさんに頷いて応えるカゲヤマ少佐。

 意を決したようにアキラさんが言葉を発する。

 

「我々は『次元砲』と呼んでいる」

 

 なんとも中二病の匂いが漂うネーミングだ。誰だ、そんな名前付けたのは、そんな奴が某掲示板でそんなことを言ったら一発で『中二乙』とか言われてしまうぞ!

 俺の心の声はどうでも良いと言わんばかりに話は順調に進んで行く。

 

「その『次元砲』ってのを使われたから、私達は”コッチの世界”に来ちゃったっての?」

「ちょっとオレには考えにくいですねぇ~」

 

 結衣と誠の返答に少し困った顔を見せるアキラさんとカゲヤマ少佐。

 

「しかし、データを見る限りでは、その可能性が一番高いのだ。」

「何にしても、君達は”ヤツら”があの『次元砲』を使用した直後に現れたんです。それは事実の一つとして受け止めましょう。今は何も手掛かりが無いのですから……」

 

 カゲヤマ少佐が話をまとめようとした、その時。

 基地の奥深くにいるにも関わらず響いてくる大きな振動に、俺は思わず尻もちをついた。誠は何とか立ったままの姿勢を維持していた。結衣もである。というか転んだの俺だけだった。大きな水槽の中で揺れる水に揺られている魚達が目に付いた。なんだか、魚がみんな俺を見ているような気がする。

 なんとなく気恥ずかしい気がして、恐らく赤くなっているであろう表情を隠しながら立ちあがると、お尻の埃を払った。気を取り直して、一つ”コホン”と咳をして、拳を握りしめて声を張り上げた。

 

「今のは一体なんだ!?」

 

 色々突っ込みたいこともある。と言わんばかりの幼馴染達の脇で、ノートパソコンのような物を除きこんでいた大真面目な顔をしたカゲヤマ少佐が口を開いた。

 

「て、敵が次元砲を使用した……」

 

 それを聞いた俺達は驚愕の表情を浮かべた。

 

「どういうことですか!? さっきの戦闘から、まだ二時間とたっていませんよ!?」

「だが事実だ」

 

 誠の問いかけに、事実のみで応えるアキラさん、俺こういう人苦手だ。

 カゲヤマ少佐が脱いでいた上着を手に取ると、手慣れた手つきで素早く身に纏う。

 

「これから我々は『次元砲』の奪取または破壊を行います。君達はここで待っていてください」

 

 カゲヤマ少佐の一言に俺達は再度驚愕した。

 

「何故ですか!? オレ達の戦力なら楽勝だぜ!」

「そうですよ! 私達が戦えば!」

「…………」

 

 俺は、俺は二人の熱意に押されて『俺は戦いたく無い』という言葉を飲み込んだ。さっきのお台場の戦闘こそ、敵が劣化版の初期設定兵器ばかりだったのに対して、今は敵の新型兵器がこちらを狙っているのだ。

 敵の戦力が分からないのに命を掛けるのは、余程の豪傑か、蛮勇以外の何物でもない。今はゲームの時とは違うかもしれないのだ。ゲームの時ならば、敵に敗れても、賭けたクレジットを失って、また機体も復活すれば、プレイヤ本人に対するペナルティも基本的には発生しない。発生しても金銭だけだ。だけど、今はそれがどうなっているのか分からない。もし、敵の攻撃によって死んでしまったら? そのまま死んでしまうかもしれない。もしかしたら”元の世界”に帰れる可能性もあるだろう。だけど、それを試すのは、あまりにもリスクばかりが勝ち過ぎている。今のオレ達に出来る最善は、とりあえず”死なないこと”だ。そう考えた時、俺達はなるべく戦わない方が良いということになる。

 そんな俺の考えに沿うかのように、カゲヤマ少佐が幼馴染たちの発言に対して否定の言葉を口にした。

 

「ありがたい話ですけど、君達はこの部屋から出ることが出来ないのです」

 

 カゲヤマ少佐の言葉に俺は驚愕する。

 

「トイレとかどうするんですか!?」

「部屋に備え付けの物があります」

 

 一蹴された。

 

「貴方達の戦力で、新兵器を含めた”ヤツら”に対抗出来ますか?」

 

 誠の信を突く質問に、言葉を詰まらせた様子のカゲヤマ少佐。

 

「しかし、君達の疑いが完全には晴れていない……私がいくら弁護したところで、それは変わらないでしょう……この基地は私が守ってみせます。だから安心して見ていてください」

 

 カゲヤマ少佐は部屋の壁に備え付けられていた大型モニタに外の様子を表示させると、アキラさんを連れて出て行った。

 俺達は、すでに戦場となっている東京湾の様子を見つめることしか出来なかった。

 

 ◆

 

「敵の戦力は!?」

 

 パイロットスーツに着替えながらカゲヤマが近くの兵士に対して、問いかける。

 

「敵は重装甲高火力支援型(イェーガー)が八機! 新型と思われる見慣れない機体が一機です!!」

「数は大したことないですが……その新型……気になる。機体の判別は出来ないのですか?」

「はい、残念ながら……全く新しい機体ですので……」

 

 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる兵士を見て、ニコやかな笑顔を浮かべるカゲヤマ。

 

「大丈夫ですよ。私が、どんな敵でも倒してきてみせます」

 

 兵士の心中を察しての発言は、この兵士の中に目覚めさせてはならないバラの火花を灯してしまったことを、罪作りなカゲヤマは気付かないのだった。

 正座した形で、自らの主の帰りを待つ愛機<汎用中距離特化型(スカーミッシュ)・リガン>に、カゲヤマは身軽に飛び乗ると機動チェックを掛けていく。

 そのコクピットは和哉達が駆るアサルト・コア同様に全天周囲モニタを使用した物だ。

 

『おかえりなさいませ、ご主人様』

 

 モニタの右下にメイドの格好をしたAIイメージが表示される。それは、栗色の長い髪を大きな白いリボンで、ツインテールに結んだ愛らしいAIマスコットだ。

 

「ただいま、<アイリス>これから戦場に向かいますよ。ミリタリーモードで各種起動お願いします」

『喜んで、ご主人様!』

 

 <アイリス>の返答後、ほんの一○秒程で戦闘態勢での起動を終える。特別なカスタマイズをせずに、この速度を捻りだすには、そうとうAIに学習を施す必要がある。

 カゲヤマが駆る<リガン>がリニアカタパルトへと一歩一歩踏みしめるように進んで行く。赤い『READY』のランプから、緑の『GO』のランプに切り替わった。

 

「ナガレ=カゲヤマ少佐、<リガン>。 出ます!」

 

 リニアカタパルトから弾き飛ばされるように大空へと飛び立つ<リガン>右手に装備した中距離で絶大な威力を発揮するアサルトライフルを腰溜めに構えて、左手に装備した中型の盾を前方に出し、そのまま敵陣に向かう。

 <リガン>同様にリニアカタパルトから射出された後続機が<リガン>を先頭に菱型陣形を取る。後続は<劣化版汎用中距離特化型(スカーミッシュ)・バガン>が八機だ。

 

「各機、敵はイェーガーが八、新型が一だ。先にイェーガーを撃ちます! <バガン>三機で二チームを作り、一体を集中攻撃。撃破した後、直ちに次のイェーガーに移りなさい! 新型は私がやります! スコット機はついて来て下さい!」

 

 <リガン>が速度を増して、新型に迫る。敵の新型は、手に持っていた長物の近接武器をクルッと回して持ち替えたかと思うと、一見槍のように見える武器が姿を変えてライフルのようになっていた。そして、放たれる強力な銃弾。

 <リガン>を急速上昇させて回避行動に移る。相手の新型の攻撃は、あきらかに『挨拶代わりだ』とでも言いたげな程、狙いが甘い。<リガン>も手に持ったアサルトライフルで射程距離外にも関わらず牽制射撃を放った。

 敵の新型は、これを難なく回避する。敵の新型までの距離を詰めた<リガン>が、ココからが本番だとアサルトライフルの照準を敵新型の合わせて攻撃を開始した。

 お互いに有効打撃を与えられないまま、一定の距離を保ち、時に接近、離脱、回避、牽制とスキの無い攻防が繰り広げられていた。援護についている僚機の<バガン>も<リガン>の攻撃の合間を縫う形で上手く援護してくれている。

 揮発性反重力物質を撒き散らしながら、輝く光の道を描き出す両者の戦いは、これを戦いと認識していない者が見れば、一種の芸術にも見えていたことだろう。

 およそ三分ほど続いた攻防で、<リガン>のアサルトライフルが再装填(リロード)を求める。それを自動で回復させるAIの<アイリス>は極めて優秀と言えるだろう。中型の盾を使って手元を隠しながら再装填(リロード)を完了させる。

 しかし、その隙を敵の新型は見逃さなかった。再度、長物の武器を回転させると、先ほどとは少し形状の違うライフルのような物に変わる。そして、放たれる攻撃。

 ライフルのような形状にも関わらず、放たれたのは銃弾では無く、ミサイルであった。しかも簡易誘導式だ。先ほどと同じ直線運動をする銃弾だと思い込み、上昇回避を取っていた<リガン>は左足に被弾する。その衝撃で翻筋斗(もんどり)を打って東京湾に着水、水上を転がるように転倒する。

 

『ご主人様、<リガン>左足損傷・損害大。基地での修理を申請します』

「カワイイ私の<アイリス>。今は耐えておくれ! まだ()れます!」

 

 ◆

 

 <リガン>のスラスターが揮発性反重力物質を勢いよく噴き出し、海水から空高く舞い上がる。

 手に持ったアサルトライフルの射程距離にまで迫っていた新型に対して牽制の射撃を放つ、しかし牽制とは言いつつも全てが着弾コースだ。そのいずれも軽々と避けていく新型機。

 その様子をカゲヤマの私室のモニタで見ていた誠が言葉を漏らす。

 

「カゲヤマ少佐の腕は悪く無い、オレ達がゲーセンで普段戦ってる中に入れても、上の下と言ったところだろうな……だけど、機体の性能が違いすぎる……特にAIだ。他の味方機に比べて、まだ動きが良いところを見ると、AIも日本自衛軍の中では高レベルの物なのだろう……だけど、敵の新型は、プレイヤレベ……!」

 

 そう誠が言葉を漏らした瞬間、敵の新型が見せた動きは、誠の言葉を止めるのに十分な衝撃があった。カゲヤマが中距離から一気に距離を詰めて、盾に隠してあった近距離武器であるサーベルで、攻撃を横なぎに払った瞬間、敵の新型が宙返りに半捻りを加え、<リガン>を飛び越えて回避したのだ。カゲヤマの後ろを取った形だ。

 誠の驚きと同様に俺も驚愕の台詞が口から出ていた。

 

「あ……あれは! バーチカルターン!? ゲーセンでも中々見ない高等テクニックだぞ!?」

 

 敵の新型がカゲヤマの<リガン>を後方から容赦なく斬りつける。その剣線は、武器を持った右手と、残った右足を切断する物だ。敵の新型はカゲヤマをなぶり殺しにするつもりなのだろうか。そう俺が考えた瞬間、敵の新型はカゲヤマの<リガン>を一瞥すると、置き去りにして自分の僚機であるイェーガー達の援護に飛んで行った。それを必死で追いかける<リガン>の僚機である、スコットの<バガン>だが、そもそも運動性能に大きな違いがあって、置き去りにされていた。

 

「カゲヤマ少佐……見逃して貰ったのかな?」

「なんだか興味を無くしたような感じだったけど……」

「でも、マズイな。オレ思うんだけど、あの動きをみる感じだとカゲヤマ少佐って、この日本自衛軍でエース級だったんだろ? 負けちゃったってことは、このまま敵はコッチの主要施設に向かってくるってことじゃないのか? スコットの腕が良くても量産機に毛が生えた程度の性能じゃ……」

「「あ……」」

 

 誠の言葉が切っ掛けになったのか、基地が大きく揺れる。小さいが音も響いてきた。

 

「この揺れは!? 敵のイェーガーが放つ遠距離攻撃だ。たぶん、クラスター爆弾の機能を搭載したミサイル攻撃だ!」

 

 部屋の電気が点滅し始める。点滅する光源によって恐怖が増強される。途端に結衣が泣き崩れた。

 

「私まだ死にたく無い!」

「お、落ち付け!」

「こんな所で死ねるかよ!!!」

 

 俺は入口の扉を蹴りつける。しかし、扉はビクともしない。思いっきり引っ張ったり、部屋にあった椅子を取ってに引っかけて梃子(てこ)を使って開けようとするも、やはり微動だにしない。

 俺が諦めかけたその時、戦場を移していたモニタの画面が切り替わった。

 

『マスター、俺と会えなくて泣いてなかったか!?』

『マスター、助けに来ました』

『誠様、私に感謝して下さいね』

『結衣ちゃん、私の魔法で連れだしてあげるわよ!』

 

 その声は、俺達アサルト・コアで補助を行ってくれるパートナー達だった。俺のAI、太古の日本人のような格好をした三頭身の少年少女<イザナギ><イザナミ>、誠の北欧神話の女神で際どい格好をした五頭身の<フレイ>、結衣のは、俺達が小学生の頃に女子の間で流行った、黒猫を連れた魔法少女をイメージした四頭身の<リリカ>だ。

 俺はとりあえずの疑問を口にした。

 

「お前ら! どうやってここまで!」

『マスター、ここまではこの施設のネットワークを使って来たに決まってるじゃないか』

『マスター、私の手に掛かれば、このくらいのセキュリティは何てことありません』

 

「<フレイ>! ここの扉を開けてくれ!」

『誠様の頼みですもの、今すぐに』

 

 誠の指示に従った<フレイ>によって、カゲヤマ少佐の私室に掛けられたセキュリティロックが外され、扉がスライドして開け放たれた。

 

「でも、ここまで車をかなり飛ばしてきたんじゃない! ここからどうやって格納庫まで行くのよ!」

『結衣ちゃん、私の魔法なら簡単よ! えいっ!』

 

 カゲヤマの私室の目の前に乱暴な運転で、来た時と同じ形の車がドリフト気味に停められた。

 

『それじゃあ結衣ちゃん、私達は途中の機械を混乱させながら、来るのを待ってるから!』

『私の誠様に無礼を働いた者には、お仕置きを与えなくてはなりませんね……』

『マスター、早く出ようぜ!俺、戦いたくて、しょうがねぇよ!』

『マスター、お待ちしております』

 

 俺達は、カゲヤマの私室を飛び出すと少し斜めに止まっている車に飛び乗った。モニタに先ほどと同じ案内の女性が映し出される。

 

『ご希望はどちらになりますか?』

「格納庫!」

『かしこまりました。到着予定時間を設定しますか?』

「今から五分以内で!」

『かしこまりました。かなり急ぎますので、シートベルトを着用して下さい。それでは発進します』

 

 一通りのやりとりを終えたモニタの女性がそういうと車が、先ほどと同じように誰が運転するでもなく音も出さずに走り出した。発車時の慣性も特に感じることもなくスピードを上げて行く。

 さっき来た道を猛スピードで走り抜ける。交差点などもあるが、完全に制御された車には”赤信号”のような物は存在せず、お互いに縫うように相手の間を走りぬけていく。あまりに速い為、俺達に周囲の様子が詳しく分からなかったが、どうやら俺達のAIたちの悪戯によって混乱が生じている。敵の攻撃が近くに迫っていることもあって、格納庫に近づくにつれて、混乱の波は大きくなっていた。

 俺達は格納庫に到着するや否や、車から身を低くしながら飛び出し、色々な物の陰に隠れながら自分の機体に近づいた。

 既に機体に戻ってきたAIの自動操縦によって、機体の手を使ってコクピットのハッチまで持ち上げて貰い、乗り込む。

 シートに飛び乗り、ベルトで身体を固定する。

 手元の携帯ゲームの電源を入れて、手元のコンソールの電源も入れる。

 モーター音のような甲高い音を伴って、全天周囲モニタに外の様子が映し出された。

 

「<イザナギ><イザナミ>、発進準備だ」

『マスター、分かったぜ! ミリタリーモードで起動!』

『マスター、了解です。各種システムオールグリーン。<三機神・スサノヲ>発進できます』

 

 俺は手元の操縦桿とフットパネルを確認する。手元のコントロールパネルで、結衣と誠を呼び出すと、同じように発進準備が完了していた。お互いに頷いて確認し合う。

 <三機神・スサノヲ>が一歩一歩踏みしめるように格納庫を進む、すでにセキュリティを掌握していたAIによって使用出来るようになったリニアカタパルトへ向かった。赤い『READY』のランプから、緑の『GO』のランプに切り替わる。

 

「<三機神・スサノヲ>発進する!」

 

 <三機神・スサノヲ>がリニアカタパルトを弾けるように射出される。

 

「命懸けはご免被るけど、何もせずに死ぬのは主義じゃないんでね! さぁ! 楽しいゲームの時間だ!」


 <三機神・スサノヲ>が東京湾の海上を反重力物質を巻きながら、光の尾を引いて飛ぶのだった。



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