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諦め

 璦奈は、さっきよりも少し表情が和らいだ気がする。

 

 ずっと黙ってて…だれにも言えずの看病、しんどかっただろうな。

 

 さらに、自分の妊娠もあるし…

 

 

 璦奈は、当たり前のようにこっちだよと道案内してくれた。

 

 そして…

 

「ここがね、透くんの病室」

 と。

 

 …

 

 マジかよ…

 

 

 誰もいない病室…

 

 そして、透のバッグに透の好きな本が置いてあった。

 

 

「わたしね、おばあちゃんのお見舞いにきてて、そこで透くんと会ってね。おばあちゃんと同じく検査にきてて…会ったその日、結果がわかったみたいで…」

「透…癌だったんだ。」

「うん…それで、わたしも昔…小児癌だったでしょ?だから…辛さがわかってさ…透くんは、だれにも言わないでほしいって言って…だから…慰めたりしてね…慰めかた上手くわからなかったけど…とりあえず付き添ったりしてさ…あと、わたし…寮梧にもどう接したらいいかわからなくなっちゃってね。言わないでって言われて…だから…」

 

 

 璦奈は昔、小児癌だった。

 

 この病院で、治療していた。

 

 

 だから、癌の辛さがわかるってのは知っているし、気持ちもわからなくないけど…

 

 でも、なんでそこで妊娠するんだよ‼︎

 

 どんな慰めかたしてんだよ‼︎

 

 透…元気じゃんかよ‼︎

 

 

「璦奈は…どうすんだよ」

「わたしは…できれば寮梧と透くんには、仲直りしてもらって…」

 

 …

 

 仲直りか…

 

 透が大変なのに、意地なんか張ってる場合じゃないよな。

 

 

 

 

 

「え…寮梧じゃん…」

 

 力なく後ろから車椅子に乗った透が、看護師さんに連れらてやってきた。

 

 

「透‼︎なんでこんな大事なこと黙ってたんだよ‼︎」

「ちょ…寮梧…落ち着いてよ…」

「あー…、ここ病院だったな。すまない」

 

 …

 

 看護師さんが、淡々と透をベッドに寝かせた。

 

 

「なぁ、寮梧…」

「なんだよ」

「オレ…全国大会…マジでいきたかった。」

「あぁ」

「ごめんな」

「…仕方ねーじゃん」

「あと…璦奈がずっとオレに付き添ってくれて…なんなら、検査とかしてくれてよ。適合しなかったけどさ、でも…お前らってやっぱり似たもの同士のおひとよしだよな。やっぱりお似合いだわ。あの世から結婚式出席してやるよ」

 

 …

 

「そんなこというなよ‼︎生きろよ‼︎てか、透…璦奈に失礼すぎんだろ」

 

 …

 

「…ムリだ。確かに璦奈には、メンタル的に救われた部分もあるけど…もう寮梧にもバレたしよ…どうせもう、適合するやつなんていないんだ。医者がたぶんみつからないって…だからオレはこのまま死ぬんだよ。笑えよ、お前なんにもねーなってさ」

 

 …

 

「笑えねーよ。てか、諦めんなよ‼︎オレがいるじゃねーかよ‼︎」

「…え?」

「適合、オレがしてみせるよ‼︎」

「フッ…ムリだよ。血液型ちげーし」

「お前知らねーの?血液型違くてもいける場合があんだぞ?」

「そうですね」

 

 看護師さんが、そう言ってにっこり微笑んだ。

 

「検査、してみます?」

 看護師さんにそう言われてオレは、迷いなく、はい‼︎と返事をした。

 

 

 てかよ…

 

 なんだよ…結婚式ってよ。

 

 好きなヤツも…その子どもも、諦めんなって‼︎

 

「透、ぜってー生きろよ‼︎諦めんなよ‼︎」

 透は、力なく笑った。

 

 どうせ適合なんてしないって…透は、そう思ってるんだろうな。

 

 …オレも適合するなんて、半信半疑だけどさ…

 

 だからって、諦めて全部残して…そんなのってありえないだろーよ‼︎

 

 オレは諦めないよ。

 

 適合も全国大会も。

 

 そもそも透は、まだ生きてんじゃねーかよ‼︎

 

 なんでこんなことになってんだよ…

 

 諦めんなって!

 

 透‼︎

 

 でも…

 

 …透だって、なりたくて癌になったわけじゃないもんな。

 

 てかよ…

 

 もしかして、璦奈って…

 

 璦奈、妊娠のこと透に言ってないんじゃ‼︎

 

 言えなかったんじゃないか⁉︎

 

 そうだよな…

 

 死ぬかどうかってときに、赤ちゃんできたよ?なんて言えるわけないだろうよ…

 

 そもそも付き合ってないって透言ってたし…

 

 

 あぁ…そうか。

 

 だからか…

 

 

 続く。

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