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ファーストコンタクト

物心ついた時から、猫を飼いたいと思っていた。けれど、私以外の家族は猫嫌いで、猫を飼うことに反対だった。だから、大人になって独り立ちしたら、絶対に猫を飼うと決めていた。

独り立ちしたら猫を飼う。それは、私の生きる心の支えになっていた。

そして、社会人になって親元を離れ、ペット可のマンションで一人暮らしをしている、今。

ついに、長年の夢を叶える時が来た。





「○○保護猫団体様

私は、私とご縁のある猫様なら、どんな猫様だって、家族になりたいです。

模様や種類や性別は何でも構いません。どんな猫様でも、愛すべき猫様なことに変わりはないのですから。

猫様を迎える準備も整えてあります。ケージとキャットタワー、トイレに──」

スマホでネットサーフィンしていて、たまたま見つけた、地域の保護猫団体のWebサイト。

そこで、その保護猫団体が地元のスーパーで定期的に事前予約制の保護猫譲渡会を開催していることを知り。

譲渡会参加のため、スマホで譲渡希望の理由を打っているのだが。

────私の猫様となる猫様とどうかご縁が、どうか、どうか繋がりますように。

…………もし、もしも、繋がらなかったら…………

無理。絶対無理。脳が拒否る。バグる。そんなこと考えらんない。

…………。…………もう、もう、もうこの文章に私の人生をかける!!!

ってことで、いい歳した大人が、涙を垂れ流しながら、心臓をバクバクさせて、スマホ画面とにらめっこしているわけだが。

これ、大学の卒論よりも、就活の履歴書よりも、めちゃくちゃ力入れて、心をこめて書いてるわ。

なんなら、人生で一番の大勝負だわ。ここで負けたら、私の人生終了するわ。

と、まあ、そんなこんなで(?)、譲渡希望の理由を打ち終えて。

文字通り、汗と涙握る、思いのたけを送信した結果。



「っ~~~」

保護猫団体の月川というスタッフさんから、譲渡会参加の了承の返事をいただけた。

そして、月川さんから、改めてサイトに送信した保護猫譲渡希望の内容と相違がないか、電話で確かめたいとメールをいただき──もちろん、即、応じました。



「…………へぇ。そうなのねぇ。

貴女の譲渡会へのご参加を心からお待ちしているわ。

いえ、だってねぇ。貴女の譲渡希望理由だけど、私、気に入ったもの。猫様って言葉、私たちも仲間内で普段よく使ってるし。

それにね、今、多いのよ。譲渡希望の猫の欄にね、女の子がいいとか、男の子がいいとか。こういう種類がいいとか。

みんな、なんて言うの、選んでいるって言うか。ペットショップと同じ感覚というか。

いえね、それが悪いことではないのよ。相性ってあるし、ご家庭の事情だってあるだろうし。まあ、普通と言えば普通よね」

そこで、一瞬、月川さんの言葉はとぎれ、フッと笑う声がした。

「でも、貴女の譲渡希望は違ったわ。

どんな猫様でもいいだなんて──そういう風に希望してくれる人ね、意外といないものなのよ。

私たち保護猫団体ってね、色んな境遇の猫ちゃんたちを保護しているの。だから、色々な方が譲渡希望に書いてくれた猫ちゃんに近い猫ちゃんも結構、保護されていたりするものなの。

でもね───それでも、この子たちは保護猫なの。病気や怪我、ひもじい思いを経験して。それでも、運良く保護されて、生涯の、ずっとのお家が見つかることを、首を長くして今か今かと待ってる。

それはどの、どんな保護猫ちゃんでも変わらないの。

だからね、容姿や性別にこだわらない、貴女の希望理由、気に入ったわ。だから、私が預かりして育てている、この子に会いに来てくれないかしら────」

そこから、なんと返事をしたのか、あまり覚えてない。

ただ、自分の、自分の猫様への思いを認めてもらえて───それが嬉しくて、ほっとして、体から力が抜けて。

いい歳した大人なのに、また、涙を垂れ流して、心臓をバクバクさせて、その場に座りこんでしまったことはよく覚えている。





月川さんと電話を交わしてから、数日後。

私は譲渡会に参加するため、地元のスーパーを訪れていた。

スーパーの駐車場の隅の一角が譲渡会会場だった。

よし。大丈夫、大丈夫だ、私。ちゃんと用意するものは用意した。睡眠もきちんととった。トイレも済ませてある。時間も大丈夫だし、水分もとってある。

────だから、参加中は正気を保って、正常で(?)いてみせるわ!!!

などと、遠足を楽しみすぎて待てないような、小学生の誓いをしている、変人(私)。

そんな変人(私)の目下のミッションは、譲渡会会場にいる、十数人の人の中から、月川さんと無事に合流を果たすことである。



…………もしもし、神よ、神様よー。月川さんはー、どなたですかー!!!

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