第一章:ヴェルゼ、異世界のホワイト企業に感動する 5
「ふぅ……今日もなんとか終わったな」
ヴェルゼはヘルメットを脱ぎ、汗をぬぐった。
魔法オペレーター不在という突発的なトラブルはあったものの、チームの連携によって乗り越えることができた。
現場には夕焼けが広がり、作業員たちも片付けを始めている。
「ヴェルゼ、お疲れ!」
ライルが肩を叩いてきた。その手には水筒があり、豪快に水を飲んでいる。
「お前は、本当にタフだね……」
「ははっ、まあな! でも、今日の現場はさすがに疲れたぜ」
ヴェルゼが苦笑していると、そこへ翼をはためかせてグレースが降りてきた。
「ふぅ、なんとか追加のオペレーターを手配できたわ。明日からはちゃんと転送魔法を使ってくれるはずよ」
「助かる、ありがとう」
「でも、ヴェルゼもライルも無茶しすぎよ? あんな重い岩材を手作業で運ぶなんて……見てるだけでヒヤヒヤしたわ」
「いや、筋力強化魔法があったしな。思ったよりイケたぞ?」
「それが問題なのよ……」グレースは呆れ顔でため息をつく。
そのとき、ヴェルゼの通信魔道具が震える。
ドラント主任だ。
『ヴェルゼ、現場の片付けが終わったら、事務所に来い』
『分かりました』
ヴェルゼは現場の状況を確認し、片付けがほぼ終わったのを見てから、ライルとグレースに声をかけた。
「俺、ちょっと事務所に行ってくる。二人は先に戻っててくれ」
「おう、了解!」
「何か新しい話があったら教えてね」
二人を見送り、ヴェルゼは事務所へ向かった。
「大変だったなヴェルゼ。ひとまずそこに座ってくれ」
ドラント主任が資料を手にしながら、ヴェルゼを迎えた。
「次の現場の話だ。今の現場が終わったら、新しい工事に入る」
ヴェルゼは興味を持って資料を覗き込む。
「これは……?」
「大規模な橋の建設だ。魔法と従来の建築技術を組み合わせて、今までにない構造の橋を作る計画になってる」
資料をめくる。
確かに、従来の工法では難しい箇所を魔法で補い、より効率的な建設を進める設計になっていた。
「これはすごいな……」
「ただし、現場は今よりも環境が厳しい。
天候が変わりやすい地域だから、今日みたいな魔法での補助も必要になる。チームの調整はしっかりやる必要があるぞ」
「了解です」
「それと、そのチームには新しいメンバーが加わる予定だ」
ヴェルゼは驚きつつも、どんな人物なのか気になった。
「新しいメンバー?私の知らない方ですか?」
「それは……来てからのお楽しみだ」
主任は意味ありげに笑った。
ヴェルゼは次の現場に思いを巡らせながら、事務所を後にした。
居酒屋の店内は、賑やかな音とともに温かな空気が広がっていた。
ヴェルゼはその光景に、まだ少し驚きながらも自然と笑顔を浮かべていた。
テーブルに並ぶ料理、賑やかな笑い声、そしてグラスを掲げる仲間たち。
まるで何の違和感もなく、この瞬間が当たり前のように感じられた。
「ヴェルゼ、ライル、グレース、入社して一か月お疲れ様! これからもよろしくな!」
ドラント主任がグラスを高く掲げると、周りの仲間たちも一斉に声を揃えて乾杯をする。
その瞬間、ヴェルゼは胸の奥で何かが温かく広がるのを感じた。
「歓迎会なんて......都市伝説かと思ってたよ。」
ヴェルゼが少し照れくさそうに言うと、ライルがニヤリと笑って返した。
「お前、そう言ってたな!でも、ちゃんと現実になっただろ? !」
「ああ、びっくりしたよ。」ヴェルゼは心から驚いていた。
前の職場では考えられないことだったからだ。
だが、今はその現実が嬉しく、幸せに感じられる。
「これからもっと楽しくなるよ!」グレースが明るく言いながら、ヴェルゼの隣に座る。
「うん、なんだか安心する。こんなに明るくて、みんなが優しくて…。」ヴェルゼは思わず、言葉が漏れ出る。
「その通り!でもまだ始まったばかりだ!盛り上がっていくぞ!」ドラント主任が声を上げると、皆も同調し、さらに賑やかさが増していく。
ライルがグラスを掲げながら言った。
「じゃあ、俺からも一言!俺は契約社員だった頃からみんなのことは知ってるけど、 改めてこれからよろしく、みんな!一緒に頑張ろう!」
「乾杯!」全員が声を合わせ、グラスをぶつけ合う。ヴェルゼもその一員として、心から楽しんでいる自分を感じていた。
「本当に、こういうのが普通なんだな、この世界では。」ヴェルゼは思わず呟くと、ライルが笑いながら答えた。
「うん、ここではな。だから、安心して仕事してくれよな!」
その言葉に、ヴェルゼは微笑んだ。今はただ、目の前の仲間たちとこの瞬間を楽しむだけだった。




