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第一章:ヴェルゼ、異世界のホワイト企業に感動する 3

「ふーん……どんな人なのか、気になるな」


 ヴェルゼは軽く頷きながら、次第にこの職場での人間関係が広がっていくことを実感し始めていた。


 そして、その時だった。


 職場の入り口が静まり返る。

いつも賑やかな同僚たちが、一斉に姿勢を正す。


「……おい、来たぞ」


 ライルが小声で囁く。


 ヴェルゼが入口の方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。


 艶やかな漆黒の髪に、透き通るような白い肌。深紅の瞳が鋭く周囲を見渡し、その視線だけで人々を黙らせる。装飾の施された上質な服を纏い、まるで貴族のような気品を漂わせている。


 その場の誰もが道を開け、彼女の歩みを邪魔しないようにしている。


「……彼女がエレナ?」


「ああ、そうだ……そして、これからお前は彼女の厳しさを思い知ることになる」


 ライルが苦笑いを浮かべながら呟いた。


 ヴェルゼは、これから始まる新たな出会いに興味を抱きながら、エレナの姿をじっと見つめていた。


 エレナがヴェゼルを通り過ぎようとした時、エレナはピタリと立ち止まり、そしてゆっくりとこちらを見やる。


「……あなた、新入りね?」


 それは、問いかけというより確認のような響きだった。


「はい、ヴェルゼです。よろしくお願いします」


 ヴェルゼが丁寧に頭を下げると、エレナは興味なさそうに目を細め、ふっと冷たく笑った。


「へえ……まあ、せいぜい足を引っ張らないようにしてちょうだい」


 それだけを言い残し、エレナはそのまま会議室へと入っていく。


「……な?」


 ライルが肘でヴェルゼを軽くつつく。


「確かに、なかなか手強そうだな……」


 ヴェルゼは苦笑しながら、初めてのマドンナとの対面を振り返っていた。


ヴェルゼは、エレナの冷たい言葉を受けて少し驚きつつも、すぐにそれが彼女なりの挨拶だと理解する。

ライルが気を使って話しかけてくるが、ヴェルゼはその言葉にどこか遠くを見つめるような眼差しを向けていた。


「ライル、あのエレナ様、やっぱりすごいな。まるで氷のようなオーラだ」


「だろ? あれがエレナ様の魅力さ。いいか?モノにできるなんて考えるなよ。」


ライルは冗談めかして言ったが、その顔には真剣な表情もあった。エレナの存在がただの上司以上の、会社にとっての象徴であることを感じさせる。


その日の終業時、ヴェルゼは自分の机を片付けながら、今日一日の出来事を反芻していた。ドラント主任の優しさや、ライルの楽しい言動、エレナの美しさ。


「こんなにも違う。前世とは全く違う場所だ」


自分の手のひらを見つめ、ふと思い出す。前世のあの過酷な日々、そしてそれを支えた自分の体力と精神力が、今やどれだけ欠けているかを感じる。だが、今のヴェルゼには前世のような疲弊した感覚はなかった。むしろ、まだ何もかもが新鮮で、未経験の世界にワクワクしている自分がいた。


「まだ、このホワイトな世界に慣れきっていないんだろうな」


そんなことを思いながら、ヴェルゼはそっと一息ついた。


その日から数日が経ち、ヴェルゼは更にこの世界のリズムに馴染んでいった。

ドラント主任やライルとの会話も増え、仕事は順調に進んでいく。

上司からも同僚からも、心配されたり焦らされたりすることはなかった。

すべてが、思った通りに進んでいく。



ヴェルゼがオフィスに戻る。

そこで目を引くのは、グレースという名前のハーピーの同僚だった。

グレースは、彼女特有の軽やかな羽音を響かせながら、にこやかにヴェルゼを迎える。


「おかえり、ヴェルゼ! 今日も現場でうまくいった?」


ヴェルゼはうなずきながら答えた。


「うん、今日も大きな問題もなく終わったよ。でも、やっぱり現場は気を使うことが多いな」


グレースはその話を聞きながら、少し考える素振りを見せた。


「そっか、それでも現場が順調だって聞けてよかった! あたしもできるだけサポートするから、何かあったら言ってね」


「ありがとう、グレース。君がいなかったら、現場での調整も大変だったよ」


グレースは嬉しそうに笑いながら、軽く肩をすくめた。


「みんなでやれば、何とかなるもんだよ! それに、ヴェルゼが現場で頑張ってるから、あたしももっと頑張ろうって気持ちになるし!」


ヴェルゼは心から感謝の気持ちを込めて、彼女に微笑んだ。

彼女の言葉に、ちょっとした安心感を覚えた。


「さて、これからどうする? 明日の準備、少しでも手伝おうか?」


「うーん、そうだな。今のところ大きな変更はなさそうだけど、念のため現場の人数と予定だけ見ておくかな」


その後、二人は軽く作業を分担しながら、仕事を進めていった。

会話の中には笑顔が絶えず、心の安らぎを感じられる時間だった。



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