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第一章:ヴェルゼ、異世界のホワイト企業に感動する 2

ここで少し俺の紹介をしておこうと思う。


人間時代の俺の名前は黒崎翔太。

年齢は29歳だった。

普通の高校を出て、普通の大学を出て、普通の企業に就職したつもりだったが、どうやらそこは普通の企業ではなかったみたいで、前途との通り俺は過労死してしまった。


―そして、俺は転生した。

この世界の俺はどうやら魔族に分類されるらしい。

元々人間だったから、最初はすごく不安だったけど、こっちではすむ場所によっては人間の方が珍しい種族みたいで、今の俺はあんまり目立つこともなく過ごせてる。

何だろうな、見た目もそんなに変わってるわけじゃないんだけど、耳が少し尖ってたり、目の色が少し赤かったりする。あ、でも、角とかはないから、思ったほど「魔族」って感じでもない。


仕事に関しては、前世と同様の現場監督をやっている。

おかげで特に苦労することなく、職場になじむ事ができた。

恐らくその点に関しても神様が気を利かせてくれたのだろう。

業務内容としては主に図面を書いたり、スケジュールの管理をしたり、安全対策等を講じる業務だ。


うん、正直言って、前世のあの激務から解放されて、こっちではすごく楽に感じる。

みんな優しくて、怒られることもまずないし、すごく落ち着いて仕事ができる。


ただ、こっちの世界で驚いたことは、重機の代わりに魔法を使うことだな。

土を固めたり、木を切ることだったり、空中に橋を架けたりするのだって魔法を使えばいとも簡単に出来てしまう。

なんとも便利世界だと感心する


と、まあ、こんな感じで職種は同じなのに以前の俺の生活とは全く違う生活を送っている。

こんなことを言うと、少し複雑な気分にはなるが、本当に死んでよかったと心から思う。


そんなこんなで俺はこの世界にきて早くも一週間目を迎える。


 この職場の雰囲気は、相変わらず穏やかで温かい。

前世のような怒号が飛び交うこともなければ、無理なスケジュールを押し付けられることもない。

それどころか、定時を過ぎれば上司や同僚から「早く帰れ」と促されるほどだ。


「ヴェルゼ、今日の仕事は順調か?」


 低く響く声と共に現れたのは、ヴェルゼの直属の上司であるドラント主任だった。

リザードマンの彼は、見た目こそ大柄で威圧感があるものの、性格は穏やかで面倒見がいい。


「はい、特に問題なく進んでいます」


「そうか、それは何よりだ。

もし困ったことがあれば、遠慮なく言えよ。お前が一人で抱え込む必要はないんだからな」


 そう言ってドラントは分厚い手でヴェルゼの肩を軽く叩く。

力強いが、そこに威圧感はない。ただの激励だ。


 ヴェルゼは、この優しさにまだ慣れない。

前世の職場では、上司とは恐れる存在だった。

ミスをすれば怒鳴られ、疲れていることを見せれば「甘えるな」と叱責される。

仕事が終わらなければ「何時まででもやれ」と言われ、終電を逃すことも珍しくなかった。


 それに比べて、この世界の職場はあまりにも違いすぎる。


「それにしても、ヴェルゼは覚えが早いな」


 ドラントが感心したように言う。


「前の職場で似たような仕事をしていましたから。まあ、環境は全然違いますが……」


「そうか。だが、無理はするなよ。ここでは、仕事よりもお前の体の方が大事だからな」


 ヴェルゼは思わず目を潤ませた。


 仕事よりも、体の方が大事。


 そんな言葉を、前世で聞いたことはなかった。

仕事のためなら、体調が悪くても働くのが当たり前。

休むなんて、許されなかった。


 ──けれど、ここでは違う。


「……ありがとうございます」


 ヴェルゼは小さく微笑んだ。


 まだ慣れないことばかりだが、この世界での働き方を少しずつ受け入れられるようになってきているのを感じていた。


そんな時、軽快な声が背後から飛んできた。


「おーい、ヴェルゼ! もう主任に褒められてんのか? すげーな!」


 振り向くと、そこには金髪でやたら爽やかな笑みを浮かべた男が立っていた。彼の名前はライル。ヴェルゼと同期入社のお調子者で、ライオンの獣人だ。


「いやいや、ただの挨拶だよ」


「へぇー? そんな謙遜しなくてもいいのに!」


 ライルは肩を組むような仕草をしながら、親しげに笑う。その無邪気さが、ヴェルゼには少し新鮮だった。前世の職場には、こんな気軽に話しかけてくる同期はいなかったからだ。


「おっと、そういえば大事な情報を仕入れたんだった!」


「大事な情報?」


「そう、今度の会議で、あのエレナ様が参加するらしいぞ!」


「エレナ……?」


「おいおい、新人のくせにエレナ様を知らねぇのか? うちの会社の花、いや、業界の女神と言われるお方だぞ!」


 ライルが大げさに胸に手を当て、うっとりとした表情を浮かべる。


「……そんなにすごい人なのか?」


「すごいどころの話じゃねぇ! 仕事は完璧、しかも美人で性格も良いときた! ただし、誰にも靡かない高嶺の花!」


 なるほど、職場のマドンナ的存在というわけか。


「まあ、会議でお目にかかれるかもな。お前も楽しみにしとけよ!」


 ライルが肩を叩きながら笑う。


 ヴェルゼはそんな同期の軽快さに少しだけ救われる気がした。


 ただ、ヴェルゼは知らなかった。


 エレナが高飛車なヴァンパイアであることを──。

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