第一章:ヴェルゼ、異世界のホワイト企業に感動する 1
黒崎翔太は、過酷な現場仕事に疲れ果て、限界を感じていた。
しかし、目を覚ますと、そこは全く異なる場所だった。
周囲を見渡すと、柔らかな光が降り注ぎ、どこまでも広がる美しい空と雲の間に浮かぶ巨大な庭園が広がっていた。
色とりどりの花々が咲き乱れ、静寂に包まれたその場所は、まるで天国のようだ。
「ここは…?」
翔太が疑問を口にした瞬間、目の前に一人の人物が現れた。
見たことのない、華やかな衣装を身にまとった存在
――それは、神様だった。
「君は死んだ。そして、これから新たな人生を歩むことになる」
神様の声は穏やかで、何か安心感を与えるような響きだった。
翔太はしばらくその言葉を受け止められなかったが、次第にその意味を理解し始める。
「……転生ってことか?」
「その通り」
神様は微笑みながら頷いた。
その表情には、何も恐れるものはないという確信が感じられた。
「君には、過酷な人生を送ったことに対する補償として、素晴らしい新しい生活を与えようと思う」
翔太はその言葉に驚きつつも、心の中で安堵が広がった。過去の過酷な仕事やストレス、全てから解放されるのだと。
「君に与えるのは、平穏な生活だ。自由に過ごし、これからの時間をゆっくり楽しみなさい」
翔太は言葉通り、心からその新しい生活を楽しみにしていた。
これまでの激務から解放されることが、どれほど素晴らしいことなのか、すぐに理解できた。
「その名前はヴェルゼ。君の新しい名前だ」
神様が告げると、翔太はその名前を受け入れた。
新しい名前、新しい人生。
まるで全てがリセットされたような感覚だった。
「ありがとう……この名前で、新しい人生を歩んでいこう」
神様は穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。
そして、翔太はその後、神様に導かれるまま、転生後の世界に足を踏み入れる。
転生後の世界は、予想以上に居心地が良かった。
職場は、彼がかつて経験したものとはまるで異なり、明るく、のびのびとした雰囲気に包まれていた。
「ヴェルゼ君、今日はもう帰っていいよ」
その日、初めて定時に帰ることを告げられたとき、翔太はしばらく言葉を失った。
これまでの過酷な現場仕事では、定時など存在しなかった。
むしろ、定時が来てもそのまま残業を重ね、帰れたことなどほとんどなかった。
「え? まだ仕事が……」
「大丈夫、大丈夫。今日はもう終わりだよ。明日またやろう」
その言葉に、翔太は驚きとともに、深い安堵感を覚えた。
今までの自分の生活とはまるで違う。
心の中で、これが「普通」の日常だと思える瞬間が訪れたのだ。
「こんな時間に帰れるなんて……まるで夢みたいだ……!」
帰り道、翔太は思わず空を見上げた。
夕焼けの空が美しく、日常の中で味わったことのない穏やかさを感じていた。
これまで忙しくて一度も夕焼けをゆっくり見たことがなかった自分が、今、心からその美しさを感じ取れることが不思議で、嬉しかった。
「生まれて初めて、夕焼けを見ながら帰れる……! 俺は今、人間としての生活を取り戻している……!」
自宅に帰ると、風呂に入り、食事を取る。
そして、ぐっすりと眠る。
これが「普通の生活」なのだと、翔太は深く実感していた。
「これが……普通の生活なのか……!」
心から安堵し、安心できる日々が続くことを願っていた。
これまでの辛い日々が嘘のように感じられるこの瞬間が、永遠に続けばいいのにと思うほどだった。
ヴェルゼはすっかり新しい職場に慣れ、毎日が穏やかで快適だった。
しかし、時折、過去の会社での経験が頭をよぎることがあった。
あの過酷な現場、社員同士の険悪な空気、そして上司の無茶な指示を思い出すと、どうしても現状との違いに驚かされていた。
ある日、昼休憩の時に、ふと昔の現場を思い出した。
「前の現場じゃ、こんなにゆっくり昼食を取るなんてありえなかったな……」
ヴェルゼは、今、目の前にあるカレーライスをゆっくり味わいながら、過去のことを考えていた。あの頃、昼休憩が始まっても、まず最初に言われるのは「さっさと食え!」という言葉だった。
誰かが遅れていると、すぐに怒鳴られる。
そして、昼食後も休む暇がなく、午後からはさらに忙しい作業が待っている。
「あの頃は、食事を摂ることすら難しかった……」
思い出すだけで、体が縮こまるような気分になった。
その時、同僚が声をかけてきた。
「ヴェルゼ君、少し外の空気吸いに行こうか?」
「外……?」
「うん、午後からも頑張らないといけないし、ちょっと休憩して、リフレッシュしよう」
ヴェルゼはその言葉に驚き、そして嬉しさを感じた。今までなら、昼休憩中に外に出るなんて考えられなかった。
「……確かに、こういう時間が大事なんだな」
外に出ると、風が心地よく、青空が広がっていた。
ヴェルゼは深呼吸しながら、改めてこの職場がどれほどありがたいものかを感じていた。
「あんなに忙しく、ピリピリしていた頃が嘘のようだ」
以前なら、現場で休む暇すらなかった。
納期に追われ、職人たちはどんな小さなミスでも即座に怒鳴られる。
朝から晩まで働き詰めで、たとえ仕事が終わったとしても、気持ちに余裕を持つ暇もなかった。
「ここは、みんなが笑顔で接してくれる。過去の現場とは大違いだ」
現場の空気が、全く違うことに気づきながら、ヴェルゼはその新しい世界を心から楽しんでいた。