プロローグ
朝5時。目覚ましが鳴るより早く目を覚ます。
というより、ほとんど眠れていない。
昨日も終電を逃し、会社に泊まり込んでいた。
「……今日が終われば、少しは楽になるはずだ」
そんな希望を抱いたのは、何度目だろうか。
コンビニでエナジードリンクとパンを買い、急ぎ足で現場へ向かう。
すでに職人たちは作業を始めていた。
「監督さん、今日の資材、まだ届いてねえぞ!」
「おい、これ図面と違うじゃねえか!」
「クライアントから仕様変更の連絡が来てる! 急いで確認しろ!」
怒号と指示の応酬。現場監督とは名ばかりの雑用係。
誰かのミスを処理し続けるだけの日々。逃げ出したい、でも逃げられない。
「おい、黒崎! まだ終わらねえのか?」
上司からの電話が鳴る。恐る恐る出ると、いつもの叱責が降りかかる。
「終わるまで帰るなよ」
そう言われたのは、今日だけで何度目だろう。
時計を見る。
気づけば21時を過ぎていた。
「……あと少し、あと少しで終わる」
しかし、体が思うように動かない。
視界がぼやけ、耳鳴りがする。
足元がふらつき、思わず手をついた。
心臓がバクバクと音を立てる。
息が苦しい。
「あれ……おかしいな……?」
誰かの叫び声が遠くで聞こえた。
次の瞬間、地面が迫ってくる。
意識が暗闇に沈んでいく。
──それが、黒崎翔太の人生の終わりだった。