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リス娘と山男

ド定番のレシピを使ったお話です。


チッチッチと、彼が私を呼ぶ音が聞こえた。

最近寒くなってきたから、来ないかと思ってたんだけど、来てくれたことに嬉しくて、私は家から飛び出した。


たくさんある木々をすり抜けて、目当ての彼に私は飛び付いた。


「うわ!覚えててくれたのかチビスケ」


と、彼の頭に引っ付いた私をつまみ上げ、左手に乗せる。けど私はすぐ腕をのぼり、彼の肩に乗るとほっぺたに抱きつく。


「きゅー!」


あいたかったわ!おチビちゃん!


「ふふ、ふわふわ」


私は覚えてる。彼が産まれた日のニンゲンの小ささを。

だから私は彼のことをおチビちゃんと名付けたの。

もうすぐ冬になるから、冬眠の準備をしていた最中だったのが良かったわ。


「きぃーっきゅっ」


しばらく私は眠るから、おチビちゃんとは暖かくなるまであえないからね、と私は言った。


「少しだけ持ってきたよ、ドングリ」


彼はポケットから木の実を三個ほど手の平に出した。

あら、いっぱい集めたからもう充分よ。そのごはんはおチビちゃんが食べなさい。

ヂッ、と私は返事をした。


冷たいものが、空から降ってきている。

そろそろ帰らないと、帰れなくなってしまう。


私は彼の肩から降り、足元をくるくると走り回ってから、自分の家に帰った。

さぁ、寝よう。そして暖かくなったら、彼の家に会いに行こう。

彼が産まれてから、何回目の冬だったけ…

ご飯は、充分…隠してあるし…でもまだ…おチビちゃんと遊び…たかっ……ぐぅ…



……おきて……おきなさい……そのままでは……

あ!あーーっあーあー…


(うーーー…うるさいですよー、山の女神さまぁ)


あなた、今年の秋に我の加護をもらいに来るの忘れてたでしょう?

なので、死んでしまいましたよ。


ガバッと、起き上がったつもりだった。

でも気付いたら女神の手の平の上だった。


(さっきのあーあーは、そういうことですか!?)


……そうです。寒すぎて徐々に衰弱して…

今年は冬の魔女が近くにくるから、山のみんなは加護をもらいにきなさいと、あれだけ口うるさく言ったのに、あなただけですよ?……


(おチビちゃんとご飯集めしてて忘れてましたね。あーーー、そっかぁ…もうおチビちゃんと会えないのかぁ)


私はわかりやすく肩を落として落ち込んでみた。

まぁでも、自然の中に生きている身だからこそ、死についてはさほど気にしてはない。

気にしているのは、やはりおチビちゃんとのこと。


……そんなに彼が気になるのなら、次は人間にでもしてあげましょう。森精霊になる手前だったから、魔力宿りつつありますし……


え、なりますなります。早くなります!早くおチビちゃんに会いに行き…


「オギャアーーー!?」


「産まれた!やっと産まれたー!娘がー!」


たくさんのニンゲンに囲まれ何やら身体中が痛いです、が!

早すぎません!?女神様!



ーーーーということがあってから早10年。


山の麓の村娘に産まれ、産まれる前のことなどすっかり忘れかけてた時。

三番目と五番目の兄たちと山菜採りに出掛けて、遭難しました。


あれ、なんだか知ってる場所だなと、二人の手を引いて山を登り、山の中腹にある湖にたどり着き、近くの洞穴に三人で身を寄せあい、救助を待つことに決めました。

日が落ちた山は、そこらかしこに気配があるから私は怖くはないけれど、お兄ちゃん達はソワソワとしだした。


「トイレなら、穴の奥でしてきてね、お兄ちゃん達」

「りり、り、リース、こ、この穴クマいるんじゃないの?」

「いません!この湖の近くは獣の巣穴作るの禁止令出てるので!」

「誰からの禁止令なの!?」


え、誰だっけ…確か…


思い出しかけた時、遠くから大人の声が聞こえてきた。

多分救助隊だ!


「ここだよー!おーい、おぉーいーーー!」


「うわーん!湖の洞穴にいるよーー!」


お兄ちゃん達が叫ぶけれど、救助隊の声が近くなってきてはいない。

近くにいることは気付いてくれたんだろうか?


………全く、しょうがない子ですね……


そう、誰かに言われた気がした。


近くの繁みが音を立て、私達三人は怖くなり抱き締めあう。

と、突然近くから声が聞こえた。


「おぉーい!いたぞー!ここだぁー!」


洞穴の入り口に大人が立っていた。


「怪我してねぇーか?生きてるな?」


助けが来たんだ!良かった!

お兄ちゃん達は泣きながら助けに来てくれた大人に抱き付いていた。

よほど怖かったのだろう。うん、遭難は怖い。


私も、本当は怖かった、んだとおもう。


今さらながらに、身体が震えてきた。


ふわっと、優しく抱き上げられ、背中をポンポンと叩かれた。


「よぉくがんばったじゃねーか」


ニカッと笑うその顔に、見覚えがある。


おチビちゃんが走れるようになった夏に、山犬に襲われた私を助けてくれた時に出来た、耳の傷。眉毛の形。その歯並び。


記憶が、鮮明に、私の中に


「うぉ、泣くほど怖かったか!大丈夫大丈夫、もう助かったからなー」


違うの、怖かったけど、恐くてないてるんじゃなくて。



……あいたかった。


私は彼の首に抱き付き、ぎゅっと力を込めた。




さて、それから私はかーなーり、頑張った。


彼は樵、つまり山に住む山男だ。

暇さえあれば、山に入り、ドングリクッキーを差し入れ、村に山男さんと結婚すると言い触らし、木の実ケーキを差し入れ、村の祭りに誘ったり、山の果物のジャムを差し入れたり、と。


頑張って頑張って頑張った。

押して押して押して押し入った。


……そうして、村一番のかわいい娘が、むさ苦しい村一番の不細工な山男の嫁になったのでありました。メデタシメデタシ…


女神様!まだ嫁じゃありません!

いつも気が早いんだから!



…いずれ、なんやかんやあって、幸せになる、お話。



読んでくれてありがとうございました

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