プロローグ~魔王召喚~
ここは異世界『ツクゥーヴァ』。
人口の80%がモンスターに蹂躙された荒廃した世界。
この世界のある城の玉座に座っている男が1人。
彼の名前は魔王『ヴァルガス』
ヴァルガスは黒髪に羊の様な角を生やし、紅の瞳を宿し、漆黒のマントを身に付けてただならぬオーラを見に纏わせている。
「……暇だ……」
ヴァルガスはため息を吐きながら呟く。
彼がこの世界に現れた時には、この世界は緑鮮やかで美しい世界であった。
しかし、彼の異形な姿を見た当時の人々からは恐れられ、彼を討伐しようと数多の英雄達が挑んでは敗れたのであった。
そんな彼の存在を許さなかった、この世界の神は神々の軍勢を用いて彼を討伐しようとしたが、彼の力は絶大過ぎて、逆に返り討ちにあったのであった。
それから数百年……。
彼の力を恐れた神は身を隠し。
彼を倒そうとした英雄達もなす統べなく倒されていったのであった。
そうして、強者を失い続けたこの世界では、元々いたモンスター達に対抗する統べもなくことごとく蹂躙されていき、今となっては人口の80%がいなくなったとされている。
「……特に今日もやる事はないな…… 寝るか……」
ヴァルガスは玉座から立ち上がった瞬間に、足元に魔方陣が広がった。
「!!」(何だ? この魔方陣は? 転移系か?)
魔方陣が光ると、ヴァルガスを包み込む。
……。
…………。
………………。
光が収まり、ヴァルガスは瞳を開けるとそこはどこぞの玉座の間であった。
そこには十数名の武装した兵士が並んでおり、ヴァルガスを取り囲んでいる状態であった。
「よくぞ、参ってくれた! 異界の強者よ!」
兵士達の間から、王冠を被り白い髭をはやした初老の男性が両手を広げながらヴァルガスに声をかけて近づいてきた。
「我が前で頭が高いぞ!! ひれ伏せ!!」
ヴァルガスは睨み付けると同時に、この場にいる全ての者に威圧をする。
「ぐっ!!」
ヴァルガスの威圧にその場にいた兵士全員が膝を折り、ヴァルガスに跪く様になる。
「さ、流石…… 異界の強者よ……」
王冠を被った初老の男性は、辛うじて立っているのがやっとな様子でヴァルガスに声をかけた。
「ほぅ…… 我が威圧に耐えられる者がまだいるとは…… 貴様……」
ヴァルガスはニヤリとしながら王冠を被った初老の男性に言う。
「ワシのスキル『王者の風格』の…… おかげじゃ。 正直…… しんどいのでまず…… その威圧を止めてくれんか……」
王冠を被った初老の男性もニコッと笑いながらヴァルガスに言う。
「フン……」
ヴァルガスが威圧を止めると、兵士達の身体が重力から解放されたかの様に軽くなる。
「我を呼び出した要件を聞いてやる」
ヴァルガスは王冠を被った初老の男性に尋ねる。
「そ、 その前にそなたの名前を聞かせてはくれぬか?」
「我が名は『ヴァルガス』! さぁ、 要件を言え!!」
ヴァルガスは王冠を被った初老の男性に向かって言う。
「ワシはこの『アォヴァーク』の『カーメアリ王国』の国王でカァーン・キィッウィと申す! 単刀直入に申す! 我が国を、この世界を救ってはくれぬか!?」
カァーンはヴァルガスに頭を下げる。
「世界を救うだと? 我に何をさせようと言うのだ?」
ヴァルガスはカァーンを睨む。
「この世界には魔王『ゾルガンス』と言う者がおる!!」
「魔王ゾルガンス? 聞いたことないな…… その者を我に倒せと言うのか?」
ヴァルガスはニヤリとしながらカァーンに聞く。
「いや! そなたには、ゾルガンスを倒す勇者の師事を頼みたいのじゃ!!」
カァーンの言葉に一瞬ヴァルガスは呆気に取られる。
「勇者の師事だと!?」
「その通りじゃ!! この世界には魔王を倒すべく聖剣に選ばれし勇者がおるのじゃ!! 彼の者が魔王ゾルガンスを討ち取る為に、強大な力を持つ異界の強者に鍛えてもらいたい!」
「我が片付けた方が早いのではないか?」
ヴァルガスはカァーンに尋ねる。
「我が世界の事に異界の民を巻き込むのは申し訳ない! だからと言って勇者が魔王ゾルガンスを倒す事が出来るまでの時間もないのじゃ! 苦肉の策で異界の強者を呼び出し師事を頼むという事になったのじゃ!」
「ふむ……」
カァーンの話を聞きヴァルガスは考える。
(……ちょうど退屈をしていた所だ…… 魔王ゾルガンスがどれ程の強さかは分からぬが…… 戦ってみたいものだ…… しかし、勇者を育てるというのもこれはこれで一興かもしれん…… ゾルガンスが勝てばゾルガンスと…… 勇者が勝てば勇者と戦えば良い…… どちらに転んでも我に損はないな……)
少し間をおき、ヴァルガスが話す。
「よかろう! 勇者の師となる事を了承してやる! その代わり1つ条件がある!」
ヴァルガスはカァーンに宣言する。
「条件とは……?」
「勇者の戦いが終わったその時は我の自由を保証してもらう!! それが勇者の師となる条件だ!!」
ヴァルガスの言葉にカァーンは難色な表情をする。
「わ、 わかった!! そなたの条件を飲もうぞ! 我が国だけでなく世界の危機じゃ……」
カァーンはヴァルガスの条件を飲んだ。
「では、 その聖剣に選ばれし勇者とやらを呼んでこい!! 早速鍛えてやる!!」
ヴァルガスはカァーンに命令をする。
「あいわかった! すぐにでも呼び出そうぞ!! それまでの間、 王宮に部屋を用意しよう! 誰か!! 勇者の師匠となるお方!! ヴァルガス殿じゃ!! 丁重にもてなせ!!」
カァーンが手を叩き、 メイドを呼ぶとメイドはヴァルガスを連れて王座の間から出ていく。
「ふぅ……」
カァーンは玉座に腰掛け、 大きく息を吐く。
「こ、 国王!!」
カァーンの元に大臣と思わしき者が近寄る。
「だ、 大丈夫なのですか? あの様な亜人を勇者様の師匠にするなど!! あの角からするに羊の獣人ですぞ!!」
大臣はカァーンに耳打ちをする。
「何を申す! 大臣よ! そなたも見たであろう! ヴァルガス殿の力の一片を…… 彼の者なら必ずや魔王ゾルガンスを倒す勇者を育て上げてくれるじゃろう!! それに亜人であそこまでの力を有する者も人間にはおらん! 信じるのじゃ!」
カァーンは大臣に言う。
「……確かに…… そうですな……」
「さぁ! 聖剣に選ばれし勇者『アレクス』を呼ぶのじゃ!!」
「ハッ!!」
カァーンは兵士達に指示を出す。