彼女はそのパスワードの真実を知らない
思えば、いつだって私達は一緒だった。
家は隣の隣。よりによって苗字も『高橋』で同じ。
出席番号順に並べば、『明』と『梓』で前後になる。
誕生日は明が12月23日、私が12月25日。
子どもの頃は真ん中バースデイ&クリスマス会を12月24日にやっていた。
さすがにそれは小学生までだったけど、中学も相変わらず同じクラス。
県立高校もたまたま一緒に受かって、大学受験も志望校が同じで、そして――
「――ま、何もないんだけどね」
「梓、それ本気?」
研究室でまったり過ごしていると、同じゼミの亜美が呆れたように訊いてきた。
ちなみに、明も同じゼミだ。
「高橋くんと梓、空気感が恋人通り越してもはや夫婦だよ」
「いやいや、単なる腐れ縁だし」
そんなことを話していると、机の上の携帯が震えた。明からのメッセージだ。
資料を印刷してほしいというので、「OK」とスタンプを返して明の席に向かった。
PCを起動すると、パスワードを求められる。そういえば聞いてなかった。
『パスワード教えて』
そう送ってしばらく待ったが、返事がない。そういえば今日バイトだっけ。
仕方がないので、適当に4ケタの番号を入れてみる。
明の誕生日『1223』、電話番号の末尾『7912』、学籍番号の『2885』――どれもダメだ。
段々面倒くさくなってきた私は、ダメ元で『1225』と入れてみた。
すると――
「あれ?」
――まさかのログイン成功に、私は思わず声を上げる。
『1225』がパスワード?
だって、それは私の――
「――梓、電話鳴ってる」
亜美の声で我に返り、携帯を見ると明からの着信だった。
「はい」
「あ、梓? ごめん、パスワード『1225』だから! ハムきちがうちに来た日な!」
「……え?」
ハムきちは明の家で飼っていたハムスターだ。
残念ながら私達が中学に入る前に遠いお空に旅立ってしまい、ふたりでさんざん泣いたのを覚えている。
「了解、あとで持ってく」
動揺を隠すように早口で電話を切る。
あぶないあぶない、変な勘違いをしてしまうところだった。
胸をなで下ろしていると、亜美が声をかけてくる。
「ねぇ、明日〆切の課題見せてくんない?」
「いいよ」
「あざす、PC借りるねー」
それにしてもまぎらわしい。
ハムきちが来たのは夏かと思っていたけど、私の記憶違いだったみたいだ。
拍子抜けのあまり、笑いが込み上げてくる。
「あ、梓。パスワード何だっけ?」
「『1223』だよ」
私は笑いながら印刷ボタンを押した。
(了)
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
テーマの『パスワード』からするっと思い付いたのがこの作品でした。
気付いていないのは本人たちばかり、というシチュエーション、いいかなぁと。
ちなみに、パスワードはお誕生日だとセキュリティレベル低いので、類推されないようなやつにしましょう。
お友達だからとむやみやたらに教えちゃうのもいけません(`・ω・´)
ということで、非常にセキュリティ意識の低い作品になってしまいましたが、大目に見て頂けますと幸いです……笑。
お忙しい中あとがきまでお読み頂きまして、ありがとうございました。