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企画参加作品(ホラー抜き)

八吉とメエ

作者: keikato
掲載日:2023/11/15

 その昔。

 八吉という幼い男の子がいました。

 父親はすでになくなり、母さんと二人で暮らしていました。

 けれど、八吉は淋しくありませんでした。

 父親が残してくれたヤギ、メエがいつもそばにいたからです。

 そんなある日。

 母さんが病で倒れました。そしてその後も、母さんは日ましに弱っていくばかりでした。

「おじさんが迎えに来てくれるからね」

 母さんが死んだら、おじさんの家で暮らすことになる――八吉はそう教えられました。

「おっかあ!」

 八吉は泣きました。

「空の上から父さんと見てるからね」

 母さんも泣いて、八吉を強く抱きしめてくれました。

 その夜。

 母さんは八吉を残して息をひきとりました。


 翌朝。

 八吉は和尚さんに裏山に連れていかれました。

「どこに行こうと、ここを覚えておくんだぞ。オマエの両親が眠っておるんだからな」

 そこには父親の墓があったのです。

――おっかあ。

 八吉は空を見上げました。

 父さんと母さんが、空から見守ってくれているような気がしました。


 ふたつめの朝。

 おじさんが迎えにやってきました。

 八吉はメエとともに、そのおじさんの家に向かいました。

 山をいくつも越えました。

 長いこと歩き、着いたときは夕暮れがせまっていました。

「さあ、お入り」

 おばさんが抱き上げてくれました。

 その日から。

 おじさんたちと暮らすようになりました。

 おじさんの家はとても貧しく、その日、その日を食べていくのがやっとでした。


 ある晩。

 となりの部屋から、おじさんとおばさんのひそひそと話す声が聞こえます。

「こう不作では売るしかないな」

「かわいそうに、八吉」

 おばさんは泣いていました。

「飢えて死ぬわけにはいかないだろ」

「そうだねえ」

 最後に、二人の大きなため息が聞こえました。

 メエが売られてしまうのです。

――メエ……。

 八吉はメエとはなれたくありませんでした。どうしても別れたくありませんでした。

 真夜中。

 おじさんたちが眠るのを待って、八吉はメエを連れてこっそり家を出ました。

 外はまっ暗でした。

 闇の中をひたすら歩き続け、夜が明けるとどこか遠くの村にいました。

 そのころ。

 八吉がいなくなったこと知ったおばさんは泣いていました。

「ヤギを売る話を聞いたんだわ。それで八吉はヤギを連れて……」

「八吉にとって、それほどかけがえないものだったとはな」

 おじさんはすぐに八吉を探しに出たのでした。


 八吉は見知らぬ村にいました。

 おじさんの家を出てから、ずっとなにも食べていません。疲れきって歩くのもやっとでした。

 やがて日が暮れます。

 八吉は村人の納屋に忍びこびました。

 そこにはたくさんのイモがありました。

 盗んではいけない……そう思いながらも、空腹につい手が出てしまいました。

 メエにも食べさせてやりました。

 母さんの顔がまぶたに浮かびます。

――おっかあ、ごめんよ。

 その夜。

 八吉は納屋で眠りました。


 次の朝、雪が降っていました。

 八吉は雪の中を歩きました。

 生まれた村を探し、それからもひっしに歩き続けました。

 そして夕方。

 八吉は寺の鐘の音を聞きました。

――和尚さんだ!

 聞きおぼえのある鐘の音で、生まれ育った村に帰っていることがわかりました。

 鐘の音に向かって歩きました。

 鐘の音は終わっていましたが、雪のつもった山に見おぼえがありました。その山のふもとに、両親の眠っている墓があるのです。

 すっかり暗くなったころ。

 八吉は両親のもとにたどり着きました。

「おっかあ、ごめんよ。どうしてもメエと別れたくなかったんだ」

 泣きくずれ、墓の前にひざまずきました。

 雪が八吉の背に降りつもってゆきます。

 横たわった八吉のほおを、メエが起こそうかとするようになめます。

――メエ……。

 八吉は眠くなってきました。

 まぶたが重くなり目をとじると、父さんと母さんがあらわれました。

「オラをひとりにしないで」

 八吉は二人に向かって、とりすがるように手をさしのべました。

「ああ、もちろんだ」

 父さんがほほえみます。

「八吉のこと、空からずっと見てたのよ。また三人で暮らそうね」

 母さんは八吉を抱きよせてくれました。

 母さんのぬくもりが伝わってきます。

――また、いっしょに暮らせるんだ。

 八吉は幸せでした。


 雪が降りつもります。

 メエは八吉にくっつくようにそばにいました。

 降りしきる雪から八吉を守るように……。


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― 新着の感想 ―
八吉よお。メエと別れたくないのはいい。いいんだが、そのメエが道連れになってるんだが……………。 八吉的にはいいのかな? そこまで頭が働かないくらい追い詰められていた? この終わりはハッピーエンドなのか…
[良い点] そんなに過去に書かれたお話なのですか。 悲しいお話ですが、降り積もる雪が暖かく感じられました。 けっして稚拙な作品ではないと思います。 お若くして初めて書かれた作品なのに、完成度が高いと感…
[良い点] とっても悲しいお話で、涙で文字がかすんでしまい、なかなか読み進めませんでした。 おじさんの家からメエと逃げ出し、さまよいながら歩いているところは「頑張れ!頑張れ!」とエールを送りました。 …
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