ばれんたいんず・でい・ちょこぱんつ
キーボードの押し損ないで、『tyこ』に何度もなりました。
男子高校生のあなたには、同級生のかわいい彼女がいる。
本日は2月14日。彼女が出来てからの初めてのバレンタインデーだ。
当然、あなたは学校で彼女からチョコレートをもらえるものだと期待していた。
しかし、放課後になっても、チョコを渡されることはなかった。
業を煮やしたあなたは、一緒に下校している時に、今日はバレンタインだよねと話を振った。
彼女は足を止めた。
あなたはようやく、チョコを渡してもらえるのだと思った。きっと手作りだったから、学校で渡すのは気まずかったのだろうと推測する。下手に校内で話題にしないで良かった――。
「ごめんね。今日はチョコ、用意してないの」
もらえると信じていたあなたの心は、砕けたチョコのようになった。
「その代わり、これを見て」
彼女は制服のミニスカートを大胆にたくし上げる。
チョコレート色の下着を穿いているのがすぐに分かった。
下着は茶色の濃淡で板チョコのような模様になっており、上部の中央にはワンポイントの白いリボンがついている。茶色い下着と色白の肌との対比がはっきりとしていて、素晴らしい。
「チョコよりもこっちのほうが好きでしょ?」
恥ずかしそうにそう言われると、あなたも否定出来なかった。
綺麗な手つきで持ち上げていたスカートを元に戻し、何ごともなかったように彼女は歩き始めた。あなたも彼女の歩調に合わせる。
「……やっぱり、チョコ欲しかった?」
彼女の顔は済まなそうで、気が重くなる。
うん、今日はバレンタインだからねと、あなたは本音をもらした。
「じゃあ、一緒にコンビニに寄ろっか。そこで好きなのを一つ買ってあげる」
その彼女の宣言通り、あなたはコンビニのお菓子コーナーで売られていたチョコを一つ選んで、彼女に買ってもらった。
「義理チョコじゃないんだからねっ!」
チョコを渡される際、彼女はわざとふざけるような口調で言った。
そうだったら困るよとあなたは返しつつ、ありがとうと伝えてチョコを受け取った。
このチョコは手作りではない市販品で、コンビニで買ってもらっただけに過ぎない。義理チョコではないにしても、悲しい。
今日は彼女の美しい下着たくし上げを見られたし、最終的にはチョコももらえたけれど、釈然としない気持ちが残ってしまった。
■
後日、彼女の自宅に呼ばれた際、彼女の母親と話す機会があった。
「バレンタインデーの時はごめんなさいねっ! うちの子、不器用だから手作りチョコに失敗しちゃって、私が代わりにチョコ色のパンツ見せてあげたらってアドバイスしちゃったのよ~っ!」
彼女に良く似た、若そうな母親が楽しげに語った。その母親のすぐ横にいた彼女は、余計なこと言わないでよと小声で非難していた。
「……遅くなっちゃったけど、今日は手作りチョコを用意したの。食べてもらえるかな? まあ、手作りって言っても、市販品を溶かして作ったものだけどね……」
白いお皿の上には、小さめでハート型っぽい茶色のチョコが六個ほど並んでいる。
それらを、あなたは一つずつ味わって食べてみる。
チョコの形は、正直に言って、整っているようには見えない。この前のたくし上げのほうが、見た目はずっと美しかった。それに味のほうも、この前に買ってもらった市販品のほうが美味しかったかもしれない。
だけれども、あなたは彼女の手作りチョコを肯定する。
見た目でも味でもなく、このチョコが誕生するに至った愛情こそ、大きく評価するべきなのだと。
あなたは最後まで静かにチョコを食した。
「どうだった?」
不安げな彼女に、あなたは良かったよとだけ答えた。
「……ごめんなさい。形も歪だったし、美味しいとも言えないよね」
でもそこが良かったんだよと、あなたは失礼を承知で伝えた。そして、来年はバレンタインデー当日にもらえると嬉しいなと、あなたはつけ加えた。
「うん、来年はもっと頑張るね!」
彼女の笑顔が甘いチョコレートのように好ましい。
この子はかわいいし、時に大胆だし、あなたの考えにも添ってくれる。
不器用なところは、もしかしたら今後、変わるかもしれない。バレンタインデー前には失敗していたチョコ作りが、今日は完成にまでこぎつけていたからだ。
彼女はきっと、あなたのために努力を惜しまない。
来年のバレンタインデーがどうなるのか、楽しみになった。
(終わり)
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
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