親友として認定された(2)
疲れてたんだと思う……
それとも、ここ連日見ていたあの走馬灯の為いか?
なんであんな事をやらかしたのか……
「違うでしょ!」
パシっという音が教室に響く。
私がシアの頭を叩いた音だ。
事も有ろうに平民出の私が侯爵令嬢のシアの頭を叩いたのだ。教室から音が消えた。
ギ ギ ギ と擬音を伴うかの様にシアの顔がこちらを向く。その顔には驚きが張り付いていた。
そら驚くわ。貴族が平民に叩かれてたんだから。
どんな言い訳もできない。
でも一言言わせてほしい。
シアの話し方が、リズムが私の魂の琴線に触れたのだ。
いつもの私なら「つい勢いで」身体が動いたりしない。
でもね、でもね。連日のババラ様のシゴキで精神が疲弊してたの。走馬灯で見たあの頃に幼児退行してたの。つい血が騒いだの。
気がついたらツッコミを入れてたの。
私は極刑も覚悟したが、シアはビックリしたもののおそるおそるではあるがまたボケをかまし始めた。
ああ、ダメだ……我慢できない!!
一回やったら二回も三回も同じじゃい!!
私はシアのボケにツッコミを入れ続ける。
私とシアのボケとツッコミの応酬が続いたが、いきなりシアの瞳から涙がポロポロっと零れる。
「ユリア!! あんたは親友だ!!!」
いきなりの親友宣言! WHY?
私は混乱した。
「ボケたらツッコむって人としての礼儀だよね!」
「う、うん」
「なのにユリア以外誰もツッコんでくれないんだよ!」
まあ侯爵家の令嬢にツッコめるヤツはいないわな。
「仕方なく一人ボケとツッコミやってたんだけど、淋しくて淋しくて」
「だからって泣かんでも」
「何言ってるの! 一人ボケとツッコミの哀しさ、あんたには分からんの?」
「いや、アレは確かに辛いけど…」
「せやろ? そんな哀しい思いをしてたところに完璧なツッコミ入れて貰うたんよ。
もうアタシ嬉しくて嬉しくて……」
「泣くほどの事か!!」
「泣くほどの事や!!!」
「…そ、そうなんだ」
「アタシの目に狂いは無かった!!
あんたはアタシの親友だ!!」
「親友と言うより相方かも…」
「二人で世界を目指そう!!!」
「なんの世界や!!!」
「え……えむわんとか」
「…えむわん?」
「えむわん?」
えむわんってもしかしてMー1?
なんでこの子えむわんなんて知っているの?
こんな経緯で私はシアに親友認定された……
「じゃあコンビ名を決めよ」
「どんどん話しを進めないでよ」
「うちの家紋が紅い龍でグレン家は白い虎か。紅白龍虎合戦みたいだね」
「もう、その言い方やめてって言ってるでしょうショーコ」
「……ショーコ?」
あ……またやらかした。
しかしシアの反応がおかしい。
「……あんた…もしかしてアキなの?」
「え…」
「通りでツッコミのタイミングが合うと思ったら……」
「本当にショーコなの?マジ?」
頷くシア。私の目からも涙が零れた。
私はシアと抱き合った。
「アタシ達はまた親友になる運命だったんだね」
「ショーコ…それともシアって呼んだ方がいいかな」
「アタシはこの世界で十五年シアとして生きてきたからね、シアの方が今はしっくりくるんだ。シアって呼んで」
「私もそう。ユリアって呼んで。
ところでシア。この世界をどう思う?」
「なんか見覚えがあるんだよね」
「私もそう。ハッキリ言えば、あの紅白龍虎合戦の世界に酷似してる気がするんだ」
「アタシもそう思った。あのゲームのシナリオってどんなんだったの?」
私はシアにゲームのシナリオを説明した。
「……エンディングはアタシの国外追放かあんたの火炙りか。でも実際の所どう思う?」
「細部は違うけど、イベントはなぞらえて進行してるかな」
「細部が違うって?」
「シアってもっと鼻持ちならない嫌なヤツなんだ。
でもあんたは違うでしょ。
選民思想もノーブレスオブリージが根底にあるし。
貴族派のリーダーと言うより睨みを利かせているって感じだし。
人を使って私に嫌がらせをする様には見えないし。
と言うか、ショーコなら気に食わなけりゃ自分で手を出すだろうし」
「それはそうだね」
「攻略対象はもっと優秀だし……」
「それはシナリオ通りであってほしかった」
「……そんなにアカンタレなの?」
「王は歴代アカンタレだけど、周りに優秀な人材を配置してるおかげでこの国は保っているんだ。
それがホージーの周りにはろくなのがいなくて。
我が国始まって以来の危機と言われているんだ」
「陛下をそんな風に言っていいの!?」
「先代の話なんだけど、四公国が王位継承で我が国にちょっかいかけてきたんだ」
「どんな?」
「いわゆる天一坊だよ。
現王は血筋が怪しい。正当な血筋の優秀な王子がいるのでその方に王位継承権を寄越せと。
「どうなったの」
「当時の宰相が『血筋がしっかりしてなければ誰がこんなアホを王位につけるものか!』って言って追い返したんだ」
「うわぁ……」
「国王陛下があまり優秀じゃあないのは周知の事実なんだよ、外交筋じゃ。反面、王を支えるスタッフが優秀なのもね。それが次代は……」
「………」
「従来なら国境を守る当家みたいな地方貴族からは王妃は出さないんだよ。
それが中央におかしな風潮が蔓延しているためアタシに白羽の矢が」
「大変そうね……」
「当面の目標は、アイツらに赤点を取らさない事なんだ」
「マジ? そこまでレベル低いの!」
「協力してね。一人じゃあキャパオーバーなんだ」
「乙ゲーの世界じゃ無えなあ」
「そう言えば知ってる?」
「何を?」
「ネットで検索したんだけどね、あのゲーム引っかからなかったんだ」
「どう言う事?」
「『紅薔薇の令嬢と白百合の聖女』なんてゲームは存在しないんだよ、アキが持ってた以外」
「うそ……」
「アタシも気持ち悪いんだけどね、ただアタシは思うんだ」
「?」
「世間では存在しないゲームを知っている二人がそのゲームの世界にいる。何かの力が働いているんじゃないかって」
「つまり……どう言う事なの?」
「細部は違うんだろう? つまりはアタシ等の好きにすればいいって事だ。
アタシ等が何をしてもイベントは起きる。
ならば未来なんて気にせず好きにすればいい。
まあアタシにはそれしか出来ないしね。
アタシのやる事はアタシの意思で決めてやるんだ。
未来にびびってやる事変えるのは性に合わない」
「シアになってもショーコはショーコね。
いいわ、付き合ってあげる」
「さすが親友」
「コンビっでしょ」
私は突き出された拳に拳で応えた。
どんなディテールになるか分からないけど世界は私達の意思で描いてやるんだ。