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入学式(4)

何か間違ってる……


入学式後のオリエンテーションを聞くため私達は教室に移動し思い思いの席に着く。

私はシアに手招きされ、最後列のシアの隣の席に座っている。

席には十分余裕があるため私達二人の周りはぽっかり空間が空いている。


私は入学式を振り返る。

ゲームでは確か、鼻持ちならない陰険貴族のバカ息子が平民出の女生徒に因縁をつける展開だったはず。

そこに颯爽と現れた攻略対象がその子を庇う。

そこにシアが現れ貴族を擁護。

シアは選民派貴族の旗頭に納まり攻略対象と対立する事になっていた。


なのに、なんでシアが絡まれる?

で、なんでシアが自分で選民派貴族のバカ息子をボコボコにしてる?

シアは選民派貴族の旗頭というより、ボス。

なんで彼らの首根っこ押さえてパシリにしちゃっているの?


そう言えば、攻略対象達は?

王子を初め、皆んな同学年で入学するはず。


「シア様」と言ったら睨まれたので、私は慌てて「シア」と言い直す。

「あの、同学年にはホーク王子様もいらっしゃると伺いましたが…」

「ああ。いるよ。もうすぐ来ると思うよ。

で、ユリアにお願いなんだけど」

「なんでしょう?」

「アタシは少し隠れるから、隣には誰もいない振りをしてくれないか?」

「それはいいのですが、理由をお伺いしても?」

「すぐ分かるよ。

あ、来たみたいだ」


そう言うとシアは私の影に隠れる様に身を屈める。

教室の後部ドアがなるべく音を立てない様に注意を払われながら開いていく。

四つん這いで誰かが入ってきた。

五人目が入るとドアはまた音を立てずに閉められていく。


「ハマー、どうだ」

「ご安心をホーク王子。いない様です」

「エンド。念のため一番後ろのあの子に聞いて来てよ」

「かしこまりました」


五人のうちの一人が四つん這いのままこちらに来る。


「すまない、そこの君」

「はい? なんでございますか?」

「コンスタンシア・ローゼンブルクはどこに?」

「教官室に呼び出されておられますよ」


私はシアのカンペ通りの答えを返す。

エンドとおもわれる彼はあからさまに安堵の表情を浮かべる。

エンドは王子の元に戻ると他の四人も警戒を解き、立ち上がってこちらにやって来る。

シアはというと、いつの間にやら後部ドアに近づいており、施錠すると彼らの後ろを歩いている。


「ねえ、君。可愛いね」

「なんて言うの? 名前を教えてよ」

「どうして皆んなと離れて座ってるんだい?」

「隣に座っていいかな?」

「すみません。ここはもう」

「誰かいるの?」

「もしかして彼氏?」

「いえ」

「女の子? どんな子?」

「その子です」

私は手のひらでニコニコしているシアを示す。

「よう」とばかりに片手を上げて、いたずらを成功させた悪童のように笑っているシアと対照的に、さっきまで満面の笑みでナンパしていた五人の美丈夫イケメンの顔には恐怖が張りつく。

「よう、ホージー。それと金魚の糞ども!」

「金魚の糞じゃねえ!」

「じゃあ何だ?」

「せめて可愛いく金魚のウンチにして♡」

「「「そうじゃありません、王子!!」」」

許婚者いいなずけの前でアタシの友人ダチをナンパたあ、いい根性だな、ホージーのア・ニ・キ♡」

「やだー!兄貴はやだー!!舎弟がいい!!!

盃直させてーーー!!!」

「ダ〜〜メ♡」

「ねえ、シア…」

「なんだ、ユリア」

「どう見てもあなたの方がマウントとってるのに、なんで彼が兄貴なの?」

「ホージーは本家のオヤジの実子だからな」

「本家のオヤジ?」

「あ、国王陛下って呼ばないといけないんだった。

ロシマじゃこう呼んでるもんでつい。

まあともかくだ、オヤジ じゃなかった陛下の後を継ぐのはホージーだからな。

形式上同年代でホージーの上位者うえがおってはいけんのんじゃ。

それにじゃ。アタシの性格から下位したのモンは可愛いがってしまうけえの。

アニキにしとかんと拳が振るえん」


そっちが本音かい!!


でもこの小動物の様な怯えた目。

醸し出される『苛めて』オーラ。

ああ……抑えていた衝動が疼く……


「ついでにこのポンコツ共も紹介しとくよ。

このおカッパ頭はハマー。宰相の息子だよ。座学ならコイツがおそらくトップだと思う。頭の出来はいいんだけど、応用はイマイチかな。

こっちの金髪細マッチョはマーティン。騎士団長の息子。見た目は強そうだけど、実戦はイマイチ。見せかけの筋肉なんだよな、コイツの筋肉は。

この面長はターナー。財政長官の息子。数字には強いけどイマイチ思い切りが良くないんでなかなか大きな事ができないんだ。

この何処にも居そうな特徴のないのがエンド。外務大臣の息子なんだけど、印象が薄くてなかなか人に覚えてもらえないんだ」

「皆様良いお家のお生まれなんですね」

「良いとこのボンだけど、イマイチ使えねえ」

「「「バカにするな!!」」」

「じゃあ、少しはマシになったのか?」


なぜ全員目を逸らす……


「この通りなんだけど、将来はコイツらがホージーを支えるんだからなんとか鍛えなくちゃならない。

コイツらのオヤジさん達から頼まれてんだけど、正直頭が痛え…」


お気の毒に……

って他人事みたいに言ってるけど、これが攻略対象達?

失敗したら火炙り?

どんな罰ゲームだよ!


「アタシはアタシでやらなきゃいけない事があるし」

「やらなきゃいけない事って?」

「淑女修行だよ。立ち居振る舞いがこの通りガサツだからね、アタシは。

でもロシマは国境地帯なんで、淑女としての立ち居振る舞いより太刀を振る方が多くて」

「それは聞き捨てなりませんね、コンスタンシア」


コンスタンシアの後ろにいつのまにか初老の女官が立っていた。怒りのオーラが只者じゃなかった。


「コンスタンシア。私との約束、覚えておりますね」

「バ、ババラ様…」

「バーバラです!」

「し、失礼しました、バーバラ様!!」

「今度会う時は立派な淑女レディになっております。

そうおっしゃいましたわよね」

「ハイ、確かにそう申しました!」

「先程から聞いておりましたが、とても淑女の会話には聞こえませんでしたよ。どこの市井の娘かと思いました」

「申し訳ございません! ここ数年キナイのヤツらの侵攻が激しくてつい……

あと、はじめて同年代の同性の友人ができたもので舞い上がってしまって……」

「キナイの動きは私も存じております。

今日だけは不問といたしましょう。

ただし、私の課外講習を受ける事。

よいですね。


首を振ってもダメです。

あなたは強制です」


シアは半泣きでプルプル震えていた。

バーバラ様が教壇に上がり担任である旨を告げオリエンテーションを開始すると、先程まで騒いでいた生徒は中央貴族を中心に鎮まりかえった。

シアが怯え、中央貴族が姿勢を正すバーバラ様って何者なの?


「シア、バーバラ様ってどんな方ですの?」

「バーバラ・リープス準子爵夫人。王城のマナー・マスターで礼儀に凄く厳しいお方で国王陛下すら頭が上がらない我が国最強かつ最凶の女官。

通称『大怪獣ババラ』様」

「最強?」

「そのうち分かると思う。

それよりユリア、一緒にババラ様の講義を受けて!」

「特別講義は別料金がかかりますね。

グレン家の養女ですのでそこまでは無理です」


そう、特別講義は通常貴族しか受けないため追加料金がかかる。卒業後には縁が切れる養子に対し、そこまでやってくれると思うのはいささか虫が良過ぎる。

私の断りも至極当然の話だと思う。


友達ダチだろう? 裏切り者〜」


シアがなんか言ってるけど無視しよう。

うん、それがいい。


しかしババラ様との出会いは私の生活を一変させる事になるのだった。



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