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入学式(3)

カッコいい……


呆気にとられ静まる中で私は素直にそう認めた。

負けてられない!

コンスタンシアが国外追放になるか私が火炙りになるか? コンスタンシアと私はライバルなのだ。


「シアよ……何をしてるんだ?」

「何をって、自己紹介の挨拶だよ? ザーレの叔父貴。中央じゃこうやるんだろ? 

できなきゃ裸踊りさせられるって爺から聞いてるぜ?」

「俺もそう言われた」

「あたしも。必死で考えて準備したわ!」


シアに呼応する様に会場のあちこちから声が上がる。

声は地方出身者と下級貴族の養子になっている平民出身者からのようだ。


「だよな。皆んな、せっかくだから順番に自己紹介してくれよ!」


シアの言葉に、アタシは壇に上がる。


「蓮の華は何処に咲く。汚れ澱んだ泥に咲く。

生まれは泥にまみれちゃいるがが、この身に宿りし聖なる魔法ちから

縁をいただき男爵家、グレン卿の後押しで、皆様方と机を並べる機会を得ました。

この身奉じて勉学に励み、必ず一花咲かせましょう。

グレン家のユリア、お見知りおきください!」


拍手に応えて一礼し、壇を降りるとシアが寄って来た。


「カッコ良かったぜ、ユリア!

さすが中央、平民でもあれだけできるんだな!」

「恐縮です、コンスタンシア様」

「シアって呼んでくれって言っただろう? 同級生相手に様付けはおかしいだろう」

「でもコンスタンシア様は侯爵家のご令嬢…」

「学内では身分の上下なんてないんだ。さっき言ったろう?

ならば立場は対等。それが筋ってもんだ。だろう?」


そう言って同意を促すかの様に小首を傾げるシア。

ダメだ!!

ライバルかもしれないけど私はこの)を嫌いになれない……むしろ好きかも。

差し出された手をとって握手を交わす。


上手い下手は別にして、地方貴族の子弟や平民出身者の精一杯の自己紹介が終わると残るは中央貴族の子弟だけである。しかし、壇上に誰も上がろうとしない。

自己紹介を終えた者から野次が飛ぶと、貴賓席から理事の一人が壇上に向かう。


「静かにするように!! 戯言はここまでだ」

「戯言? 何が戯言なんですか?」

「中央にそんな挨拶をするしきたりはない!」

「ええ! じゃあ、できなきゃ裸踊りってのは」

「そんな事させるわけなかろう。

田舎者と平民上がりは冗談も通じないのか?

これだから…」

「待たんかい!」

「おや、どなたです?」

「ローゼンブルク家のモンじゃ。おんしは何モンじゃ?」

「田舎騎士か…

私は当校の理事の一人であるゼーマン子爵と申します。何かおっしゃりたい事でも?」

「お主が今言うた事はまことか?」

「?中央では自己紹介で大見得切る事もなければ、できなければ裸踊りさせる事もありませんよ」


顔を真っ赤にしているシアの爺に対し、ゼーマン子爵は小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべている。


「お嬢。迷惑かけたらイカンきに、ワシ等の盃はここで返させてもらいます」

「あン時の事を思い出すと、未だにはらわた煮えくりかえるんで」

「ブーン爺、ケイン爺。二人の受けた恥辱はじ)はロシマの恥辱じゃあ。

盃ゃ返さんでええ。きっちりケジメ取っていや! 的は?」

「ゴールマン公、ストレイ伯、ビアラ伯と、金魚の糞三人。一人はここに来てます」

「よし」

「よしじゃ無い! シアも止めろ!!」

「なんでじゃ、ゼーレの叔父貴」

「あの二人が暴れたらどうなると思ってるんだ!」

「さっきの六人の首を取るまで死体の山ができるだけじゃが? 邪魔せんかったら死体は六つで済むぞ」

「その六つが洒落にならない! いずれの方も国家の重鎮。一人でも欠けたら国事に支障が出る」

「それがどうかしたがか? ロシマのモンに嘘で恥かかせたんじゃ。タダで済ますわけなかろう?

ケジメはきっちりとらせてもらう」


シアも激怒しているため訛りが出ている。

ゼーマン子爵は事の成り行きにオロオロし出し、ゼーレ隊長に小声で尋ねる。


「あの田舎騎士は何者ですか? 本気でゴールマン公を襲撃しようとでも」

「“暴れ獅子”ブーン・ガーランドと“猛り竜”ケイン・タックラーだ。あの二人はやると言ったらやる」


二人の二つ名を聞いてゼーレ子爵は顔色をなくした。

戦場の英雄で、その武勲は中央にも鳴り響いている。

騎士団や近衛にも命を救われた者が多く、二人が声をかけるなら従う者も多いと聞く。

その二人を騙し恥をかかせた?

片や頑固一徹、片や不器用愚直を絵に描いたような二人である。やると言ったら確かにやるだろう。


「待て!待ってくれ!! 

後でそちらの納得いくよう詫びを入れさせる!!

だからとりあえず今は引いてくれ、頼む!!」

「爺、どうする?」

「ゼーレの。真に納得いく詫びを入れさせるんじゃろうな」

「ブーンの。納得いかなきゃ二人でカチこみゃいいだけの事だ。ここはゼーレの顔を立ててやろう」

「感謝する!」

「いや、ダメだ」

「シア!?」

「お嬢!?」

「この場をどう方をつける? それを見てからじゃ。

中央のモンに言われ、地方のモンや平民上がりは恥を書かされるとこだったんじゃ」

「コンスタンシア様、そこは冗談だったと先程…」

「ゼーマン子爵、冗談では済まん。済まさん。

冗談だっちゅうンなら、なんでアタシの後のモンにもやらせたんじゃ?

やるだけやらせといて、冗談でした、何を本当にやってるの、で済むと思うとるんじゃ?

それで筋が通ると思うとるんか!」

「しかし時間も押してますし…」

「知らん。それはそっちの都合じゃ。

中央貴族が結託して地方貴族や平民出身者をコケにしようとしたんじゃ。

ケジメつけてもらわんとな」

「そうは言っても…」

「爺、交渉決裂じゃ。コイツ等は時間稼いでうやむやにする気じゃ!」

「待て、待ってくれ!! どうすれば納得してくれる!」

「大見得切って自己紹介をするか、裸踊りが妥当じゃな。アタシ等がやらされた事をコイツ等もする。

ならばこの場に関しては筋が通るけェのう」

「待って、シア様! 私達はそんな通達を受けてません。いきなり言われても大見得なんてきれません!」

「確かにいきなりだと難しいわな。それに女学生に裸踊りさせるのはチイと気の毒じゃわのう」

「その通りです、コンスタンシア様!ですから」

「しかしどう言う事じゃ、ゼーマン子爵。なんで聞いてない者がおるんじゃ?」

「…それは事務の者の手違いかと」

「誤魔化しぃな。誰が企んだ?」

「それは……」

「爺、行こか」

「お待ちを、コンスタンシア様! 

理事会と中央のOB会です!!

地方貴族や平民の首に綱を繋げと!!!」

「ゼーレの叔父貴、ちゅう事じゃ。

ここは理事会のメンツと来賓の裸踊りで手を打とうか。

終わったら全員首の挿げ替え付きでの」


その後は「ワシ等はこれでやらされたンじゃ」というロシマの爺達が歌う「よかチン」に合わせて理事会と来賓のジジババの裸踊りで今年の入学式は幕を降ろした。


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