学科試験を乗り越えよ(4)
おお、やっと恋愛要素が!
立派な馬車から降りてこられたあの方は、あたしの正面に立たれると求愛してこられた。
絵に描いたような、お手本のようなプロポーズ。
そのいきなりのプロポーズにあたしの心臓は早鐘のように鳴り響く。
鎮まれ、あたしの心臓。
あたしはちゃんと分かっている…
あたしとあの方とは住む世界が違うのだと。
悲しいけれど、このプロポーズはお受けできない。
あたしはあの方に背を向けて語りかける。
「あたしの住む世界はあなたの住む世界の間には大きな壁があるのよ」と。
さよなら、あたしの恋心。
そう心にした時、仲間たちからどよめきが起こる。
何事かと振り向くと、あの方は語りかけてきた。
「そんなものは俺がぶち壊してやる」と。
なんて情熱的な!!
「そんなの無理よ!」
「俺は諦めない!黙って俺の胸に飛び込んで来い!」
「でも…」
「おまえが俺の全てだ」
何度かやりとりをするうち、お屋形様がおいでになった。
そしてあの方に告げる。
「そこまで言うなら試練を与える!3つの試練の中から好きなものを選べ!」
!!
お屋形様の試練はどれも過酷だ。
あの方もきっと諦める。
これで…これでいいのよ。
でもあの方は違った
「ならば3つとも受けてやる!
全てを乗り越えて堂々と彼女の横に立ってやる!」
ああ、神様!!
あたしは、ウホ子は幸せです!!
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あの時?
いや、ユリアさんに言われて仕方なくポーズとったでしょう?
内心怖くて仕方なかったんだけど、あの娘の広背筋見た時衝撃が走ったんです。
美しいって。
あんな綺麗な、キレてる広背筋見たのイザベル姉上以外は初めてですよ。
お互いにポーズを取り合い筋肉で語り合った後、思わずプロポーズしてました。
そしたらあのでかいビッグフットが現れて
「コイツが欲しくば試練を受けよ。おまえにその勇気はあるか?」
って聞いてきたから
「よっしゃ、受けたる!!」
て言うてしまいました。
でも後悔はしてません。
あの娘を好きになってしまったんです。
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シアが来る前にマーティとビッグフットが何をしていたのか、キースケとマーティに確認した私達は頭を抱えた。
細部は微妙に違うが大筋は合っている。
「薔薇水晶無しで、何で意思の疎通ができたんだ?」
そう聞いたら二人とも「筋肉は嘘をつきませんから」
脳筋の考える事は謎だ……
「ユリア、深く考えるのはよそう。
これがモチベーションになって、マーティが訓練と勉強にマジメに取り組んでくれれば良しとしようよ」
「そうだよね。人生前向きになんなきゃね。
ところでさ、ビッグフットの試練ってどんなの?」
「精神と身体と頭脳だよ。
精神の試練は…まあ人間なら大丈夫だよ」
「どんなことをするの?」
「山の中腹のお堂に辿り着けばいいだけだよ。誘惑を振り切ってね」
「誘惑?どんな?」
「美味しそうな肉とか果物とかが置いてある。ビッグフットは食い物に釣られやすいんだ」
「…まあ、人間なら引っかからないわね。
身体の試練ってのは?」
「相撲だよ。昔キースケに教えてやった時、元々は神様にお供えする神事だったって教えたんだ。
それ以来、キースケ達の間では相撲は何かを決める時の手段になっているんだよ」
「マーティ、ビッグフットに勝てるの?」
「相撲は確かに身体の大きさや力の強さって有利な条件だけど、それでいつも勝負が決まるわけじゃないからね。昭和の大横綱と言われた千代の富士は、力士の中じゃ小柄な部類だったけど大記録を打ち立ててるんだ。鍛えて技術を教え込めばなんとかなるかな」
「頭脳はまあ大丈夫と」
「いや、頭脳が最大の難関なんだよ。あいつらがいつも遊びで出し合っている問題、見てみる?」
グラフ G=(V,W)とは有限個の頂点の集合 V=(P1,P2,…Pn)とそれらを結ぶ辺の集合 W=(E1,E2,…En)からなる図形をする……
「何これ……」
「もうあたしの頭脳じゃ問題文からして理解が追っつかないよ」
「本当にこんなの解いてるの?」
「あいつら数学だけは得意なんだよ。うちの領じゃ決算期にはあいつらをバイトで雇ってるんだ」
「マジ?でも、なんで決算期だけ?」
「他の時期は暇すぎてつまらないんだって」
「…レベル違いすぎてモチベーション上がらないんじゃ?」
「そこいらは考えてあるよ」
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【閑話休題】
ローゼンブルク別邸に連れてこられた火熊は、無事に馭者に詫びを入れる事ができ帰路に就こうとしていたところを神獣マーゴットと魔猿キースケに呼び止められた。
※ガウガウウホウホ書くのが面倒なので、普通の会話調に記載する事をお許しいただきたい。
「火熊の。酷い目に遭ったな」
「全くでさあ。お嬢も洒落にならないけど、聖女は更に洒落にならない。暫く夢に出そうでさあ」
「聖女はお嬢の親友らしい」
「あの二人に睨まれたら……」
「やめてくだせえ。あっしはもう二度とあの二人には逆らわねえって決めてるんで。おそらく鬼熊一家の跳ねっ返り供も同じ思いでさあ」
「だろうな」
「ところで、なんのご用で」
「ああ。火熊の。おまえも同盟に入らないか?」
「同盟? なんです、そいつは?」
「お嬢達の被害者同盟だ」
「あんな目に遭った心の傷は同じ思いをしたものにしか分からないからな」
「!! じゃあお二人も」
「ああ。俺達とお嬢の付き合いは五年ほどになる」
あんな酷い目に五年以上も…
驚きで声も出ない。
「もし同盟に入るのなら紹介したい人がいる」
「どなたですかい?」
「この国のホーク王子だ」
「ホーク王子は俺達より長くお嬢と…」
お会いしたホーク王子は全く強そうには見えなかった。だけど、俺達と違い普段からあの二人と接していると聞いて震えが走った。
兄貴…そう呼ばせていただきます。