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学科試験を乗り越えよ(3)

「ゴメン、シア。下手打った」

「大丈夫だよ、任せな。マーゴット、Go」

シアが乗って来た大型獣の背を叩くと、マーゴットと呼ばれたその獣はホーク王子とビッグフットに向けて駆け出す。


オオーン


「マーゴット!?」

「ウホーホ!?」

驚くホークとビッグフットに白い獣が飛びかかる。

受け止めるビッグフット。

バトル勃発か? と思いきや、様子がおかしい。

二匹と一人は抱き合って泣いていた。


「シア、あれ……」

「アイツ等、幼馴染なんだよ」

シアは保護者の様な表情で微笑んでいた。

「おい、おまえら。じゃれあってないでこっちに来いよ。ユリアに紹介するから」

一人と二匹はシアの声に反応し、渋々といった感じでこちらに戻ってくる。

「ユリア。コイツを耳に」


シアの差し出したのは薔薇水晶と呼ばれる石である。

なんでも、ローゼンブルク領で採掘される魔獣のボス格と意思疎通ができる魔石らしい。

シアに聞いたところ、実はボス格以外とも意思疎通できるが、考えている事が「腹減った」とか「眠い」レベルしかないので意思疎通の意味がないとか。

まあ魔獣と意思疎通できるのはそれなりに便利と思うのだが、大半の人間にとって魔獣は討伐対象なのでわざわざコミュニケーションを取ろうとは思わないためあまり普及していない。


「このデカいのはキースケ。ここいらの大猿のボスだよ」

「それはなんとなく分かってた」

「で、こっちの白いのがマーゴット。あたしがこっちにいる時に騎乗物アシにしてるヤギだ」


ヤギ?

どう見ても狼なんだけど…

まじまじとマーゴットを見ると目が泳いでいる。


ンメェェェェ〜


「本当だ!ヤギだ!」

「やめてあげて!! マーゴットは自己確立アイデンティティが不安定なの!! 流されやすいの!」

慌ててホークが止めに入る。

シアはというと、何かをけしかけている。私はそれに乗ってみた。

「猫かと思った!」


ニャオ〜〜ン


「だからやめてって! マーゴットは神獣なの! フェンリルなの!!」

「珍獣 ヘンナノ?」


パオパオパオォォ〜ン…


器用だな、コイツ。


「と言うわけで、コイツ等はガキの頃のあたしの遊び相手だったんだ」


そうか、シアの被害者同盟だったんだな。

酷い目に遭った者同士で傷を舐め合って……

あまりに不憫で涙が…


「ユリア。目が笑ってるぞ。まあ仲良くしてやってくれ。

ところで何があって街道を外れたんだ?」

「はい、コンスタンシア様。手前は普通に街道を走っておりましたところ、いきなり襲われまして」

「なんだと! おい、キースケ、どういう了見だ!?」

キースケは慌てて自分達じゃないと首を振る。

「いえ、コンスタンシア様。手前共に襲いかかったのはこの者共ではございませんで。

熊の様でした。手前も非力ながら一太刀浴びせましたのでこちらのナイフをお改めください」

「ふむ。コイツはどうも熊の毛みたいだな。

てえ事は鬼熊の組のモンか?

行儀付けに行く必要があるな…」

「行儀?」

「ああ。ローゼンブルクは魔獣と言えど無益な殺生はしないからな。この界隈の魔獣達とは協定を結んでるんだ。

森に入って喧嘩を売って来るヤツぁ好きにしていいが、街道を通っているヤツには手を出さねえってな。

その決まりを破ったてんならうちも黙っている訳にはいかねえんでな。

真偽を確かめに鬼熊のトコへ出向く」

「大丈夫なの?」

「大人数で行きゃあ戦争になりかねねえ。人数は絞る。

マーゴット、キースケ。おまえンとこの若いの何人か出せ。

ローゼンブルクからは…コナーとティセン、おまえ達がついて来い。他の者はホーク王子達を館へ。

ユリア、あんたも一緒に来てくれ。怪我人が出るかもしれないから」

「いいわよ」

「助かる。じゃあキースケ、先触れを鳴らせ」

「先触れ?」

「これから鬼熊の本拠に乗り込むんだ。行くぞ〜って知らせとかないと襲われるからな」


キースケは渡された角笛を吹き鳴らした。

さあ、出発だ。

私達はマーゴットの配下の狼に乗り、鬼熊一家の本拠を目指して森の奥に進んだ。


「ユリア、あんたの聖魔法ってどこまで治療できるんだい?」

「ン〜〜ん、治療とは少し違うんだ。聖魔法ってのは時間を戻すんだよ」

「どう言う事?」

「聖魔法をかけた対象の時間を戻してケガをする前の状態にするみたい。

時間にすると一時間くらいが限度みたいだけど、その時間内ならどんな酷いケガでも元に戻せるみたい。

ケガどころか死んでても生き返らす事もできちゃう。

でも、時間外だとかすり傷一つ治せない。

だから病気の治療なんて全くできない。一時間くらい戻しても病気の進行を遅れさすだけだから」

「それ、試したの?」

「ハンゾウ様の所で体術を教えてもらっているでしょう?

その時の被験者相手に確認したの」

「被験者って…」

「あの技って、リアルのアタタだよ。魔孔に魔力流し込むとHDBとかABSとかTWBになっちゃうんだよ」

「マジ?」

「マジ」

「あたしにも教えてよ」

「シアの場合はパワーあり過ぎるから聖帝になっちゃうかも」

「…それはそれでいいかも。

退かぬ、媚びぬ、顧みぬ! あたしにピッタリじゃん」

「よろしくね、聖帝様」

「ユリアは差し詰め正統伝承者だよね。

その者の前では誰もが死を覚悟するってか?」

「それはちょっと。私は一応聖女なんだから」


森を進むと一頭の魔熊が出迎えていた。

「ガウがガウ(お待ち申しておりました。客人)」

「おう、確か鬼熊の代貸の黒熊だったな」

「ガウガウガウ(ローゼンブルクのお嬢、ご無沙汰です。ささ、こちらに。親分がお待ちです)」


案内されたのは洞窟の前の広場である。

正面に陣取っている一際貫禄のある魔熊が鬼熊と呼ばれるこの森の魔熊の親分らしい。


「ガウ、ガウガウ(お嬢、突然のお越しだが一体なんの用だい? みかじめ料を払うにはまだ間があるはずだが?)」

「鬼熊の。今日の訪問は別件だ」

「ガウ(別件?)」

「おう。鬼熊の。お前さんの身内に協定破りをやらかしたヤツがいるようだ」

「ガウ?ガガウガウ(どう言う事で?わしの耳には入っておりませんが)」

「あたしの友人ダチがうちの別荘に来る途中、街道で襲われた」

「ガウガウガウガウ(うちの者がやってとおっしゃるんで? そいつは言いがかりってもんですぜ。それとも何か証拠でもおありなさるんで?)」

「襲われた時に馭者の爺さんが一太刀浴びせてんだ。

これがその時のナイフだよ。

着いているのは魔熊の毛だぜ?」

「ガウ(そんな!)」

「おい、そこの! テメエのその傷見せてみな」

「ガウ!?(火熊、テメエまさか)」

「…ガガウ(チッ、バレちまっちゃ仕方がねえ)」

「ガウガウ(テメエ、戦争を起こす気か!)」

「ガウガガウガガウガウ(なんで俺たち最強種族の魔熊が弱っちい人間なんてぞの下風に立たなきゃいけねえんだ、オヤジ!! ぶっ殺しゃあいいだけだろうが!)」

「ガウ、ガガウ(火熊、テメエ……お嬢、すまねえ。この落とし前はわしが必ずつけるから)」

「鬼熊、少しタガが緩んでいるみてえだな。火熊とやら以外にも不満を持っているヤツがちらほらいやがるぜ?」

シアの言う通り、殺気を放っている魔熊がいる。

火熊はどうもその中心のようだ。

「ガウガガウガガウ(お嬢だかなんだか知らねえが、テメエを血祭りにあげて戦争の狼煙にしてやらあ!!)」

「おう、鬼熊。コイツらに行儀つけさせてもらうぜ。口で言っても分からないみてえだからな」

「ガウガウ!(舐めんじゃねえぞ、このアマ!!)」


ザン!


シアに襲いかかった火熊の腕が地面に転がる。

返り血を浴び、朱に染まったままニタリと笑うシアに火熊は引いた。


「ユリア」

「あいよ」


事も無げにユリアは火熊の腕を拾い上げ、火熊に近づき聖魔法をかける。


「おい、三下。誰が誰を舐めてんだ?」

「ガ、、ガウ!(く、来るな!)」


シアに怯えた火熊はユリアを人質にしようとする。


「これだから小物は……

おう、火熊の。酷え目にあいたくなけりゃユリアを放しな」

「ガ、、ガガウガウガウ(五月蝿え、退がりやがれ!)」


次の瞬間、火熊の左頭部が弾け飛んだ。


火熊が気がつくとユリアが微笑んでいる。


「可憐な乙女に汚い手で触れんじゃねえ、ダボが」


今度は股間の「ω」が吹き飛ぶ。

また聖魔法で治される。


「テメエってもんを理解するまで何度でも行儀つけてやるよ。なあに、聖魔法で元に戻るから安心しな」


火熊はユリアから逃げようとするが、ユリアはそれを許さない。

さっきまで殺気を放っていた魔熊達も、いいように嬲られる火熊の姿を見て怯えている。

火熊は五回「ω」を吹き飛ばされたところで心が折れた。

恥も外聞もなく泣き喚き許しを乞う。


「ガウ、ガウガウガガウ(そのあたりで許してやっちゃあくれねえか)」


鬼熊がユリアと火熊の間に割って入り頭を下げる。


「ガウガウガウガガウ(こんなヤツだが実子でな。これ以上は勘弁してやってくれ。これはケジメだ)」


そう言うと鬼熊は右手を切り落として差し出した。


「ガウガウ(小指エンコじゃ足りないだろう。腕ごと持っていってくれ)」

「鬼熊……テメエのケジメ、確かに受け取った。

火熊、オメエも分かるな?」

「ガ、ガガウ(オ、オヤジ…)」

「火熊。別荘に来てテメエが襲った馭者に詫びを入れな。それで手打ちにするとしようか」

「シア、鬼熊さんの腕も治してあげるよ?」

「ガウ、ガウ(お嬢さん、それには及ばねえ)」

「ユリア、この腕は鬼熊ほどの漢が差し出したケジメなんだよ。返しちまったらケジメにならねえ。

気の毒だがそれが筋を通すってもんだ」


シアは鬼熊に敬意を表し一礼すると踵を返した。

ケジメはついた。

もう魔熊達も協定を破る事は無い。

そう信じ私達はローゼンブルク家の別荘に向けて鬼熊一家の本拠地を後にした。


さあ、これで安心して勉強合宿に入れるぞ!



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