学科試験を乗り越えよ(2)
シアは「街道を離れなきゃ大丈夫」と言っていた。
そして私達の馬車は街道を外れ、森の奥で横転している。木々の奥からはホウッホウッと何かの咆える声がしている。間違いなく取り囲まれている。
ホント絵に描いたような危機だわね。
馬車の外に出ると御者の爺さんが腕を押さえてうずくまっている。
とりあえず聖魔法で怪我を治す。
「お爺さん、大丈夫?」
「ユリア様、危のうございます、馬車にお戻りを!
先程信号弾を打ち上げましたので、追っ付けローゼンブルク家の方々が来られます!
それまでの辛抱でございます!」
「そうも言ってられないようよ」
森の奥から咆え声の主が姿を現した。
「あれはビッグフット……」
「ビッグフット?」
「大猿と人の中間のような魔獣でございます。
膂力は人を凌ぎ、魔獣の中では知恵もある。
群れで獲物を狩る厄介なヤツ等でございます」
「群れで…なるほど。団体さんでお出ましのようね」
闇の中で紅く光るのはビッグフットの目だろう。
姿を現したヤツ等が十匹。森の奥にいるのが二十ってとこか。
こちらの戦力は?
爺さんは?
まあ動けないだろう。
ホーク王子は?
街道を外れた時の衝撃で目を回している。
動けるのは私とマーティだけか。
「爺さん、シア達はどれくらいで来る!?」
「四半刻もあれば到着されるかと」
「分かった!
マーティ、ここは私とあんたで王子を守るよ!」
「え!?」
「え!? じゃない!!
ここには動けるモンは私とあんたしかいないんだ!」
「でもボクは実戦はからっきしで……」
「……なら、その見掛け倒しの筋肉で威嚇くらいしやがれ!」
「威嚇って……」
「見せる筋肉なんだろ? 思いっきり見せつけてやれ!」
「わ、分かったよ!
見せつけたらいいんだろ!」
マーティは馬車の上に登り、取り囲んでいるビッグフットの一体に向けてフロントダブルバイセップスのポーズをとった。
パンプアップされた筋肉の圧で、上半身の衣類が弾け飛ぶ。
見掛け倒しではあるが見事な筋肉美である。
それを見たマーティの正面のビッグフットが動揺し始めた。
何かモジモジしている?
周りのビッグフット達もザワザワし始めた。
促された件のビッグフットが一歩前に進み出てマーティに向かいバックダブルバイセップスのポーズを見せる。
「……う、美しい……」
何を言ってんだ、こいつは?
呆れる私を尻目に、マーティは自分の最も得意とするサイドトライセップスのポーズをゆっくりと極める。
マーティとビッグフットのポージング大会が始まった。
ビッグフット達は仲間がポーズを極めるたびにウンウン頷き、マーティがポーズを極めるたびにどよめきが起きる。
何が起きているんだ、一体?
私が呆気に取られていると、一際大きい個体が現れた。おそらくこいつ等のボスだ。
そいつはマーティを指差すと一咆えし、ドラミングをした。
ドンっドンっドンっと小気味の良い音が森に響き渡る。
マーティも対抗してドラミングを行い咆える。
「ん〜、なに〜?」
ドラミングの音で目が覚めたのか、ホーク王子が目を擦りながら馬車の外に出てきた。
ビッグフットのボスがホーク王子に気がつく。
「ゥホッ? ホーホウ!!」
しまった!
私は出遅れてしまった。
決して油断していた訳ではない。
ビッグフットのボスのスピードが私の反応速度よりはるかに速かったのだ。
ホーク王子はビッグフットのボスに抱きかかえられていた。
「待たせたな!! 皆んな無事か!?」
白い大型獣にまたがりシアが現れた。
字数的にはもう少し書きたいのですが、話しとしては次回に引きたい!
という事で、次もなる早で投稿したいと思います。