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95.加奈子の課題


 岩島先生のピアノ教室から出て、風歌と別れた後。

 今度は、原田のバレエスタジオに来て、加奈子と合流する。


 午前中、双子のアトリエの後、一旦別れた加奈子は、僕がここのバレエスタジオに到着するまで、クリスマスコンサートの練習をしていたのだった。


 「よっ。少年、クリスマスコンサートの練習が丁度終わったところだぞ!!」

 原田に出迎えられ、バレエスタジオの一室に案内される。


 案内された先には、バレエの練習着のままの姿の加奈子。


 「輝。一日お疲れ様。」

 加奈子に出迎えられる。

 「ううん。加奈子こそ、本当にありがとう。ここからは、僕のために時間を割いてくれているのに・・・・。」

 加奈子は首を横に振る。


 「おお、真面目で良いじゃないか少年!!まあ、気にしなくて全然いいけどな!!」

 そのやり取りを一部観察していた、原田が僕のもとに歩み寄る。


 「いい機会なんだ。加奈子ちゃんに、さらなるステップアップをしてもらうためにも。」

 原田が僕にウィンクをして、加奈子に近づく。


 「?」

 僕は首をかしげる。


 「加奈子ちゃんの、残っている最大の課題が一つあってね。実は、その課題だけで言うなら、雅ちゃんの方が上なんだ。」


 そんな、加奈子に課題があるのだろうか・・・・・。

 このバレエスタジオで、加奈子はプリンシパル、つまりトップダンサー。完璧にマスターしているはずである。

 しかも、雅ちゃん、加奈子のライバルでもある、藤代さんの方が勝っているもの・・・・・・。


 「おーっと、少年。加奈子ちゃんに課題があるんですか?という顔をしているな。まあ、確かに、総合力では加奈子ちゃんは間違いなく、トップだし、完璧だ。そうだな、プラスアルファの部分だな。なんだど思う?」


 原田の突然の問いかけ。


 「朝弱いとかですか?」

 僕は言ってみる。

 「ちょっと、輝!!」

 加奈子は恥ずかしそうな顔になる。


 「ハーッハハハ。まあ、そうだな。でも、今言っているのは技術的な面で。そうだな、最大のヒントは、この課題を一番得意としている人は、少年、お前だ。」

 原田は笑いながら、紙の束を抱えている。

 紙の束が4つ。


 「これは、少年、お前が今度のコンクールで弾く曲の楽譜だったな。晶子のピアノ教室から、借りて来て、コピーさせてもらった。この4つのうち2つが、『レ・シルフィード』にもある、『マズルカニ長調』、『華麗なる大円舞曲、作品18』だ。そして、残りの2つは、加奈子ちゃんの自由曲だった。ワルツ『大円舞曲、作品42』、で、『英雄ポロネーズ』だな。」

 原田はニコニコしながら、紙の束を4つ、ピアノの上に並べていくが。


 「少年はしばらく何も言わないでくれよ。」

 原田に念を押され、僕は頷く。


 「では、加奈子ちゃんに問題です。『マズルカ』の楽譜はこの4つの中でどれでしょう?」

 原田は加奈子に目を合わせる。


 「えっ!?」

 急に顔が赤くなる加奈子。何だろうか。とても新鮮。


 「ど、ど、どれだろう・・・・・・。」

 不安な表情、まるで分らないという感じだ。

 普段は勉強も、バレエも、完璧にこなす加奈子。

 この表情はとても新鮮だった。


 原田がニコニコ笑う。


 「ちなみに少年、お前は当然・・・・・。」

 原田はドヤ顔で、僕の方を向く。


 黙ってうなずく僕。勿論、どれがどの楽譜かはすぐにわかる。

 それと同時に、加奈子の抱えている課題を理解した僕。


 確かに、プロのバレリーナになる、そして、プロのバレエ団に入るのであれば、楽器は弾けなくても、【譜読み】の力、つまり、【楽譜を読む力】はある程度必要になってくる。

 振付を楽譜にメモしたりするのだろう。


 原田は親指を立てる。それと同時にニヤニヤと僕の口元が緩む。


 「ちなみに、もちろんだが、少年はすぐにわかっているぞ!!お互いニヤニヤしながら、加奈子ちゃんの珍しく悩んでいる表情を見てまーす。」

 原田は笑いながら、加奈子の表情をうかがう。


 「ちょっと、輝まで!!」

 加奈子はさらに顔が赤くなる。

 とても恥ずかしそうな表情になる。何だろうか、その表情はとてもかわいい。


 プレッシャーになりながらも、何とか選ばないといけない、加奈子。

 「こ、これです!!」

 加奈子が大きな声をあげて、楽譜を取り上げて、その楽譜を原田に渡す。


 確認する原田。

 「はいっ。残念!!」

 原田は面白そうに、叫ぶ。

 それと同時に、魂が抜けた表情になる加奈子。


 「ひ、ひゃぁぁ~。」

 加奈子の裏返った声。

 「は、恥ずかしい・・・・・・。」

 思わず、顔が赤くなり、そして、そのままの勢いで、顔が急に真っ青になる。


 「まあ、大丈夫だ。ここには少年と、私しかいないんだ。思いっきり間違ったって、誰も困らないよ。」

 原田の言葉に僕も頷いている。


 「ほ、本当?」

 「「もちろん!!」」

 僕と、原田が声をそろえて言った。


 「あ、ありがとう。」

 加奈子の顔色がすぐに元に戻る。


 「それじゃ、正解を確認していくぞ。ちなみに、加奈子ちゃんが取った楽譜は、一番間違えちゃいけない楽譜だったな。明らかに違っていて、一番最初に選択肢から消さないといけない楽譜だった。」

 原田の声に、頷く加奈子。


 「まず、この楽譜は、冒頭部分がとても特徴的だ。音符は分るな、音楽の授業でやっているな。」

 「はい。」

 原田の問いかけに頷く加奈子。


 「音符、つまり、オタマジャクシみたいな記号は、音を鳴らす記号だ。そうなると、ホラ。」

 原田は、加奈子が正解だと思った、楽譜の冒頭部分に指をあて。


 「ターン、タタターン、タタタン、タタタン、タタタンっと。冒頭部分に、これ以外、他に音符は書いてあるか?」

 と、加奈子に見せるように指をなぞっていった。


 「あっ。」

 と納得する加奈子。


 「ホントだ。」

 加奈子は歩み寄り、楽譜を近くで観察する。


 「そういうことだな。つまり、これは何の楽譜だ?」

 原田は加奈子に確認する。


 「『レ・シルフィード』にある、『華麗なる大円舞曲』です。」

 「そう。正解だ!!」

 原田はニコニコ笑いながら、加奈子を見る。


 「そんな感じで、もう一回チャンスをあげよう。残り3つの中から『マズルカ』の楽譜を選んでみな。」

 加奈子は原田の言葉に頷き、もう一度、ピアノの上にある楽譜を眺める。

 少し悩んだが・・・・・。


 「これ、です。」

 加奈子は楽譜を取った。


 「やったー!!」

 思わず、ガッツポーズする僕。


 「そう、それが正解だ!!」

 原田がニコニコ笑う。


 「なんでわかったか、説明できるか?」

 原田が加奈子を見る。


 「はい。まずは、3つの中から一番最初に消さなきゃいけないもの、冒頭が特徴的なのが一つ。これが、私と、輝と一緒にやった自由曲で。残りは、単純に、枚数の多さ、分量です。演奏時間が明らかに違うなあと。『英雄ポロネーズ』はあの時の輝のピアノを1回聞いただけですが。」


 「ヨシッ。とてもよくできていたぞ!!さすがは加奈子ちゃんだ、同じ轍は踏まないな。」

 原田がにこにこと笑う。


 「ちなみに雅ちゃんは小学生まで、ヴァイオリンもやっていて、楽譜は読めるんだ。加奈子ちゃんもコレを機に訓練していくこと。プロのバレエ団に在籍していれば、その知識は必須だ。楽譜に振付をメモしたりして、より覚えるのが速くなるぞ。【鬼に金棒】ということで、少年と一緒にやってみよう!!」

 原田が、ニコニコ笑いながら、加奈子に言う。


 「はい!!頑張ります。」

 雅ちゃん、藤代さんの話題をしたからだろうか。気合が入る加奈子。


 「それじゃ、早速、『マズルカ』からやってもらおう。」

 原田はニコニコ笑いながら僕に合図を送る。


 僕は加奈子の方を見て、改めて、楽譜を渡す。

 「よろしく、加奈子。」

 僕はそう言って、加奈子を僕の隣の椅子に座らせる。


 「う、うん。いつでもいいよ。」

 という加奈子の声。


 マズルカに関しては演奏時間が短いため、加奈子の譜めくりも1回程度で済む。

 問題はその1回の個所がどこか。


 僕はピアノを弾いていく。

 1フレーズ弾いていく毎にソワソワする加奈子。


 「まだだよ~。」

 とその度に僕が声をかける。


 だが、さらにソワソワする加奈子。

 その時、後ろからポン!!と原田の手。


 「ストップだ。少年。」

 原田の声に僕は演奏を止める。


 「加奈子ちゃん、まだまだだよ。~。ヒントはここだね~。」

 原田は楽譜の1箇所を指さす。

 二重線が引かれ、楽譜の段落の最初の部分が、シャープ記号から、フラット記号に変わる部分。


 「ここは?」

 加奈子が言うと。


 「転調といって。カラオケなんかで、キーを下げたりするときにこれを使う場面が多いが。そうだなぁ~。簡単に言えば、曲の感じ、雰囲気がガラッと変わる場面に使われる。バレエで踊ったからわかるよね?曲の感じが変わるところ、まだ来てる?」

 原田は加奈子に話しかけると。

 加奈子は首を横に振る。


 「き、来てないです。」

 加奈子は言った。


 「そうだな。じゃあ、まだまだ。落ち着いていていいぞ。すまないな、少年、もう一度頭から頼むよ。」

 原田の声に頷いて、僕は再び『マズルカ』をもう一度頭から弾く。


 そうして、転調、つまり曲の展開部分に差し掛かる。

 同時に、ソワソワする加奈子。


 そして。

 「ここだ!!」

 と叫び、勢いよく譜をめくる加奈子。


 僕はニコニコ笑いながら、ピアノを続ける。当然だが、僕は覚えているので、加奈子の勢いも気にせず落ち着いて、ピアノを続ける。


 最後まで、弾き終わる僕。


 「ヨシッ。少年のピアノは最高だな。では、先ほどの譜めくりの正解発表を少年からどうぞ。」

 原田は僕に振ってきたので。


 「じゃ、じゃあ・・・・・・・。」

 僕は深呼吸する。


 祈る加奈子。


 「ちょっと、早かったかなぁ。どういったら良いんだろう。前のページと次のページで、音符の形が少し異なってるのわかる?」

 僕は加奈子にページを見せる。


 「あっ。ホントだ。」

 加奈子が少し悔しそうな眼。


 「音符の形が少し異なってる、ということは?」

 原田のニコニコした眼が加奈子に注がれる。


 「あっ。わかったかも。輝、お願い。もう一回。もう一回!!」

 加奈子が必死にお願いする。


 「もちろん♪」

 僕はニコニコ笑いながら、もう一回『マズルカ』を弾く。


 するとどうだろうか。正解の場所。

 曲のフレーズが変わる、まさにそのタイミングで、加奈子が譜めくりを行うことができた。


 「ヨシッ!!やったぞ!!」

 原田がニコニコ笑う。


 「うん。本当に、加奈子はとても優秀。」

 僕は思わずため息が漏れる。


 「ヨシッ、そしたら、今日は2人とも1日だったということを聞いているので、今日はここまでにして、また明日にしよう。今日はお試しということで、『マズルカ』だけだったが、明日は他の曲もやってみようか。」

 原田はニコニコ笑いながら、その日のピアノの練習は終わっていった。



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3.只今、構成中。近日アップします。

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