91.戸惑いと提案
隼人が青鬼のお面を僕に差し出す。
双子の赤城兄妹のアトリエ。
服職人、コスプレイヤーそして、ユーチューバーを全て兼ね備えている、兄妹。
「す、すごいじゃん、ハッシー。あの赤鬼メイドの動画で、アニソンのピアノの伴奏じゃん。マジで聞きたーい!!」
興奮状態の結花。
「すごいよ!!すごいよ!!チャンネル登録者もそこそこ居るし。」
結花はさらに続ける。
「まあ、結花が言うなら。それに、お面をつけて演奏するなら・・・・・。」
そういって、僕は青鬼のお面をつける。
だが、お面をつけると。僕は少し戸惑う。
「どうしたの?ハッシー。お面とても似合っているし、この状態だと、動画上では、ハッシーの顔はバレないと思う。」
確かに結花のいう通りだ。お面をつけていれば、僕の顔はネットにさらされるリスクは半減される。
「うーん。まあ、そうなんだけど、ちょっと視野が狭くて、やりにくい感じかな。それに、少し、頭が、きつくて。」
僕は正直にお面をかぶっての感想を言う。
「ああ、確かにきつそう。」
結花が状態を確認する。
「ご、ごめんなさい。すぐに直しますので。」
双子の兄、隼人が僕に謝る。
「ああ、確かに、そうなんだけど。視野が狭いというのも問題で・・・・。暗譜だったら行けそうなんだけど。楽譜を見て演奏することはこの状態だとできないかも。すぐに動画の撮影なら、楽譜がないと無理かな。僕のコンクールもあるし、加奈子のバレエだってあるから。僕のピアノの練習が実はパンパンだったりする。何だろうか。紙袋に青鬼のお面をデザインして、十分に目の部分を開けてもらって、それを被って、楽譜をみて、演奏するということなら、いけるかもだけど。あったよね。紙袋を被って、それをお面にするやり方って。」
「「「ああ~。」」」
赤城兄妹。さらに結花までもが納得する。
「それに、どのみち、コンクール迄は、動画に、出演できなそう。」
さらに僕は戸惑う。
その出演できない理由は、単にスケジュールだけではない。
それは、安久尾建設の存在だった。
万が一、青鬼のお面をかぶっている人物の正体が、僕だとわかれば、安久尾は黙っていない。
かわいいコスプレイヤーさんということで、未来も安久尾に狙われてしまう可能性もある。
今は、コスプレという力によって、未来はキャラクターになり切っているが、コスプレをしていない、生身の未来はシャイでとてもじゃないが、安久尾の勢いに巻き込まれてしまう。
彼ら【赤鬼メイド】のチャンネル登録者数は、そこそこな人数はあるが、まだまだ、安久尾の権力と対等にやりあえることはできない人数だ。
やはり安久尾の権力によってもみ消されてしまう感じである。そして、狙われる危険性もある。
つまり、正確には、コンクール迄ではなくて、コンクール以降も、動画に出演できなさそうが正解だった。
「そうですよね。文化祭やコンクール迄はとても忙しいですよね。師匠。」
隼人は、納得する。
同じく未来も頷く。
だが、2人の思惑は、それ以降であれば動画に出てくれるだろうと思っているようだ。
「ま、まあね・・・・・。」
僕はさらに回答を渋ってしまう。
「ど、どうしたのだ?師匠。」
未来が戸惑っている僕に聞いてくる。
「ハッシー。すごいじゃん。チャンスじゃん。何戸惑ってるの?」
興奮状態の結花に僕は手招きをして。耳を貸すように指示を出す。
「青鬼のお面の正体。安久尾建設の人達にバレたらとても厄介だ。安久尾や奴の周りの審査員だって、一応はプロだ。弾き方の癖とかでバレちゃう可能性もある。特に、楽譜を見ながら、初見に近い演奏をすると・・・・・・。それに、僕の体型で特定される可能性もあるし、そうなって、もしも、コスプレをしていない、普通の花園学園の制服を着た、生身の双子が、奴らと鉢合わせとかしたら・・・・・。」
僕は結花に正直に話す。
「あーねー。」
結花は納得した表情になり、神妙な顔つきになる。
そう。僕がこの高校へ来た理由、安久尾との関係は、一部の人間しか知られていないし、知っている人間は漏れなくこの事情を、生徒会メンバーや、雲雀川地域の音楽関係者の重鎮の茂木、さらには理事長の慎一、つまり葉月の父親から周りに言わないように口止めされている。
「どうしたのだ、師匠ではなく、結花殿まで。」
未来が聞いてくる。
「ど、動画に出演してくれるということで・・・・・。」
「とりあえず、ここから先は、厨二病っぽい喋り方が居ると厄介なので、着替えてきてもらってもいいかな?」
結花が双子に提案する。
双子は頷き、着替えてくる。
しかし。
「ご、ご、ご、ごめんなさいーい。私たち、そんなこと・・・・・。」
「ほ、本当は、人に、依頼するときは、こういう形で、と思ったのですが、勇気が出なくて・・・・・。」
元の服装に着替えた双子は、元通りの恥ずかしがりやな双子に戻っていた。
本当に彼らはコスプレをするとそのキャラクターになり切れるようだ。
「ううん。別に気にしてない。そして、2人とも、変身した姿でないと、ハッシーに頼めなかったんじゃ・・・・・・。」
結花の指摘に二人は頷く。
僕もその頷きを見て笑顔になる。
「結論を先に言うと、ハッシーはしばらく忙しくて、動画に出演できなさそうなんだけど・・・・・。」
結花の言葉に、赤城兄妹が落胆する。
「まあ、それも、先客の今年のコンクールや生徒会長のバレエ発表会が終わるまでの話。そうだな、それまでは。動画出演じゃないけれど、皆で文化祭に行われる【花園学園グランプリ】に出るのはどう?」
結花の提案に、驚く二人。
この提案は僕も驚いていた。
「そこであれば、問題ないんじゃない。」
結花の言葉に僕は頷く、確かにこういう特設ステージ一度であれば、僕のスケジュール的にも間に合いそうだし、2人が、安久雄建設の犠牲になる可能性も低くなる。
「あ、あの、えっと、僕たち・・・・・。」
「ど、動画の中でだけなら・・・・・。」
赤城兄妹は結花の提案に驚きの後、一気に不安そうな表情をしたが。
「大丈夫!!自信持ちなよ。」
と、双子の肩をバシッと叩く。
「う、うん。」
「わ、わかった。」
と、まだまだ緊張していたが。
「まったく、こういう時に変装が役に立つのに・・・・・。」
結花は僕に向かってウィンクする。
僕も頷く。彼ら二人は、変装しているキャラクターから勇気をもらえる日が来ればいいなと思う。
とはいっても、花園学園グランプリは、赤城兄妹はコスプレをして、出演することになる。
それならば、やり切ってくれると、僕は信じていた。
「とりあえず、その件も含めて打ち合わせしましょう!!やりたい曲、見つけておいてね。ハッシー、何でも弾けちゃうから。」
結花は赤城兄妹に向かってにこにこと笑っていた。
そうして、2人に見送られて、次の打ち合わせの日程を決めて、双子のアトリエを後にしていく、僕と結花だった。
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3.只今、構成中。近日アップします。




