90.覚醒~双子編~
「実物とかあるの?過去に作った奴とかで。」
結花が隼人と未来に話しかける。
「えっ。あ、あるには・・・・・・。」
「あるけど・・・・・・。」
双子の隼人と未来が頷く。
そうして、過去に作ったメイド服の実物を見せてもらうことになった。
双子に案内され、アトリエにつながる別の部屋へ。
ここはどうやら過去に作った衣装を保管する部屋なのだろうか。クローゼットがたくさん敷き詰められている。
隼人は、クローゼットの一つを開けてくれる。
そこにはメイド服は勿論、その他にも、いろいろな服があるのだが。
どれも普段着るような服が入っていないような気がする。
明らかに魔女を思わせるような服、巫女服、どこかで見覚えがあるような・・・・・・。
そういった他の服には目もくれず、いくつかあるメイド服に手を伸ばす結花。
「うわぁ。すごい。」
結花はそう言って、手を伸ばしてメイド服を広げ始める。
「こんなのがたくさんあるんだぁ。」
結花ははしゃぐ。
「ご、ごめん、何か結花が、その。実物見ないと思って・・・・。」
僕は隼人と、未来に謝る。
「う、ううん。き、気にしないで。」
未来が首を振る。
「そ、そうだよ。は、橋本君は悪くないから。」
同じく隼人が首を振る。
そして、結花は、さらに・・・・・。
「ねえ、ねえ、着てみてもいい?」
結花が隼人と未来に尋ねる。
「えっ。」
驚く未来。
「べ、別に、良いけど。そ、それは、み、未来のサイズだから・・・・・。」
隼人が言う。
「そうなんだ。じゃあ、赤城さんも一緒に着よう!!じゃ、着替えてくるね♪」
結花はメイド服を自分の分と未来の分をそれぞれ取り出し。
「さあ、早く、早く♪」
結花は、未来に着替える部屋に案内させる。
待つこと数分。
「ジャーン。ハッシーどう?」
メイド服を着た結花がニコニコ笑いながら立っている。
黒の光沢のあるベースの衣装に、メイドのエプロン。まさに、正統派メイドという感じだ。
「では、では、ゴホン。」
結花は深呼吸をして。
「お帰りなさいませ。ご主人様♪」
結花は早速、メイド服のスカートをたくし上げて、挨拶をする。
「うん。とても良く似合ってる。」
僕は結花に親指をあげて合図をする。
「へへへ。ありがとう。でも、アタシが着るとなぁ。もっと、正統派系の子が似合うという意味で、赤城さん。早く早く。」
結花は未来を手招きする。
何だろうか、未来は結花の手招きにすぐに応じ、堂々とした姿勢でやって来た。
メイド服を着る前と、着た後では、雲泥の差ともいえるべき佇まい。
「フフフッ。ハハハーッ。」
未来が高らかに笑う。
「ああ。我が同志たちよ。今宵も深淵の淵に立たされ、迷える子羊となっている姿が良ーく見える。」
先ほどの未来とは違う声。
「あ、赤城さん、一体どうしたの?」
僕は未来に尋ねる。
「な、なにが起きたの?」
結花が聞く。
「我は、赤城未来ではない。我が名は、【黒川エリザベス】。コードネームは【カプチーノ】だ!!」
「?」
首をかしげる僕。
「あっ。」
と驚く結花。
「どういうこと?」
驚く結花に僕は尋ねる。
「へぇ~、この衣装、どこかで見たことあると思ったら。上手いじゃん!!ハッシーこれこれ。」
結花はスマホを見せる。
【冥土バトル】というゲームアプリの公式サイト。
その中に、今、赤城未来が着ている衣装、そっくりそのままのキャラがいる。それが、【黒川エリザベス】というらしい。
そのキャラクターのいくつか台詞を聞くに。うん、典型的な厨二病のキャラだった。
なるほど、コスプレかぁ。よくできている。
「へぇ、赤城さんって、コスプレが趣味だったんだ。流石は服職人だね。」
結花が得意げになって、聞いてくるが。
「何を言うのだ?我が名は【黒川エリザベス】と言っているだろう。赤城未来など、我は知らない。」
完全にこのキャラクターになり切っている。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。妹と僕の趣味なんです。だから、あまり衣装は見せたくなかったと言いますか。」
これを見た未来の双子の兄、隼人が僕たちに頭を下げる。
「何言っているの?別に良いじゃない。すごくよくできているコスプレじゃん。」
結花が笑顔になる。
僕も頷く。何だろうか、とても元気になる。
「は、はい。妹は、普段は恥ずかしがり屋なのですが、コスプレをしている時だけ、どんなキャラでもなり切れるんです。」
隼人が説明をする。
なるほど。素晴らしい趣味であり。僕はいま、覚醒した赤城未来を見てしまったというわけだ。
「ふふふ。さあ、我が兄よ。そなたも、我とともに今宵の宴を始めよう。我が二人の同志を歓迎せねばなるまい。さあ、これを。」
隼人が未来の言葉に頷く。未来、正確には【黒川エリザベス】と言った方がいいだろうか?
未来が隼人に差し出したもの。それは、赤鬼のお面だった。
隼人はその赤鬼のお面をつける。
「あーっ。」
再び、驚く結花。
「ああ。我が妹よ。今宵もボディーガードとして、見届けよう。」
お面をつけた隼人の第一声。
なるほど、隼人もお面をつけたことによって、覚醒しているようだった。
「フフフッ、早速だが、我らの正体に気付いている同志もいるようだ。それに、我らが師匠になってもらいたい同志もいる。最高の宴と行こう!!」
未来の言葉に、隼人は別の部屋から、ギターを持ってきた。
そして。
おそらく、【冥土バトル】のテーマソングを歌う。
そして、さらに、未来がコスプレしている。【黒川エリザベス】のキャラソンらしきものを歌った。
なぜ、二曲目に歌った曲が、キャラソンだとわかったのかと言えば。
前者に関しては、戦うということもあり、勇気が湧いてくる歌で、後者は、明らかに厨二病の言葉を羅列した歌詞だった。
そしてどちらも迫力のある演奏だった。
思わず拍手をする僕。そして、さらに驚き、拍手をする結花。
「す、すごーい。」
結花は興奮している。
「赤城さんたち二人は、【赤鬼メイド】だったんだね♪」
結花はニコニコ笑いながら二人に問いかける。
「「いかにも!!」」
声を揃えて頷く、赤城兄妹。
「【赤鬼メイド】?」
僕は結花の方を見る。
「ああ。これこれ!!」
再び結花はスマホを取り出す。そして。YouTubeの画面を僕に見せた。
YouTubeの動画には、そっくりそのまま、メイド服を着てカツラを付けた妹と、赤鬼のお面を被った兄が、ギターを弾きながら歌っている。
他にも、様々なアニメのキャラクターコスプレもしており、アニソンやゲームのテーマソングの動画投稿が次々となされていく。
勿論、チャンネル登録者、視聴回数、高評価の数もかなりの数がある。
改めて、赤城兄妹のすごさに出会う僕。
2人は服職人であり、コスプレイヤーであり、ユーチューバーだったのだ。
「早速、我々を受け入れてくださり、光栄である。」
「はい。とても感謝の気持ちでいっぱいです。」
未来と隼人は結花に頭を下げる。
そして。さらに二人は最敬礼で、僕に頭を下げる。
「そして、お会いできて光栄に思います。師匠!!」
「師匠。私も感激です。」
何が何だかわからない僕。
「師匠?僕が?」
僕は完全に戸惑っている。
「いかにも、先日の校内合唱コンクールでの、1年生での最優秀伴奏者賞。我が心の深淵の奥の奥まで響き渡り、ああ、七色に輝く、美しい、そのピアノの奏でる音や。」
未来は【黒川エリザベス】になり切っている。
「私も、とても感動したでござる。」
隼人は赤鬼らしく、末尾に日本の言葉をつけて対応する。
なるほど、そう言うことか。確かに、あれだけのアニソンが歌えて、音楽をやっていればそうなるよな。
僕もどんな形であれ、音楽をやっている仲間に出会えて光栄だ。
「ああ、僕も音楽をやっている、仲間に出会えてうれしいよ。」
僕は素直な気持ちを二人に言う。
二人は目を見合わせる。そして、涙を浮かべる。
「ああ、感動しました。どうか、師匠と呼ばせて共に、我々を弟子に加えていただけないでしょうか?」
未来が言う。
「どうか、キーボードという形で、僕たちと一緒に動画にご出演していただきたく。」
隼人が、未来の言葉を通訳する。
そう言って、隼人が持ってきたものは青鬼のお面だった。
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●現在執筆中の別作品もよろしければご覧ください。
1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n1995hi/
2.元女子魔道学院に異世界転生した男子の僕が入学するとどうなるのか?※このシリーズの異世界転生編です。⇒なかなか更新できず、すみません。
https://ncode.syosetu.com/n7938ht/
3.只今、構成中。近日アップします。