76.朝日が昇って
翌朝、僕はゆっくりと目が覚めると、太陽はすでに昇っていた。
時計の時刻は午前7時を指す。
だが、まだ静かな雰囲気。
昨夜は楽しい話で盛り上がった。
あの後、酒に酔った原田と吉岡は、いろいろな話を持ち掛けたが、さすがにバレエ教師2人と中学生の藤代さんの前だ。
あまり、深入りせずサラッと受け流す感じで事なきを得たし、原田も吉岡もそれ以上の話は聞いてこなかった。
夜、そのまま寝るときは、さすがに部屋は別々になり、僕は吉岡と一緒の男用の部屋を用意された。
そして、中学生と、大人のバレエ教師2人がすぐ近くにいるため、誰も僕の部屋に来る人は居なかった。
だが、吉岡はその部屋ではなく、お菓子パーティーをしていた居間で、原田とともに、いびきをかいてグーグーと眠っていた。
同じように原田も、いびきをかいて、豪快に寝ていた。
こういう時もパワフルだ。
おそらく、僕たちが寝静まった後も、お酒を飲んでいたのだろう。
本当にすやすやと眠っていた。
「おはようございます。橋本さん。」
突然背後から、声をかけられる。
振り返ると、声の主、藤代さんが立っていた。
「おはよう、よく眠れた?」
僕は藤代さんに聞いてみる。
「はい。とても良く眠れました。」
藤代さんが笑っている。
そして、僕と同じように原田と吉岡を見る。
「ふふふ。よく眠っていますね。昨日、あれだけお酒を飲まれていらっしゃったら当然ですね。」
藤代さんはにこにこと笑う。
「女性の皆さんも眠っています。特に加奈子先輩なんかは起きてこないかと。」
藤代さんはさらに続ける。
確かに加奈子も起きてこなさそう。
本当に静かすぎる朝だった。
「藤代さんも早いんだね。」
「はい。」
僕の言葉に藤代さんは頷く。
そして、さらに藤代さんの後ろから、階段を下りる音が聞こえる。
「お、おはよう、橋本君。一緒の部屋の藤代さんが居なくて、慌てて起きちゃった。それに、大分時間も過ぎているし。」
階段を下りてきたのは、早織だった。
おそらく、藤代さんと一緒に部屋で寝ていたのだろう。
「ご、ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
藤代さんは早織に言うが。
「大丈夫。むしろ、休みの日はお店の手伝いがあるから、もっと早く起きるの。今日は時間も過ぎてたので、慌てて起きちゃったの。」
確かにここに来ると時間を忘れてしまう。
僕たちは、昨日は本当に夜遅く、むしろ深夜、いわゆる古典に出てくる丑三つ時の時刻まで、話をしていた。
おかげで、僕と早織と藤代さん以外の面々はまだまだ眠っている。
僕も伯父の農家の手伝いがあるし、早織もお店の手伝いがあるので、そう言う習慣のある人が速く起きてきたようだ。
藤代さんも、きっと真面目な性格なので、朝早く起きるのは得意なのだろう。
「よかったら、橋本さんも、八木原さんも一緒に外を歩きませんか?」
藤代さんの言葉に僕と早織は目を合わせる。
お互いに頷く僕たち。
そうして、早々と着替えを済ませ、僕たちは外に出た。
朝の空気はとても気持ちいい。
それはどこでも共通しているようで、海の潮風がとても心地よかった。
「ここに来るときはいつもこうしています。実は、ここに居る時のこの時間が、私の好きな時間です。」
藤代さんは笑いながら、僕と早織を案内する。
その表情はどこか落ち着いている。
「原田先生も、吉岡先生も、加奈子先輩も、この時間は寝ていて、昼まで起きてこないので。私一人で散歩してます。」
確かに、酒に酔った原田と吉岡、さらには朝が苦手で夏休み中の加奈子。
それは、きっとこの時間は熟睡して、藤代さん一人の時間になっているのだろう。
「そうなんだね。なんか、ごめん、1人の方が良かった?」
僕は藤代さんに聞くが。
「いえいえ。今年は皆さんとここに来ることができてとても楽しいです。加奈子先輩も素敵な出会いをしたんだなと。改めて、高校生というのに憧れました。」
藤代さんの純粋な目は何だろうか、吸い込まれていく。
「本当?ありがとう。」
早織はそう言いながら少し笑顔になる。
「すごいなあ、僕が中学生の頃なんて、自分に必死だった気がする。」
僕はそう笑いながら藤代さんに言う。
僕たちは藤後さんの案内のもと、歩き続ける。
そうするとトンネルに差し掛かる。
「これって。」
早織が藤代さんに向かって言う。
「はい。夜に肝試しに使ったトンネルです。こうしてみると、どうでしょうか?面白いと思いませんか?」
藤代さんはニコニコと笑いながら言う。
確かにそうだ、夜はもっと威圧的に感じたが、あさのひかりが差し込んだその景色は、少し古いトンネルで、なかなかの昔ながらの作り、さらには周辺の森林、さらには海の潮風も吹き込んでいて、なかなかに綺麗な景色だった。
まるで、映画のワンシーンに出てくるような。
藤代さんの言葉に僕は頷く。
現に、このトンネルで、結花は昨夜ものすごい叫び声をあげていた。
「なんか、映画のワンシーンに出て来るみたい。」
僕は藤代さんに向かって言う。
「本当、昨日ドキドキしておっかなびっくりだったのがウソみたい。」
早織もにこやかに笑う。
その表情から察するに、早織も結花と同じで、とても怖かったのだろう。
僕たちはトンネルには入らず、そのまま、引き返して、昨日、海水浴を楽しんだ砂浜に向かった。
その砂浜に向かう道も、朝の光が差し込み、綺麗に砂浜を照らしている。
さらには砂浜周辺に植えられている、シュロの木などの様々な木々が、朝の光に照らされ、海沿いの綺麗な小道を演出していた。
「素敵な所。」
早織が藤代さんに言う。
「はい。私もここが一番好きです。」
藤代さんは笑いながら、ゆっくりと海沿いの小道を歩く。
「いつもよりゆっくり歩いています。」
藤代さんはそう言って、僕たちと一緒に歩みを進めた。
そうして、昨日の夜肝試しで通ったサイクリングロードの道と合流して、砂浜に出た。
朝の砂浜もとても綺麗だった。
朝日に照らされる青い海。
その砂浜で何かを探すように藤代さんは下を向きながら歩いていく。
そうして、藤代さんは何かを見つけたようで、その場に座り込む。
藤代さんの座っている場所に僕たちも一緒に座る。
彼女の視線の先には貝殻がある。
「綺麗な貝殻。」
「うん。」
早織と僕はその貝殻を見つめる。
何だろうか、砂浜に落ちているためか、いつもよりも綺麗に光っていた。
「はい。夜から朝にかけて、潮の満ち引きがあるので、落ちてるかなあと。」
藤代さんのいう通り、確かに昨日花火をしたときに見た砂浜、さらに言えば昨日みんなで海に入ったときに砂浜より、今朝の砂浜の方が少し面積が広い気がする。
ほかにもいくつか貝殻が落ちていないか探す僕たち。
「他に落ちていないかなぁ。」
僕は視線を下に集中させる。
「えっと、えっと・・・・。」
同じように早織も視線を下にすることで夢中になった。
「あった!!」
「見て見て、橋本君!!」
早織は見事貝殻を探し当てた。
先ほどと同じように綺麗な光沢感がある。
早織はその貝殻を耳元に近づける。
「こうやると海の音が聞こえるってよく言うよね。」
早織はそうして耳を澄ます。
「あっ、ホントだ。聞こえる。でも・・・・・。」
「でも・・・・・?」
僕は早織に言うが。
「ここは海で、波の音も奇麗だよね、元々・・・・。」
確かにそうだ。貝殻の中から聞こえるのはきっと、海から遠くなってから試してみないといけないだろう。
ここに居ればいつでも海の音は聞こえてくる。
僕たちはその他にも、5個くらいの貝殻を拾い上げ、砂浜に並べて楽しんだ。
大きいものや小さいの、巻貝、二枚貝といろいろあった。
だが、どれも共通していたのは、ものすごく綺麗な光沢を見せていたことだろう。
海のものは海で見るとさらに美しかった。
「お店や家で見るよりとても綺麗。」
早織は言う。
「本当だ、確かに海で見るとより綺麗だね。」
僕がさらに続ける。
「そうですね。初めて、皆さんと一緒にこの周辺を回れてとても嬉しかったです。」
藤代さんは笑顔で僕たちに向かって、そう言った。
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3.只今、構成中。近日アップします。




