7.勧誘と推薦
■改訂履歴
・合唱部→コーラス部(花園学園で合唱をしている部活の名前)に変更しました。
元女子校ということで、こっちの名前の方が良いかと思ったためです。(8/9)
・初めて出てくる登場人物、固有名詞にフリガナを入れました。
部活動紹介を見たが、当然僕にはますます興味の無いものになってしまった。
まず、運動部。当然、文科系の部活で活動していたのだから、興味もない。それに、団体スポーツはみんな女子種目となる。
ソフトボール部、サッカー部があるが、ここは元女子校。当然、女子○○部と必然的になる。
こういったスポーツは、マネージャーとかを募集するのだろう。
陸上部や水泳部など個人種目の部活もあったが、さすがに運動部は入る気をなくしてしまいそうだった。
そして、文化部も当然女子しかいない。
コーラス部という部活、つまり合唱をやっている部活は、一応あるが、当然女声合唱となる。男子の僕が一人だけ入っても、混声合唱になるのはとても、難しいだろう。
それなら、他には・・・・。美術部、茶道部。
絵を描く。少し難しいように思えた。
いっそのこと帰宅部で良いかな、と思ってしまったのが事実だった。
やはり部活も女子しかいないとなると。
そんな思いから、放課後となった。帰り支度を始めていると。
「失礼しまーす。」
誰かが教室に入ってきた。
失礼します。というのだから、ほかのクラスの誰かなのだろう。
だが、その元気よく挨拶した子は、僕のもとへとやってきた。
「こんにちは!」
僕の目の前で挨拶をする。
「こ、こんにちは。」
緊張しながらも、僕は挨拶をした。
その声に、この教室に残っていた生徒全員がこちらを見る。
「えっ、あの人って確か。」
そんな声がちらほら聞こえる。
「橋本輝君ですよね。少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
その人は僕に向かってこういった。
ショートヘアーをいかにも大人っぽくアレンジした人で、凛とした顔立ちであり、とても可愛らしさが見えた。
だが、その可愛らしさとは違い、とても活動的のように見えた。
その彼女に僕はついていく。
1年生の教室のエリアを抜け、階段を下り、体育館の方へ向かう。
体育館の方には確かいろいろな部活の部室があった。
その中の一つの部室の扉を、彼女はノックする。
「失礼します!!」
と元気よく挨拶をして、僕に入るように促す。
「・・・・・失礼します。」
と僕も緊張しながら、頭を下げる。
「こんにちは。あなたが橋本輝君ね。」
教室の中にはほかに2人、女性がすでに待機していた。
いちばん背の低い女性が挨拶をする。その声は品のある声だった。
背は低いが、大人っぽい顔立ちで、黒髪のロングヘアを大人っぽくストレートにしているので、実際に、『身長の低さ』は感じられない雰囲気の人だ。
「生徒会長で3年の瀬戸史奈です。よろしくお願いします。そして。」
「生徒会役員で2年の花園葉月です。改めて、橋本君。お姉ちゃんを助けてくれて本当にありがとう!!」
僕をここまで案内してきた彼女は改めて自己紹介をする。
こちらは元気な感じの声。
お姉ちゃん・・・・・・。お姉ちゃんというと。
「この子は理事長の娘さん。そして、貴方が助けた妊婦さんの妹さんです。」
瀬戸会長が補足する。
僕は納得。して。ああという表情になる。
「よろしくお願いします。赤ちゃんも、お姉さんも元気そうでよかったです。理事長から近況をうかがっております。」
僕は。頭を下げる。
「へへへ。」
葉月は照れたように笑う。
そして、最後の一人。
「生徒会役員で2年の井野加奈子です。優しそうな人で安心しました。」
彼女が笑う。一番まじめな声のトーンで自己紹介をした。
加奈子も凛とした顔立ち。肩までかかる、ロングヘアではあるが、瀬戸会長のようにストレートでまとめているわけではなく、どこか、髪の毛を縛っている跡が残されている感じだ。
普段は髪の毛を縛っているときがあるのだろうか。
体型もこの3人の中でいちばんシュッとしていて、胸のふくらみも小さめだ。
というより、胸のふくらみに関しては、瀬戸会長と葉月に関して言えば、女子高生、いや、普通の女性の平均以上の感じがする。
「改めまして、橋本輝です。よろしくお願いします。」
僕は3人に頭を下げる。
「では、輝君。ようこそ!!花園学園生徒会へ。もうお気づきかもしれないですが、ここは生徒会室です。」
瀬戸会長はニッコリ笑顔で、こちらに微笑む。
「・・・・・・せ、生徒会。ここが。ですか・・・・。」
僕は背筋が引き締まった。
「うん。正真正銘の生徒会だよ。」
葉月が元気に、ウィンクして、こちらに声をかける。
「そして、今年から共学ということで、生徒会にも是非男の子に参加してほしいという思いがありました。誰か参加してほしい男の子はいるかなと思っていたところ、パパから話があってね。」
葉月はさらに笑顔で続け、瀬戸会長に視線を傾ける。
「橋本輝君。是非君に生徒会役員に入って欲しいです!!理事長と私たちの推薦で、是非、貴方に生徒会役員をやっていただきたいのですが引き受けてくださいますか?」
瀬戸会長が頭を下げる。
「そ、そんな、僕は部活とか決めてないし、何があるかもわからない状況なので・・・・・。」
「もちろん、他にやりたいことがあっても構いませんよ。私も生徒会以外に部活に入っていますし、この学校の生徒には、助っ人で5つくらいの部活を掛け持ちしている人も居ます。どうでしょう。橋本君さえよければ生徒会に入ってくださいますか?」
瀬戸会長が言った。
「でも、選挙とかあるのでは?」
当然である。生徒会役員になるためには選挙がありそうな雰囲気だが。
「それは生徒会長のみ。生徒会長だけは厳格な選挙戦があるのだけれど、会長に当選してしまえば、本部役員とかは会長が指名できる制度です。といっても、本部役員のほとんどの役職が、この生徒会役員の中から選ばれるので、選挙の実施に関しては、心配しなくていいよ。入りたいと思ってやっている人と、選ばれる人が同時に居ることによって、いろいろな意見が通しやすくなるということかな。」
瀬戸会長は僕を安心させるように言う。
そして、魅力的に生徒会について、話してくれた。
「ただ、生徒会長になりたいと思ったら、厳しい選挙を勝ち抜かないといけないので、覚悟してね。この1年間の頑張りで、橋本君も当選できるかもしれないですが・・・・・・。」
瀬戸会長のこの言葉を言った瞬間だけ、表情は厳しくなる。
そして、瀬戸会長の表情は一気に緩み。
「なーんてね。でも、1年後、橋本君になってくれたらいいな、って、実は思っているのよ~。」
「そう!!私もちゃっかり思っちゃったり。」
瀬戸会長の言葉、葉月も同情するかのように続けてくれた。
葉月はさらに僕に近づく。
「お姉ちゃんを助けてくれた、君のこと、会長も私も、すっごく評価してます。」
僕の耳元で囁いた。
僕は何か、体のどこか一部が溶けそうな、そんな雰囲気だった。
僕は改めて、みんなの顔を見まわす。
瀬戸会長、葉月、加奈子の3人は頷いた。
「こんな僕でよければ、よろしくお願いします。」
そういって、僕は頭を下げた。
「「「やったー!!」」」
3人は僕を心から歓迎してくれた。
「と、言うわけで、今日は橋本君の歓迎を兼ねて、お茶会にしましょう!!」
瀬戸会長は僕を席に座らせ、紅茶と、クッキーでごちそうしてくれた。
紅茶の甘い香り、飲んでみるととても甘い。
クッキーもほんのりいい感じ。バターの風味だろうか。同時にトッピングしているイチゴジャムも味が効いている。
「とても美味しいです。」
僕は素直に感想を言った。
「ありがとう!!改めて、君にお礼もしたかったので、頑張っちゃいました!!」
葉月は照れるように言う。
「ふふふ。このクッキーはみんな、葉月の手作りなのよね。」
瀬戸会長は、ニヤニヤち笑いながら言う。
「葉月のクッキーとても美味しい。」
加奈子が言う。加奈子は少し物静かでおしとやかな感じだ。
「加奈子先輩はおとなしいですね。」
僕は加奈子の方を向く。確かにそうだ。先ほどから口数が一番少ない。
「実を言うと、加奈子を侮ってはいけないよー。次の会長候補は私よりも加奈子と言われているんだ。」
葉月が得意げに言う。
確かに、明るさだけで見れば生徒会長の候補は葉月の方が有利だ。
「そうね。新入生代表で入学してきてから、全部テストは学年1位だしね。生徒会の仕事もしっかりやってくれているし。」
瀬戸会長も葉月の言葉に続くように加奈子を持ち上げる。
「へへへ。そんな大したことないですよ。」
加奈子は照れたように笑う。
学年トップはすごい!!
ものすごい優等生だ。
「普段は、おとなしいけれど、得意なこととかはものすごく、熱が入るよ。勉強とか色々ね。」
葉月がウィンクする。
「葉月先輩は会長に立候補しないのですか。」
僕が聞いてみる。
「ハハハ。私はいいよ。確かに理事長の娘だけど・・・・・。それをあまりよく思っていない人も結構多いし。それに私自身は誰かをサポートしたり手伝いする仕事がしたいかな。パパも結構忙しいし。」
なるほど、確かにそうかもしれない。
理事長の仕事はとても忙しい。こんな僕のような生徒も気にかけてくれるのだ、感謝しないといけない。
「だけど、加奈子ちゃんが出るには発信力が課題よね。」
「そうだよねー。実績は確かにあるけれど、どこまで評価されているか。成績優秀も同学年では知名度はあるけれど、1年生と、3年生が問題よね~。」
瀬戸会長と葉月が言う。
加奈子は無口でそのまま頷いている。
「ねえねえ、輝君はどう思う。」
葉月が言う。
「そうですね。自分の頑張ってきたこととかアピールすればいいのではないかと・・・・・。まずは皆さんを知らないと、投票できないですし。」
「そうよね~。やっぱり1年生の投票集めが課題かな。」
葉月はそう言って、次の選挙の話を盛り上げた。
「ああ、ごめんね。輝君の歓迎会なのに、うちらの事情を話しちゃった。」
葉月は慌てて、話題を変える。
「そうね。橋本君、ごめんなさい。」
瀬戸会長も頭を下げる。
「いえいえ。気にしないでください。この学校のこととか知れて嬉しいですし。」
僕はそう言った。
むしろ、そっちの方が気が楽だった。前の高校のこともあるし、あまり自分のことを聞かれるとぼろが出てくるかもしれないし。
そういえば、僕は年齢的に言えば、葉月や加奈子と同じなんだよな。と気づく。
だが、そこも黙っておきたかった。
「そう、そういってくれてよかったわ。」
瀬戸会長が安心したかのように微笑む。
「そういえば、パパから聞いたんだけど、こっちに引っ越してきたんだよね。前はどこの場所に住んでいたの?」
同じような質問が昼休みに聞かれたので、前住んでいたところを答える。
「へえ、東京に近いんだね。いいなぁ。私も東京の大学行こうかなぁ。」
葉月は憧れるように言った。
「そんな、でも、ベッドタウンで、何もないですよ。ショッピングモールがいくつかあるだけで。」
そのショッピングモールの大半が、安久尾建設が作ったものだった。
今でも、思い出す度に、何かが震える。
「輝君?大丈夫?」
葉月先輩が気付く。
「いえいえ。大丈夫です。少し、めまいがしたと言いますか。」
僕は適当に嘘をつく。
ごめんなさい。葉月先輩。瀬戸会長。加奈子先輩。やっぱり話したくないのです・・・・・。
僕は心の中で、謝る。
「輝、顔色悪いです。大丈夫なの?」
珍しく、加奈子が発言をする。
「ありがとうございます。加奈子先輩。僕は大丈夫です。」
僕は頷いて深呼吸する。
「ごめんなさいね。気を悪くさせちゃったかしら。」
瀬戸会長が言った。
「いいえ。全然、今は大丈夫ですよ。」
僕は腕を振って見せたが。
「そういえばもうこんな時間ですね。今日はそういうことでお開きにしましょう。明日から、生徒会の仕事を手伝ってもらえればいいからね。」
瀬戸会長はそう言って、片づけを始める。
「すみません。やります!!」
僕は慌てて、席を立ち、お皿を片付ける。
「大丈夫よ。そこに座って待ってて。すぐ終わるから、お家はどこ?心配なので途中まで一緒に帰りましょう。」
瀬戸会長はそう言って、葉月と加奈子を促し、お皿とティーカップを片付け始める。
申し訳なさそうに感じる僕だったが、こんなにいい人と出会ったのは初めてのような気がする。
やがて、片づけが終わると、帰り支度を始める。
そして、校門を出る。
僕と加奈子は自転車を持ってくる。
葉月と、瀬戸会長は徒歩のようだった。
「ちょうど加奈子ちゃんと一緒の方向ね。私たちも途中まで行くね。」
瀬戸会長はそう言いながら、歩き始める。
授業の話や先生の話をしながら、道沿いに歩くと、大きな交差点に差し掛かる。
交差点には大きな家電量販店の店と、百貨店がある。
家電量販店と百貨店は僕でも知っているお店だった。
ちなみに、交差点を右折すれば駅へ、左折すれば市役所へという交差点だ。
「じゃあ、私は電車だから。今日はありがとうね。ゆっくり休んでね。」
瀬戸会長はそう言って手を振る。
「じゃあ、私はこっち。輝君、本当にありがとう。そして、遅くまでごめんね。何かあったら、パパでも私にでも相談してね。」
葉月は交差点を左折し市役所方面へと歩き出す。
僕と加奈子は、交差点を直進し、自転車に乗って一気に歩みを進める。
一応ここは中核市の分類ではあるが、少し自転車をこげば、街並みが一気に変わる。それこそ、伯父の家のように畑ばっかりの場所にもなってくる。
「輝、無理しないでね。自転車ゆっくり進めよう。」
加奈子は時折僕を気にしながら、後ろを振り返ってくれる。
やがて自転車は、『南大橋入り口』という名前の交差点に近づく。
正真正銘、この町を流れる、川にかかる橋だ。
雲雀川と言われているこの川。この川沿いの土手で、理事長の娘さんとも出会った。
「じゃあ、こっちなので、今日はありがとうございました。」
僕は加奈子先輩に頭を下げる。
「うん。気を付けて帰ってね。」
そういいながら、僕は交差点を曲がり、南大橋の方へと進む。
加奈子先輩は直進して、市内の住宅地方面へと自転車を進ませる。
南大橋を渡れば、一気に町の景色が変わり、畑も目立つようになる。
その川を渡り、少し行くと林が多い地帯があり、その林の中に伯父の家があるわけだ。
ここまで、高校から大体20分くらい。
本当にすぐに景色が変わって、この町の多様性が見れて少し楽しい。
生徒会か。
僕を歓迎してくれて本当に良かった。
いずれは、過去の出来事を話さないといけないときが来るが、それまでは、少し頑張ってみようと思った。
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