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66.原田からのプレゼント


 「少年、誕生日おめでとう。」


 8月最初の週末が明けた月曜日、2日間の雲雀川市の夏祭りが終わったその翌日。

 僕は原田のバレエスタジオに来ていた。


 「あ、ありがとうございます。」

 僕は原田に頭を下げる。


 花火大会の後、芽瑠にお礼を言われて、彼女と別れる。人混みが多いからといって、芽瑠を送り届けるといって、コーラス部の二人とも別れる。

 そうして、残ったメンバーで、夜遅いからということで、葉月の家に。

 残ったメンバーはつまり、僕と約束をしたメンバー。


 本当はこっそり葉月が僕と二人きりで、葉月の家に誘う計画だったが、結局こうなってしまい。

 その後どうなったかは言うまでもない。


 そして、昨日、加奈子から思わぬ企画に誘われたのだった。


 それが今日。


 「すまないな。2日程遅くなってしまって。」

 原田はそう言って、頭を下げるが。


 「いえいえ、気にしないでください。本当に、ありがとうございます。」

 僕は頭を下げる。


 するとそこへ。

 「はあ、はあ。」

 と、息を切らしながら、自転車に乗ってくる加奈子がやってくる。


 「おーっ、加奈子ちゃん遅―い。安定の一番最後だね。まあ、今日はレッスンじゃないからいいか。」

 原田はそう言いながら、加奈子の背中をさすり、息を整えさせる。


 「お、おはよう。ごめんね、輝、それにみんなも、待った?」

 加奈子は息を切らしながら謝っている。


 一番最後といっても、真面目で優秀な加奈子だ。遅刻ではなく、時間ギリギリにやってきた。

 そう、今ここには、僕と原田、そして、加奈子の他に、葉月、史奈、結花、早織、マユ。そして、昨日、加奈子が連絡したといって、コーラス部の心音と風歌、さらには藤代さんの姿もあった。


 「相変わらず、少年、ウキウキしているな。お友達が大分増えているじゃないか。」

 原田はニヤニヤ笑いながら僕の肩を叩く。

 するとそこへ。


 「やあ、橋本君。おはよう。」

 このバレエスタジオの男性講師で、バレエダンサーでもある吉岡が現れる。

 事実上、彼が一番最後に来たが。

 彼は車を運転して来たようだ。彼の車もワンボックスカーで大人数乗れるようだった。


 「すまない、ヨッシー。こんな、大人数になってしまって。」

 「いいってことさ。毎年だろ。」


 原田と吉岡は笑顔で会話をしている。


 「ああ、すまない少年。ヨッシーは吉岡先生のことだ。小さいころからの親友なんだ。」

 原田は僕に笑っている。

 なるほど、吉岡のあだ名か。なんだか良いな。


 「あの子がハッシーって呼んでいるから、奇遇だな。」

 原田は結花の方を見る。

 うんうんと僕も頷く。確かに似ている。



 「ヨシッ。みんな揃ったな。車に乗るぞ!!そうだな、雅ちゃんは吉岡先生の車に乗ってもらって。少年は、私の車に乗ろか。」

 原田に促され、僕は原田のワンボックスカーに乗り込む。

 藤代さんも原田の指示に頷いて、吉岡のワンボックスカーに乗り込んでいく。


 原田は残りのメンバーを見回して。

 「残りは公平にじゃんけんだな。私の車は後6人だ。」

 ギラギラした眼をしている、葉月、加奈子、史奈、結花、マユの5人。

 早織は少し出遅れたが、一つ頷き、だんだんと闘志を燃やす。

 風歌はコクっと頷き、それでも緊張しているところを心音がポンポンと肩を叩く。


 「恨みっこ・・・・・。」

 葉月が言う。


 「手加減。」

 それに続く結花。


 「「なしで。」」

 葉月、結花、加奈子、そして、マユが言う。


 「ふふふ。そう言われても神様が決めるのよ。」

 史奈は余裕の表情。

 早織、風歌は深呼吸して。


 「「「「最初はグー。ジャンケンポン!!」」」」


 原田の車には、葉月、加奈子、史奈、早織、そしてマユと風歌の6人が僕と原田の車に乗ることに。


 「くやし~。」

 「まあまあ、結花。車に乗っている間は、先輩が聞くわよ。」

 結花を心音が慰める。

 この2人は同じ中学校の先輩、後輩でもある。


 「か、勝っちゃった。」

 風歌は胸をなでおろす。

 「わ、私も。」

 早織はドキドキしながらどこかしら安心している。


 「よかったじゃない。楽しんで来なさいよ。」

 心音は風花にウィンクして、結花をなだめつつ、吉岡の車に乗り込む。



 「ふふふ。結花ちゃんも楽しそう。」

 史奈はそう言って結花たちに手を振る。


 「それじゃ、輝君は私たちと一緒に楽しみましょう。」

 結花たちに手を振った史奈はニコニコと笑いながら原田の車に乗り込んだ。


 僕たちも車に乗り込む。

 原田の車に乗り込んだ面々は終始笑顔だ。


 収支会話が止まらず、笑いながら笑顔が絶えない。

 原田はそれを聞き、楽しくなりながら、車を走らせ、高速道路に入ると車を思いっきり飛ばした。


 「皆、楽しそうですね。」

 「ああ。まあな。私たちの町は、内陸だからな、これから行くところを考えれば、このテンションはかなり上がるよ。」


 原田は笑いながら高速道路を一気に走らせる。

 車で2、3時間といったところだろうか。


 「ほら、見てみな少年。海だ。」

 そういっている原田の方がテンションが上がる。


 「「うぁ~。」」

 「「海だ!!」」

 「「きゃ~!!」」

 僕以上に車に乗っている女の子たちがかなり騒いでいる。


 僕もそれを見てテンションが上がる。

 「まあ、内陸の人間なんで、これくらいテンションが上がるさ。さあ、少年、私からの誕生日プレゼントとコンクールのお礼だ。」


 そう、原田は僕たちを海に連れてきてくれた。


 「あ、あの、ありがとうございます。」

 僕は頭を下げるが。


 「良いって、良いって、加奈子ちゃんなんか、毎年ここに来ているからな。コンクールに入賞したご褒美でね。」

 原田は楽しそうに言っている。


 「そうよ。輝。毎年、毎年、ここに来ているの。」


 「ハハハ。まあ、加奈子ちゃんも、ここにいる間は朝はゆっくりしていいことになっているからね。」

 「はーい。」

 加奈子はまるで肩の力が抜けたよう。

 僕もなんだかわからないがテンションが上がる。


 「珍しいな。少年、お前のところであれば海はもっと近いのだろう。」

 原田が言うが。


 「はい。確かに。でも、一番近いのは港とか、工場とかがある地域なので、やっぱりこういうところまで行くとなるとかなり時間がかかります。だから、すごく綺麗で嬉しいです。」


 「そうか。そうだな。好天にも恵まれてラッキーだ。」

 原田はそう言って、車を走らせ、海に面した1軒屋の前で車を止める。


 白を基調とした、かなり綺麗な家。


 「茂木先生と、その親戚が共同で使っている別荘なんだ。毎年、茂木先生に言えば貸してもらえるし、むしろ年に一度は来て欲しいと、先生がうるさくてな。」

 原田は口は笑っていたが、目はどこか遠くを見ている。

 車を走らせていたからなのだろうか。


 なるほど。茂木の別荘か。

 僕は別荘を見渡す。かなりいい庭で、海に面しており、海水浴場やサーフィンが出来る場所も歩いていくことができる。


 「ほい。少年。」

 原田から鍵を渡される。


 「荷物を入れて待っていてくれ。私と吉岡とで用事を済ませておきたいところがあってね。使い勝手は、毎年のようにここに来ている加奈子ちゃんが分かっているから、ああ、吉岡の車に積んである荷物も頼むよ。」


 そういって原田は車のトランクを開け、荷物を下ろすのを指示する。

 後ろから付いてきた吉岡も車のトランクを開け、荷物を下ろしていた。


 吉岡の車に乗っていた、結花と心音は少し遠くを見つめていたが、すぐに笑顔を取り戻す。

 その隣では藤代さんも笑っている。


 「それじゃあ、少年、荷物運び頼んだ。私と吉岡で夕食の買い出しに行ってくる。魚介類は勿論、ここで買ってきた方が上手い。海の幸を使って、バーベキューとしよう。30分~1時間くらいしたら戻ってくる。」

 そういって、原田と吉岡は車を走らせて、どこかへ行ってしまった。


 僕たちは原田の指示通り、茂木の別荘に荷物を入れる。

 中はとても綺麗な匂いがして、新築なのだろうか。それとも綺麗に使っているだけなのだろうか、内装も本当に綺麗だった。


 持ってきた飲み物を冷蔵庫に入れて冷やす。

 飲み物が冷えている間に、別荘の中を歩き回る。

 別荘の敷地内には、ウッドデッキにプールも備えている。結構豪華な造りだった。


 「素敵な所だね、輝君。」

 葉月はそう言って笑っている。僕は頷く。

 「本当に綺麗な所だね。」


 「良いなぁ。加奈子はここに毎年来ていたんでしょ。ああ。私もバレエ続ければよかったなあ。」

 葉月は加奈子の方を向いてため息をつく。


 「そんなことはないわ。毎年ここに来てても、やることはいつもと変わらない。毎年来て、楽しんでいるのは雅よね。」

 加奈子の言葉に雅こと、藤代さんは頷く。


 「はい。原田先生も吉岡先生も、夕食の時はかなり酒を飲みまくり、加奈子先輩と一緒に昼まで寝ています。その時間を利用して、私は周辺の施設を一人で散歩したりしてます。今年は皆さんと一緒に回れそうで嬉しいです。」

 藤代さんはニコニコと笑っている。


 そう。原田からの誕生日プレゼントは、この旅行の招待だった。

 毎年、バレエ団のコンクールの上位入賞者と一緒にここに来て旅行するのだという。


 といっても、ここ近年のほとんどが、加奈子と藤代さんだけだが。

 今年は原田の粋な計らいで、僕と、結花や心音たちをはじめとする、生徒会やコーラス部のメンバーも招待されたというわけだ。


 やがて、小一時間で原田と吉岡もここにやってきた。

 ホタテやその他貝類、そして、エビ、カニ、魚の切り身、さらにはここら辺の地酒、地元ビールなどが二人の両手の買い物袋に入っていた。


 僕は改めて原田にお礼を言う。


 「良いって、良いって。気にしない、気にしない。それに少年もコンクールの殊勲者だ。そして、誕生日ときたらなおさらだよ。毎年、ウチのバレエスタジオでは誰かの誕生日はお祝いしたりしているのさ。」


 「そうだよ。輝。私なんか毎年来ているんだよ。」

 「はい。橋本さん、一緒に楽しみましょう。」

 加奈子と藤代さんが頷く。


 こうして、僕たちは原田達に連れられて、海にやってきた。

 何だろうか、僕も凄く楽しみな旅行になりそうだった。

僕にとって、夏休み最大のイベントがこうして幕を開けた。


 


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