64.特設ステージ~女の子たちの浴衣回(中編)~
僕と浴衣美女たちはお祭りを回る。
本当に両隣に、色とりどりの浴衣を着た、飛び切りカワイイ女の子たち。
先ほどまで人混みだった場所は道が開けてきて、路面がはっきり確認できる。
僕たちも、それに応じて、歩道へ向かう。
といっても、葉月の案内で歩道に向かうのだった。
この通りでイベントがあるらしい。
「山車巡業。この近くの町内会がいろいろな山車を飾り付けて、魅力を競うんだ。」
葉月はそう言って、山車が来る方向を指さす。
指さした方向を見ると、背の高い山車が、何人もの人々によって、引っ張られてこちらに向かってくる。
山車の頂上には、人形があり、きっとその人形を祀っているのだろう。
現に山車の中間部分にはその人形の従者の役の女性が、そして、男の一人が山車の上に立ち、引っ張る人達を取り仕切っている。
「ほらほら、パパもいる。」
葉月は指さす。
その方向に、山車を引いている理事長の姿がある。
ハッピを着て、頑張っている。
「パパもかつては、山車の一番上で取り仕切っていたんだけど、今年は下の方だね。」
そうか、葉月の家はここからかなり近い、そうなれば、町内会とかで、参加するよな。
僕たちは、理事長が引いている山車を見て、再び屋台で、食べ物を買って、城址公園の広場に着いた。
僕が持っている、食べ物も、マユと心音から奢ってもらったものだった。
「コーラス部のお礼。」
「ごめん、部活で忙しかったから、これで許して。」
そんなことを言っていたが、何度も二人に頭を下げる。
相変わらず、特設ステージはにぎやかだ。
「行ってみようよ。」
葉月の声に誘われて、城址公園に設置されている特設ステージに行く。
現在は休憩時間のようだが、その時間が終わり。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより。このお祭り、特設ステージのメインイベント、第20回雲雀川グランプリを開催いたします!!」
司会の言葉に会場がわーっ。となる。
地元出身の、葉月たちも、テンションが上がる。
「ふふふ。ごめんね。やっぱりこの時間やるかなと思って、ステージに連れてきたの・・・・。毎年恒例の一般市民の公募で実施しているコンテストだよ。あのアイドルグループの総選挙で上位に入った人も、ここのコンテストで入賞していたんだって。」
葉月の言葉に僕は驚く。
なるほど、それだけ凄いコンテストなんだ。
「おかげさまで、このコンテストも20周年を迎えました。過去には、地元出身の、アイドルや芸人、人気声優も、ここのコンテストに出場しています。」
おお。これはすごい。
だが、出場者の応募はすでに締め切っているようで、飛び入り参加はできないようだ。
「残念、輝君にでてほしかったな。」
葉月はそう言う。
「ホントそうね。輝君なら結構上位に行けそう。」
史奈もそういっている。
他の皆も頷いている。
「ハハハ。そういってもらえると嬉しいですが、1人ではちょっと。」
僕も少し緊張している。
何組かのアーティストの演奏を見る。
どの出場者も楽しそうだ。
ほぼほぼすべての屋台がある場所を見終わっているので、折角なので、この雲雀川グランプリを楽しむことにした。
本当に出演者たちは楽しい。
そして、数時間が経過して。
「さあ、いよいよ、この雲雀川グランプリのステージ、最後の組の登場です。」
司会のアナウンス。
司会の言葉の間に、スタッフたちが機材を運んでいる。
ギター、ベース、ドラム、キーボード。
音楽の組のようだ。
だけど。
司会のアナウンスが終わってもなかなか最後の組が登場しない。
次第にざわ付いてくる観客たち。
「早く早くー。」
「おい、どうしたー?」
僕たちの後ろからはっきりとした声が聞こえる。
そんなざわつきに押し出されてか、1人の少女が出てきた。
赤い色の浴衣を着て、きちっと決めてきている。
だが、顔の表情は涙で覆われている。
「ぐすん。ぐすん。」
1人の少女はセンターに立つ。中学生くらいだろうか。
「えっと、5人組の中学生バンドと聞いているのですが・・・・・・。」
司会が言う。
「ご、ごめんなさい。・・・・・・。わ・・・。私以外、み、皆、来なかったんです。」
「「「えっ!?」」」
観客のざわめきがさらに大きくなる。
「ほ、本当にごめんなさい。」
何度も頭を下げる赤い浴衣の少女。
なんというハプニングだ。
このヴォーカルの女の子以外、全員がバックレたということだ。
これはやむを得ない、棄権の可能性も。
「そしたら、今回は棄権ということで・・・・・・。」
「はーい、はーい。はーい。」
隣で結花の声がする。
「はい。はい。」
結花に呼応するかのように心音。
さらに、葉月もビシッと手を挙げる。
「ここに、素晴らしいピアニストが二人いるよ。ピアノだけでもつけられるよ~。」
結花が叫ぶ。
「さあ、ハッシー。」
結花が言う。
「ナイス、結花。さあ、輝君。やってみよう。それか、風歌もどっちかで。あの子を助けよう。」
葉月が僕の背中を押す。
何だろうか。もしも、この少女の率いるバンドメンバーがバックレて、少女が虐められているのであれば。
居ても立っても居られない。
「おーっと、飛び入りの参加でピアノだけでも出来そうです。いかがしましょうか?」
司会の言葉に、少女の涙がピタリと止む。
「えっ?で、出来るなら・・・・・・。」
僕はその少女の声を聞き、風歌とともに、ステージに上がる。
少女から楽譜を見せてもらう。
そこにかかれていたのは、何年か前の朝ドラマの主題歌。合唱版でももちろんある。
行けるかもしれない。
風歌の顔を見る。
「は、橋本君、いけそう?」
「うん、これなら、符めくりをお願いできますか?」
「勿論。」
風歌の力強い声、普段は緊張して驚いたような素振りを見せるが、この時だけは特別のようだ。
「伴奏は完璧じゃないけど、コードがあるから、それで出来ると思う。」
僕は少女に伝える。
「あ、ありがとうございます。」
少女は頭を下げ。
「あの、やります。」
少女は言った。
「それでは、思わぬハプニングがありましたが、無事に歌が歌えそうです。それでは改めて準備をお願いします。」
少女のタイミングで行こう。泣き止んで落ち着いてくるのを待って。伴奏に入ろう。
僕はキーボードの椅子に座り、呼吸を整える。
少女の呼吸も整ってきたのが分かる。
振り返って、僕に合図を出す。
その顔は、もう、迷いはなさそうだ。
思い切って、僕は前奏をしっかり弾く。
バックレた連中の分まで。
そして、少女は力強く歌った。
彼女の歌は天使のような声だった。
何だろうか、本当に歌手だった。
その声に、さっきまでざわついていた観衆が驚きの表情を見せる。
彼女は本当に歌が好きなんだな。
僕も、そして、横にいる風歌も笑顔に変わっていく。
そして、パフォーマンスがフィニッシュした。
ドーッと地響きを成すような拍手に覆われる。
「すごいぞ。」
「天使だ。」
「綺麗な声だ!!」
「ピアノの子もいきなりなのにすごい!!」
そういう声が、ステージにいる僕のところにも届く。
「あ、あの、ありがとうございました。えっと・・・・・・。」
浴衣の少女が頭を下げる。
「ああ。橋本輝です。」
「宮原芽瑠です。本当にありがとうございました。このお礼は必ずしますので。」
「いえいえ。そんな。」
僕は芽瑠にそう言って、ステージを降りた。
「ナイス、輝君。」
「ハッシー、最高!!」
葉月、結花に迎えられる。
「ふふふ。まさかこんなところで聞けるなんて思わなかったわ。」
史奈が笑う、そして、加奈子も笑顔でうなずく。
全員とハイタッチで迎える。
雲雀川グランプリということで、投票が行われる。
そして。
「歌唱賞は・・・・・。」
一瞬の沈黙。そして。
「宮原芽瑠さんです。本当に、予定変更で、伴奏者変更にもかかわらず、堂々とした綺麗な歌声は魅了されました!!」
会場からは、大きな拍手が鳴り響く。
何だろう、僕も本当に良かった、と一緒に喜ぶ。
こんな感じはいつ以来だろうか。
芽瑠は賞状をもらった。そして。
「本当に助けてくれた、橋本さんに、感謝したいです。ステージに上がってきてくれませんか?」
とのことだったので、僕は恥ずかしがりながらも、皆に後押しして、ステージに上がった。
「あ、あの、この子を見たとき、昔の僕を思い出したので。当然のことをしたまでです。本当に良かったです。」
そういって、僕は一礼をした。
会場からは拍手が鳴り響く。
「よかった。」
「はい、ありがとうございました。」
芽瑠に何度も頭を下げられながら、僕と芽瑠はステージを降りて行った。
そして、仲間たちからハイタッチ出迎えられた。
そのハイタッチは、会場にいた観客も巻き込んで、数えきれないほどの人と、ハイタッチを交わしたのだった。
最後まで、ご覧いただきありがとうございます。
今回は飛び切りカワイイ女の子たちの浴衣回(中編)をお届けしました。
少しでも続きが気になる方はブックマーク登録と高評価、いいねをお願いいたします。
評価は一番下の【☆☆☆☆☆】マークからできます!!
本当に、皆さんのリアクションが励みになっています。ありがとうございます。
●現在執筆中の別作品もよろしければご覧ください。
1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n1995hi/
2.元女子魔道学院に異世界転生した男子の僕が入学するとどうなるのか?※このシリーズの異世界転生編です。⇒なかなか更新できず、すみません。
https://ncode.syosetu.com/n7938ht/
3.只今、構成中。近日アップします。




