63.雲雀川の夏祭り~女の子たちの浴衣回(前編)~
■改訂履歴:真由子の髪飾りの描写を追加(2022/12/31)
夏合宿帰宅後、そして、マユの家での一件が終わり、8月最初の週末を迎える。
今日は葉月の家に集合して、遊びに行こうという約束をしている。
朝は早めに来てと言われたので、朝食を済ませて出て行く。
市の中心部に入れば入るほど、何だろうか、いろいろと屋台の準備をして、人がかなり溢れている。
そうして、やってきたのは葉月の家でもある、理事長の家。
玄関のチャイムを鳴らすと、理事長の慎一が顔を出す。
「やあ、輝君。おはよう。葉月が待っているよ。すまないね、僕も結構忙しくてね。今日も出かけるんだ。」
理事長はそう言いながら、僕を家に上げてくれた。
「二階の広い部屋で待ってて、と伝言を預かっているよ。グランドピアノが置いてある、部屋があるよね。」
僕は頷いて、二階に上がる。
そして、広い部屋で待機する。
さすがに静かすぎると思い、試しに、大きなテレビをつけると、すごく嫌なものがいきなり視界の中に入ってきた。
今日は、8月6日。広島の平和式典。安久尾外務副大臣は各国の要人を恭しく、迎えている様子が見て取れる。その後ろには、与党の幹事長、反町の姿もある。
安久尾・・・・・・・・。
テレビをいきなりつけてしまった僕にも落ち度はあるが、改めてみるとごくッと喉を鳴らし。
傍の椅子に座り込む。
嫌なものを見たなと思うが、辺りを見回して、少し気分が晴れる。
ここは葉月の家。理事長の家。それが幸いだった。
アンティークのイスとテーブルは加奈子の生徒会演説の打ち合わせ、スタンウェイのピアノは加奈子との、いわゆる初めての出会いだった。
この大きなテーブルだって、演説会の映像をみんなで見た。
平和だった。感謝だった。戦争を経験した先人たちに感謝せねばならない。
すると突然、テレビが消える。
「おはよう、輝君。気にしたら負けだよ。式典に、例の2人が映ってたんでしょ。そんなことは忘れて、振り返ってみてごらん。」
葉月の声。
葉月に指示され振りかえると。僕は息を飲む。
白地にピンクの花、おそらくボタンだろうか。そして、その生地に薄紫の帯を締め、浴衣を着た葉月の姿がある。
にこにこと笑う葉月。
何だろうか。とても清らかさがある。
葉月は僕の方に歩み寄る。
「お誕生日おめでとう。輝君。」
僕に応える余地もなく、葉月は僕の唇に、葉月の唇を重ねる。
「・・・・。ありがとう。葉月。覚えててくれて。」
僕は深呼吸していった。
「よかった。今日は輝君の特別な日。いっぱい楽しもう。」
葉月はそう言って、笑っていた。僕は頷く。少し照れる。
「私からのプレゼントは・・・・・・。こーれ。」
葉月はそう言いながら浴衣姿を僕に見せるように一回転する。
「浴衣?よく似合っている。」
僕は葉月に言うが。
「うん。ありがとう!!でも、浴衣ってことはね・・・・・。」
葉月の言葉に僕はあるものを連想させる。
「何か、お祭りでもやっているの?確かに来る途中に屋台の準備があったけど。」
「ピンポーン。大正解!!」
葉月の言葉に僕は何だろうか、心が躍る。
「毎年8月の最初の週末に雲雀川市は大規模なお祭りをやってます。今日の夜には花火大会もあるんだよ♪」
楽しそうに笑う葉月。
「今日は輝君にお祭りを案内するね。そして、食べたいもの何でも言って、私が奢ってあげる。それが、私のプレゼント。輝君の誕生日を知って、ピンって来たんだ。」
葉月はそう言いながら、笑っている。
「ありがとう。葉月。」
何だろうか、思わず無邪気に飛び跳ねる僕。そして、一緒に飛び跳ねる葉月。
「他の皆も、花火大会までに、あとから来るってさ。心音も風歌も来るみたい。みんなで楽しもう!!」
葉月はそう言って、笑っている。僕は頷く。
僕たちは葉月の家を出る。
葉月の案内で、屋台を回る。
「いいよ。好きなのを選んで♪」
葉月はニヤニヤしながら笑っている。
というところなので、焼きそば、たこ焼きを二つずつ買って、それを城址公園のベンチで座って食べることに。
ただ、焼きそばとたこ焼きとなると、どこでも食べられる気がする。
せっかくなので、もっとお祭りらしいものをとも思ってしまった。
「ごめん、葉月、これ食べたら、お祭りらしいのを買って食べよ。」
「ははは。いいよ。好きなもの食べて。実は、お祭りで使いたいといったら、パパがお小遣い多めにくれたんだ。でも、次は、お祭りらしいものを食べたいかも・・・・・。」
葉月は笑いながら屋台で買ったものを食べる。
まあ、少し早めの昼食だ。
これも悪くない。
公園には特設ステージが設けられて、いろいろな音楽が流れる。
今は、和太鼓の団体の披露だろうか。
ドンドン、ドンドン、と大きな音が鳴り響く。
「輝君も飛び入りで、出れるかな?ピアノ弾けばカッコいいんじゃない?」
葉月はそんな話題をするが。
「いや、いや、僕は・・・・。」
まだ僕は1人で舞台に立つには少し緊張するし、勇気が必要だ。
コンクールも控えているが、いきなりの飛び入りはまだまだ難しい。
「それに・・・・・。」
僕は傍に貼ってあるポスターを指さす。
どうやらすでに出演が決まっており、順番が決まっているようだ。
コンテストもありそうだが、これも事前に応募が決まっているらしく。
「あー。残念。まあでも、いいか。さんざん、輝君の演奏は聞いているし。」
「そうですね。」
僕はそう言いながら、買った食材を全て食べ終え、再び次の食材を購入すべく、葉月とともに屋台へ向かった。
屋台へ向かうついでに、百貨店の前に一度向かう。
「あーっ。居た居た。」
「おーい。」
2人の人影がこちらに向かって手を振っている。
史奈と加奈子だった。
2人とも葉月と同じで、浴衣を着ている。
お互いに朝顔がプリントされているが、ベースとなる柄が違う。
史奈は白地に青と水色の朝顔。
加奈子は、紺地に赤や紫の朝顔がそれぞれの浴衣にプリントされている。
「遅くなって、ごめん。輝。やっぱり浴衣だと髪を整えなきゃと思って。」
加奈子は少し息を切らしながら言った。
朝はゆっくり起きて、いつもはまとめないで登校している彼女の髪も、今日はバレエの練習でも行くようにまとめられている。
「ふふふ。そんなに、急がなくても大丈夫よ。減るもんじゃないんだし。」
史奈はにこにこと笑う。
浴衣を着ている史奈、大人っぽく、上品な感じだ。
「輝、その・・・・・。ピアノやってくれて本当に、ありがとう!!お誕生日、おめでとう!!」
加奈子は小さな包みを僕にくれた。
「ありがとう。」
僕は加奈子にお礼を言う。
「あとで、開けてね。マグカップ。プラスチックの、机に向かったり、ピアノに向かって、長時間居ることが多かったから。」
「うん。ありがとう、加奈子。」
何だろうか、加奈子の一生懸命選んだものが伝わる。
絶対にプレゼントを用意すると意気込んで、何するか迷ったのだろう。
「ふふふ。私からも、はい。誕生日おめでとう!!」
史奈はそう言って、包みをくれた。
ボールペンのようだ。史奈にも僕はお礼を言った。
本当に幸せな時、最初に出会ったこのメンバーは本当に宝物かも知れない。
僕たちは再び歩き出す。
今度はお祭りらしいもの。
綿菓子、りんご飴。
「あま~い♡」
葉月の飛び切り笑顔が飛び出す。
「やっぱりお祭りはこうでなきゃね。」
葉月がウィンクする。
僕も、綿あめの棒を持って食べる。
うん。やっぱり甘い。そして、食べやすい。
「ふふふ。葉月ちゃんはお菓子が大好きね。」
史奈はそう言いながら、持っていたりんご飴をペロリ。
「ああ、会長、一口ください。」
葉月もペロリ。
そして。
「輝、よかったら、私のりんご飴舐める?」
加奈子はさりげなく、差し出す。
うん、やっぱり甘い。
「あっ、加奈子ちゃん、抜け駆けの間接キス、ずるい。」
その行為が、史奈にバレる。
「そーですか。そしたら、会長もあげればいいじゃないですか?」
加奈子はやはり、ライバル意識があるのだろうか。
やはり、先日のマユとの下宿先とのやり取りが、自信になっているようだ。
「えーい。パクッ。」
史奈は僕の持っていた綿菓子を食べる。
「あー、会長も加奈子もずるい。輝君、会長が食べた綿あめあげる♪」
事実上、これで、3人と間接キスをしたことになる。
すべてのやり取りを見ていた人は居ただろうか?
人混みの中、少し恥ずかしそうになる僕。
そうして、屋台会場を一周するうちに、再び百貨店の前へやってきた。
「ふふふ、結構歩いたね。」
葉月は僕の方を見る。
まあ、この町すべてがお祭り会場といっても過言ではない。
なれない浴衣と草履で、彼女たちはへとへとのようだ。
百貨店の入り口にはすでに休憩している人たちが多い。
夏だからだろうか、冷房の効くところで涼んでいるようだ。
僕たちは仕方なく、他に座れるところがないか確認すべく、辺りを見回したが、座れる場所がない。
「市役所の方に行ってみる?」
葉月の提案に僕たちは頷く。
移動を開始しようと思った、その時。
僕たちに向かって、足音が近づいてきている。
「あーっ。ハッシー。居た居た。」
結花が近づいてくる。そして。
「ふう。間に合ったわね。」
「・・・・・。よかった、皆と、合流できた。」
心音と風歌も別の方向からこちらに近づいてくる。
3人とも色とりどりの浴衣を着て、手を振っている。
結花は、白と朱色の細かな模様がある浴衣だ。
心音は落ち着いた紺色に蝶が印刷された柄。
風歌は、緑色に菖蒲の柄がプリントされている。
6人の浴衣美人たち。本当に圧倒されてしまう。
「はい。ハッシー、遅くなって、ごめん、誕生日おめでとう。」
結花からも小さな包みをもらう。
「ありがとう、結花。」
僕は笑って受け取る。
「プレゼントで、一杯だね。使う?」
そういって、葉月が、袋を差し出してくれる。
「あ、ありがとう葉月。」
僕は葉月から袋を受け取る。
予備のきんちゃく袋ではあったが、入りそうだ。
以外にも小さくまとめられた。
「ホンットーにごめん、人混みでプレゼント買うの時間かかっちゃった。」
結花は両手を勢いよく、ポンと合わせて言う。
「まあまあ、良いんじゃない。こうして、皆合流できたんだし。」
史奈はそう言って、笑う。
そして、市役所の方に移動しようとすると、ツンツンと僕を呼ぶ。
「あの・・・・。お誕生日おめでとう。これ・・・・。コーラス部からのお礼。」
風歌が包みを渡してくれた。
「えっ、ありがとうございます。嬉しい。」
「・・・・。よかったぁ。葉月ちゃんたちから誕生日、聞いてよかった。」
風歌の顔がほころぶ。
「えっ、ちょっと、風歌、何してるのよ。」
心音はどうやら僕の誕生日を知らなかったらしく。
「ごめーん、橋本君。お礼とプレゼントは、何か今日、屋台で奢らせてー。」
と、結花と同じように、両手をポンと合わせて謝った。
同じ中学校の先輩後輩同士、よく似ている。
こうして、6人の浴衣美女と一緒に場所を移動することになった。
市役所方面を目指しながら再び屋台を巡る。
市役所の玄関では、早織とマユが待ち合わせをしている約束になっている。
二人とも、午前中はそれぞれ、お店と、部活なので、午後から合流して、花火大会だ。
心音からは、焼きトウモロコシ、そして、かき氷を奢ってくれた。
「すみません、気を遣ってもらって。」
「いいの、いいの。これが、私からのもあるし、本当のコーラス部からのお礼。」
心音はそうウィンクする。
「輝君、人気者になったね。」
「本当ね、入学して間もないのに。」
葉月、史奈はそう言いながら、笑っている。
かき氷は、全員違う種類のシロップを注文し、本当に七色のかき氷になった。
そして、全員の味を一口ずつ交換していく。
少しドキドキ。だけど、今回はスプーンもそれぞれ違うものを使っているので、自分が使っているスプーンで好きな味から交換していった。
さすがに心音と風歌の前で、全員と付き合っていて、ハーレム状態です。さらに後2人そういう状況の人がいます。ということは伝えられないし・・・・。
そうして、僕たちは市役所の入り口に差し掛かった。
入り口で待っていたのは、僕の両隣にいる美女たちと、同じように、浴衣を着て、視線を遠くにして僕たちを待っている2人の美女だった。
早織と、マユとも合流する。
「おーっ、ひかるん、お疲れ様。」
「いやいや、マユこそ、お疲れ、部活の直後なのに、ありがとう。」
「そーなの、こういう日も部活なんだってさー。陸上部は辛いよね。最も、お祭りがあるって、聞いたのは先週のことだけど。去年なんか、何もしないでまっすぐ下宿に帰ったよ。」
マユはそう言いながら、ウィンクする。
「あらためて、お誕生日おめでとう。ひかるん。ごめん、部活がずっと続いて忙しかったから、プレゼントは屋台で好きなもの買おう!!私が奢るから。」
マユはそう言いながらウィンクする。
マユの浴衣は、黒色ベースのアジサイの浴衣だった。そして、花の髪飾りが、日焼けしている素肌のいいアクセントになっている。
「髪飾り、かわいい。」
加奈子が言う。
「ふふふ、ありがとう。加奈子ちゃん。普段はボブヘアの髪の毛を目立たない、ゴムでまとめているけど、こういう時は特別よね。」
加奈子は頷く。
僕も同じように頷く。
マユと加奈子は、あの夜の一件以来、仲がいいようだ。
そして、対照的に、白色で金魚の柄がプリントされている早織。
「・・・・。お誕生日、おめでとう。プレゼントは、これ。」
早織は大きなバスケットを両手で持っている。
中には豪華なふろしきの包みがある。
「あとで、渡すね。今日は午後からお店が臨時休業だったから。来ちゃった。」
早織はそう笑いながら、僕に笑顔を見せる。
確かに、お祭りの日に、川向こうの、早織のお店がある場所まで来る人は居ない。
例年、お祭りの日は昼食の時間のみの営業なのだそうだ。
「そしたら、行こうか。」
「「「「うん!!」」」」
僕と、浴衣美女たちは再び、お祭りの会場に出て行った。
最後まで、ご覧いただきありがとうございます。
今回は飛び切りカワイイ女の子たちの浴衣回(前編)をお届けしました。
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1.忍者翔太朗物語~優秀な双子の兄だけを溺愛する両親のもとで奴隷のような生活をして育った忍者のお話~URLはこちら↓
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3.只今、構成中。近日アップします。




